■『戦旗』1689号(2026年4月5日号)
労働者解放に向けて労働運動・労働組合運動を前進させよう
雪山弁三
問題意識
筆者の所属する地域ユニオンの定期大会が先日開かれ、さまざまな報告と意見が出された。それを準備する会議での討論も併せて、労働者の現状と労働組合の役割について改めて考えることになった。その中で、労働組合がもつ「労働者の学校」としての存在意義がこれまでと同様に極めて大きい、ということに気づいた。
具体的には、階級的労働運動(とは何かを巡る論議も必須だが)を進めていくためには、その土台として、自らが尊厳を持って働き生きて行く民主主義的権利があることを労働者本人が悟り、実践することが必要で、そのための道具として労働運動があり、労働組合がある、ということだ。
御用組合のある大企業は別だが、規模が小さければ小さいほど、その昔フリードリヒとカールが「工場の中にあるのは専制のみ」と看破したごとく、多くの職場は、程度の差こそあれ、資本側の専横がまかり通って民主主義も人権も労働法もない無法地帯だ。先の定期大会でも、経営者の残業代未払い、要求すると罵詈讒謗(ばりざんぼう)の果ての拒否、虚偽の通報による警察導入、恫喝のための裁判、自己都合退職に追い込むための日常業務での無視などのパワハラ、厚生福利における差別、業務変更の強要、他の労働者が行った虚偽のパワハラ通報に基づく経営側からの退職強要、労働基準監督署への相談が暖簾に腕押しで全く役に立たないなど、信じられないような報告が当該組合員からあった。
労働者の賃金奴隷としての本質、競争による相互の追い落とし、ブルジョア的法律の条文からすら甚だしく逸脱した無権利状態は、資本主義が日本の主要な生産様式と定着して以降、今に至るまで何一つ変わっていない。
資本による搾取と収奪の嵐が吹き荒れる中で、労働組合は、資本主義の勃興以降、世界各地の先行世代の無数の労働者が命を賭して起ち上がり、血を流しながら仲間たちの屍を乗り越えて勝ち取った武器だ。それは、第一に、資本主義・帝国主義体制の下、あるいは、植民地支配下で、労働者が自らを、そして仲間たちの生活と権利を守るための道具としての役割を果たしてきたし、今もそうだ。第二に、個々の労働条件をめぐる闘いは、他者と自らの労働者としての同質性の自覚、さらには、闘いが内包する賃労働と資本の関係、労働者と資本家の階級関係、ブルジョアジーの階級支配に思い至るきっかけを労働者に与える。そして、個々の争議の段階からその先にまで進むのか否かという問いかけに労働者は直面することになる。自らを階級の一員として形成する種と出会うのだ。
しかし、経験上、地域ユニオンがとりくむほとんどすべての争議は、解決できなければなおさらで、解決できたとしても終われば変革の種は捨てられ、当該労働者は労働運動から離脱し、武器を失ったままで弱肉強食の競争社会での賃労働を継続するのが常だ。資本主義・帝国主義イデオロギー、共産主義に対する無条件の嫌悪と戦き、天皇制に基づく家父長制思想の縛りは巨大な強力磁石の如きで、剰余価値をもたらす者たちをつかんで離さない。「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひにはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」という平家物語の弁証法を多くの労働者は忘れて資本主義・帝国主義を「永遠の今」「千年王国」と錯視し、ブルジョア思想の呪縛を奥深く内面化して、そうした状態を「自由」と思いこんでいる。労働者の階級としての自らの形成と自己解放闘争への投企の導水路の一つである労働運動への参加、ブルジョア憲法に裏打ちされた労働組合加入と定着さえも困難であるのは、支配階級の階級支配、思想的縛りがいかに深いかを証明している。
だからこそ、わたしたちは、ブルジョアジーとのイデオロギー的激突である労働者の労組への組織化、特に労組のない職場の労働者、非正規労働者、移民労働者をはじめとする労働者階級下層の組織化に――帝国主義とシオニストによる侵略反革命戦争を阻止する反戦反基地闘争、民族排外主義との対決を内包する国際連帯活動、ジェンダー規範の解体の必要性を対自化した反差別闘争連帯、これらを労働者の自己解放にとっての必須の条件として同時に取り組みながら――必ず勝利しなればならないし、必ず勝利する。
こうした問題意識をもって、以下、日本の労働者の現状と闘う課題の一端をみていく。
数字で確認する日本の労働者の現状
