■『戦旗』1692号(2026年7月5日号)
精神障害者、障害者に対する差別虐待を許すな
河原涼
厚労省報告の欺瞞性
五月一八日の新聞報道によれば、厚生労働省は、「精神病院における業務従事者による障害者虐待の状況」という報告を行った。
それによれば、二〇二四年度において、「通報・届出があった件数は、全体で六二五八件」であり、その内訳は、「業務従事者による障害者虐待を受けたと思われる精神障害者を発見した者による通報・相談件数が一五一四件」、「業務従事者による障害者虐待を受けた精神障害者による届出・相談件数が四七四四件であった」。そのうち「虐待の事実を認定した件数は二六〇件あり、認定した虐待の事実に係る被虐待者数は四一三人であった」という。
認定した虐待の種別・類型毎の件数は、身体的虐待一五八件、心理的虐待一三一件、性的虐待二三件、放棄・放置(ネグレクト)二三件、経済的虐待四件だった。
第三者による、精神障害者が虐待されているという通報が一五〇〇件を超え、精神障害者自身による届出、相談件数が四七四四件も発生している。
報道では、「そのうち虐待と、第三者が事実として認めた件数だけで二六〇件と報道しているが、実態ははるかに膨大な件数に上っていることがわかる。これは、精神障害者自らが虐待されていると訴えているにもかかわらず、事実として認定しない事例が膨大にあるということである。被害当事者の声そのものがほとんどかき消されていることが浮き彫りになった報告書である。
報告書ではさらに、「業務従事者による障害者虐待があった場合に採った措置」として、報告徴収を行ったのが二五八件、書類の提出を命じた件数は一七〇件であり、六二五八件のうち四二〇件ほどしか、虐待に関する報告の義務を遂行しようとしたケースはない。九割以上が、通報があっても無視されたことになる。
虐待を行なった医療従事者の職種は、医師一四人、看護師二〇二人、准看護師五八人、看護助手五四人、保健師〇人、作業療法士二人、精神保健福祉士三人、社会福祉士〇人、公認心理師〇人、医療事務〇人、その他業務従事者九人、不明九人で、合計三五一名であり、医師が一四人、看護師と言われる職種が合わせて三一四人である。医師や看護師の数は、精神科の場合もともと他科と比べて非常に少ないことを考えれば、非常にパーセンテージが高いことがわかる。
そもそも、虐待の事実をこのように公表したのは、厚労省による報告書の最初に書かれてある通り、二〇二二年の精神保健福祉法の改正により、二〇二四年四月以降、精神科病院の業務従事者による虐待を受けたと思われる患者を発見した者は、速やかに都道府県・指定都市に通報することが義務づけられたからに他ならない。
また、「同改正において、都道府県知事(指定都市の市長)に精神科病院における業務従事者による障害者虐待の状況等を公表することが義務づけられており、その状況を集計した」という限りにおいて、公表したにすぎない。虐待の事実に対する真摯な対応や、差別精神医療に関する総括など、まったくしないままの報告だけであり、実態は増えることはあれども、決して減らないのだ。
それは、精神障害者の差別精神医療の根幹をなす法的根拠としての精神保健福祉法による、事実の公表であるからである。
医療観察法にあっては、医療観察法の対象者として、実体的保安処分の状態にある精神障害者は、法の適用そのものが命の危険に日々晒され続ける被虐待者である。法そのもの、精神医療そもそもが、凄まじい虐待を表しているのであって、そのことが根底から断罪されなければならない。
精神障害者、障害者に対する虐待
精神障害者は、依然として精神保健福祉法での強制入院制度をはじめとした差別精神医療体制下にある。精神保健福祉法、総合支援法、医療観察法と連動して、地域、病院、施設、作業所といったところを横断するかたちで監視体制が敷かれている。
医療観察法は、精神障害者に対する保安処分そのものであることは、言を待たない。
一九九四年、心身障害者対策基本法が障害者基本法と改められた。これにより、精神障害者は、初めて福祉政策の対象となった。それまで法制度上、精神障害者は「治療および保護」の対象であって、社会福祉制度はついぞ存在しなかった。実態は、治安管理の対象である。
