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■『戦旗』1677号(4月20日)3面 IR・カジノ計画と一体の 大阪万博を直ちに中止せよ 阿月道太郎 大阪・関西万博が、多くの反対や懸念の声を無視して強行開催されようとしている。 大阪・関西万博は今年四月一三日から半年間、大阪湾にある人工島・夢洲(ゆめしま)で「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催されようとしている。一五八カ国、七国際機関が参加するという。 開幕一カ月前の三月五日時点で、前売り券の販売は目標の六割弱にとどまり、参加国が独自に設計・建設する海外パビリオン(展示館)「タイプA」は、四七カ国が予定しているが、三月一〇日時点で外観が完成しているのはわずか八カ国に過ぎない。建設の遅れを取り戻すため、二四時間体制の突貫工事も予定されている。長時間労働の強制などは労災誘発の危険性を高め、さらには法令に反する長時間残業の懸念もある。 大規模な国家イベントであるにも関わらず、「盛り上がり」にも欠けている。毎日新聞の世論調査(今年二月)では、「行きたいと思わない」が67%だった。そもそも「なぜ今、大阪で万博を開催するのか」という根本のところで説明がなされておらず、いたずらに税金の投入だけが進められてきたのが実情だ。その背後には「大阪維新の会」が進める「カジノを含む統合リゾート(IR)」のための基盤整備という本質が透けて見えており、住民の多くがこれを拒否しているのである。 費用は倍増 すべてが杜撰な計画 万博のシンボルとされている「大屋根リング」下の護岸では二月、波による浸食が確認され、補修工事が必要となっている。大屋根リングとは、全周約二キロメートル、高さ最大二〇メートル、「世界最大の木造建築物」とされ建築費は三五〇億円、万博会場の建設費用を大きく押し上げた原因のひとつである。また、夢洲に新設された大阪メトロ(地下鉄)の駅では、今年二月に雨漏りが発生している。開始前からあちこちでほころびが出始めている。 会場建設費用は、当初の一二五〇億円から二度にわたって上振れし、約二倍の二三五〇億円へと膨れ上がった。運営費用も計画段階の一・四倍以上の一一六〇億円となった。 運営費用のうち九六九億円は、入場券の売り上げで賄われる予定だが、そうすると採算ラインは一八四〇万枚。三月時点でこの販売目標には遠く及ばず、大阪府知事・吉村(万博協会副会長)も、前売り券の販売目標は達成困難と表明せざるを得ない状況となった。 万博協会は来場者数を二八二〇万人と試算し、前売り券だけで一四〇〇万枚の販売を見込んでいたが、その六割にも届いていない。 昨年一〇月には予約不要でコンビニの端末でも買える紙チケットの販売、今年に入ってからは同じ大阪市此花区にあるテーマパークUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のチケットを購入すれば万博入場券を10%引きとする当日券の導入、悪評が高い「万博ID」がなくても買える「簡単来場予約チケット」の導入、さらに何度でも入場できる「通期パス」の割引クーポンの配布など、万博協会は入場券の販売と来場者の増員に躍起になっている。 そもそも、入場の完全予約制度は、交通アクセスが限られている会場への集中と混乱を避け、「未来社会への実験場」を掲げてインターネットでの予約による「並ばない万博」を演出するためだった。もはや、販売実績と予約状況から、駅やゲート、パビリオン入り口での混乱はない、と判断したのだろうか。 それはともかく、赤字は必至とみられている。いったい、だれが負担するのか? 「政府は(これ以上)支出をしないという閣議了解がある。政府は赤字に責任を負わない」。「国が負担しないものを大阪府・市が負担することはできない」。万博協会理事会ではこうした発言が飛び交い、責任の押し付け合いが行われているという。昨年一二月時点で、赤字となった場合の負担者とその割合は全く決まっていない。 