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 ■「派遣法抜本改正」の闘いを

  「派遣労働」の廃止の闘いへ前進させよう!


                               


 ●(1)派遣法改正に向けた動き


 〇九年十二月二十八日、厚生労働省の諮問機関である労働政策審議会は労働力需給制度部会からの「今後の労働者派遣法の在り方について」の報告を受け、厚生労働省への答申をおこなった。この答申は〇九年十月七日に厚生労働省から諮問が出された調査審議の報告である。厚労省はこの報告をもとに労働者派遣法改正案をまとめ通常国会へ提出することになる。法案成立のスケジュールは現段階では二月中に政府案国会提出、五月連休明けに国会審議開始、六月に法案成立と言われている。

 この報告書は、「派遣労働者の保護」の明記、「登録型派遣」「製造業派遣」などの原則禁止、「マージン率」の情報公開など一定、現行派遣法と比較すれば評価できる点もあるが、換骨奪胎的な問題点が多数、存在する。我々はこれらの問題点を大衆的に暴露しながら、提出される「派遣法改正案」を可能な限り「派遣法抜本改正」に近づけていかなければならない。これらの闘いをとおして「派遣労働」の廃止にむけた労働者の闘いを力強いものにしていく必要がある。


 ●(2)労政審「報告」の問題点

 第一に登録型派遣の原則禁止は評価できるが、専門二十六業種は例外とされていることには大きな問題がある。

 これらの二十六業務の中には事務用機器操作やファイリングなど今日の社会常識に照らせば専門業務と言い難い業務が含まれている。現在ではこれらは通常の事務作業である。また「専門二十六業務」で派遣されながら、実際上はそれとは異なる仕事が大半を占めるというような「名ばかり専門業務派遣」が横行している。これらのことから登録型派遣は全面的に禁止すべきである。仮に残すとしても、安全、労働条件、賃金などが適正に担保されると思われる通訳などに限定するなど、誰がみても極めて専門性が高い業務に厳選すべきである。

 第二に、「製造業派遣」の原則禁止は評価できるが、「雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣については原則例外とすることが適当」(報告)として「常用雇用派遣」を例外として認めることによって大きな問題をはらんでいる。

 この常用雇用派遣の定義は厚生労働省が策定した「労働者派遣事業関係業務取扱要領」でも、一年の雇用の見込みがある場合、短期間の反復雇用であっても過去一年で継続雇用の実態があれば常用雇用派遣とするというものである。厚生労働省の規定する「常用雇用派遣」とは、常用が意味する「期間の定めのない雇用契約」とは全く似て非なる代物であり、通常よくある反復更新されている有期雇用契約と何ら変わりがない代物である。多数、存在すると思われる二、三カ月の短期契約の継続更新が一年以上ある派遣労働者の場合なら、派遣先の業務打ち切りによって契約期間中に派遣元から解雇されることはないにしても、派遣元の雇用契約は二、三カ月なので、一カ月後には派遣元から合法的に雇い止めにされてしまうことになる。どこが「雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣」なのか全く理解不能である。現行でも厚生労働省は「告示百三十七号」において、派遣契約の打ち切りを理由に雇用契約が残っている派遣元との雇用契約の解約はできないとし、解約するためには派遣元が派遣契約の打ち切りにより、経営危機に陥るなど、いわゆる、「整理解雇の四要件」などを満たさなければならないとしている。過去一年の間、反復更新を重ねた派遣労働者など大量に存在している。「報告」による「製造業派遣の原則禁止」では現行とほとんど何も変わらないと言わざるをえない。実態は何も「原則禁止」されていないといっても過言ではない。

 第三には、「派遣先が以下の違法派遣について違法であると知りながら労働者を受け入れている場合には……派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす」(報告)という、「みなし規定」、直接雇用の規定がもうけられたことは評価できる。

 しかしその内容たるや「派遣先が以下の違法派遣について違法と知りながら」というように派遣先が違法であると認識していることが前提となっている。これでは派遣先が「知らなかった。派遣元が勝手にやった」などの開き直りを許す結果となる場合が多い。このような派遣先の主観をみなしの要件にいれることについては認めがたく、派遣先の主観にかかわらず実態において判断しなければ「みなし規定」の意味がない。

