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   米国オバマ新政権の経済・軍事外交政策について




 ●(1)はじめに


 一月二十日、オバマが第四十四代大統領に就任しワシントンで宣誓式が行なわれた。オバマの当選はブッシュ政権による単独行動主義による世界戦略、そして新自由主義の経済政策、全世界の労働者人民の闘争への露骨な攻撃の頓挫を米国が自認したことを示している。ブッシュ政権下の二つの侵略戦争に倦み、未曾有の経済危機と生活難に苦悩し、社会の深い荒廃を憂慮する二百万人もの民衆が、オバマの就任式が開催された首都ワシントンにおしかけた。多くの人々が「変革」を掲げる史上初の黒人大統領に願いを託したのである。米国の歴史的背景を振り返るとき、たしかにアフリカ系アメリカ人が大統領選に勝利したことの意味は大きい。大資本に所有されているマス・メディアはブッシュを賛美し続けてきたことには口をぬぐい、ここぞとばかり「新時代・変革のはじまり」「対テロ戦争の終了」を書きたてた。米国のみならず、全世界の多くのマス・メディアもオバマ政権に期待をこめて好意的に報道しており、西欧諸国の政府もあたかも経済的な政治的な暗雲が晴れていくような歓迎を表明している。

 だが、はたしてオバマはかれらの救世主となることができるのか。米国政治の歴史には、民主党、共和党の二大政党のどちらが選挙で勝利したか敗北したかにかかわらず、連綿と支配階級の意図が貫かれている。両党とも財界の支配下にあり、支配階級が状況によって使い分けている名前のことなる二つの派閥というのが実態である。前提的に大統領選挙自体が公正ではなく、財界が容認しない候補者は制度的に実質しめだされている。二大政党のほかにも民衆組織などからの立候補者はいるのだが、厳しい条件がつきマス・メディアはこれらの候補者についてほとんど報道しない。オバマももちろん、こうした不正な選挙制度の構造から自由ではない。彼がぼう大に集めた選挙資金の75%は大資本からのものである。オバマは新たな組閣人事において、ブッシュ政権を継承する人物を多数含む人事をおこなっている。これはすでにオバマをおしあげた人民を失望させている。われわれは労働者人民の立場から、この事態を歴史的に、階級的にとらえる必要がある。オバマを大統領として受け入れた米独占資本の意図をはっきりとつかみとらなければならない。そして、オバマの具体的な路線、国内的な国際的な政策が労働者人民の利益に背反するものであること、それらは世界資本主義の崩壊的事態のなかでの帝国主義のあらたな攻撃であることを明らかにし、たたかわねばならない。すでに米国のたたかう人民は警告を発し、労働者人民の生存権をかかげて帝国主義にたちむかうたたかいにたちあがっている。われわれも米国の反戦運動、たたかう労働運動と結合し、世界の人民と連帯してたたかい抜く。そのことによって国際階級闘争を前進させねばならい。



 ●(2)オバマ勝利の背景とオバマの課題


 大統領選でオバマを勝利へとおしあげたものは、基本的に、ブッシュ政権二期八年にわたる目にあまる社会の荒廃と生活難への大衆の怒り、長期化するイラク戦争への嫌悪感であった。それがいわゆる選挙運動期間中の「草の根のオバマ運動」となってあらわれた。第二に、昨年来の金融恐慌事態と経済危機の深まりが変革を訴えるオバマに決定的に有利に作用した。一貫してブッシュの戦争政策、新自由主義経済政策を支持してきた米国支配階級の諸層も、ブッシュの路線によっては米帝の世界支配が危うくなることを認めざるをえず、オバマへの交代によって世界支配の再確立をはかる道へと乗り換えたのである。さらに、現状を放置すれば米帝が世界に向かって宣伝している「自由・民主主義・市場経済」などの「普遍的価値」のペテン性すらあからさまになってしまうことを危惧したのである。

