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   いまこそ米軍再編計画の中断―廃止をかかげ、
           「日米同盟深化」を打ち砕こう!

  


 はじめに

 自らの政権に「消費期限」を設定して内閣不信任案に対応した菅政権。だがそれは求心力の無化と政権内外にわたる亀裂と対立をますます増幅するものでしかない。影響は政権内外にとどまらない。現政権が安保・外交政策の基軸とする「日米同盟深化」路線それ自体の動揺と危機もまた避けられない。
 「三・一一」東日本大震災と福島第一原発崩壊事態がなお続き、これへの対応に全力を投入すべき時であることは明らかだ。にもかかわらず政府においても議会においても、無力性と無責任性をさらけ出しているいま、労働者民衆は怒りを解き放つべき時だ。「生存」「人権」「労働」の権利とたたかい、そしてこれらを包含する「平和」創造の問題について、労働者人民自身が声をあげたたかうことが今ほど痛切に求められているときはない。
 「日米同盟深化」の基軸をなす米軍再編計画の中断と完全廃止へ向けたたたかいをいまこそ強力に推し進めようではないか。


 ●1章 「日米同盟」の現在

 いま、「日米同盟」とはどのような状況なのか?すでに九〇年代以降「日米安保条約・体制」に対する評価として「漂流する同盟」「劣化する同盟」などの用語で語られてきたところであった。無論これらは「日米同盟強化」の必要性・重要性をクローズアップさせてゆくための論議として支配層から語られてきたものである。労働者人民の側からすれば「漂流・劣化」大いに結構、次には廃棄、消滅をこそ求めるということなのであるが。そして、〇九年の政権交代以降民主党政権下で語られてきたのは「日米同盟深化」ということであり、「緊密で対等な日米関係」ということが「深化」の内容をあらわすものであった。だがしかし、のちに述べるが鳩山政権が掲げたその内容、とりわけ「対等」という点は、米側のみならず日本の外務・防衛官僚どもからさえまともに検討されたこともなく「深化」の用語だけが菅政権に引き継がれたのでもあった。長きにわたって継続する「日米同盟」の動揺は今に至っても、「停滞」とか「立て直しが必要」などの評価や見解が支配層から語られ続けているところだ。しかしその「立て直し」や「停滞からの脱出」は外交的努力の積み重ねとか、互いのエール交換などで修復されるものでもあるまい。

 ▼1章―① 経済的基盤の縮小

 何よりもこの「同盟」を支える経済的基盤そのものが、日本、米国の双方で瓦解的状況にある。もとより、〇八年リーマンショック以来の世界恐慌情勢の継続という中で日米双方とも巨額の財政出動を必然化させたのであった。同時にそれは拡大してきた財政赤字を削減してゆくことが至上命題とされていた中での政策でもあった。それぞれ巨額の財政出動を行いながらも、経済危機を免れて成長軌道に回帰することは、だがしかし遠い夢でもある。巨額財政赤字はそのままそれぞれの経済全体にはね返る以外にないのである。
 米政府は財政赤字の削減策を最優先課題とした。それは軍事費の分野にも当然及ぶ。肥大化したイラク・アフガン戦費の縮小を筆頭に、F22ステルス戦闘機など最新兵器開発配備の中止などが打ち出され、さらに米軍海外駐留体制の縮小的見直しなど「日米同盟」に直接関連する分野にも及びつつある。「米国にとって最大の脅威は財政赤字だ」と国防長官ゲーツが明言する中での軍事費削減策なのである。今後約十年にわたって四千億ドル(約三十二兆円)の軍事費削減計画というからすさまじい。
 これに対比するなら日本政府の軍事費は、少々の減とはいっても本年度予算において四兆六千億円規模で貼り付けられたままである。日本においては「防衛費」は据え置きであり「聖域」だということは変わらない。
 しかし「三・一一」を前にしては日本の軍事費とりわけ「日米同盟」の維持や「深化」に向けた費用など真っ先に削減すべきなのである。それを労働者民衆が日本政府に強制することがなければ、「同盟国の応分負担」という形で増加も含めて米側から逆に要求されることも明らかなことである。

