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 ■「地球温暖化対策基本法案」批判

  「環境技術開発」は日帝資本の利潤追求




 政府は今年の通常国会に地球温暖化対策基本法案を提出するが、そこにキャップアンドトレード方式(*)による排出量取引制度や地球温暖化対策税(環境税)の導入を盛り込む方針を示している(1)。これに対し日本経団連は京都議定書の第一約束期間におけるこれらの導入に反対する意見を表明している(2)。さらにこの意見では一九九〇年比マイナス6%を定めた京都議定書での日本の温室効果ガス排出目標に対して「(政府の)目標達成計画に定められた政策により十分に達成可能と思われる」とまで述べている。何を根拠にしているのか全く不明であるが、実際には削減どころか逆に二〇〇七年度で8・7%の増加になっており、京都メカニズムを組み合わせても目標達成が厳しいことを一顧だにしない実に無責任な見解である。
 このように日本経団連は一貫して排出量取引や環境税に消極的あるいは反対の姿勢を示している。その理由として産業界でのCO2排出削減が順調に進んでいることを主張するのだが、ここではそうした根拠の問題点に少し触れてみたい。
 日本経団連は自ら策定した「環境自主行動計画」に対する達成状況を毎年公表している。昨年十一月に出された最新のフォローアップ結果(3)では、二〇〇八年時点で産業部門のCO2排出量が一九九〇年比で13%減少している一方で、家庭部門・業務部門がそれぞれ34・7%、41・3%も大幅に増加、運輸部門もピークを越えたものの9%増加していることを示すグラフが掲載されている。