一方で吉村は万博の経済効果を「二兆四〇〇〇億円から二兆八〇〇〇億円」と宣伝し、アジア太平洋研究所(APIR)は、三兆三〇〇〇億円あまりと試算している。しかしその計算は、万博会場に二八二〇万人が来訪することを前提としている。入場者数が世界三位というUSJでさえ、年間一六〇〇万人(二三年)だ。また、そこでの個人の消費額(宿泊や交通費を含む)が、高額に設定されており、実態と乖離した試算となっている。三兆円の経済効果などありえない。 「危険な万博」に子どもたちを動員 万博会場の夢洲は、大阪湾に浮かぶ人工島。湾岸地区の開発事業の中心としてIR・カジノを誘致するために、利便性や安全面などを考慮せず、大阪の知事と市長のポストを握っている維新の会の政治的な思惑に基づいて選定された。 夢洲は一九七〇年代からゴミの埋め立て処分場として形成されてきた。夢洲は四つの区画に分けられているが、四区はすでにコンテナターミナルとして稼働している。三区は統合型リゾート(IR・カジノ)建設予定地であり、万博は一区の南半分と二区が会場となる。 夢洲への移動ルートは、同じく人工島である舞洲(まいしま)との間にある夢舞大橋と、咲洲(さきしま)とつながる夢咲トンネルの二つしかない。防災・安全上のリスクは次のようなものがある。 人工島である夢洲は、恒常的に地盤が沈下する軟弱地盤。地震による液状化の危険や津波の危険が常にある。しかも、当然だが避難ルートは橋とトンネルの二つしかない。夢洲と大阪市街を結ぶシャトルバスは用意されているが、運転手が不足し、渋滞の可能性も大きい。地震や津波、台風に対する対策はほとんど立てられていない。避難経路の確保のために、大型船舶による避難という策が盛り込まれたが、肝心の避難先は未定のままだ。南海トラフ巨大地震が三〇年以内に発生する確率が80%という状況の中、一日平均一五万人が訪れる島でのイベントで、係員の避難誘導訓練や避難計画も十分作られていない。避難できなければ島に残るしかないが、宿泊施設もなく、水や食料、医療などの確保もままならない。 もう一つ、有害物質やガスなどの問題がある。一区は焼却灰などで埋め立てられており、メタンガスなどの有毒ガスが絶えず発生している。昨年三月には、万博の工事現場で熔接の火花が引火し、爆発事故が起こっている。 二区、三区は建設残土や浚渫土砂などで埋め立てられているが、この中にはPCB(ポリ塩化ビフェニル)や硫化水素、一酸化炭素などの有害物質が含まれており、飛散の恐れがある。 「盛り上がり」にかける状況の中、入場者数を増やそうとしているのか、「子ども無料招待」事業が打ち出されている。大阪府は府内の小中高校と支援学校の児童・生徒を学校単位で無料招待することにしているが(経費は自治体が負担)、学校や保護者などからは、交通渋滞や移動の困難、熱中症や災害時の避難への不安、さらにガス爆発や有害物質飛散への懸念などによって参加を見送る自治体が続出している。 吉村は昨年六月、府内の学校を対象に意向調査を行い「73%が来場を望んでいる」と発表しているが、この調査には「希望しない」という選択肢がないうえ、「来場を希望」と回答した学校は自動的に仮予約とされるなど、参加の強制だという批判が出ている。 大阪近隣の府県でも、ほぼ同じような形態で児童・生徒の「無料招待」が計画されているが、夢洲への移動はさらに困難で、貸し切りバスの費用や所要時間などの観点から、実施にはより大きな困難がある。なによりこんな危険な場所へ子供たちを連れていくことが無謀だ。 個人情報が第三者に提供される危険 前売り券の販売数が想定をはるかに下回っているのには、宣伝不足や工期の大幅な遅れなど様々な原因があるが、もう一つ、インターネットによる購入手続きの複雑さがあげられる。 完全予約制にして「並ばない万博」を目指したことはすでに述べた。事前に予約をして電子入場券を購入するのには、万博協会のホームページで「万博ID」を登録し、入場する日時やパビリオン閲覧時間などを指定する必要がある。多くの人にとって、何カ月・何週間も前からそこまで準備して予約するような魅力があるイベントではないということだ。 