 ▼1章―②人的基盤の瓦解

 「日米同盟」を人的に支えてきたスタッフも変化している。米国防総省においては、従来、日米関係を含むアジア太平洋の安全保障問題を担当してきたグレッグソン国防次官補はすでに職を去った。そもそもブッシュ政権時代から同省長官として米軍再編『日米ロードマップ』の策定と推進を行ってきたゲーツ自身、この七月に退職することとなる。
 かたや米国務省においてはどうか。アジア問題を担当してきたスタインバーグ国務副長官はすでに辞任した。クリントン長官の下で「日米同盟」および「米軍再編計画進展」を中心的に推進してきたキャンベル国務次官補についても、国防総省への転出の話もある。そして、例の「沖縄の人はごまかしとゆすりの名人」なる暴言を吐いたメア日本部長は職を辞した。
 詳論するゆとりはないが、まさに日米関係を含むアジア外交・安保政策を策定実行してきたスタッフの大変動がオバマ政権の下で来年の大統領選挙をにらんで始まっているのである。そのことがアジア地域における米安保・外交方針の変化を意味する可能性をも孕んでいるということも指摘しておこう。
 日本においては、外相人事の変動はありつつも防衛・外務の官僚が自民党政権時代から引き続き「日米同盟」の維持と展開をおこなっているところではある。日本政府の日米関係について、ひいてはアジア地域での外交路線・方針については、人材的基盤のそもそもの不在ということとからめて見ておく必要もある。「日米安保の歴史は、日本の外交無策の歴史でもある」というようなことが語られて久しいが、これは今に至るも事実である。

 ▼1章―③沖縄をはじめとした労働者階級人民の闘い

 これらの事実が示すのは、「日米同盟」自身が「ゆるぎない」とか「基軸である」などの日米政府当局者双方から出されるたびたびの言明にもかかわらず、その政治的・経済的基盤そのものが大きく揺らいでいるということである。そしてまた、米帝―オバマの来年大統領選、日帝―菅政権の「消費期限切れ」とその後の政権に安定など望むべくもないという点からしてもその不安定性は増大してゆく以外にない。
 だがそれらは、日・米政権内部やその置かれている客観的政治・経済的環境の問題でしかない。決定的に重視しなくてはならないことは、そのような政治経済的環境を「日米同盟」の動揺と不安定化へと強制し転化させていることの根底には沖縄民衆を先頭にしたあくなき米軍基地とのたたかい、日米安保反対のたたかいが厳としてあり続け、ますます発展しているということだ。この労働者階級人民のたたかいという点をあえて無視・軽視するがゆえに、あたかも日米支配層が互いに「立て直し」などを語ればそれが実現するかのような幻想をいまだ語っているのである。
これが真の意味で幻想でしかないことを日米支配層をして理解せしめなくてはならない。


 ●2章 「日米同盟深化」の内実と先行き

 ▼2章―①「強い日本であれ」は米帝の利益追求


 現実がそのような「日米同盟」なのであれば、それを「深化」させる方向とはどのようなものか?そのようなことを語りうる現実なのかという点に論を進めよう。
 五月二十六日、フランス・ドービルサミット時の日米首脳会談でオバマは菅に対して「強い日本であることが重要だ」と述べた。この言辞の意味はこれに先立つ米政権関係者らの「日本が世界で指導力を発揮することが米国の利益となる」(元国務副次官補シュライバー)、「太平洋地域で米国が何かをしようとすれば、同盟国の日本抜きに何も進まない」(対日政策アドバイザーのマイケル・グリーン)などの言辞から明らかだ。米国のアジア太平洋地域における「国益」の増進の上で日本は重要だということである。だからこそ「三・一一」を受けて日本政府の「内向き化」を懸念するオバマは先のように語ったのである。これをお人よしにも「励まし」などと評価することは到底できない。このような米政府を相手に「深化」させてゆく「日米同盟」とは何なのかという問題がここに端的に示されている。

