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  ■基地被害を拡大する米軍再編反対

  基地被害の現状と闘い




 ●1章 広島・沖縄米軍軍法会議の不当判決を弾劾する



 五月九日米軍岩国基地軍法会議は、昨年秋広島市内で十九歳の女性を集団暴行した四人の米兵のうちの兵長(二十歳)にたいし、「強姦罪」を認めず「不法な性的接触行為」とのみ認定し、飲酒や許可時間外の外出の軍規違反を認め、三人の審理に証言するなどの司法取引により、懲役二年(司法取引で一年)と不名誉除隊の判決を言い渡した。さらに五月二十日には軍曹(三十五歳)にたいし、女性の財布から一万二千円を盗んだ窃盗と軍規違反を認める司法取引により「強姦罪」が取り下げられ、懲役一年三カ月(司法取引と未決拘置期間の算入などのため実質十一カ月)と不名誉除隊の判決を言い渡した。六月十日三人目の軍曹(四十歳)に対し、「妻以外との性行為の罪」や「不法わいせつ行為の罪」を認める司法取引により「強姦罪」が取り下げられ、懲役一年三カ月(未決拘置期間算入のため実質七カ月)と不名誉除隊の判決を言い渡した。

 さらに五月十六日米軍高等軍法会議は、本年二月沖縄女子中学生を暴行した軍曹(三十八歳)に対し、本人が十六歳未満の少女への「暴力的性行為」を認める司法取引により、「強姦罪」・「誘拐」など三つの罪が取り下げられ、懲役四年(司法取引により一年は執行が留保)と不名誉除隊の判決を言い渡した。

 これら不当な判決を下した米軍・軍法会議を断じて許すことはできない。なによりも判決は正義を求めて証言にたった被害者女性、告訴を取り下げた女子中学生を深く傷つけ差別的に蹂躙した。軍法会議は米軍の「規律と秩序の維持」を最優先させている証として開催された。しかも沖縄や岩国など基地周辺住民の怒りをおさえ、現下の米軍再編をスムーズに進行させるために、両事件を日本の警察・検察・司法に代わって繰り返される米軍人の犯罪を「裁く」米軍軍法会議として大々的に報道各社に公開された。

 だが軍法会議の実態がいかにペテンであり、米軍の利益のもとに行われたか白日の下に暴露された。

 米軍人で進行する軍法会議で被害者女性が加害者米兵の前にさらされるなかで、集団暴行という凶悪犯罪である事実の究明と加害者への処罰・量刑について一体どう認定されたというのか。米軍によると、昨年統一軍事裁判法における「強姦」の定義が「誘拐や暴行を加えて同意なく性行為をすること」に変更された。広島事件において米兵が被害女性の意志に反して車で拉致同然につれまわし暴行したにもかかわらず、軍法会議は「威嚇や暴力」があったことを認めず「強姦罪」を認定しなかった。米国において集団暴行―「強姦罪」は、いくつかの州において死刑を含む重罪を科す(二十五年から終身刑、被害者が未成年の場合終身刑)犯罪行為である。きわめて軽いといわれる日本の刑法でさえ「集団強姦」は四年以上、「準強姦」・「強姦」も三年以上の有期懲役を科すにもかかわらず、判決は「強姦罪」の定義を変更した上で「不正性行為」などの罪状を認定し、加害者への処罰・量刑がきわめて軽いものになった。しかも加害者米兵は司法取引により実質短期間で放免されることになり、被害女性の人権と名誉をさらに傷つける不当なものである。

 米軍は軍法会議を「綱紀粛正」の努力をしめすパフォーマンス、アピールにかえた。

 米兵による性暴力事件や殺人事件など凶悪事件が全国各地で起きている。米軍は沖縄や基地周辺住民の怒りをなによりも恐れている。九五年九月沖縄少女暴行事件は米兵の不逮捕特権を糾弾し、日米地位協定改定や普天間基地の無条件返還などを要求する闘いへと大きく発展し、沖縄における米軍基地の安定的使用を動揺させた。二〇〇六年日米両政府が合意した米軍再編の進行に重大な支障をきたしかねない反米・反基地闘争の拡大を防ぐために、今春横須賀のタクシー運転手殺人事件など相次ぐ米軍犯罪・事件・事故にシーファ米大使や在日米軍司令官が各自治体を「謝罪」にはしり回った。在日米軍司令官ライスが五月十六日発表した米軍の性犯罪の「教育プログラム」の見直し作業と並んで、過去数件しか例がない軍法会議を開き「有罪」を言い渡して、米軍の威信と権威を取り戻す絶好の機会にしようとした。