 また「派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする」ということも問題だ。短期間の細切れ雇用の雇用主が派遣元から派遣先に代わるだけの話である。法改正において登録型が原則禁止され「常用雇用派遣」だけになってもその労働条件は短期契約の反復継続更新である場合が多いと想定されるので、違法派遣として指摘し派遣先で雇い入れられても数ヵ月後には雇い止めされる可能性が十分にあり、派遣先による直接雇用とはほど遠い。あくまでも違法派遣の場合は派遣先における「期間の定めのない雇用」でなければならない。

 更に「通常の民事訴訟等に加え、(1)によりみなされた労働契約の申し込みを派遣労働者が受諾したにもかかわらず、当該派遣労働者を就労させない派遣先に対する行政の勧告制度を設けることが適当である」ということについても極めて不十分である。行政の勧告制度などであまた存在する悪質企業、あるいは低賃金で不必要な時には整理できる派遣労働者を使う以外に経営が成り立たない企業が、そう簡単に行政の勧告に従うとは考えられない。そうなれば労働者は裁判に訴えるしかなく、訴えたとしても数カ月の雇用契約しかなく、裁判をするメリットはまったくなくなり、結局は労働者の泣き寝入りになる以外にはない。
 第四に、このように問題だらけにもかかわらず、その施行期日が、公布日から登録型派遣は最長五年間、製造業派遣についても三年間の猶予期間が設けられることである。

 昨秋以来、社会的に顕在化した「派遣切り」がもたらす、「職、住、食」を一挙に喪失し、路上に放り出される派遣労働者の悲惨な現状を最長、五年も放置しようというとんでもない代物である。何のために派遣法改正が社会問題になってきたのかということを全く無視していると言わざるをえない。

 それ以外にも、派遣先の団交応諾義務について規定しておらず派遣先の責任をあいまいにしていること、均等待遇に関しては相変わらず「均衡を考慮する」という規定にとどめ法的義務もなく同じ業務で働く派遣労働者と派遣先労働者の差別を容認していること、日雇い派遣の原則禁止についても「日々又は二カ月以内の」雇用は禁止という極めて不十分な内容にもかかわらず、「日雇い派遣が常態であり、かつ労働者保護に問題のない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認めることが適当」として日雇い派遣の例外規定を設け、あれだけ社会的批判を浴びた日雇い派遣を温存せんとしていることなど、多くの問題点が存在している。


 ●(3)「派遣労働」の廃止へ突き進もう

 「派遣労働」の問題点の第一は、「間接雇用」といわれる使用者と雇用者が異なり、本来、雇用者が果たすべき様々な労働者保護についての義務がないがしろにされるということにある。

 法律上は派遣先と派遣元に分離されていることになっているが、派遣元、派遣先、労働者という構造のなかで一番、力があるのは派遣先である。派遣元が付与すべき年次有給休暇なども、実際は派遣先の都合で決定され、派遣元に請求しても「派遣先に聞いてみる。派遣先が了解すれば出す」という事例など山ほどある。労働者が派遣元で聞いていた労働条件と派遣先での労働条件と異なる場合などでも、派遣先による不利な労働条件を押し付けれられる事例は枚挙にいとまがない。数少ないケースであるがこれらについて派遣労働者がユニオンなどに相談し、派遣元では当事者能力がないと判断し派遣先に団体交渉を申し入れたとしても、派遣先は派遣元の問題として一切対応しないというのが通例である。

 「派遣労働」の問題点の第二は、「均等待遇なき有期雇用労働」としての低賃金と劣悪な労働条件ということである。

 正規社員との均等待遇が実現されておらず、同じ仕事をしても賃金や労働条件が極めて低くなるという問題と、その原因となっている不安定な雇用という問題である。その結果、法定労働時間どおり働いても最低限の生活ができないワーキングプアと呼ばれる労働者を大量に生み出す結果となっている。

 第三の「派遣労働」の問題点は、昨年の「派遣村」などで暴露されたように、仕事がなくなれば直ちに路上に放り出され、「社会的排除」の対象となりかねない労働者を多数、生み出していることである。