 これを根拠として、産業界が革新的技術をもった温暖化対策のトップランナーとして民生や運輸など他部門の排出削減を牽引する役割であると自任しているのである。
 そのグラフには出典として「環境省資料」としか記されていないが、これはフォローアップ結果の直前に国立環境研究所が発表した速報値(4)のデータと完全に一致しておりここからの引用であるとみて間違いないと思われる。ここで注意すべきは「間接排出量」のデータを引用したことである。これは発電所等のエネルギー転換部門から産業部門や民生部門など他の部門に電気・熱が供給されていることを踏まえて、エネルギー転換分野の排出量のうちこうした他部門向けのエネルギー生産に関わる分をそれぞれの部門に配分し直したものである。つまり各部門がそれ自身の活動によって直接排出した量(直接排出量)に対して、間接排出量は電力事業者に発電させることで間接的に排出した量も含んだトータルの排出量ということができる。そのため再配分前の排出量である「直接排出量」との間には大きな差異が生じるので、議論の際はどちらの排出量なのか確認が必要である。
 さて間接排出量で見たときに家庭部門・業務部門の排出量の増加が顕著だと日本経団連は主張しているわけであるが、シェアでみるとそれぞれ14・1%、19・1%である。対して産業部門は34・5%を占め、依然として他の部門に抜きんでて最大である。しかしフォローアップ結果にはこうした肝心な点への言及が欠落しているのである。総排出量を削減する上で現状の排出量や削減可能な排出量の大きな部門こそ重点的な対策が必要なのは自明のことであり、その点を無視して排出量の相対的に小さな部門に注意を向けさせようとするかのような日本経団連の議論は責任逃れであり、ある種の誤魔化しとすら言えるかもしれない。しかも一九九〇年比で13%減少したというのも、うち10%は前年度から一年間での減少分であって、これは紛れもなく金融危機による急激な生産縮小に起因するものである。GDP増加に関わらず排出量増加を抑えた点を考慮したとしても、排出削減への技術力を自画自賛できるような状況では未だないのである。
 またこの間接排出量という指標は、末端の消費活動が全排出量に及ぼす影響を把握するのに適していることもあって日本では多く用いられるようであるが、短所もあるので要注意である。例を挙げて説明する。もし何らかの原因で発電の直接排出量が増加すると、その相当分が家庭の間接排出量としてカウントされるため、たとえ消費電力量が変わらなくても排出量が増加することが計算上起きうるのである。実際、国環研の二〇〇八年度速報値によるとエネルギー転換分野の排出量は再配分前の直接排出量で4・12億トンであるが間接排出量では0・78億トンと3・38億トンも少ない。一方、家庭部門と業務部門の直接排出量は0・59億トン、0・95億トンにすぎないが間接排出量では1・72億トン、2・32億トンと合計2・5億トンもはね上がり、間接排出量の実に六割以上が発電所のからの転移であることを表している。こうした状況の下で例えば石炭火力発電の割合が増えるなどして発電量当たりの直接排出量が増加すれば、直接排出量ベースではもともと少ない家庭部門の間接排出量をそのまま押し上げてしまうという仕組みなのである。このように間接排出量を用いた評価は発電事業の環境負荷を見えにくくする弊害がある。しかも直感的に理解しにくい間接排出量を十分な説明なしに用いれば、少なくない人が直接排出量と誤解し、発電事業の実際の排出量が少ないとの誤解を与える恐れがあり、ひいては発電業界への監視を鈍らせることにもつながる。今回取り上げたフォローアップにおいても排出量の種類についての説明はなく、先述のグラフのキャプションに「電気・熱分配後」との注記があるのみであった。こうしたレポートが誤った印象操作に使われることのないよう注意が必要である。
 ここまで見てきたように、産業界は温暖化対策で先頭に立っているとする日本経団連の主張は、家庭部門や業務部門の排出量増加の指摘には部分的に正しい点があるとしても、恣意的なデータの提示によって自分たちに都合よく世論をミスリードしようとするものであり、受け容れられるものではない。先日のCOP15での合意に基づき一月末に参加各国が削減目標値を提出したが、モルディブのように排出量削減義務を課されていない国が自らの国の存亡を賭けて排出量実質ゼロを掲げるなど先進的な動きが出てきている。その中で日本経団連をはじめ日本の資本家は政府が25%削減など突出した目標を掲げることにただ困惑し、キャップアンドトレードや環境税による負担増を何とか逃れようと腐心している。このような彼らが「温暖化技術で先頭に立つ」と言うとき、それは環境技術分野での世界支配を通じた競争力の確保を意味するのであって、温室効果ガスの総排出量のコントロールに真剣に取り組むことは期待できないと見るべきだろう。継続的かつ大衆的な監視と批判が求められている。
 またこうした動きと連動して、温暖化を示すデータの信頼性や温室効果ガス濃度の増加と実際の温暖化との因果関係の不確実性を問題化して、温暖化防止への取り組みそのものを否定し無力化していこうとする言説も一定の力をもっている。確かに、温暖化への傾向が確定的で破壊的な影響をもたらすものなのかは今後も議論と検証の余地がありそうではある。しかし確実に言えることは、産業革命以降の温室効果ガスの排出はそれまでどの時代にも無かったほど大量で継続的だということだ。これがどのような結果をもたらすのか、座して見守るのではなく可能な限り手を打つことが求められている。資本家たちが謳うような技術開発だけでは排出量削減はまず不可能に近い。利潤のための制御不能な資本主義的生産様式を変革し、それを通じて浪費を強制されるような生活様式を変えていくことが重要である。

(*)キャップアンドトレード方式:温室効果ガス排出量取引の方法の一つ。政府が定めた総排出量に基づいて規制対象分野の各企業に排出枠(キャップ)が設定される。実際の排出量がキャップを下回った企業は剰余分を排出権として売却できる。他方、キャップを上回る企業は超過分の排出権の購入が求められる。つまり排出権に市場価値をつけることで排出削減へのインセンティブを高めようとするものである。排出削減・排出権売却か排出権購入かを選択できるので各企業の実情に応じた対策を可能としつつ、総排出量の確実な削減を担保できる点でメリットがあるとされる。しかし、キャップが各企業の利害に直結するため設定を巡った紛糾が尽きず、二〇〇五年に制度導入したEUでは企業がEUを提訴する事態に至っている。またキャップ設定を厳しくするにつれて排出量の大きな産業による排出権の買い占め等が予想される。そうなると本来の目的である総排出量の削減が進まず、制度の破綻につながる恐れもある。

 (1)環境省「小沢環境大臣からのメッセージ(地球温暖化対策の基本法の制定に向けたメッセージ)」
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/act_gwc/pc0912.html
 (2)日本経団連 「『地球温暖化対策の基本法の制定に向けたメッセージ』に対する意見」
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/117.html
 (3)日本経団連 環境自主行動計画〈温暖化対策編〉二〇〇九年度フォローアップ結果概要版
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/101/index.html
 (4)国立環境研究所 日本の温室効果ガス排出量データ(一九九〇〜二〇〇八年度速報値)
http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html

 

 

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