 しかしまた米軍兵士による犯罪、事件・事故の裁判権を放棄してきたのはほかならぬ日本政府であり、米軍と一体となって米軍犯罪を助長、温存してきたことが明らかになっている。

 新聞通信各社は五月、複数の機密米側公文書によると日米政府が米兵犯罪をめぐり一九五三年に「重要な案件以外、日本側は裁判権を放棄する」との密約に合意し、その後五年間におきた事件の約一万三千件のうち、実際に裁判が行われたのは約四百件で、97%の第一次裁判権を放棄していた事実を報じた。返還後もそれは継続し、実際七四年伊江島農民の米兵による狙撃事件に対し「米兵の士気に影響が及ぶ」として日本側は米国が要求した裁判権放棄(公務中事件として)を受け入れ、また多くの事件が不起訴処分になっている。過去軍法会議にかけられた米軍兵士は一人、懲戒処分者は三百十八人と事件・事故の比率では0・01%以下という事実も明らかになっている。

 当初広島県警の強制捜査から米兵への逮捕へと進行するかにおもわれた広島事件において、一転して被害者女性の「供述の曖昧さ」を理由に広島地検は「証拠不十分」による不起訴処分を決定した。今春全国の市民団体・個人が賛同した不起訴処分への公開質問に広島県警・広島地検は一切答えなかった。

 二月沖縄での少女暴行事件の後におきたフィリピン人女性への暴行事件についても五月「証拠不十分」により不起訴処分を那覇地検は決めた。

 米兵犯罪の捜査と裁判は日米地位協定によって日米両政府の協議のもとで歴史的におこなわれてきた。ふたたび米軍犯罪・性暴力事件が日本の裁判権放棄―米軍の利益にそって決着がつけられようとしている。こうした日米安保軍事同盟下の米軍犯罪・性暴力という構造的暴力が温存され、繰り返され米軍を守ってきたことを絶対に許すわけにはいかない。不当な裁判権放棄を容認する警察・検察を許さず、日米安保体制打破―米軍再編反対のたたかいの前進をかちとろう。



  ●2 米軍兵士の犯罪、事件・事故は戦争時がピーク



 全国の米軍兵士の犯罪、事件・事故発生件数は、「米軍による日本国内の事件・事故件数と日本人の死者数」(別表)や「最近五年間の米兵等による事件・事故数」でおおよそ見ることができる。日本全土が米軍の後方基地として機能した朝鮮戦争直後の五〇年代の膨大な数の事件・事故件数、沖縄を前線基地と化したベトナム戦争の七〇年代における三千件、米国がアフガニスタン・イラク戦争を開始した二十一世紀初頭以後二千件前後である。公務中・公務外の米軍による日本人の死者の数も五〇年代をピークにして減少していくものの、〇になる年はない。二〇〇四年までの数は千七十六人にのぼり、七二年以前の沖縄での死者の数も含めるとおびただしい数の人々が米軍に殺されていることになる。米軍による犯罪、事件・事故は航空機事故・爆音(深夜・早朝)、低空飛行訓練、銃撃事件、艦船の衝突事故、殺人・「強姦」・強盗・傷害事件、交通事故など多種多様におよんでいる。また米軍基地に関連して環境破壊、健康破壊などの基地被害がある。



  ●3 家族含む米軍犯罪が多発する現状、変わらない沖縄



 二〇〇八年一月現在で駐留米軍の軍人約二万三千人、軍属一千五百人、家族二万一千人計約四万千人が駐留する沖縄において、家族をふくむ米軍犯罪が多発する現状はなんらかわっていない。

