共産主義者同盟(統一委員会)

 

■政治主張

■各地の闘争

■海外情報

■声明・論評

■主要論文

■綱領・規約

ENGLISH

■リンク

 

□ホームに戻る

  ■討論資料  グローバリズムと女性

 
女性への搾取の強化と「貧困の女性化」




 昨年秋の米帝発世界恐慌は、またたくまに日本帝国主義に波及した。自動車・電機関連企業は生産を一挙に縮小、大量解雇をおこなった。解雇即寮からの追い出しや日雇い派遣の実態、資本の非情があからさまになり、日比谷公園の「年越し派遣村」には大勢の被解雇者が集まった。この内、二・八パーセントが女性だった(派遣村の「まとめ」より)という。今年に入ってからも解雇雇い止めは止まず、正社員のリストラも始まっている。秋口には、雇用は深刻さを増すと予想される。

 女性労働者の多くは派遣をはじめとした、非正規雇用にされてきた。雇い止めで仕事を失った女性は大量に居る。男性との比が二・八パーセントであろうはずがない、「派遣村」以前に慢性的に雇用調整されてきたのだ。恐慌が女性にこれ以上どのような厄災を与えるのか? まだ、始まったばかりだがいずれにせよ、社会の矛盾を最終的に押し付けられるのは女性である。女性の状態に着目し、そこに連帯して闘うことなしに、プロレタリア階級の解放の未来はないことは確かだ。

 恐慌に立ち向かうためにも、グローバリズムがこれまでの女性支配の形を大きく変えたことを見ておかなくてはならない。特に、日本帝国主義の女性支配の変化を考察する必要があるだろう。グローバリズムが女性に何をもたらしたのか、それは、搾取の強化と「貧困の女性化」(犠牲を最終的に女性が支えさせられる)だけではないのではないか。



 ●1 女性労働の変化と少子化


 グローバリズムが世界中の格差と貧困化を加速したことが、顕在化してから久しい。グローバリズムは各資本が労働者の強搾取を競い合う世界体制のことだ。各国は労働法制の改悪を繰り返しながら、より弱い労働者から先に犠牲を強いた。日本でも女性や外国人(日系ブラジル人、研修・実習生など)、青年層が働いても食えない「ワーキングプア」、慢性的失業層に固定されてきた。

 日本においてはおよそ二〇〇〇年頃、グローバリズムの影響がはっきりしてきた。非正規雇用は、それ以前からゆっくりと増えてきているが、さまざまな指標(男女別や年齢、事業所の規模ごと)において、高い数字で固定化されたのは二〇〇〇年頃からだ。ざっと、労働法制の改悪をふりかえると、一九九五年の日経連「新時代の日本的経営」にはじまり、一九九九年の派遣法改悪で派遣が原則自由になり、二〇〇三年の改悪で「物の製造」まで含めて全面化した。

 いくつかの特徴を見てゆく。(引用は総務省統計局及び厚生労働省発表による。基本的に二〇〇七年の数字である)

 @青年層の非正規就労の飛躍的増大 派遣解禁で二〇〇〇年頃からは、女性は新卒でも派遣にしか就業できないケースが目に見えて増加してきた。女性を追いかけるように、青年男性も非正規雇用に追いやられた。図表1は二〇〇七年のまとめだが、いかに青年層の非正規率があがってきたのかがわかる。一九八五年には約十五パーセントだったのが、十二年間で五十パーセント近くまで増えた。男女ともに、若年青年層の実に半数が、全く不安定で展望の持てない生活を強いられているのだ。正規で安定している青年とワーキングプアの青年との格差は非常に大きい。

 A女性は青年層だけでなく、女性労働者全体でも非正規雇用が半数を超えている。日雇い派遣の四三・三パーセントが女性だった。一九七五年(国際婦人年)時、パート労働が問題となったが、その割合は十七・四パーセントであった。アルバイト短期雇用もあったが、その他の女性は正規社員であった。

 B女性はどのくらい労働者として働いているのか。女性の労働力率(注1)は、全体では四十八パーセントで半数に見えるが、元気でも実際上働けない高齢者が多いためであって、二十五歳から六十四歳までの労働力率は過去最高を更新している。つまり、非正規雇用であれ働く女性は増え続けている。働かなければならない女性が増えているということである。

 Cこの表を年齢別に見てみると、高いのが二十五から二十九歳で七十五・八パーセント、四十五から四十九歳で七十五・六パーセントである。この表を線グラフにすると、女性が働いている時期の平均があらわれてくる。一九七五年時にはいわゆるM型ライフサイクルと言われた。二十歳と四十歳がふたつの山頂で二十五から三十歳が出産・育児の時期で深い谷をなしていた。(図表3)今は、だいぶん浅くなったが、谷があることには変わらない。では、七五年当時より育児休業などが整備され出産退職が大幅に減ったのかというと、そうでもない。「第一子出産後一年半」調査では仕事を継続している女性は二十三パーセントだが、出産前離職した人は五十二・五パーセントもいる。出産は保障されてない。

