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  ■「新成長戦略」に展望託す菅政権

  闘うアジア人民と連帯し「東アジア共同体構想」を打ち砕こう




 ●一、APECと「成長戦略」

 十一月横浜APEC首脳会議がまもなく開催されようとしている。各国はエネルギー担当相会合(六月)、成長戦略閣僚級会合(八月)、観光相会合、実務者会合(九月)など課題ごとの担当相会合を相次いで開催し、横浜APECの主要な議題である地域経済統合、成長戦略の実行など首脳会議で打ち出す「横浜目標」合意への準備会合を続けている。
 昨年開催されたシンガポールAPECは、アメリカに端を発した世界的な経済危機への対応として「成長戦略」が最大のテーマであった。「あまねく広がる成長」(Inclusive Growth)や、気候変動やエネルギーを含む環境などで「持続可能な成長」(Sustainable Growth)の重要性について確認し、さらにアジア太平洋地域の連繋強化に関してWTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結、地域経済統合などの議論が行われた。これをうけて横浜APECでは「より内需を拡大し、均衡のとれた成長を達成するための、より包括的な成長戦略」などの具体的内容について、「横浜目標」を策定しようとしている。
しかし日米中国などアジア太平洋の経済支配の主導権をめぐる対立が進行している。特に地域経済統合の方向について、APECで「アジア太平洋自由貿易圏」(FTAAP、二〇二〇年までに達成する)構想で合意しているものの、どのような道筋でFTAAP構想を実現していくかについては未知数。米国は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を中心とする枠組み作りを推進している。菅首相はこれへの参加を検討している。中国はASEAN諸国を中心とした枠組み作りを主張している。各国がすでに進めている経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)も含めて、日米中国など諸国間での地域経済統合をめぐる調整は難航が必至だ。
 一方域内の成長戦略分野では、環境分野での需要創出などで「成長戦略が必要という認識」で大筋合意しており、リーマン・ショック以降世界経済の牽引車となった中国・アジア・域内諸国の「持続的な経済成長に向けて」長期的な成長戦略を実行に移す複数年の「戦略実行計画」が策定されようとしている。ただ実現時期や数値目標をめぐって合意できるかは不透明。成長戦略は、日米など帝国主義国経済と密接に結びついており、日米は自国に有利な地域経済統合への足がかりとアジア経済支配のテコにしようとしている。帝国主義国にとって、成長戦略はアジア新興国の持続的な経済成長を取り込むこと抜きにはありえない。


 ●二、菅政権の「成長戦略」

 それでは菅・民主党政権が示す成長戦略とはどんなものだろうか。
「『元気な日本』復活のシナリオ」と題した「新成長戦略」が、本年六月閣議決定された。「強い経済、強い財政、強い社会保障の実現」、「環境・健康・観光などの三分野で新たに百兆円の需要と新規四百八十万人の雇用を生み出す」と明示された。バブル崩壊以降の二十年経済が低迷し、財政赤字が拡大し、社会保障も信頼感が低下した現状から「元気な日本」を復活させるべく、経済の低迷の要因が@公共事業中心の経済政策A行き過ぎた市場原理にもとづく生産性重視の経済政策にあったとして、それにかわる「第三の道」=新たな需要や雇用を創出し、成長産業を育成強化して「強い経済、強い財政、強い社会保障」を一体的に実現するというのだ。二〇〇八年金融危機で顕在化した外需に過度に依存していた日本経済に安定した内需と外需を創造し、産業競争力の強化をはかっていく、と今後の経済政策の基調を示している。
 その具体的内容として、七つの戦略分野、二十一の国家戦略プロジェクト(実行計画)、二〇二〇年度までの数値目標、工程表が明らかにされている。
*七つの戦略分野
@グリーン・イノベーション(技術革新)による環境・エネルギー大国戦略
 温室効果ガス25%の削減の取り組みや太陽光発電など再生可能エネルギー開発、次世代自動車、省エネ・エコ住宅の開発促進など。
Aライフ(医療・介護・健康)・イノベーションによる健康大国戦略
 医薬品・医療・介護技術の開発、サービス産業の参入促進、また外国人医療従事者・患者の受け入れもすすめるなど、成長牽引産業として位置づける。
Bアジア経済戦略
 アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)ロードマップの策定、貿易・投資、農産物などの自由化の推進、水道・新幹線・原発などのインフラ輸出など。
C観光立国・地域活性化戦略
 観光での訪日外国人二千五百万人、ゆくゆくは三千万人へなど。
D科学・技術・情報通信立国戦略
E雇用・人材戦略
F金融戦略
*二十一の国家プロジェクト(七つの戦略分野の施策)
@「固定価格買取制度」の導入等による再生可能エネルギー急拡大
A「環境未来都市」構想
B森林・林業再生プラン
C医療の実用化促進のための医療機関の選定制度等
D国際医療交流(外国人患者の受入れ)
Eパッケージ型インフラ海外展開
F法人税の実効税率引下げとアジア拠点化の推進等
Gグローバル人材の育成と高度人材等の受入れ拡大
H知的財産・標準化戦略とクール・ジャパンの海外展開
Iアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築を通じた経済連携戦略
J「総合特区制度」の創設と徹底したオープンスカイの推進等
K「訪日外国人三千万人プログラム」と「休暇取得の分散化」
など以下略。
※表の挿入
 九月九日菅首相は「新成長戦略実現会議」を開催し、関係閣僚ほか日経連など経営者三団体、連合、大学教授など政財労上げて推進することを宣言した。
 民主党政権と距離を置いていた日経連は「新成長戦略」を評価・歓迎する立場から早期・着実な実行を求めている。そして法人税について見直しをもとめている。さらに規制緩和やEPAやFTA など貿易・投資の自由化の推進を要求し、「経済界として成長戦略全体の担い手としての役割を遂行する」意思を表明している。
 民主党を支える連合も「経済・財政・社会保障の立て直しを計るために策定された」として「新成長戦略」を高く評価した(六月談話)。特に二〇一〇年夏季円高・ドル安の新たな経済情勢の中で「地域の雇用・活性化策の早期実行」を求めている。また「政府・連合トップ会談、定期協議など政府との政策協議や雇用戦略対話を通じて、連合の考え方の多くが新成長戦略に盛り込まれた」と歓迎している。