総務省によれば、日本の国内総人口は一億二二八五万人(二〇二六年三月一日現在の概算値)で減り続けているが、雇用者は六一八五万人(二〇二六年一月現在。前年同月比二二万人増)で、四七か月連続で増えた。移住労働者の増加も一因だろうが、労働者の相対的貧困化ゆえに働かないと食っていけない人の数が上昇しているのだ。正規の職員・従業員数は三六八七万人(同五七万人増)で二七か月連続の増加。非正規の職員・従業員数は二一五五万人で、前年と比べ三七万人減り、かつ、六か月連続の減少だが、それでも役員を除く雇用者の36・9%を占めている。完全失業者数は一七九万人(同一六万人増、六カ月連続の増加)、完全失業率は2・7%(同0・3%ポイント増)とともに増えた。
厚生労働省毎月勤労統計調査二〇二五年分結果確報によれば、二〇二五年の名目賃金(一人一カ月平均、事業所規模五人以上)は三五万五九四一円(前年比2・3%増)。一般労働者は四六万五九二三円(2・9%増)、パートタイム労働者が一一万四五二七円(2・3%増)。一般労働者の所定内給与は三四万〇六三四円(2・5%増)、パートタイム労働者の時間当たり給与は一三九四円(3・8%増)。しかし、実質賃金指数(二〇二〇年平均=一〇〇)は98・0で前年比1・3%減。二〇二五年の消費者物価指数が前年比3・7%上昇した影響を受けた。最低賃金はここ数年、かつてない比率で上がっているのに、物価高に追いつかず、ますます貧しくなっているのだ。
月間実労働時間は一三五・一時間(前年比1・4%減)、所定内労働時間は一二五・三時間(同1・3%減)、所定外労働時間は九・八時間(同2・5%減)と、いずれも減った。ただし、調査が捕捉できていない隠し残業時間は膨大であろうことは、労働相談活動の経験から容易に想像できる。多くの労働者にとって長時間労働(とその対価の未払い)は常態化している。
財務省法人企業統計(二〇二五年九月公表)によると、二〇二四年度の金融・保険業を除く日本企業の内部留保は前年度比6・1%増の六三七兆五三一六億円となり、一三年連続で過去最高を更新した。他方で、労働分配率は低いままだ。二〇二五年版小規模企業白書によれば、二〇二三年の労働分配率は、大企業48・2%、中規模企業76・9%、小規模企業80・0%で、表を見ると大企業の比率が低減傾向にあることが分かる。企業の内部留保が増加していることの裏返しだ。
厚生労働省労働災害発生状況によれば、二〇二五年の労働災害による死亡者数は六三四人(前年比四〇人減)、休業四日以上の死傷数は一二万一四六三人(同一三四九人減)。ただし、労災隠しを行う企業は少なくなく、実際はさらに多く発生していると思われる。
財務省によれば、二〇二五年度(実質見込み、二〇二六年三月五日発表)の国民負担率(=国民所得における租税負担率と社会保障負担率の合計)は46・1%(うち租税負担28・3%、社会保障負担17・8%)。(財務省「国民負担率の推移」)。
厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(二〇二四年一〇月末時点、二〇二六年一月公表)の「届出状況のポイント」によると、「外国人労働者数は二五七万一〇三七人で前年比二六万八四五〇人増加し、届出が義務化された」。二〇〇七年「以降、過去最多であり、対前年増加率は11・7%と前年の12・4%から0・7ポイント減少。/外国人を雇用する事業所数は三七万一二一五所で前年比二万九一二八所増加、届出義務化以降、過去最多であり、対前年増加率は8・5%と前年の7・3%から1・2ポイント上昇。/国籍別では、ベトナムが最も多く六〇万五九〇六人(外国人労働者数全体の23・6%)、次いで中国四三万一九四九人(同16・8%)、フィリピン二六万〇八六九人(同10・1%)の順。/在留資格別では、「専門的・技術的分野の在留資格」が最も多く八六万五五八八人、前年比一四万六七七六人(20・4%)増加、次いで「身分に基づく在留資格」が六四万五五九〇人、前年比一万六四七三人(2・6%)増加、「技能実習」が四九万九三九四人、前年比二万八六六九人(6・1%)増加、「資格外活動」が四四万九三二四人、前年比五万一一五七人(12・8%)増加、「特定活動」が一一万一〇七四人、前年比二万五三八八人(29・6%)増加」した。
厚生労働省労働組合基礎調査によれば、二〇二五年の労働組合数は二万二二四四組合(前年比二六八組合(1・2%)減)、労働組合員数は九九二万七〇〇〇人(同一万五〇〇〇人(0・2%)増)、推定組織率は16・0%(同0・1ポイント減)。女性の労働組合員数は三五四万五千人(同四万人(1・1%)増)、女性雇用者数に占める女性の労働組合員数の割合は12・3%(同0・1ポイント減)。主要団体別の加盟状況は、日本労働組合総連合(連合)六八二万二〇〇〇人(前年比一万人増)、全国労働組合総連合(全労連)四三万五〇〇〇人(同一万六〇〇〇人減)、全国労働組合連絡協議会(全労協)六万七〇〇〇人(同五〇〇〇人減)だ。