 沖縄では七二年返還以降〇七年までの米兵犯罪件数は五千四百五十七件を数える。その事件別内訳は、凶悪事件(殺人・強盗・「強姦」・放火)五百五十二件、粗暴犯千八件、窃盗犯二千七百九十六件、風俗犯六十三件、知能犯二百十件である。〇七年は六十三件と犯罪件数が前年より増加し、摘発者四十六人のうち、43・4%が未成年者であり、家族による凶悪犯罪がふえている。軍人・軍属の家族・息子による女性殺人未遂事件、暴行事件などがおきている。家族がおこす事件は沖縄以外でもおきている。米軍人・軍属による性犯罪・性暴力事件は九五年以降十四件発生し、十七人が逮捕されている。二〇〇一年以降の凶悪事件は二十五件にのぼり、犯罪件数も五百八件おきている。これら件数は公式に届けられたものであり、未届け分を含めると実態はもっと多い。本年二月沖縄でおきた女子中学生暴行事件において、基地外に住む米軍人の自宅で犯行が行われた。これまで明らかにされなかった米軍人・家族の基地外居住者数を事件後米軍が明らかにした。〇八年二月末で一万七百四十八人の基地外居住者がおり、〇七年三月末で一万三百十九人、四百二十九人増加している。現在沖縄に駐留する全軍人・軍属・家族のうちの20%が基地外に住み、前年より増大している。住民登録をしない米軍人らの基地外居住者の増加は犯罪や事件の多発化に拍車をかけると懸念されている。

 一九四五年沖縄占領直後の六カ月間において米軍は殺人二十九、「強姦」十八、強盗十六、殺傷三十三件というすさまじい数の蛮行を繰り返した。米軍統治下の二十七年間の犯罪件数は約二万件に上ったといわれている。占領軍である米軍は、その後戦後世界体制成立期の中国革命、朝鮮戦争をへて沖縄を軍政下におき「銃剣とブルトーザー」で土地を強制収用し基地の島へ建設していく中で、想像を絶する米軍犯罪、基地被害を強制した。一九五五年六歳の少女が米兵に暴行殺害された由美子ちゃん事件、一九五九年百二十六人の児童が死傷した宮森小ジェット機墜落事件などその甚大な被害は、一九九五年少女暴行事件、二〇〇四年の沖国大ヘリ墜落事件など数限りなく続いている。

 米軍による犯罪、事件・事故件数は五〇年代朝鮮戦争、七〇年代ベトナム戦争、〇三年イラク戦争の進行と深く結びついている。事件・事故が起きるたびに、日米両政府は再発防止を約束し、米軍の「綱紀粛正」「教育プログラムの見直し」を繰り返すが、何ら状況は今も昔も改善されていない。



  ●4 米軍優先を堅持する日米地位協定



 日米両政府は被害者や沖縄をはじめ基地周辺自治体が要求する日米地位協定の改定には一貫して消極的で、協定の「運用の改善」で合意している。地位協定の改定が事件・事故の責任と補償を明確化し、米軍の行動や基地の円滑な活動を制限することにつながるからだ。

 二月沖縄少女暴行事件、三月の横須賀タクシー運転手殺人事件などあいついだ〇八年春季、日米両政府は米軍脱走兵の事前通知や基地外米軍人居住者の年一回の公表、また性犯罪への米軍「教育プログラム」の見直しで合意した。


  ▼①裁判権・身柄引き渡し


 米軍基地の提供の在り方や駐留した後の米軍兵士などの法的地位を定めたのが日米地位協定である。現在第一次裁判権や被害補償について大きな問題になっている。

 米軍人・軍属が公務中に犯した基地外での犯罪、事件・事故について、米軍に第一次裁判権がある(協定一七条)。米軍下において取調べ・拘留・起訴など一連の刑事手続きなど行なわれ、軍法会議での裁判、処罰が行なわれることになっている。日本の刑法などの法律は適用されず、公務中の米兵には不逮捕特権があるとされる。また米軍を被告として裁判を起こすことができないとされている(横田訴訟最高裁判決)が、嘉手納爆音訴訟など米軍の責任を問う裁判が上告中である。

 基地外での犯罪、事件・事故に日本側警察は捜査・取り調べなどはできるとされているが、二〇〇一年の沖縄女性暴行事件では、基地内にある被疑者米兵の身柄の引渡しを日本側警察の逮捕状による請求によって行なおうとしたが、米軍が拒否した。

 二〇〇四年沖国大米ヘリ墜落事故の場合、米軍は墜落場所周辺を制圧し沖縄「県」警の捜査や立ち入りすら禁止し、立ち木の伐採や機体の撤去など強行した。大学や周辺住民の生命を脅かす重大事故にもかかわらず、違法な米軍の行動が優先され日本政府は抗議すら行わなかった。米軍からその後事故の責任について全く公表されていない。機体には放射性物質が積載されていたのではないかとの疑惑も明らかにされなかった。