 ●三、新自由主義を促進する「新成長戦略」

 「新成長戦略」を貫く基本的な考え方は、二十一世紀新たな需要・雇用・成長産業創出と東アジア共同体構想にむけ、諸外国との争闘戦に生き残りをかけた企業の新自由主義的経済活動を徹底的に容認し労働者人民へのさらなる搾取と隷属を強いていくことである。
日本経済はここ二十年長期大不況にあり、二〇〇八年世界経済危機の影響のただなかにある。中国などアジア新興国の経済成長が進む一方で、国内産業の空洞化、労働市場の流動化、倒産解雇、格差の拡大、デフレの長期化、少子高齢化など社会経済構造の変化がすすみ、国内経済の縮小が進んでいる。現在政府ブルジョアジーは新たな成長産業の創出とアジア・新興国市場でのもう一段の参入・取り込みに死活をかけている。
 企業優先・経済成長実現を最優先にすすめる「新成長戦略」=菅政権と対決していかなければならない。
 その内容の第一は、菅首相が重視している雇用問題について、「環境や健康、観光など四百八十万人の雇用が創出できる」としているが、それらの分野に参入する企業の育成や強化は語ってもそこで働く労働者の地位確立など一切述べていない。不安定労働者、非正規労働者の雇用に道をひらいている。菅首相は非正規職を正規職雇用に転換した企業に法人税減税などの優遇措置検討を指示したというが、派遣法の抜本改正や罰則規定など制度的法的整備を欠いた雇用創出は、企業の派遣切りの再来への道である。
 第二に、グリーンやライフ、アジア戦略の分野などにおいて新規サービス産業の参入など積極的に進めていくという点だ。最も成長が見込める産業であるという医療・介護・健康分野で制度やルールの変更を行っていくとしており、利益優先のビジネスをさらに拡大していくのは明らかだ。
 第三に、アジア戦略分野において「あらゆる経済活動の障壁を取り除き、より積極的に貿易・投資を自由化・円滑化し、アジアに切れ目のない市場を作り出す。二〇二〇 年を目標にアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構築のためのロードマップ」と「二〇一〇年秋までにアジア諸国との包括的経済連携に関する基本方針」を策定するとしている。アジア人民への搾取・収奪を強めるということだ。断じて許してはならない。
 この分野では新幹線・都市交通・水道・原発などインフラ輸出をパッケージで官民上げて取り組むという。原発ではベトナム・マレーシア・インド・カザフスタンなどへの輸出を目指し、新幹線などの売り込みに必死だ。政府は外務省内にインフラ海外展開推進本部を設置した。総合商社も独自のインフラ輸出を進めている。米欧(英・仏・独など)の諸国もこぞってインフラ輸出攻勢を強め競争が激化している。
 また経済連携協定(EPA―貿易の自由化は幅が広く、モノだけでなく投資やサービス、さらには「人」の国境を越えた経済活動なども対象とする)について日本は四月現在十一カ国(シンガポール・インドネシア・フィリピンなどASEAN諸国など。また最近インドとも大筋合意)と締結し、五カ国(韓国など)と交渉中。EPAによるインドネシア・フィリピンからの看護師が来日中だ。
 自由貿易協定(FTA)では、日本は中国・韓国とはこう着状態のまま、米国が農産物の自由化を求める日米FTAも交渉中である。中国はWTO加盟以降ASEAN諸国などとFTAを締結し関係強化している。韓国も米国・欧州連合(EU)と来年発効予定で、日本は出遅れを指摘されているという。
 第四に、アジア戦略分野において日本企業の国際競争力強化のためと称し法人税引き下げを明示している。菅首相は来年度結論を出すとしているが、諸外国に比し、法人税が高いというのは真っ赤なウソである。二〇〇八年金融危機の前まで自動車産業など大企業は莫大な利益を上げたにもかかわらず労働者には低賃金を据え置いたまま内部留保を積みましてきた。法人税減税とひきかえに、消費税増税を労働者人民に強制しようとしている。
 第五に「新成長戦略」は、「公共事業中心主義、行き過ぎた市場原理主義」であったこれまでの経済政策からの転換でもなんでもない。税収が落ち込み、財政赤字が巨大になり国も地方もこれまでように公共事業に投資ができないにすぎない。小泉政権以降本格化した構造改革による労働市場の流動化政策など規制緩和の路線はあらたまっていない。むしろ貿易・投資やヒト・モノ・サービスなどこれまで以上に資本の国境をこえた活動、自由化を促進するのが「新成長戦略」だ。
 総じて「新成長戦略」なるもののいかがわしさ、かつて自民党政権が打ち出した経済政策をひきついだその焼き直しであることは明らかである。アジア人民との国際的団結で帝国主義国・新興国の労働者人民に犠牲を強いる攻撃をうちくだこう。十一月横浜APEC粉砕へ前進しよう。

 

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