 D男女賃金格差は相変わらずだ。男女雇用機会均等法はむしろ賃金格差の隠れみのになっている。賃金は短時間労働者を除く(フルタイムなら派遣も含まれる)一般女性労働者で男性の六十四・九パーセントでしかない。また、働く女性の四割が年収二百万以下であった。「貧困」である。日本の女性差別賃金はILOに勧告され続けている。加盟国の「平等度」で五十四位、「先進国」では最低なのである。

 このように見てくると、女性全体が非正規雇用化しつつ「貧困」ラインで働き続けていることがわかる。とりわけ注目しなければならないのは、青年層女性の非正規雇用の存在だ。グローバリズム以前は、青年女性は数年間は正規で働きかろうじて自立し(あるいは実家で余裕で暮らし)、結婚し共働き、出産後は男性労働者の長時間労働を支えての「家計補助」短時間労働というケースが多く、まれに育児休業が実際に取れる企業でキャリアを重ねる女性もいた。いわば、家族制度の内に女性労働が組み込まれていた。総資本からすれば、女性に人間の再生産(介護まで含まれる)をきちんとやってもらい、その上で女性の労働力をできるだけ搾取するモデルだった。労働者を家族単位で支配搾取した。

 グローバリズムは、女性の身体性を問わず労働者としてバラバラにして搾取した。男でも女でも良い、むしろ女の方が安く使える。ここでは、産む性としての属性や家族を構成することは一切考慮されないし、期待されない。資本はこれらのコストを全て投げ捨てた地平で国際的に競争しあった。そして、さらに女性の差別低賃金をもって男性と競合させ、男性の賃金と雇用形態も引き下げてきたのである。

 コストの未払いはすなわち、晩婚化非婚化、少子化を進めた。

 青年層の所得と結婚の調査では、男性は所得の低い者ほど未婚率が高い。結婚できないのだ。女性では二十九歳までの未婚率は六十パーセントになった。そして、生涯未婚率(五十歳時点で一度も結婚していない)は男性で十五パーセントを上回った。結婚したとして、経済的に出産できない。五年間で子供をもうけた夫婦の割合(追跡調査)は、妻が正規で四十三パーセント、無職で四十八なのに、非正規では二十二パーセントと低かった。

 日本は一九九七年から少子社会(十四歳以下の人口が六十五歳以上を下回る)になった。合計特殊出生率(注2)が二〇〇五年には「一・二六ショック」という最低を記録した。

 青年層の格差は、子供を持てるかどうかにもはっきりと影響している。出産できるのは半分の人たちだけで、残りは結婚も難しい。

 資本家と日帝自民党政府は、少子高齢化に危機を抱き、いまさらながら「ワークライフバランス」や「多様就労型ワークシェアリング」を提唱しはじめている。仕事と生活の調和、つまり結婚と出産できる働き方の保障を企業と政府に、自ら求めているのである。しかし、一方で彼らは「多様な働き方」として派遣の拡大や、ホワイトカラー・エグゼンプション出来高制の導入なども求めている。各経済団体は「少子化対策」に熱心だが、資本はあくまで自分の会社だけはリスクを払いたくないから、「保障」は言いっぱなしになる。

 グローバリズムは、女性を個のプロレタリアートにした。資本に直接搾取支配される存在となった。家族というセイフティーネットも、穴だらけで機能を失っている。かつては、家族の誰かが不如意な事態になっても全体でカバーできた。今は、ひとりでもコケたら家族自体が危機になる。

 誰かを期待して生きることができない、ひとりで資本に対して労働力を売るしかないプロレタリア女性となったのだ。現在の二十歳から三十前半の女性は、こういう存在として自分を認識するはずだ。



 ●2 女性労働力の国際移動


 昨年六月、自民党の中川秀直が会長の「外国人材交流推進議員連盟が」が移民の受け入れについて、提言をまとめ、当時の福田首相に提出した。少子高齢化で国力の衰退が予想されるという問題意識から、五十年間で総人口の十パーセント(一千万人)の移民を受け入れる。そのための「移民法」「民族差別禁止法」をつくり、「移民庁」も設置するというものである。この報道に対して、右翼民族主義者やネット右翼が一斉に反発、「中国人や朝鮮人があふれる」と口汚くののしり、中川秀直を反日主義者として断罪、抗議する事態になった。しかし、これは資本家階級の要求であり、グローバリズムがより安価な労働者を国際移動させるという、いわば当然の流れである。実際外国人労働力の受け入れと搾取は始まっている。