 ブッシュは二〇〇一年9・11事件を利用して中東への武力侵攻にのりだした。中東諸国を屈服させて巨大な石油利権を支配しようとしたのである。そして「大量破壊兵器の存在」をでっち上げてイラクに侵攻した。支配階級は熱烈にブッシュ政権の戦争を支持し、大資本の支配する巨大メディアは排外主義をまきちらした。ブッシュは愛国主義と人種差別を扇動し、移民の権利、少数者の権利、労働者の権利を奪い、「市場、自由競争、民営化」の名のもとに福祉、公教育、医療などの予算を削減し戦費にまわした。ブッシュ政権下で貧富の差がいっそう急速に拡大した。二〇〇五年八月のハリケーン・カトリーナがもたらした被害は人災でありブッシュの反人民的政治をあますところなく暴露した。

 しかし、このような重圧と困難な状況のなかでも人民はたたかった。二〇〇一年9・11事件から約半月後の九月二十九日、首都ワシントンで二万五千人もの人々が反戦反人種差別のデモに決起した。

 やがて侵略戦争が中東諸国の人民の抵抗によって泥沼化し、米帝が敗北の道へところがりおちるなかで、そして国内的・国際的にも米国への大きな批判と人民の運動がまきおこるなかで、支配階級もブッシュを見捨てた。
 その後、二〇〇八年の米国発の金融恐慌はただちに国境を越え全世界をまきこんで経済危機へと連動し、全ての労働者人民に大きな打撃をあたえた。ブッシュ政権は貧困大衆を救済するのではなく、ウォール街と巨大金融機関の救済にむかった。

 二百万の人々が解雇され、失業率は6・7%へと上昇し、健康保険もない家族が増加した。全米で五千万人の人々が健康保険に加入することができず病院にかかることもできないでいる。家賃やローンが払えず差し押さえによってホームレスになる世帯が急増している。青年層は、学生ローンの負債に苦しみながら学校にいくか、軍隊にはいって侵略戦争で生命を失うか、犯罪によって投獄されるかの選択しかない。刑務所数が増加し、いまや全米で二百四十万人が収容されている。

 9・11事件以降、「愛国者法」はじめ人民弾圧法が成立し、警察の人種差別にもとづく黒人・ラテン系コミュニティーへの違法な暴力事件が激増した。

 このようなブッシュ政権のすべての反人民的な政策に多くの人民の怒りが爆発し、それがオバマを誕生させたのである。

 ブッシュ政権はたしかに空前の露骨な侵略的・反人民的政権であったが、以前のクリントン等民主党の大統領が特に「よりまし政権」であったということはできない。両者とも同じく米国内と全世界の労働者人民・弱者を収奪し犠牲にすることによって強者・富者に最大限の利潤をもたらす構造に立脚した政権であることに変わりはなく、すなわち米国の資本家階級の利害代表であったのである。また支配階級は国防総省やCIA、NSA(国家安全保障局)、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)などの官僚組織をつうじて政権の実質を握っている。オバマはブッシュ路線を否定しているが、それはブッシュ以前に帰ることを意味するにすぎない。いわんやこの支配構造には一指もふれることはできない。オバマ自身は当初イラク戦争に反対していたが、以降の戦争予算には反対せず、いまやアフガニスタンへの米軍増強やイラン攻撃をも主張しているのだ。

 オバマの選挙公約は「変革」であった。演説や声明から見て取れるものは、彼が一九二九年大恐慌後にルーズベルトが実行したニューディール政策の踏襲を計画していることである。すなわち、大規模なインフラ公共投資によって雇用創出を行い、その実績をもって、大恐慌時代以来の懸案課題である国民皆保険という公約の実行に着手する。まず、就学前の児童を政府管掌の医療保険に加入させ、民間医療保険料の値下げ、保険会社による重病患者の切り捨ての禁止などを行う。また、ブッシュ時代に蹂躙された人権や市民の憲法的権利を復元する、というものだ。