 昨年の電機、自動車などの主要産業での「派遣切り」で暴露されたように、派遣労働者は派遣先企業で重要な役割を果たしているにもかかわらず、景気の調整弁として使われ原材料と同じように必要な時に必要なだけ調達し、不必要になれば切り捨てるという扱いをされている。当然、正社員の「企業福祉」からも完全に排除されていることをはじめとして、様々な差別的処遇をうけている。失業すると住居もなく蓄えもなく、手厚いとは言えない行政の失業対策を受けるのにも様々な困難が付きまとうのが「派遣労働」の実態である。戦後の労働者保護制度の両輪であった労働保護法制と「企業福祉」から排除され、現行の貧弱な社会保障、福祉制度からも遠ざけられ困難を強いられているのが派遣労働者である。

 大企業はこのような「派遣労働」によって労働者を好き勝手に搾取し莫大な内部留保を確保し、その内部留保を守るために、派遣労働者をはじめとする有期雇用労働者の大量解雇をおこなった。他方で低賃金ゆえに住居も家族も持てない労働者、社員扱いされないので正社員との人間関係も形成されず、一、二年で職場が変わったり、夜勤などに入っているので派遣労働者間でも人間関係を形成できない労働者、その結果、いわゆる、「溜め」といわれる人間関係、社会関係が希薄となり、仕事がなくなれば路上に直ちに放り出されかねないワーキングプアとも呼ばれる労働者が数多く生み出されてきたのだ。

 大企業はこのような「社会的排除」の対象となる労働者を大量に生みだしながら、「一企業には手に余る。社会と政府の問題」として、自らの責任を完全否定し、今回の派遣法改正に対しても「企業の海外移転が進む」「中小の雇用能力が下がり失業が増える」などと言語道断の主張を繰り返している。

 このような「派遣労働」の実態の中で、「報告」の最大の問題は、「登録型派遣」原則禁止といいながら「常用雇用派遣」を「期間の定めのない雇用」とは全く異なって、「短期の反復雇用であっても一年以上の雇用継続の実態があればいい」と位置づけ、「派遣労働」の「均等待遇なき有期雇用労働」という問題点にまったく手をつけていないということである。

 我々は上程されようとする派遣法案を「派遣労働」の問題を少しでも改善するような内容にしていかなければならない。

 マスコミによれば、人材派遣各社が派遣法改正をにらんで派遣契約を請負・受託型契約に変更するということが報道されている。すでに製造業の大企業では派遣を請負に切り替えるべく、自社の現場ライン長クラスを請負会社に出向させ、その出向した現場ライン長が、請負労働者を指揮命令するというようなことが開始されている。

 このようななかで「派遣法抜本改正」をかかげながら労働運動内部での闘いを強化し、請負法制、有期法制の規制を強化し、そして均等待遇の実現によって、規制緩和でずたずたにされた労働法制全体を改正していく反転攻勢の闘いの第一歩としていこうという意見も存在する。

 このような意見は、「派遣労働」の問題を「間接雇用」だけではなく「均等待遇なき有期雇用」の問題として考えるという意味で正しい意見である。「派遣労働の廃止」は、いくら「派遣法の抜本改正」を主張してもそれだけでは実現されない。主張されているような請負の規制、有期労働の規制、そして要をなす均等待遇の推進、最低賃金の引き上げなどによって有期雇用労働者の問題の解決の前進をはかることが必要である。

 それだけではなく「社会的排除」に対する闘いとして、また、「滑り台社会」の表れのひとつと言われる失業給付と生活保護の間に、何のセーフティーネットもない状態の改善に向けた職業訓練の充実や雇用保険の受給額の引き上げ、受給期間の延長、職業訓練の充実、更には住宅政策、医療政策など雇用保障・生活保障を実現する労働と生活全般におよぶセーフティーネット強化の闘いとして、「派遣法抜本改正」の闘いを進めていくことが必要となっている。

 当面、「派遣法抜本改正」の闘いをとおして「派遣労働」の悲惨な現状を一つでも解決しながら、あるいは問題点を指摘しながら闘いの強化を進め、均等待遇、最賃引き上げ、セーフティーネットの強化に向け闘いを前進させ、有期雇用労働者の労働条件改善を実現していく闘いとして前進させる必要がある。
 

 

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