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■『戦旗』1679号(5月20日)3面

  
 
労働基準法の解体を許さず
 労働者保護法制の強化を勝ち取ろう!
 
             岩崎 明




 二〇二五年一月八日、厚生労働省の労働基準関係法制研究会(以下「労基研」)が報告書を発表した。この労基研の報告書は、労働基準法による最低基準について、労使の合意で最低基準を下回る例外を認める制度の導入に向けた地ならしをすることに大きな狙いがある。
 労働基準法の改悪を許さず、規制の強化、労働者保護の強化を勝ち取ろう。


報告書に至る流れ

 労基研の前に、厚労省は「新しい時代の働き方に関する研究会」を二〇二三年三月に設置、同年一〇月二〇日に報告書をまとめている。ここに今回の労働基準法の規制緩和、「労使コミュニケーション」をはじめとした論点が出されている。
 「働く人の選択・希望の反映が可能な制度へ」、「労働者の多様で主体的なキャリア形成のニーズや、拡大する新たな働き方に対応できるよう、労働者とコミュニケーションを図り同意を得た上で労働時間制度をより使いやすく柔軟にしてほしいという希望も見受けられた」と。つまりは、「働く人の希望で、長時間労働を可能にする制度を」ということだ。
 一方で、この報告書の中には、「労働基準監督行政の充実強化」や企業に期待することして「ビジネスと人権」などの項が設けられていたが、労基研報告書ではそうした項目は消し去られている。
 この報告書を受け、二〇二四年一月二三日から労基研が開始された。
 経団連は、この労基研の開始に先立って、改めて経営側の意思を示し、自分たちの意見を反映させるために、一月一六日に「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表した。
 経団連の労働法制に関する認識(規制が複雑、画一的な規制が柔軟な働き方を妨げている、など)を示したうえで、「労使自治を重視/法制度はシンプルに」という基本的な視点から労基法の見直しを三点求めている。「①【過半数労働組合がある企業対象】労働時間規制のデロゲーションの範囲拡大」、「②【過半数労働組合がない企業対象】労使協創協議制(選択制)の創設」(によってデロゲーションの範囲の拡大)、「③【全企業対象】就業規則作成時における意見聴取等の単位の見直し」。
 労基研での議論に危惧を覚えた雇用共同アクション、全労連は、それぞれ二〇二四年七月と一〇月に意見書を提出、日本労働弁護団も一〇月に意見書を提出した。
 こうした批判を無視することができず、労基研報告書では「デロゲーション」(最低限守るべき規制を下回る働かせ方をさせても免罰する仕組み)という用語は使わず、「法定基準の調整・代替」という言葉に置き換えた。

労働基準法の解体狙う報告書

 労基研報告書は、労働者保護を強化する改善提案もあるが、それらに目を奪われてはならない。(例:現状は四八日連続勤務が可能だが、それを一三日連続勤務までにする、など)
 労基研報告書の中心的な考えは、次の点にある。「労使の合意等の一定の手続の下に個別の企業、事業場、労働者の実情に合わせて法定基準の調整・代替を法所定要件の下で可能とすることが、今後の労働基準関係法制の検討に当たっては重要である」。その上で、「手続」にあたる「労使コミュニケーション」の在り方について検討している。
 労働基準法は、第一条「労働条件の原則」で「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。②この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」としているが、労基研報告書はこれを否定するものだ。
 経団連「労使自治」、労基研「労使コミュニケーション」は、労基法で定める最低基準を労使の合意で引き下げようとするものに他ならず、労基法の解体を目論むものに他ならない。
 デロゲーションを「重要だ」として労働政策審議会での今後の議論の方向性を誘導している。決して見過ごすことはできない。

長時間労働をなくそう! 労働者保護の強化を勝ち取ろう!

 日本の労働者の労働時間は、一般労働者の月間実労働は一六二・二時間。年間にすれば約一九五〇時間にもなる(パートタイム労働者を含むと年間約一六五〇時間)。(厚労省「毎月勤労統計調査」二〇二四年分結果確報)。国際的に比較しても、日本の労働時間は長い。ドイツ一三四三時間、フランス一五〇〇時間、イギリス一五二四時間、米国一七九九時間(二〇二三年OECD)。
 それだけではなく、今なお過労死が後を絶たない。二〇二三年度「過労死等の労災補償状況」(厚労省)によれば、請求件数は四五九八件。内訳は、脳・心臓疾患に関する事案が一〇二三件(死亡件数二四七件)、精神障害に関する事案が三五七五件(未遂を含む自殺件数二一二件)にもなっている。
 国際的な労働基準といえばILO条約だが、ILOの中核的労働基準五分野(「結社の自由・団体交渉権の承認」、「強制労働の禁止」、「児童労働の実効的廃止」、「雇用・職業における差別の排除」、「安全で健康的な労働条件」)一〇条約の内、日本は八条約しか批准しておらず、「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」(一一一号)と「職業上の安全及び健康に関する条約」(一五五号)は批准していない。さらに言えば、労働時間に関する条約を一つも批准していない。
 こうした状況の中で、経団連とその意を受けた学者らによって進められようとする労働法制の規制緩和の策動を許してはならない。
 労働者、とりわけ中小零細企業で働く労働者、非正規で働く労働者、女性労働者、外国籍労働者を労働組合に組織し、労働者が置かれている困難や職場の問題を明らかにし、労働者保護法制の必要性・重要性を訴えていこう。

 


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