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  ■09年度米軍再編関連予算案を斬る

  「貧困と軍事」を一体にとらえて闘おう


 



 米帝発の世界金融恐慌がただちに世界同時不況へと進行しています。「内・外需全滅」の日本経済は悪化の一途をたどるばかり。生産調整・雇用調整局面はさらに悪化の一途をたどっています。世界金融恐慌―世界同時不況の深刻化の災厄はひとえに労働者民衆へと覆いかぶせられている状況です。「派遣切り」に象徴される非正規労働者への解雇が相次ぎ、さらに正規労働者への解雇の横行もまた避けられない情勢です。反失業闘争、生活破壊を許さないたたかいをいっそう強力に進めてゆくべき情勢です。

 このような中で、麻生政権は〇九年度予算案を衆院に提出・通過させました。かろうじて来年度予算の年度内成立を確実にしたところです。しかし予算案審議をめぐる国会での論議において本稿で問題にする防衛関係予算、特に米軍再編関連予算案についてクローズアップされることはありませんでした。

 ここでは来年度予算における軍事費の問題について分析を加えつつ、このかんいっかんしてわれわれが提示している「軍事と貧困」という問題設定から、関連するいくつかの問題について考察しておきたいと思います。



 ●1軍隊として確立・強化する09年度防衛予算


 〇九年度予算における防衛関係費は総額にして四兆七千七百億円。〇八年度に比して減としたもののわずか0・1%。あいかわらず金額ベースとしては巨額の軍事費といわなくてはなりません。〇七年の世界の軍事費を示しますが(表1)、ここで日本の軍事費は世界第五位。〇九年度においてもこの位置が変化することはないと思われます。

 〇九年度防衛関連予算の特徴は何といっても「米軍再編事業の本格化に伴う経費を手当てする」(『平成21年度防衛関係予算のポイント』)という点にありますが、それを見ておく前に簡単に他の特徴について見ておきたいと思います。

 第一に、大きな予算措置がなされるわけではありませんが、守屋防衛事務次官の収賄事件など相次ぐ「防衛不祥事」を受けながら行なわれている防衛省改革が本格化しつつ、一部は実施段階に入るということです。「防衛大臣を中心とする政策決定機構の充実」と銘打って何よりも防衛大臣を中心とした防衛(=軍事)政策の決定がなされる体制作りがもくろまれています。〇九年度には、防衛参事官制度の廃止とともに、防衛会議を最高審議機関として法的に明確化する、などがなされます。そして一〇年度には自衛隊部隊の運用について「内局」(背広組)の影響力の強い運用企画局を廃止し、代わって統合幕僚監部による部隊運用の体制へと変えてゆこうというものです。

 また、「新たな取組を含む防衛力の向上」として、沖縄における陸自第一混成団を第一五旅団に増員・格上げすることや、香川県善通寺の陸自第一四旅団を「事態対処即応性機動性向上」のために改編するなどの部隊再編成を行なうとしています。

 第二に、上記した省自体の改編や部隊の改編も含めて、装備強化にしてもあるいは体制充実ということにしても、「わが国の防衛」ということでは説明のつかない装備や体制の強化が図られているという点です。たとえば「弾道ミサイル攻撃への対応」と称して千百十二億円が計上されていますが、これ自体米国本土に対する弾道ミサイル攻撃からの防御を本質とした装備の一環でもあります。陸上におけるパトリオットPAC3の換装・配備、海上におけるSM3ミサイルの配備とともに、司令中枢の航空総隊司令部を米空軍横田基地へ移駐させることがすでに米軍再編計画においても明記されているところです。あるいは「宇宙開発利用への取り組み」ということで六百三十三億円が盛り込まれています。昨年八月に宇宙基本法が改悪・施行され宇宙の軍事利用が解禁されたことを受け「衛星活用統合防空システム開発」などがスタートします。衛星による軍事的監視や衛星を使った軍事的通信網の確立などがもくろまれていることと思われます。約九百億円もの巨費を投じて空自F15戦闘爆撃機の近代化改修も進められます。

 大要このような諸点はつまるところ自衛隊が「専守防衛」などというタテマエをはるかかなたに追いやって、日米軍事一体化に即した世界大での戦争協力体制を作ること、それに応じた部隊作りを急ぐことそして自衛隊が自前の軍隊として確立し強力化してゆくことを示すものです。



 ●2 ウソとペテンで覆われた米軍再編経費の数値


 さて、〇九年度防衛予算の一番の特徴といえる米軍再編予算について見ておきます。

(表2)は、〇九年度予算案における「米軍再編関連経費」の内訳です。

 これは、財務省公開資料や折々の新聞報道などの情報によって作成したものですが、疑問点や問題点を指摘できます。

 第一に、経費項目の立て方についてです。米軍再編にかかる経費について、防衛省は概算要求の段階では@地元負担軽減等に資する措置A抑止力の維持等に資する措置、という二つの項目立てをしていました。表中の「地元負担軽減関連施設整備等」という項目も@に含まれるとしてきたところでした。