 オバマは就任演説において、米国民に対して危機感と深刻な亀裂状態にあるアメリカ国家の統一を訴え、「責任」の共有を求めた。これによって長らく続いてきた民主―共和の両党の政策とそれをめぐる見解の対立、利害対立を実利型政治で修復し、中道政治で挙国一致をはかるという路線で進もうとしている。そのために、主要な閣僚など政府首脳の人事については超党派で行うことを標榜し、ブッシュ政権の軍事責任者や、新自由主義を先頭にたって推進してきた経済関係責任者を任命している。ロバート・ゲイツ国防長官が留任し、前NATO軍最高司令官ジェームス・ジョーンズが国家安全保障問題担当補佐官に就任した。これらはオバマ選挙を支えた人民の強い反発を招いている。また、経済チームにあっては、財務長官ティモシー・ガイトナー、国家経済会議議長ローレンス・サマーズも、ロバート・ルービン元財務長官とともに一連の金融緩和政策を推進した張本人である。ルービンはクリントン政権下で金融近代化法を作り、二九年恐慌の教訓として禁止されてきた銀行、証券、保険のあいだの兼業を一転容認した。これによって富裕者の資金を運用する投資銀行が金融の中心に躍り出て、金融派生商品(ディリバティブ)の氾濫、債務の証券化などが進行し、全世界で投機と経済格差を一気に拡大させた。その矛盾が爆発し今回の金融危機の直接の原因となったのである。

 さらに、イラク侵攻を先頭にたって推進したイスラエル・ロビー、軍産複合体と癒着したグループがオバマをとりまいている。イラク戦争を先頭にたって支持したヒラリー・クリントン新国務長官、シオニストを自称するラーム・エマニュエル大統領補佐官はその代表であり、オバマ政権内にはイラク戦争反対派はまったくいない。これらオバマ政権の主要メンバーの顔ぶれは、この政権の「変革」路線の内実と行く末を如実に示している。

 だが他方において、オバマの選挙においてぼう大な青年層や黒人、ヒスパニックの大衆が真の変革を希求し運動に参加したことも事実である。オバマはこれらの声を無視するわけにはいかない。不断に支配階級の意志と大衆がつきつける要求との間で調整をせまられ、それが政権内の「左」右対立となってあらわれるであろうことは必至である。大衆の要求と運動がオバマ政権の政策決定に影響をあたえうる要素が増大することは確かである。大衆の運動が前進し、力量を増大させるにともなって挙国一致体制の幻想は崩れ、オバマ政権の路線に対する米国および世界の人民の失望や反感が強まっていく。すべては人民の運動の組織化と前進にかかっているのである。

 ブッシュ政権は人民に過酷な現実をもたらすと同時に、他方において、結果として、反戦運動の高揚などそれらの攻撃と人民がたたかう力と運動とを鍛えた。これらこそが帝国主義の攻撃を打ち倒し、命脈のつきた資本主義を廃絶していくための決定的な武器となるであろう。

 以下、オバマの経済政策、軍事外交政策をみていこう。



 ●(3)「自由貿易」と保護主義のジレンマの中にあるオバマ


 経済危機への取り組みは、オバマ政権の最も緊要な課題である。オバマは前例のない超大型の財政出動による景気対策を行うこと、金融危機への対応に全力で迅速に取り組むことを宣言した。具体的には最大四百万人の雇用創出を掲げ、二年間で総額八千百九十億ドル(約七十二兆五千億円)の財政支出を行なうという法案を議会に提出した。その内容は、次のようなものである。高速道路等の大規模なインフラ整備の公共事業、勤労世帯および民間企業に対する大型減税、風力・太陽光など代替グリーン・エネルギーの増産、教育・医療分野での投資、住宅差し押さえ対策として五百―千億ドルの拠出などを計画している。これらによって雇用を増大させ、将来の経済成長の基盤を作るとしている。この法案については共和党が「小さな政府論」にもとづいて財政支出の規模縮小を要求し、民主党が社会的弱者の救済策拡大を主張するなど、共和・民主の間には一定の足なみの乱れはありつつも早期通過が見込まれている。金融危機対策としては、オバマ政権は公的資金枠の残り三千五百億ドルを活用した資本注入の継続や、金融不良資産を買い取る「受け皿銀行」設立や銀行の損失に対する政府保証などを計画している。経済危機対策としては、政府はすでに米国の中心産業である自動車のビッグ・スリーの救済を決定し、ゼネラル・モータース(GM)とクライスラーに公的資金から計百七十四億ドルの緊急融資を行った。オバマは「自動車産業は米国製造業の根幹」と位置付けて追加支援をも計画している。