総じて、日本で働く労働者の状況は悪化し続けている。実質賃金の連続的低下が示しているように、生活水準はさらに下がった。貧富の格差は拡大した。職場での民主主義の不在は相変わらずだ。そして、民族排外主義が社会全体に蔓延し、移住労働者の状況が悪くなっている。
日本政府の反労働者政策を打ち破れ
「裁量労働制の見直し」すなわち適用対象の拡大が当面の労働法制改悪の肝として浮上している。
高市首相は昨年一〇月に労働時間規制緩和の検討に言及した。今年一月には日本経済団体連合会が『二〇二六年版経営労働政策特別委員会報告』を出し、裁量労働制の対象業務を拡大することを強く要求している。
今年二月二〇日の施政方針演説で高市首相は「裁量労働制の見直しに向けた検討を進める」と述べた。これを受け、厚生労働省労働政策審議会の専門分科会での論議に加え、三月一一日に「日本成長戦略会議」の分科会においても「裁量労働制の見直し」に関する労使政の論議が始まった。未払い残業の極限までの拡大と過労死の増加をもたらすだけの「裁量労働制の見直し」策動を止めよう。
また、移住労働者に対する技能実習制度が来年四月から育成就労制度に変わる。あからさまな労働奴隷制度に対する批判が高まり、また耐えかねて失踪する人が絶えない状況に押されて政府が三年前に「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」を一部改正したが、それが施行される。だが、技能実習生という名称が育成就労外国人に変わっただけで、内容がほぼそのまま継承されている。家族を呼べずに単身で滞在せざるを得ないことに変わりはない。転籍は認められたが、職種により最低一~二年間は何があっても同じ仕事を続けなければならないなど、資本の側が雀の涙ほど譲歩したにすぎない。国籍による差別を禁止している労働基準法第三条の明白な違反で絶対に認められない。加えて、茨城県知事が今年一月に発表した「不法就労者」通報制度の創設も、移住労働者を犯罪予備軍とみなし、監視社会制度につながるとんでもない制度だ。絶対反対だ。
労働者こそ反戦闘争に起ち上ろう
二〇二二年二月に始まったロシア・ウクライナ戦争はロシア側の戦死者二七万五〇〇〇~三二万五〇〇〇人、死傷者・行方不明者約一二〇万人、ウクライナ側は各々一〇万~一四万人、五〇~六〇万人(いずれも戦略国際問題研究所)を出しながらいまだに続いている。二〇二三年一〇月七月の「アル・アクサの洪水作戦」への報復として始まったイスラエルによるガザ地区とヨルダン川西岸地区でのパレスチナ人民虐殺戦争は昨年一〇月に停戦合意が発効したが、イスラエル軍による殺戮と破壊は今も続き、イスラエル人による不法入植が拡大している。米国トランプ政権は今年一月にベネズエラ侵略戦争を始め、マドゥロ大統領とシリア・フローレス元国会議員を拉致・連行した。さらに二月二八日にはイスラエルと米国がイラン侵略戦争に踏み込み、イラン側の死者が一四四四人、負傷者が二万一〇〇〇人に達した(三月二一日現在)。
世界各地で殺戮が続く中、日本政府はイランを非難してトランプを持ち上げながらイラン侵略戦争を事実上支持し、辺野古新基地建設など琉球弧の軍事要塞化を進め、緊急事態条項の新設および九条の改悪をはじめとした憲法改悪、国家情報局の設置、スパイ防止法の制定、安保三文書の改定、核兵器保持に向けた非核三原則の解除、死の商人への道である武器輸出の全面解禁、国への忠誠を強要する国旗損壊罪法新設、外国人管理支配を強化する法律改悪と民族排外主義の煽動、差別排外主義を煽る法律と制度の改悪などを図り、「台湾有事」=「存立危機事態」発言を撤回せずに中国侵略への道をひた走っている。
私たちは労働者民衆同士の殺し合いに加わらない。戦争する国へ向かう高市政権の暴走を止めるための反戦平和への取り組みが、労組の社会運動の中心課題として浮上している。
平和でなければ労働も生活もない。労働組合は労働現場の問題に取り組みながらも、それだけでなく、戦争反対・原発反対・憲法改悪反対などの社会運動に参加する。さらに、他労組の争議への支援、日本の大企業の子会社で偽装廃業・不当解雇と闘う韓国労働者への連帯・支援活動を行う。
特に、職種の違いを越えた労働者連帯の拠点である地域ユニオンは、すべての働く者に開かれた窓口、孤立した労働者の居場所となり、国内外を問わず他労組の闘いに繋がり、生活・権利・平和を守る取り組みをさらに強めよう。同時に、プロレタリアとしての歴史的構造的存在を認識するために学び、実践するための種まきを、超多忙でも、深く広く行っていこう。
共に闘おう。