■寄稿(2017年6月)                                                     ホームへ
共謀罪法案批判―衆院強行採決弾劾!

弁護士 遠藤憲一
   


    

 
安倍政権と日本維新の会は五月十九日、衆議院法務委員会で、二十三日には衆議院本会議で、共謀罪法案の採決を強行した。われわれは、反革命治安弾圧立法の衆院通過強行を満腔の怒りをこめて弾劾する。
 弁護士の遠藤憲一さんに共謀罪法案批判を寄稿していただいた。今後の闘争の糧として、共謀罪廃案に向け、さらに全力でたたかい抜こう。


 ●はじめに

 
五月十九日、ついに共謀罪法案が衆院法務委で強行可決された。徹底して弾劾する。森友問題など金権腐敗に蓋をし、北朝鮮への戦争挑発と排外主義、皇室報道で人民の目をそらし、「テロ」の危機を煽ってわずか三十時間の審議で強行採決に持ち込んだのだ。徹底して弾劾し、参院通過を阻止しよう。
 マスコミは「共謀罪の構成要件を厳格化した」とか「共謀罪の趣旨を含む」組織的犯罪処罰法改正案、テロ等準備罪等と呼んでいるが、紛れもない共謀罪そのものの制定である。

 ●1章 条文の構造

 
今回の法案は、現行組織的犯罪処罰法六条に六条の二を追加するという形式である。標題を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画」としている。そして、六条の二の一項が団体の活動としておこなわれる共謀罪(四年以上の犯罪の二人以上による計画=共謀)であり、二項がテロリズム集団などの団体に不正権益を得させるための共謀罪である。これまでの議論は、ほとんど一項に集中してなされてきた。二項のテロリズム集団などに「不正権益」を得させる行為は、「団体の活動として」組織的に行われることを要件としていないことに特に注目されるべきである。そしてこの場合の「共謀」罪の行為者は、「組織的犯罪集団」に属する必要もない。集団外の人でも団体に不正権益を与える目的で共謀をすれば足りる。
 ここに、共謀罪は「組織的犯罪集団」だけが対象であるという説明の虚偽性が暴露される。二項の共謀罪の具体例としては、たとえば大学の自治会あるいは文化団体の執行部、労働組合の執行部等の獲得、維持、拡大する目的で行われる一定の対象犯罪行為を共謀することである(共謀の主体は、部外者でもよい)。


 ●2章 テロリズム集団とはなにか

 
共謀罪(一項)の犯罪主体は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とされている。「テロリズム集団」というのは、テロ対策と言えば何でも通ることを見越して土壇場で条文に加えられたのであるが、その定義規定が置かれていない。四月二十八日に行われた衆院法務委員会の質疑の中で法務大臣は、「テロリズム」の定義について「特定の主義主張に基づいて国家にその受け入れを強要し、または社会に恐怖を与える目的で行われる人を殺傷する行為」と答弁している。これは特定秘密保護法の規定を念頭に置いたものであろうが、同法のテロの定義では「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動」とされている(十二条)。すなわち人の殺傷や物の破壊行為そのものだけではなく、その「ための活動」(目的遂行行為、準備行為)も「テロ」とされているのだ。大臣答弁はそこを意識的にはぐらかして答弁しているが、いずれにしても「テロ」という概念は、破防法や成田治安法の「暴力主義的破壊活動」という概念より遙かに広い。
 今回の国会論戦では、「一般人が対象になるかどうか」という形での追及が目立ったが、有害無益である。同日の法務委員会で盛山法務副大臣は「通常の団体に属し、通常の社会生活を送っている一般の方々は捜査の対象にならず、処罰されることはない」と答弁している。このような論戦では「一般人が対象にならなければよい」「テロリスト」「テロ集団」に絞ればよいとなり、共謀罪賛成論に組み込まれていくからである。問題は「一般」かどうか「通常」かどうかを誰がどのように判断するのかということである。「通常の団体」かどうか「通常の社会生活」かどうか、ひいては「通常の考え方」かどうかは、警察が判断するのである。警察がお前の入っている団体は「通常」ではない、お前の生活や考え方は「通常」ではないといえばたちまち「テロリズム集団」「組織的犯罪集団」として捜査の対象になるということだ。

 ●3章 「テロ根絶」は支配階級の権益の維持の政策

 
テロというと「ISのテロ」「北朝鮮=テロ支援国家」という形で、無前提的に悪とすりこまれ、テロはとにかく根絶すべきものと思いこまされている。しかし、それは「先進七カ国」等と言われる一部帝国主義者と旧ソ連などスターリン主義圏支配階級の支配秩序と不正権益の維持・拡大のためであるということが常に隠蔽されている。そして、本質的に最も明確なテロは、このブルジョア社会、帝国主義の支配を根底から実力で打倒する行動である。すなわちパリ・コンミューンであり、ロシア十月革命である。であるから「テロリズム集団」というのは、典型的には、暴力革命をになう革命党であり(法案の別表3を見ると内乱罪、騒乱罪、爆取使用罪がはいっている。)、実力闘争に決起する人民の組織=団結=運動である。これが組織的犯罪集団として措定されているのだ。
 テロとして支配階級が本質的に恐れているのは、労働者・人民の支配階級に向けられた暴力の発動=暴力革命である。これに対する国家の暴力的弾圧=反革命暴力が「テロ対策」なのだ。だから「テロ対策」は必要だが、市民も巻き込まれないように対象犯罪を絞ればよいとの主張は、誤りである。
 労働者・人民は、改憲と戦争に突撃する安倍政権を倒せといっている。労働者を収奪する資本主義の軛(くびき)から解放しようといっている。そのためにブルジョアジーの階級支配秩序をひっくり返さなければいけないといっている。
 「組織的犯罪」、「テロ」として本質的に弾圧の対象とされるのはこのような労働者・人民の闘いとその団結である。このように共謀罪は、労働者・人民の支配階級に向けられた抵抗、実力闘争、暴力の発動を「テロ」としてその萌芽の段階(計画、共謀)から根絶するための治安弾圧法である。「テロ対策は嘘」なのではなく、まさに正真正銘のテロ対策法なのである。