 しかし、米帝にとって最大の問題はこれらが問題の解決にならないということであり、金融危機と経済危機はこれらでは克服しえないほど深刻であるということである。いまはまだ恐慌は初期の段階であり、これから実体経済へと波及していく。投資ファンド自体がまったく規制もなく監督の対象外であったため、不良資産といわれるものの総額も実は不明である。金融危機による損失は世界中で二兆ドルにも達し、今でも半分しかその処理は進んでいないとの推定も存在する。米国はすでにGDPの半分に近い額の巨額の公的資金を注入しているが、それで問題が解決したわけでなく底はまだ見えていない。多くの経済専門家は、これでは不十分で追加投入が必要であり、ビッグ・スリーの経営再建は困難で今後も支援額は膨大なものになると見ている。

 すでに慢性化した巨大な財政赤字は、昨年過去最大の四千五百五十億ドルを記録した。景気刺激策によって財政再建はますます困難になっていく。財政赤字は今年はさらにその二倍を越える一兆二千億ドルになると見られている。

 しかし、もちろん公的資金の追加注入は無限にはできない。いままでの連邦と地方の財政赤字も巨大に累積している。この赤字は米国の国債発行によって埋め合わせられており、この赤字国債を中国、サウジアラビアなどの中東諸国、日本が購入してきたが、それにも限度がある。巨額の国債発行は消化されないままドルの暴落につながる危険性がますます高くなっていく。九〇年代以降、米国経済は世界の巨大な消費センターの役割を果たし、輸入を増大させ、そのことによって経常収支赤字を増大させてきた。この構造は海外からの資金の流入でもって成立し、維持されてきた。米帝は九〇年代に情報技術バブル(ITバブル)を作り出し、それが崩壊した二〇〇〇年以降は住宅バブルを作り出した。そのバブルも二〇〇七年に最終的に崩壊した。今度は、オバマ政権のもとで「地球温暖化を防止する」という名目で「環境ビジネス」をつくりだそうとしている。温室効果ガスの「排出権」を世界的に売買しようとしているのである。

 いま、経済危機は米帝単独ではとどめようもなく、また連動して大きな傷を負ったG8諸国のみでもどうにもならない。昨年の金融危機を受けて十一月にロシア、ブラジル、インド、中国のBRICs諸国はじめ新興国を含んで開催されたG20の国際会議は、それ自体に具体的な成果はなかったが、米帝やG8がみずからの限界を自認し、潜在的対立を露呈したことが大きな意味をもった。もちろん米帝はドルが基軸通貨であるという特権を手放そうとはしない。フランスをはじめ西欧帝が要求している「第二のブレトンウッズ協定」など認めようとしない。しかし、この米国経済の沈下とドルへの信用不安、世界経済の多極化は傾向的に進行していく。当面は、金融バブルに踊り金融商品を大量に購入した欧州各国もその損失にあえいでおり、ユーロ自体もドル以上に傷ついているが、この傾向はますます深まっていく。

 このようななかで、オバマ政権の最大の緊急課題である景気対策は、危機をあおって具体策を明確にしないまま巨額の税金が注入されて、しかも危機は解消されない、となる可能性が大きい。

 双子の赤字のもう一方の八千億ドルを越える経常収支の赤字については、その解消が米国にとって重要な課題であることは変わりない。オバマは最優先の景気対策についで、貿易赤字の解消をめざして「自由貿易」の名のもとに米国製品に対する海外市場開放や投資の自由化を強力に要求していく。これは従来から米国通商代表部(USTR)を通じて毎年日本にも要求している。これに従って日帝は大幅な規制緩和、金融ビッグバン、米国経営基準への統合等を強行した。労働者人民に大きな災禍をもたらした一連の小泉改革や郵政民営化もそうであり、オバマ政権のもとでこうした外交的圧力はいっそう強化されるであろう。

