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■『戦旗』1661号(7月5日号)3面 改悪刑事訴訟法施行を弾劾する 細野晴海 ●被害者特定事項秘匿制度を拡大 犯罪被害者の個人情報を秘匿して刑事訴訟手続きを可能にする改悪刑事訴訟法が昨年五月一〇日に成立し、本年二月一五日から施行された。主に性犯罪や「ストーカー犯罪」被害者の保護が名目にされている。 刑事訴訟法においてはこれまで、起訴状に犯罪の日時や場所、方法をできる限り明示するように規定しており、被害者についても具体的に特定すべきであると解釈されてきた。原則として逮捕状や起訴状などには被害者の氏名や年齢を記載し、被疑者や被告に対しては原本が示される、あるいは、それらの写し(謄本)が送られてきていた。 この解釈が覆ることになったのが、二〇〇七年の被害者特定事項秘匿の新制度創設だ。公開を原則とする公判廷において、「被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある場合」には、被害者の氏名を含む被害者特定事項を秘匿するという制度が創設された(刑事訴訟法290条の2第1項3号)。これは主に法廷での傍聴人に対する措置を眼目としたものであった。 今回の法改悪によって、この制度がさらに拡大されることになったのだ。具体的には、弁護人に起訴状(謄本)が届いても、被害者特定事項の秘匿を求める原告側の申し立てを裁判所が認めた場合には、被害者の名前や住所などの個人情報を秘匿(マスキング)したうえで被告人に示す(抄本)ことが必要となった。 また、刑事裁判の証拠も、弁護人に対しては開示されるが、被告人に対しては、弁護人の責任で秘匿を求めるものとなった。弁護人に対しては、被告本人に知らせないことを条件にして、原則的には被害者の名前などが伝えられる。しかし、「被害者の生活が脅かされるおそれがある」として、原告(検察・警察)が被害者特定事項の秘匿を申し立て、これが裁判所に認められた場合は、弁護人に対してさえも個人を特定する情報を秘匿することができることになったのだ。 つまり、裁判官や検察官が必要と判断した場合には、逮捕から判決までのすべての刑事訴訟手続き期間中、被告人には被害者を特定する情報が伝わらなくなることが可能となったということだ。 性犯罪や「ストーカー犯罪」などが前面に押し出され、犯罪被害者支援に関わる立場の人びとやマスコミなどからは、「加害者から改めて狙われる再被害の防止に役立つもの」だと評価されているが、本当にそうだろうか。 ●でっち上げ、冤罪事件の温床に 被害者の個人情報の秘匿の責任を弁護人に押し付けるという意味で、一般的には刑事弁護の負担が増大することになるが、問題はそれだけに留まらない。 第一に、この被害者個人情報の秘匿制度は、性犯罪、「ストーカー犯罪」などの一般刑事事件に対象が限定されて施行されるわけではないということだ。 今回の刑事訴訟法改悪において、被害者情報秘匿制度の対象は、「被害者や遺族らの名誉が著しく害されるおそれのある事件」、「被害者が危害を加えられるおそれがある事件」とされているだけである。ある意味、いかようにも拡大解釈可能なものとなっているのだ。 例えば、被疑者、あるいは被告とされた人物が、事件について「全く身に覚えがない」として、公訴事実を全面否認した場合には、弁護人が被告と被害者との関係や、被害申告の理由を調べる必要があるが、被告に被害者名が秘匿され、それらを把握することができなければ、調査すること自体が非常に困難となることは容易に想像がつくだろう。 さらには、今回の改悪によって、弁護人に対してさえも、被害者の個人情報を秘匿するケースが起きうることになったのだ。被告人が無実を主張した場合、弁護人と検察の間の情報格差は歴然であり、検察側を圧倒的に利することなる。そして被告人・弁護人側の無実を証明するための刑事弁護活動に支障を来すことになっていくことは間違いない。 これらによって、警察や検察の証拠捏造による、でっち上げ冤罪事件が多発する危険性がより高まることは確実だ。 ●改悪の本質は反体制運動弾圧 第二に、今回の被害者情報秘匿の新制度は、革命運動をはじめ反戦運動、闘う労働組合運動など、あらゆる反体制運動に対する弾圧に利用されうるものである。日帝―岸田政権のもとで急速に進められている戦争国家づくりの攻撃と一体であり、刑事訴訟のIT化などと同様の戦時型司法への転換の一環であるということだ。 この間、「テロ対策」や暴力団、いわゆる「反グレ」など「反社会的集団」対策を名目にして、組織犯罪対策法(一九九九年)や共謀罪(二〇一七年)が強行制定されてきた。今回の刑訴法改悪=個人情報秘匿制度は、これら戦時治安弾圧立法と一体的に運用されうるものである。「被害者が危害を加えられるおそれがある事件」を理由にして、警察権力が「被害者」個人情報を秘匿し、「組織犯罪」や「共謀」を捏造して、組織丸ごとを叩き潰すために利用することも可能なのだ。 これまでも公安警察は、極右排外主義集団などと結託して、ありもしない「被害」をでっち上げ、でたらめな「被害供述」によって、ヘイトデモに対するカウンター行動に立ち上がる者を不当弾圧するという事態がたびたび起こっている。 今回の法改悪によって、これら公安警察の弾圧に積極的に荷担するような反革命的人間を、「被害者が危害を加えられるおそれがある」と申し立て、これが裁判所に認定されるならば、「被害者保護」を名目に、この不当弾圧に荷担した輩の個人情報は、最後まで被疑者、被告に伝えられないということになるのだ。 今回の刑訴法改悪によって、公安警察が極右排外主義集団などと共謀して、事件の「被害者」を好き勝手に乱造し、反体制運動弾圧に利用していく可能性はより高まったといえる。 さらに救援連絡センターなど反弾圧戦線で闘う弁護士に対しては、「被害者」とされる人物の個人情報を、被疑者・被告が所属する団体に伝えたことをもって、「被害者情報の漏洩」とされ、裁判所から「懲戒請求」を受ける可能性もありうる。これは闘う弁護士の活動を萎縮させ、制動をかけようとするものに他ならない。 現行の日弁連執行部は、日帝の戦争国家化に向けた治安弾圧強化と闘うという意識を欠落させたまま、特段の抵抗をすることなく、「被害者保護」という一点から今回の刑訴法改悪に手を貸してしまっている状況だ。 日帝国家権力は、コロナ禍を奇貨として、公判手続きの全リモート化をはじめ、刑事訴訟のIT化をおし進めている。これによって、今後は不当弾圧に対する勾留理由開示公判や刑事公判などが大きく制限されていくことが予想される。傍聴闘争によって獄内外の仲間が一体となって国家権力=検察、裁判所の不当弾圧―勾留を徹底弾劾し、法廷内を圧倒する、緊張感をもった裁判闘争を解体しようとしているのだ。 今回の刑事訴訟法改悪=被害者個人情報秘匿制度は、「被害者保護」を名目にして、検察・警察を圧倒的に利するものである。でっち上げ弾圧、証拠捏造による冤罪事件をさらに拡大していくものだ。これは日帝―岸田政権の戦争国家づくりと一体の治安弾圧強化であり、刑事訴訟のIT化とともに、司法制度の戦時型への転換攻撃だ。徹底的に弾劾していかなければならない。 戦争情勢の中において、革命党をはじめ、闘う労働組合、市民運動、学生運動などへの監視、弾圧体制が強まることは必至だ。弾圧を回避して闘うことなど不可能だ。不当弾圧に対しては完全黙秘―非転向の原則を貫いて闘おう。 |
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