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   〈映画紹介〉
『1987、ある闘いの真実』
学生拷問死事件の真相を暴き、「6月民衆抗争」を描く
2018年11月

                                                                                 



 今年九月から日本でも上映されている韓国映画『1987』(チャン・ジュナン監督)が話題を呼んでいる。同じく光州蜂起(一九八〇年)を題材にした映画『タクシー運転手』と合わせ、韓国の民主化闘争の歴史を知るには絶好の映画である。ほぼノンフィクションとのことだ。
 映画は一九八七年一月一四日、ソウル大学の学生、朴鍾哲(パク・ジョンチョル)さんがソウル市内にある治安本部「南営洞対共分室」で亡くなるところから始まる。水責めの拷問による窒息死であり、権力による虐殺だったが、南営洞の責任者・パク所長は遺体の火葬を命じ、虐殺の隠蔽をはかろうとする。
 ところがソウル地検公安部長のある検事は、拷問死を疑い、火葬指示を拒否し、遺体の司法解剖をおこなわせた。この、アルコール依存気味だが一本筋の通った検事を主人公に話が展開していくのかと思いきや、そうではなく、上部権力によって検事は免職されてしまう。警察は「取り調べ中に心臓麻痺で死んだ」とデタラメな記者会見をおこない、記者が医者や遺族など関係者に取材するのを妨害する。ところが、東亜日報の記者が、免職されて職場を去り行く検事から解剖鑑定書をひそかに入手。真の死因をスクープした。
 それにより追い詰められた警察は、拷問に関わった現場の刑事二人だけに拷問致死罪を押し付け、末端の警官の不祥事だと「トカゲのしっぽ切り」で幕引きをはかった。刑務所内では、罪を被らされた刑事二人は不満や怒りを訴えるが、パク所長は彼らを脅迫。このやりとりを看守が見ていた。その面談記録を、民主化闘争に秘かに関わる看守が家に持ち帰る。この看守は逮捕されるが、看守の妹を通じて、面談記録は民主化活動家に手渡された。公安との息詰まる攻防の中、スリリングな地下活動が展開し、釘付けになる。
 はぐれ者の検察官、遺族の無念を受け止めた新聞記者、獄外との橋渡し役となる看守、地下に潜伏中の活動家、こうした人たちの努力によって、朴鍾哲さんの拷問死の真相、すなわち軍部独裁の暴力と陰謀が、満天下に明らかにされた。名もなき人々の勇気と努力が実を結んだわけであり、こうした人たちすべてが映画の主人公なのだった。特別な人間が主人公として活躍するのではない展開が、むしろ「民衆抗争」をよく表現している。
 映画ではさらに、「学生の拷問殺害糾弾」や「大統領直接選挙」を求める民主化要求デモが各地で大規模にたたかわれる様子が描かれている。いわゆる「六月民主抗争」だが、六月九日、延世大学の学生・李韓烈(イ・ハンニョル)さんが、機動隊の放った催涙弾を後頭部に直撃され重体となり、数日後に死亡する事件も発生した。こうしてまた学生が権力により虐殺されたことは、改めて労働者市民の独裁権力に対する怒りを燃え上がらせ、全斗煥体制打倒へ爆発していく。抑圧されてきた市民が街頭に出て一斉にこぶしを振り上げる。極めて感動的なシーンである。
 ところで、チャン・ジュナン監督が『1987』の製作準備に入ったのは、まだ朴槿恵政権の全盛期だったとインタビューで答えている。「秘密裏に作業をしていました。ただ、幸いにもキャスティングが始まったときには、チェ・スンシルゲート事件でスキャンダルとなり、朴槿恵元大統領の腐敗が明らかになったので、雰囲気はだいぶ変わりましたね」と語っている。もし朴槿恵政権が続いていたら映画製作も危うかったようだ。実際、朴槿恵政権は、自らに批判的な文化人や芸能人の「ブラックリスト」を作成していたことが明らかになっている。製作会社に圧力をかけ中止させる、ということも十分ありえただろう。
 しかし、その朴槿恵は「ろうそく革命」で打倒された。「ろうそく革命」を中心で担った青年たちは、映画『1987』をどのような気持ちで見たのだろうか?
 これも監督の言葉だ。「私が読んだ観客のレビューのなかで、印象的なものがありましたが、それは『娘がこの映画を観たあとに、お母さんありがとうと言って泣きながら自分のことを抱きしめてくれた』というものでした」と。映画の力によって、世代を越えて民衆のたたかいが継承されているのだ。
 筆者はこの映画を一〇月、新宿の映画館で鑑賞したが、場内には安倍政権反対のデモでよく見かける方がいた。映画が終わるころには自然と拍手も起こった。しかし考えてみれば、映画に登場する「犯罪の隠蔽」「文書のねつ造」「トカゲのしっぽ切り」「事件のもみ消し」など、どれもこれもこの数年来、聞いたことのあることばかりではないか。だが、安倍政権を倒せないでいることをかみしめつつ、私も含め映画館を去る人もいただろう。
 ともあれ、いまに続く韓国民衆のたたかいを知るために、本作品をぜひ多くの人、とりわけ青年や学生に見てほしい。


        

 

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