第一、海外パビリオンの展示内容はいまだに詳細が報じられていないどころか、パビリオンそのものも完成していない。企業に押し付けた入場券が、金券ショップやインターネット上のフリーマーケットに出回っていたり、さらには「チケットプレゼント」キャペーンなども多数行われている。 さらに問題なのは、万博IDを登録するためには、協会が、およそ券購入・予約とは関係なさそうな詳細な「個人情報を収集すること」(「個人情報保護方針」)や、その情報を「第三者へ提供する場合がある」(同)などの項目に同意しなければならないことである。 万博のスポンサー企業には製薬会社や広告会社もある。こうしたところへの情報提供の可能性の危惧はぬぐえない。「個人情報を吸い上げるための万博」という批判が出てくるのも当然だ。 湾岸地区開発を狙う維新の会 維新の会は、夢洲などを「負の遺産」と位置づけ、ここに巨額の税金を注ぎ込んで「湾岸地区開発の成功」を自分たちの成果だとして誇示しようとしている(是非はともかく夢洲は現役のごみ処理場であり、物流拠点としても稼働しており、決して負の遺産ではない)。 大阪市「湾岸地域開発」は、一九五八年の咲洲造成工事から始まり、廃棄物処分場としての舞洲(七二年着工)、夢洲(同七七年)造成などが進められた。八八年に大阪市がこの三島に人口六万人の新都心を形成するなどの大型プロジェクト「テクノポート大阪」計画を策定したがのちに頓挫、撤回。咲洲には「アジア太平洋トレードセンター(ATC)」「大阪ワールドトレードセンター(WTC)」などの巨大ビルが建設された。しかしこの二つは二〇〇三年までに経営破綻した。さらに、〇一年には大阪へのオリンピック誘致にも失敗した。 こうした経緯のもと、当時の府知事・橋下徹がこれらに代わる大型プロジェクトとして大阪湾岸部へのカジノ誘致を表明した。産業や経済に関する政策を持たない維新にとって集客・観光事業、とくに国から巨額の援助を引き出せる大型プロジェクトは、目玉政策として都合のよいものだったのである。 一四年四月に、松井(知事・当時)と橋本(市長・同)が夢洲へのカジノ誘致を決定した。万博会場の当初の候補地六カ所には、夢洲は入っていない。ところが一六年七月の万博基本構想検討会で「知事(松井・当時)の試案」として夢洲を持ち出し、強引に決定してしまった。 一八年までにカジノ関連法が成立すると、吉村(知事・当時)と松井(市長・同)が「万博前の二四年中のカジノ開業を目指す」として事業者を募集したが、応募はわずか一事業体だけであり、コロナ禍の影響もあって万博前の開業は断念。現在は、三〇年開業をめざすとしている。 カジノ・IR誘致は、「大阪都構想」と並ぶ維新の看板政策だった。二〇年一一月に都構想をめぐる二度目の住民投票で再度否決されると、カジノ誘致へと突き進んでいった。 松井知事は「カジノに税金は一切使いません」と宣言していたにもかかわらず、府・市は夢洲のカジノや会議場、展示施設、宿泊施設などが予定されている三区の土壌汚染対策や液状化対策などに約七九〇億円の公金支出を決定した(二一年一二月)。 こうした経緯を見ても明らかなように、万博開催のためにIR・カジノを大阪湾岸部に誘致することが、府・市の首長の座を長年占拠してきた維新の政策である。カジノとは公営ギャンブルであり、「ギャンブル依存症対策をすすめながら推進する」ものは自治体が取るべき政策ではない。IR事業そのものも、事業体の撤収の可能性も含め「成功」の可能性は高いとはいえない。そうなれば府・市には莫大な財政負担だけが残る。 昨年一月の能登半島地震の復興が進まない理由の一つが、資材と労働力の不足だと言われている。半年後には、施設の解体・会場撤収のためにさらに多くの税金がつぎ込まれることになる。教育や子育て、医療、福祉その他多くの現場では、予算も人手も不足している中で労働者は奮闘している。このようなところにこそ税金を使うべきだ。 今からでも遅くはない。大阪万博、IR・カジノ計画を直ちに中止せよ! 橋下をはじめとする維新の首長経験者たちの責任を追及しよう! |
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