 オバマ政権は、他国への外交圧力を強める一方で、国内経済対策を優先するがゆえに、「バイ・アメリカン条項」に顕著なように、保護主義への動きも強めつつある。オバマ政権は「自由貿易」と保護主義のジレンマの中にあるのだ。



 ●(4) 「対テロ」戦争継続しアフガニスタンへ増派


 オバマはブッシュの軍事外交路線との決別を強調し、国際問題の解決にあたって国連と国際的枠組みを重視し、単独行動主義から国際協調主義へ転換することを宣言した。これは西欧諸国の支配層から歓迎され、広く国際社会からもブッシュの戦争政策からの転換として期待されているようである。だが実態はどうなのか。オバマはイラクよりアフガニスタンを「テロとの戦いの前線」として重視し、選挙運動のなかで「就任から十六カ月以内にイラクから米軍の戦闘部隊を撤退させる」と公約していた。現在イラクでは十四万人の米軍が占領を続けているが、オバマは就任の翌日、軍にたいし派兵削減計画をつくるよう命じたという。しかし撤退するとしても戦闘部隊であり、イラク軍の訓練要員や軍事顧問などの名目でかなりの部隊が数万規模で残る可能性が大きい。

 他方のアフガニスタンについては、タリバンが勢力をもりかえし、米軍―NATO軍は劣勢に追い込まれている。これにたいしてオバマはイラクから米軍を撤退させてアフガニスタンに兵力三万を増強すると宣言した。いまの劣勢のままでは抵抗武装勢力と交渉したとしても、カイライ政権をつくる目的が達成されないので、米軍を増派し決定的な一撃を加えたうえで有利な交渉にもちこもうというのだ。米軍はオバマの人気を利用し、アフガニスタン攻撃を「テロの脅威と戦う正義の戦争」だと装って大衆を再度戦争支持にとりこもうとしている。こうしてアフガニスタンでは、米軍は再び泥沼の戦いに引き込まれている。また、オバマ政権発足後の一月二十三日、米軍はパキスタンに対する空爆をおこない、アフガニスタンとの国境付近で二十二人のパキスタン民間人を殺害した。これらは、パキスタン人民をますます親米政権打倒にかりたて、イスラム主義を強化し、米国のアフガニスタン占領を掘り崩していく。こうしてオバマ政権がアフガニスタンの泥沼から脱出できない可能性は大きい。

 他方で、就任直後の一月二十二日、オバマは「変革」を裏書するように、キューバのグァンタナモ米軍基地にある「テロ容疑者」収容所を一年以内に閉鎖するための大統領令をだした。グァンタナモ収容所はブッシュ政権が七百人もの外国人を「敵の戦闘員」として法的手続きもなく誘拐させ拘留し、拷問による尋問と人種差別行為を繰り返していた悪名高い施設である。米軍は国外ということで米国の法律も適用せず、裁判もなく、「テロリスト」とのレッテルを貼られた人たちの無期限の拘留を続けてきた。オバマの今回の閉鎖命令は被拘束者の釈放を命じるものではなく、また、米軍施設以外の場所で民兵などによって日常的におこなわれている拘束と拷問を廃止するものでもなく、ただただ米国への世界的な悪評を除去する目的でなされたものである。ブッシュのすさまじい反人道的な投獄、拷問、人権への攻撃を廃止するものではなく、その一部を宣伝のために中止したにすぎない。それはブッシュ以前の政権の政策に復帰するだけであり、それ以上の前進的要素はなく、本当の変革とはいえないのだ。