 次に米軍人・軍属の公務外の犯罪、事件・事故については、日本の法律が適用され日本側に第一次裁判権があることになっている。しかし被疑者米兵が基地内に逃げ込んだ場合、日本側警察の逮捕状による被疑者の引渡し請求について、米軍は起訴されるまで被疑者を引き渡さないことができるとの条項が地位協定にある(一七条五項C)。

 九五年沖縄少女暴行事件は、被疑者米兵が基地内に逃走して身柄の確保ができず問題になった。一九九六年日米行動委員会(SACO)で地位協定一七条の重大犯罪(凶悪事件)に関して「起訴前身柄引き渡し」が「米側の好意的考慮」によって行なわれるとされたが、第一次裁判権が日本側にある事件でさえこの有様なのだ。米側の判断次第で、十分な捜査や裁判権が行使できない事態が今後も十分ありえる。

 公務外の事件について、公務中として扱われ基地内に引き渡された被疑者が釈放され米本国へ移動したり、何ら刑事手続きも行われないケースなど過去多々あった。

 一九五三年日本政府の裁判権放棄の密約の存在が暴露されたが、日本側に第一次裁判権のある米軍犯罪、事件・事故の大半を警察・検察が「不起訴処分」にしてしまえば、米兵や米軍は何ら刑事責任を問われない。


  ▼②基地被害の補償問題


 米軍人・軍属の公務中における犯罪、事件・事故の被害補償については、日本政府が米国に肩代わりして行うことになっている。政府は民事特別法を制定し、被害者が政府に被害補償を請求し、政府がこれに応じない場合、国を被告にして損害賠償請求の裁判を起こすことができるというものである。

 一方公務外の米兵が犯した被害補償について米軍、日本政府も法的責任はないという立場である。米兵・軍属の個人的な行為による責任(被害補償)は加害者本人としている。

 しかし個人責任―被害補償を追及したくても、米兵は一時的駐留であり、身分などわからずじまいで賠償に応じないまま移動したり、転属したりしていく。実質「個人責任」を追及できない状況がある。

 地位協定一八条には、被害者からの「見舞金」の支払い請求があった場合米軍は支払いの可否と金額を決定するという項目があるが、それは米軍の一方的支払いと低額である。被害者が提示額を拒否すると受け取ることもできず、泣き寝入り同然ということもあった。不満でも「見舞金」を受け取ると加害者に請求しないとの示談書への署名を強要される。しかも見舞金の請求期間は事件・事故から二年以内である。公務外事件・事故の大半である交通事故での被害者の場合、何ら防衛施設局からの説明がないまま進行する病気のため「見舞金」の請求期間を過ぎてしまい、やむなく保険会社と和解した例などが実際ある。また米兵への損害賠償裁判による確定判決額と「見舞金」との差額を日本政府が「穴埋めするよう努力する」との運用改善策が合意されているが、長期の裁判は困難で満足のいく被害補償などすくないのが実情だ。

 また米兵・軍属の家族がおこした事件・事故での「見舞金」については、旧防衛施設局は見舞金の請求はできないとして受付さえ拒否している。


  ▼③被害者の闘い


 日米地位協定は旧行政協定を引き継いだ米軍優先と、米軍の刑事責任を不問にし一部分しか被害補償を規定していない差別的代物である。しかも日本政府が第一次裁判権を放棄し、犯罪・事件事故の加害者米兵と米軍をささえる側に立ち、女性や住民・被害者を裏切りつづけてきたことに強く抗議しなければならない。

 しかし被害者は米軍を相手に困難を強いられながら、現在被害者を中心に全国的なネットワークを形成して賠償法などを要求して立ち上がっている。性暴力の被害にあった女性はその責任を求めて立ち上がっている。彼女らを支えていくことは重要である。昨秋の広島米兵集団暴行事件において広島県知事が被害女性の行動を、二月の沖縄少女米兵暴行事件でもネットなどで少女の行動を非難する声が上がり、二重に傷つけられる中で孤立感や恐怖感から抜け出し共に生きていく大きな支えになる。

 地位協定と不可分の日米安保体制が米軍と基地の存在をもたらす根源である。戦争犯罪、米軍犯罪、事件・事故の被害をもたらす米軍をアジアから総撤収させていく闘いは重大である。さらに基地被害を拡大する米軍再編に反対していかなければならない。米軍の責任を問いつづける基地被害者と連帯して、勝利めざして闘おう!


 

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