 昨年で、合法的な外国人労働者七十五万五千人と自由に就労できるブラジルなど日系人が二十八万人、その他留学生のアルバイト十一万人や、不法就労の人も多くいる。トヨタの減産で、東海地方の関連工場で働く日系ブラジル人が大量に解雇され、帰国費用ほしさの強盗事件まで起きている。

 女性に焦点を当てて見てみると、ひとつは外国人研修生・技能実習生という名で移入されたアジアの労働者(中国が八十パーセント)が繊維・衣服縫製・プラ成型・食品製造などで欠かせない労働力となっている(男性は農業や漁業、建設が多い)。財団法人国際研修協力機構(一九九一年設立)が受け入れの窓口となって、中小企業に送り込んでいる。あくまでも「研修」なので講義学習の規定があるが実際は行われず、研修手当六万円ほどでこき使っている。

 パスポートを取り上げ居住費などの名目で手当てを減らし外出も制限するなどのひどい支配も多く、労組に駆け込む人、失踪する人があとを絶たない。これらの産業は、アジアとの競争が激しく奴隷労働を移入してしか成り立たなくなっている。現場は研修生が入れ替わり、彼女たちを指導監視する少数の日本人女性(多くは社長の妻)、で動いている。異民族の女性同士の敵対構造も生まれている。

 ふたつは、より問題を孕んでいる。

 昨年から実際に始まったインドネシアの介護労働者の受け入れである。二年間で千人の受け入れが予定されている。看護士コースは三年、介護福祉士は四年のビザが出されるが、その期間内に日本での資格が取れない場合は帰国させられる。その間は各施設で研修という名で働く。資格が取れた場合はビザが更新される。すでに、日本人でさえ難しい資格は、言葉の問題もあり無理ではないか、安く働かせるだけではないかという批判がでている。

 この事業は正式にはインドネシアとの自由貿易協定締結に基づく「看護士・介護士に対する事前研修制度」で、上記の悪名高い研修制度と基本的には同じだ。フィリピンも先に協定を結んでいるが、国会審議が遅れインドネシアが先行したのである。タイ・ブルネイとも交渉中である。

 より問題があるというのは、この移入政策が安価な労働力を当てにするというだけでないからだ。看護・介護という人間のケア労働を移入労働者で賄うとすることである。日経連は「東アジア共同体」に向けて、域内の労働力の移動の構造づくりを主張している。そこでも、少子高齢化―国力の衰退を問題とし、ケア労働の移入を求めている。看護・介護だけでない、メイドやベビーシッター、ホテル従業員なども挙げられている。

 つまり、総資本が日本人女性に押し付けた介護や育児をアジア女性に安価で代替わりさせる事態が、もう始められているのだ。これらが進むとどうなるのか、想像してみよう。日本女性とアジア女性が直接の支配関係になる。

 雇える力のある家庭の女性、キャリア女性は家事育児介護をアジア女性にさせるのだ。そうすることによって、社会生活や仕事を維持することになる。育児家事介護など人間の再生産=ケア労働を社会的に保障するのでなく、他国の同じ女性に押し付けるのだ。この女性同士の階層分断は先進資本主義国と後進国の差だけでもたらされているのではない。グローバリズムが生み出した、世界的な「労働者階級(女性)の格差拡大」がある。

 日本でも、女性の半分が非正規雇用で、結婚出産に格差があることを見てきた。ワーキングプアという言葉が使われ始めたアメリカでもそうである。アメリカのワーキングプア女性の代表的な仕事が、個人宅の掃除であるという。ケア労働を雇う家庭は資本家階級だけでない。「富裕層化した労働者階級」が、その女性(典型的には共働きエリート女性労働者)が自分の役わりとされるケア労働を外在化する。金融・情報サービスなどで高給を得、投資・運用もする一部の「富裕層」を頂点として、ケア労働市場が形成された。規制緩和で福祉が市場化されたのとピッタリ符合する。

 グローバリズムは、生産過程をバラバラにして、最も有利なつまり、最も安価な労働力を求めて世界を転々とすることである。単純な労働行程、ITによる情報管理が可能とした。世界中の安価な労働力を競わされているのが女性である。そして、こうして生産された商品を買うのが「先進国」の女性である。安く大量に供給された生活商品を買う(買わされる)ために、「家計補助」労働するのである。安価な女性労働と非正規雇用はセットなのだ。アジアなどの女性現業労働を製造することによって搾取し、また、搾取するために、「先進国」女性にたくさん消費させなければならない。「富裕層」でなくとも、女性のこの国際的国内的格差と分断に無関係ではいられない。資本の国際分業、グローバリズムは入り口と出口に女性がいて成り立っているといっても過言ではないのである。アメリカのワーキングプア女性が、時間がなくて頼る外食の冷凍素材は、たぶんアジア女性の低賃金労働で作られている。食事の支度もケア労働のひとつである。