今日の悪名高い精神保健福祉法に規定されている「移送制度」も、「移送警護」と呼ばれる警備員が羽交い締めにし、無理やり車に押し込んで入院させることもある。顔や体に多数の傷を負いながらも連れていかれる拉致制度である。
また、医療観察法における、保安処分攻撃の実態化は、まさに国連障害者権利委員会が指摘しているように、「拷問及び残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰」の最たるものであって、委員会は、即時廃止を訴えている。
精神障害者に限らず、障害者に対する虐待は、依然として後を絶たない。
高知県は五月二七日、同県四万十市の障害者支援施設「レジデンスわかふじ」で、利用者にシャワー室で裸のまま食事をさせ、長時間放置し死亡させた虐待があったとして、六月一日から三カ月間の新規利用者受け入れ停止の行政処分にした。
神奈川県では三月一八日、厚木市の一般社団法人「ワイズ・インフィニティ・エイト」が運営する障害者向けグループホーム三カ所で、スタッフによる入居者への暴力など計四件の虐待を自治体が認定していた。同法人は昨年、障害福祉サービス報酬の不正請求などで行政処分を受けていた。県は今月上旬、監査に入り、新たな行政処分や指導など対応を検討している。
神奈川県県藤沢市のホームで昨年一一月、希望に応じてもらえなかった知的障害の入居者が男性スタッフにコップを投げ、腹を立てたスタッフが入居者を怒鳴って複数回たたく様子がビデオに映っていた。
藤沢市のホームは不正請求のほか、入居者を一方的に退去させたとして、昨年四月から九月まで新規入居者の受け入れ停止処分を受けていた。
国連勧告さえ無視する日帝許すな
二〇二二年八月二二日、二三日に、スイスのジュネーブで、障害者権利条約の日本の建設的対話が開かれ、九月九日に国連障害者権利委員会から日本政府へ勧告(総括所見)が出された。
津久井やまゆり園での障害者虐殺―優生思想の問題や、精神病院での虐殺、強制入院を可能にしている法律、障害児の教育など、障害者の「生の権利」が剥奪されていることへの強い懸念や、医療観察法をはじめとする差別法の廃止、あるいは防災上における障害者の権利の問題、障害者女性の問題など、多岐にわたっている。
障害者権利条約は、二〇〇六年の国連総会で採択された。日本は二〇一四年になって、ようやく一四一番目に批准した。二〇一六年、日本国内において障害者権利条約を法的に根拠づける「障害者差別解消法」が制定された。
二〇二二年の国連勧告は、日本が批准した障害者権利条約を巡り、国連が初めて改善勧告を出したものである。
「B 特定の権利」の、「か)人の自由と安全」(第一四条)という項目では、
「(a)障害者の強制入院を、障害を理由とする差別であり、自由の剥奪に相当するものと認識し、実際の障害または危険であると認識されることに基づく障害者の強制入院による自由の剥奪を認めるすべての法的規定を廃止すること。拷問及び残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰からの自由」という内容が挙げられている。
「三三 当委員会は、懸念をもって観察する」という項目では、
「(a)精神科病院における障害者の隔離、身体拘束、化学拘束、強制投薬、強制認知療法、電気けいれん療法などの強制治療、および心神喪失の状態で重大な事件を起こした者の医療と治療に関する法律など、そのような行為を正当化する法律。(b)精神科病院における強制・虐待の防止と報告を確保するための精神医療審査会の範囲と独立性の欠如」などと評価した。
国連勧告に限らず、日本の差別精神医療に関する国際社会からの批判は、幾度となく出ているが、日帝は、まったく無視し続け、精神障害者の虐待に関する命をかけた訴えにもほとんど事実調べもせず、ほんの一握りしか事実と認定しない。刑法―保安処分新設を目論みつつ、差別精神医療は、暴力性、閉鎖性を強化しながら続けられている。こうした状況をわれわれは、断固打ち破らなければならない。