 中東政策にしても然りだ。オバマは、中東和平への熱意を示すためとして、大統領就任直後、親米国のヨルダンのアブドッラー国王、エジプトのムバラク大統領、イスラエルのオルメルト首相、パレスチナのアッバス議長に電話をした。ムバラク、アッバスはアラブ人民からすでに見放されている政権である。この電話の対象からは、米帝の前に立ちはだかるイラン、パレスチナのハマス、レバノンのヒズボラの指導者たちは排除されている。これらの勢力の殲滅を前提とした米国の中東政策を示している。実際、昨年末からの一カ月近くにわたるイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への空爆・侵攻について、オバマは沈黙し、千三百人ものパレスチナ人民への無差別虐殺を容認したのである。イスラエルは中東における米帝の権益を代表し、深く米国の庇護のもとにある。米国の中東和平の目的は米帝の中東権益の確保以外のものではない。米国支配階級と政治に深く根をはったユダヤ系の巨大な勢力が存在し、オバマもこれに抗して動くことはできない。国務長官に就任したヒラリー・クリントンはアフガニスタン、イラクへの戦争を積極的に支持したタカ派で有名であり、アラブ―イスラエル問題特使になったジョージ・ミシェルはバルカン紛争、ユーゴの内戦、アイルランド問題、中東問題に関わり、パキスタン、アフガニスタンへの特使になったリチャード・ホルブルックは米軍とNATO軍によるユーゴスラビア攻撃に関わっており、選挙で成立した政府を倒してユーゴを分割した中心人物である。結局、米国政府はイラク、アフガニスタンへの戦争を続け、イラン政府の転覆策動を続け、パキスタン人民を攻撃し、パレスチナ人民の抵抗を抹殺し続けるのである。あるときには外交で、あるときには戦争で、という形態の相違はあれ、米国資本家のための権益、支配地域、市場を拡大する帝国主義としての目的は変わらない。

 また、民主党系のシンクタンク「ブルッキングス研究所」が「国際協調時代の行動計画」なる報告書をまとめており、これがオバマの外交路線に影響をあたえる可能性が大きい。これはクリントン政権の国務長官であったオルブライトを中心として、アーミテージなど超党派でつくられた報告書である。そこでは「多極型世界政策」や国連重視への転換とともに、内政不干渉原則を批判し、国家主権を超える世界的政府機能を擁護し、国際紛争を解決するために国連に五万人規模の軍隊を創設することを提言している。

 オバマ政権で特にみておかねばならないのは日米関係であろう。日米関係は従来は安保や通商摩擦など二国間の問題処理が中心であった。しかし、オバマ政権は今後、「対テロ」、経済危機、環境・エネルギー問題などの世界的規模の諸課題に、共同対処するよう日帝に大きな役割を要求していくだろう。

 まず、オバマ政権が「テロとの戦いの最前線」と位置付け重要視しているアフガニスタンでの戦争の増強に関連して、日本へも間接支援ではなく、治安回復のための人的支援や財政支援の要求をすることは確実である。

 米軍再編については、オバマ政権が、その見直しをしたり、自衛隊と米軍の一体化を変更することはありえないだろう。基本的に米軍にとって再編の目的は日本の防衛などではなく、日本列島を米軍の作戦指揮の拠点にすることであり、それを日本の費用負担でおこなうことである。そしてこれは超党派の対日提言「第二次アーミテージ報告」(二〇〇七年)でも強調されている。この報告は日本に憲法改悪=集団的自衛権の行使を要求し、自衛隊の海外派兵を随時可能にする派兵恒久法制定を要求し、軍事費増額を要求し、海外で日米一体化した戦争ができるよう求めたものである。米軍は日本の防衛費を利用して米国の国防費を節約できるし、自衛隊の直接参加を利用して作戦をたてることができるのである。

 これらがオバマ政権の「国際協調」の意味するところである。「チェンジ」という幻惑のもとで進行するかかる事態を許してはならない。

 このようなオバマ新政権の基本的性格をおさえたうえで、これとたたかう人民の運動がいままで以上に重要性をもち、米帝の動向に影響を及ぼしうることを確認せねばならない。米国労働者人民の拡大していく運動と結合し、危機にあえぐ世界の帝国主義勢力を包囲していく国際階級闘争の前進を全力でかちとろう。

 

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