 ●4章 「条約締結に共謀罪は必要ない」との議論について

 
政府は、共謀罪は国際組織犯罪防止条約締結のために必要と主張し、これに対して、同条約は、マフィアや経済的利益を目的とした組織犯罪対策でテロ犯罪対策とは本来無関係であるという批判がある(たとえば日弁連声明)。
 たしかに組織的犯罪対策は、八〇年代は薬物、マフィア犯罪対策を対象としていたが、その後累次にわたるサミットやFATF勧告を媒介として重大犯罪対策に拡大され、二〇〇一年9・11を契機にテロ対策へと転回していくのである。
 「テロ」が集団によって実行される場合は、当然にテロ=「組織犯罪」であり、現在の治安立法、治安弾圧の流れは、組織的犯罪対策=テロ対策として歴史的に展開し、貫徹されているという実態を見なければならない。
我が国で組対法が立法化(一九九六年~九八年)された時、法制審での諮問で強調されたのはオウムによるテロ、暴力団、悪徳商法、企業幹部を対象としたテロ、集団密航などであった。
 こうした経過を無視して、「テロ対策」と「組織的犯罪対策」を切り離し「共謀罪は組織的犯罪対策あるいはテロ対策に必要ないから反対する」あるいは「共謀罪を作らなくても組織犯罪条約は批准できる」という議論は、「組織的犯罪対策」「テロ対策」自体は必要なものとして是とする立場にほかならず、組織的犯罪対策、テロ対策自体のもつ組織弾圧的本質を見失うものである。われわれは条約批准絶対反対であり、「本当のテロ対策なら仕方ない」という議論に巻き込まれてはならない。


 ●5章 弾圧が飛躍的に拡大する

 
共謀罪成立には「意思の連絡」があれば足りる。「話し合い」すら不要である。最高裁判例では今でも意思の連絡は「黙示的な意思の連絡」でよいとしている(暴力団組長の拳銃所持罪)。
 辺野古基地反対運動の弾圧事件で、警察は、共犯者の立証で山城議長の演説に拍手していたことが「賛同」であり、ゲート前で山城議長から説明を受けたことが「協議」だと主張しているという(東京新聞四月十六日)。公安事件で濫用されてきた文書偽造罪や詐欺罪(白タク弾圧、会場申込み弾圧等)等に共謀罪弾圧が可能となったら弾圧の裾野は際限なく広がる。警察は、起訴できなくても、とにかく××罪の共謀があったとして弾圧に着手することができる。その後、証拠が得られれば起訴する。転向者は司法取引で起訴猶予にする。治安維持法では、大量に逮捕し起訴猶予で落とすやり口が転向強要に絶大な力を発揮した。こうして共謀罪を端緒とすれば弾圧は際限なく拡げることができる。また、こうした弾圧が実際になされれば、友人や支援者を運動から遠ざけることができる。運動への萎縮効果は絶大である。


 ●6章 公安警察の拡大強化を許すな

 
共謀罪処罰には「準備行為」が必要とされている。しかし準備行為とは「予備罪の予備のようにそれ自体が一定の危険性を備えている必要性はなく、元々危険性のある組織的犯罪集団の活動として犯罪についての計画について、当該犯罪が現実に実行される可能性が高まった、すなわち当該犯罪の実行に向けた具体的な行為がなされたといえるものであれば足りる」とされている。
 そして当局は、「準備行為」以前であっても任意捜査の対象にできると公言している(朝日新聞四月二十二日)。共謀罪を根拠に、警察が日常的に人民の監視、情報収集、スパイ潜入を行うことの宣言である。何でも「準備行為」と後ででっちあげができるように、とりあえず幅広い監視が行われることになるのである。そのため公安警察はますます肥大化し、全警察活動が公安警察化する。二〇一六年の刑訴法改悪・盗聴の拡大等と連動してあらゆる運動、組織、人と人との交流が監視・介入対象とされる。共謀罪弾圧を恫喝とした人民の団結破壊が日常化する。
 安倍政権は、森友疑獄をもみ消し、朝鮮戦争、反テロ戦争に参戦して資本の危機を打開しようとしている。そのためには徹底した治安弾圧態勢が必要である、それがテロ対策であり、そのための予防弾圧立法が共謀罪である。折しもロシア革命百年の今年このような最大級の反革命治安立法の制定を許してはならない。「組織的犯罪対策」=テロ根絶攻撃と正面からたたかおう。共謀罪弾圧には、完黙・非転向でたたかおう。


                           
(二〇一七年五月二十日)