 ケア労働の移入を通じて、これまで物を通じてしか、いわば間接的にしかとらえることが無かった女性同士の「格差と分断」がはっきりとあらわれることになる。インドネシアの研修生たちは、介護施設に配置された。だが、この移入政策が拡大すれば、やがて個別家庭の掃除や育児で女性同士が出会うことになる。

 これまでもフィリピンやインドネシア、バングラデシュ、インド、タイの女性たちは家族や子どもを置いて、遠く中東やカナダ、近くは香港などに出稼ぎケア労働をしている。女性のこまやかな能力を「輸出産業」にして、国内の経済を補填しているのだ。日帝のケア労働移入政策は、そうした「送り出し国」の現状につけこみ、その政治的経済的構造を固定化することに与する。彼女らは自分の家族や国民へのケアをできず、他国の人のケアをしなければならない。自分の子どもを育てられず、他国の家庭で育児をするのだ。

 こんなことは、女性として認めるわけにはいかない。アジア女性の犠牲の上に、日本の労働者階級の再生産が維持されるとは、日本女性の出産が援護されるとは。こんなことに甘んじるわけにはいかないだろう。利害は対立する。差別排外主義の経済的基盤と思想的基盤が用意される。

 グローバリズムは、労働の面(一章)で、そしてケア労働が外在化される点(二章)で、女性の身体性をぎりぎりまで消し去る方向で展開してきた。人間の再生産までも市場化し、外在化した。人間の個の身体そのものでしか出来ないこと(生命の生産)以外は外在化させる。貧困層は「生命の生産」もできない。もう一つは、格差である。労働者階級の中で、女性と男性で、女性同士で、他国の女性との間で幾層にも格差を生み出すことによって成立させてきた(結果としての格差ではなく、グローバリズムの構造だ)。

 「グローバリズムと女性」というテーマは、さらに多角的に暴露検討されなければならないだろう。

 福祉の市場化「自己責任化」というセイフティーネットの解体は女性の生活に大きな影響を及ぼした。健康保険の自己負担化、医療過疎、保育所不足、介護保険制度の破たんなどもグローバリズムの厄災であり、女性の性と生活を破壊している。高齢女性の貧困は深刻である。

 また、グローバリズムの現状を踏まえて、日本帝国主義の女性支配はどういう指向を持ってゆくのだろうか。グローバリズム経済において家族が疲弊し女性の身体性が無視された所で、伝統的な家族制度による女性支配をどう収れんさせるのか。「男女共同参画社会基本法の廃案をめざして」を掲げる「美しい日本をつくる会」(二〇〇七年発足)は「フェミニズムはマルクス主義だ」と叫び「ジェンダーバッシング」の牙城となって、行動右翼を動員している。安倍元首相らの「新憲法大綱」では、「我が国古来の美風としての家族の価値は、これを国家による保護・支援の対象とする」とまで主張しているが、現状は家族が形成できない状況にある。

 われわれの結論は明確である。産む性としての身体性を奪われ、誰でもないプロレタリアとして街頭にほうりだされている女性とともに、女性の解放をめざすことだ。だが、一方でプロレタリアの困窮は、ファシズム勢力の基盤でもある。数年前「希望は戦争」とアンチテーゼを打ち上げた若い論者がいた。破壊による再編、意趣返しを戦争に求めるファシズムの心情を警告した。

 今、一部の若者が立ち上がり、資本と対決しはじめている。しかしいまだ、「希望は革命」になっているとは言えない。戦時体制へファシズムが動員されることは歴史の教えるところだ。恐慌が戦争による再編へとむかう可能性も十分準備されている。

 たたかいを共にしながら「人間の解放」について提示できる大運動が求められている。「女性の解放」こそ、しっかりと語ることができなければならない。そのためにも、「女性とグローバリズム」を批判することは重要ではないか。


 ※注1 学生や家事従事者や働けない者を引いた数を十五歳 以上の総人口で割ったもの。対象人口のうち働いている者の率

 ※注2 一人の女性が生涯に産む子供の数。人口を維持するには二・一が必要といわれる。一九八九年の「一・五七ショック」で少子化が顕著になった。
 

 

当サイト掲載の文章・写真等の無断転載禁止
Copyright (C) 2006, Japan Communist League, All Rights Reserved.