 ところが、財務省原案―政府案段階になってこの「地元負担軽減関連施設等整備費」項目を別立てして、総額八十七億円と示す形にしています。

 まず問題として指摘しておくべきなのは「地元負担軽減に資する措置」という名目自体のペテン性です。この名目でたとえば普天間飛行場代替施設をあげているわけですが、これは名護市辺野古地域の住民にとっては巨大な負担増大に他なりません。「基地の県内移設反対」という沖縄民衆総体の意思をないがしろにするものです。「厚木艦載機部隊の岩国移駐」にしても同様です。基地被害からの解放を求めた滑走路沖合移設が逆に厚木艦載機部隊移駐などの「受け皿」とされることのどこに「地元負担軽減」なる名目が立つというのか。さらに厚木基地周辺住民にとっても果たしてこの計画が負担軽減となるものなのかまったく不明なところです。艦載機部隊が岩国基地とともに厚木基地も使用継続する可能性は濃厚なのですから。米軍機訓練移転についても、嘉手納基地を抱える嘉手納町が衝撃的な調査結果を次のように明らかにしています。「嘉手納町基地渉外課の調べでは、訓練移転が始まって県外に移転したF15は延べ三十五機なのに対し、同時期に嘉手納基地に飛来した外来機は少なくとも百三十七機以上で四倍に上っている。同課の統計では五機以上の大量飛来を計測しており、一、二機が数日飛来した外来機は計測されておらず、実態はこれ以上となる見込みだ」(『琉球新報』〇九年二月二八日)と。

 この外来機とは、国内では米空軍三沢基地や米海兵隊岩国基地、米海軍厚木基地からのもの。また、国外では韓国のクンサン米空軍基地や米本国のアラスカ州、テキサス州などさまざまな空軍基地から飛来してくるとのことです。すなわち「地元負担軽減」どころかその正反対の事態が生起しているということです。要するに基地強化一辺倒でしかないのであり「地元負担軽減」などという名目を立てること自体を打ち砕かなくてはなりません。

 第二には、こうした項目立ての中で、米軍再編経費についてメディアでの報道がまちまちとなり混乱が生じていることです。言うまでもなく〇九年度予算中の米軍再編にかかわる経費は総額にして八百三十八億円強となるわけですが、にもかかわらず各報道においてはたとえば「米軍再編経費六百二億円」というような報道のされ方も散見できたところです。訂正記事が入っているわけでもありません。昨夏時点での概算要求取りまとめの報道では「米軍再編に一千億円」とされていたのに比して大幅減額との印象を与えた可能性もあります。しかし実態は別項目の付加や分離によって、額面を少なめに見せる手法にメディアが乗っかったということでしょう。

 そして第三に、このような手法を通じて個別の基地再編強化の実相が見えにくくさせられるという問題も生じます。表2中の岩国基地に関する費用項目ですが、これまた一部のメディアは「厚木艦載機部隊移駐予算が五十六億円」というような報道をして済ましている状況です。ところが実際には岩国基地をめぐる再編経費に百二億円が計上されています。この金額は防衛省要求に対する満額とのことです。

 ここで少し岩国基地関連予算案に立ち入っておきます。「満額であった」ということはすなわち防衛省の概算請求の時点から厚木艦載機部隊などの移駐に伴う米軍住宅新設に対しては〇九年度段階では見送らざるを得なかったということを意味します。つまり根強い岩国市民・愛宕山地域住民の米軍住宅化反対のたたかいがこれを強制したということです。米軍住宅化反対のたたかいは、本年においても一月山口県都市計画審議会闘争、米軍住宅化反対五万人署名運動の成功としてさらにいっそう強力におしすすめられているところです。岩国においては初であり、米軍再編計画が進行する中で新たに生み出されたという点ではまさに画期的といえる岩国爆音訴訟も五百名に迫る原告団を擁して開始されようとしています。もちろん「調査費」という名目では破格といえる二億円もの額を「米軍住宅建設用地調査費」として計上していることからして決して気を緩めるわけには行きません。また岩国基地大強化計画をめぐっては、米軍住宅の問題、そして空母艦載機の恒常的離発着訓練施設の場所選定など、日米政府にとってつめ切れていない問題がいまだ残っている状況です。この点からはまさに〇九年のたたかいが決定的な重要性をもつことをあらためて確認することが必要だということです。

 話を元に戻します。詳細な予算書を見る機会がないのでまったく不明なままですが、「抑止力維持」名目で計上されている総額が百五十億円ほどであるのに、その大きな部分である横田基地への空自総隊司令部移転予算が百五十億円という。それではもう一つの柱であるキャンプ座間への陸自中央即応集団司令部移駐予算の十一億円とは、Xバンドレーダー配備に伴う施設整備費一億円も含め、一体どこから捻出されるのか、という問題が生じてもいます。ここでは指摘しておくに止めます。

