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共産党宣言
                                                                        マルクス・エンゲルス
      

  〜共産主義の基本的立場、共産主義者の
            基本的な任務を明らかにする〜


 二十一世紀初頭の現在、世界の資本主義体制、帝国主義体制の発展と変容の様相は凄まじく、世界の隅々にまで資本が持ち込まれ、社会が改変されている。グローバルな資本主義世界体制が急速に進み、大量の労働者階級が形成されている。しかしこの資本主義の発展と帝国主義の爛熟は決して労働者階級や被抑圧人民の尊厳の確立や生活の向上には結び付いていない。資本主義、帝国主義が巨大な生産力を確立しているにもかかわらず、いや確立しているが故に、資本は一層、利潤を求めて自己の維持と増殖のための運動に突き進み、帝国主義は自己の成立の基盤として侵略戦争を拡大し、一層、他民族の抑圧の体制を強化している。二〇〇八年以降続いている現在の世界恐慌は、資本主義と帝国主義の基本問題を深刻に示している。全世界の何百万、何千万の労働者人民が失業と貧困の縁に追い込まれているのである。
 本書はマルクスが、今からおよそ百六十年前の一八四八年、共産主義者同盟の綱領として執筆した文献であり、それ以降、労働者階級の解放運動、共産主義革命運動の基軸的な指針として実践に役立ってきたものである。この文献は共産主義の内容や共産主義者の党の立場を極めてわかりやすく示したものであり、二十一世紀の今日においても、その基本的な核心部分は、労働者階級の解放綱領として、依然として大きな役割を果たすと規定できる。当時すでに、旧来の職人とは異なる機械製大工業の発展の担い手として労働者が大量に形成されていた。三〇年代、「義人同盟」が職人を基盤として、共産主義を掲げて活動していたが、その歴史的限界は明らかであった。共産主義者同盟はこの義人同盟の活動を継承しつつ、労働者を基盤とした共産主義を掲げる結社として生まれ変わろうとしていた。本「宣言」は、この結社の転換と飛躍を可能とさせた思想、理論的基礎と成した。従って最初に生まれた労働者党の綱領なのである。
 資本主義の勃興期、ブルジョアジーは古い生産関係に制約されていた封建制度を打ち破って資本の自由のための社会体制を目指して台頭した。資本の発展は機械製大工業と結び付いて、巨大な生産力を形成して、人類に物質的富の増大をもたらし、交通、通信の発展や生活様式の変革を実現した。しかしこの資本主義社会の成立と発展は、資本主義的生産の担い手である労働者階級の尊厳の確立や生活の向上には結び付かず、労働者はむしろ、搾取や抑圧の強化によって、極めて悲惨な状況に追い込められていた。労働者階級は、自らが作り出した成果の分配にあずかることなく、著しい搾取の下に、飢餓的な状態に置かれていたのであった。マルクスはブルジョアジーの成立―資本主義社会の成立が人類の歴史において、過去の封建制度に比べて革命的な意味を持っているにもかかわらず、しかし圧倒的多数のプロレタリアートがますます抑圧され、零落していく現実を見据え、プロレタリアートの力による共産主義社会の建設によって、この社会的構造を打破することが出来るという展望を明らかにしたのである。またマルクスは過去の人間の歴史が階級闘争の歴史であったことを明確にして、資本主義社会ではブルジョアジーとプロレタリアートの階級対立と闘争は不可避であること、またプロレタリアートの勝利は必然的なものであることを提示し突き出した。
 そして本書が、共産主義文献の中で最も重要なものとして捉えられる理由は、ひとつには、本「宣言」がプロレタリア解放運動、共産主義運動の全体的な体系を展開し、運動実践上におけるトータルな基礎を成しているという点にある。唯物史観―資本主義批判―プロレタリア措定―共産主義建設、党建設―他党派批判という革命実践の基礎として押さえるべき必須の要素をすべてと言って良いほど、簡潔に、ガイスト的にしかも体系的に示している点である。ここがある意味ではマルクスの他の諸文献と決定的に異なる点であり、まさに党派の綱領を示したものと理解できる理由なのである。本「宣言」の理解において従来ややもすれば、唯物史観、資本主義批判の流れでとらえ、事足れりとする傾向に陥り易かったが、これでは極めて不十分であることは明らかだ。本書ではプロレタリアの革命性、歴史的な成立の意味や党の位置付け、成立の基盤などについてもしっかりと綱領的次元で学ぶことが大切である。マルクスは本書において、プロレタリアの歴史的性格、役割や革命性、その特徴について展開し、プロレタリアを革命の主体足り得るものとして鮮明に突き出している。また共産主義者の党、革命的労働者党の性格や役割、果たすべき任務を明確にすると共に、党の成立の基盤についても鋭い洞察を行っているのである。革命的実践のトータルな内容を提示したものとして理解することが重要である。
 もう一つの重要な点は、この宣言文はマルクス個人の思想や立場や信条を、一般的に表明したものではなく、文字通りの共産主義者の集団、共産主義者の党の宣言であるという点である。党派、政治集団の目指すべき社会の建設、そのための方策、現状の批判なのである。共産主義者の集団、労働者の党の立場、すなわち、革命的労働者党の綱領が明らかにされていることだ。マルクスは共産主義者の任務として、プロレタリアートの階級への形成、ブルジョアジーの支配の転覆、プロレタリアートの政治権力の獲得を当面の任務にあげ、そのために当面の利益に基づくたたかい、将来の利益に基づくたたかい、国内的なたたかい、国際的なたたかい、あるいは運動全体の利益を代表してたたかうなどの諸点を明らかにしている。共産主義者の党が常にブルジョアジーとたたかうプロレタリアートの先頭に立って活動すべきこと、そこにおいてはとくにプロレタリアートの団結形成、階級形成を重視し解放運動の発展に結び付けて行くべきことを明確に突き出している。本書において、マルクスは、共産主義の学説を提起したわけではない。プロレタリア革命、共産主義革命によってプロレタリアートの解放とそれを通した全人類の解放、また、全ての被抑圧人民の解放を目指す政治集団の結束の根拠として、実践の指針としての綱領を提起したのである。このことをしっかりと押さえて、本文章を把握するべきである。
 もちろん本書を資本主義の現状の批判や労働者階級の展望を求める書として、また一般の労働者や若い学生が資本主義の批判とその解決としての共産主義社会の創造について理解する入門の書として読むことことは、何よりもマルクスが期待したことであって、本書が果たすべき役割の重要な部分である。
 二十一世紀の初頭、一層、グローバル化した資本主義が全世界を覆い、帝国主義と多国籍資本の利益のために侵略戦争や世界恐慌が不断に引き起こされ、全世界の労働者階級と被抑圧人民への抑圧と搾取、収奪は緩和されるどころか一層強まっている。資本主義による労働者階級の搾取を基盤とする現代世界を転覆することによって、労働者や人民の真の解放を実現するという本書の基本的命題は今日においても大きな光を放っている。