 折からの大不況の中で必然化する貧困・生活苦の増大への怒りと政府予算配分への注視と生活支援への要求の増大、そしてますます意気盛んな米軍再編にかかる日米軍事基地所在地の市民・住民のたたかいを前に、膨大な軍事予算案が労働者人民の批判にさらされる前に身をかわしておこうというようなさもしい意図が政府にはあるのかも知れません。メディアもまた政府資料を垂れ流すのではなく、独自の観点から調査し報道すべきといえます。そして重大なことに、こうした点が国会で議論され明るみに出されることは残念ながら絶無に等しいものであったという状況です。もはやそうした批判を議会内政治勢力のみに任せるわけには行きません。労働者民衆とともにわれわれ自身が米軍再編予算を軸に来年度防衛関係予算案への批判を強めてゆくべきときです。



 ●3 生活支援の倍額以上の膨大な軍事予算案


 米軍再編に関する予算のみが在日・在沖米軍に係わる予算ではありません。

 (表3)において、米軍再編関連予算を含む〇九年度の防衛予算中の米軍に係わる経費の金額をまとめてみました。なんと、総額にしておよそ三千億円もの金額となります。これがどれほどの数字なのかということを見るために、同じ〇九年度の厚労省所轄の予算中、雇用保険国庫負担分(千六百二億円)を除く雇用関係諸項目の総額との比較をしてみましょう。

 「非正規労働者等就労支援対策」に百十八億円、住宅・生活対策費に二百五十億円(派遣切りされた労働者に引き続き住居を無償で提供する事業主への助成を含む)、雇用維持対策に五百八十億円(新規の中小企業向け対策費五百四十八億円を含む)、派遣労働者の直接雇用促進のための特別奨励金八十九億円、再就職支援対策費として二百三十三億円。ざっと総計しても千二百七十億円程度です。これらをすべて倍額にしてもおつりが来るほどの金額を、政府は米軍に対してあるいは軍事力強化のために費やすというのです。

 さらにこの米軍再編経費に盛られた諸金額は今後さらに膨れ上がる数字であることも押さえておく必要があります。〇六年五月の米軍再編「日米ロードマップ」合意から三年が経過しようとしていますが、今後経年的に推進しようという米軍再編計画に関して本格的な事業予算がついたのは〇九年度予算が最初、まさにまだまだ序の口だということもできます。米軍再編費用は米軍グァム基地の新設負担六十億ドルを含めて総額三兆円とも四兆円ともいわれているところですがその総額はいまだ不明なままです。いずれにしても米軍再編の完成年度として合意されている二〇一四年まで六年しかない中で、数兆円規模の財政を投じるということには少なからず無理が生じることは必至です。電撃的に日米政府によって交わされた「グァム移転協定」にしても、かたや軍事費削減へと舵を切る米帝―オバマ政権のグァム米軍基地の新設・強化に対する日本側出資を確定したいという意図と、持続する沖縄民衆の辺野古新基地建設反対・普天間基地即時返還の要求の前に暗礁に乗り上げた観のある沖縄における米軍再編計画の推進を「日米間条約」をもって打破したい日帝―自公政権との間のドタバタ劇という見方ができます。こんな「グァム移転協定」など破棄するしかありません。

 現下の世界同時不況が回復してゆく見込みは、諸調査機関のうちで強気の予測においても最低二年は必要というものです。さらに労働者民衆の失業や生活苦の増大、貧困の拡大が生起しかねない状況です。このような中で軍事費ばかりが「聖域化」し、軍事強化や日米の軍事一体化が進行することなど到底許すわけにはゆきません。

 米軍再編反対のたたかいの中で、われわれはいっかんして労働者民衆の貧困が進行することと同時一体に軍事費の増大、軍事力強化が進められる現実を根本から覆すためには、労働運動の現場から米軍再編反対の声を上げ、具体的な該当地域市民・住民とともにたたかいを進めるべきことをつとに指摘してきたところです。それは当然ながら軍事費の聖域化を覆し、巨額の軍事費そのものを全民衆が指弾しながらたたかう状況を創造することを含みます。

 いよいよ米軍再編計画に対する本格的な予算措置がなされようとしているいまこそ、軍事力強化反対と労働者民衆の反失業・生活苦打破のたたかいを結び付けてたたかうことが重要だということを広く訴えかけながらたたかいを進めてゆきましょう。

 議会内における諸政治勢力が、米軍再編関連予算案の問題点を暴き出しつつ国会論戦を通じて広く労働者民衆に問題点を暴露しながら怒りの大衆行動を呼びかける姿勢を完全に喪失している状況ではあれ、貧困とのたたかい、そして軍事力強化とのたたかいを一体におしすすめる中で、米軍再編予算の執行を食い止めて行くことは可能です。ともにたたかいを進めましょう。

                                 (〇九年三月)

 

 

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