 ▼2章―②「トモダチ作戦」の本質

 その文脈は「三・一一」以後、米軍が大々的に演じてみせた「トモダチ作戦」にも通底する。米政府は震災直後から艦船二十隻、航空機百六十機を投入した大規模な作戦行動を展開した。そして、これを十万人動員体制を敷いた自衛隊との共同作戦行動として行ったのでもあった。その直前に例のメア暴言の暴露によって沖縄における米軍再編計画が大頓挫するほどの事態が生起したゆえに、これの挽回という問題もある。また、一時横須賀の米艦船が空っぽとなり、修理途中であった原子力空母G・ワシントンの洋上漂流などの問題も、福島第一原発事態に対する日本政府・東電の対処への不信と疑惑と関連付けて事実関係が明らかにされつつあるところだ。関東圏をはじめ米兵家族らの帰国も相次いだ。その数七千八百名に及んだ。横田基地から米政府チャーター便による脱出である。さらに、佐世保へ米核空母G・ワシントン、リンカーンが相次いで入港したり、第七艦隊主力が寄港するなど本拠を一時佐世保に移動させたとも評価される現象も生起した。
 このような「トモダチ作戦」の内容を示す諸事実が明らかにされているが、この作戦の本質とは「朝鮮半島有事」を想定した日米共同作戦計画の実地訓練であるということだ。特筆するべきこととして、日米新ガイドラインにおいて合意された、「日米調整メカニズム」が実際の部隊展開をともなう形で設置され機能したのである。すなわち日米共同指揮所の設置と運用である。
 「検証・大震災:自衛隊員十万人、史上最大の作戦」(『毎日新聞』四月二十二日付)は「震災救援を目的に約一万六千人を投入した米軍の『トモダチ作戦』。かつてない規模の展開は自衛隊・米軍の統合運用と民間空港・港湾の米軍使用に踏み込んだ。実態は『有事対応シミュレーション』といえた」。「有事の際に想定している自衛隊と米軍の活動を調整する『日米共同調整所』が現地の仙台市・陸自仙台駐屯地、防衛省、東京・横田基地の在日米軍司令部の三カ所に設置されたのも異例の措置……外務省幹部は『オペレーションの性質は違うが、民間施設利用や上陸など実態的には朝鮮半島有事を想定した訓練ともなった』と指摘する」などと伝えている。戦時輸送拠点としての岩国基地ということも「トモダチ作戦」では明らかになった。
 「アジア太平洋の『礎石』と位置付ける日本を支えることで同地域での指導力を維持する――。『トモダチ』は、米国の国益をかけた作戦でもあった」とこの記事は結んでいるが、実に秀逸な検証報道であるといわなくてはならない。
 自衛隊十万人体制も含め米軍の災害救援活動に関しては、今後も検証報道を期待するが、すでに「命令にのみ従って活動する軍隊の救援活動は災害時には効率が良くない。米軍の貢献度がどこまで大きかったかは疑問」と指摘するジャーナリストの発言もある。

 ▼2章―③「日米同盟深化」をめぐる非対称と齟齬

 「対等な日米関係」「今後五十年継続する日米関係」などとして鳩山政権初期に打ち出されたのが「日米同盟深化」という意味付けであった。すなわち、自民党政権下での日米関係が「米国のいいなり」「追随」であり「対米一辺倒である」ところから脱却した日米関係を創造してゆきたいという願望を表明したのである。これに大いに期待を寄せた人民もまた多数をなしたのでもあった。
 だがそれは昨年の「五・二八普天間日米合意」によって無残にも打ち砕かれたのでもあった。にもかかわらず「日米同盟の深化」の用語は菅政権においても維持されている。では「日米同盟の深化」とはいったいなんなのかということが問われなくてはならないのは必然である。この点を、「日米同盟深化」という論点とのかかわりで見ておこう。

 ▼2章―④鳩山の自白とメア暴言

 「最低でも県外」と普天間移設問題を公約としながら、昨年五月二十八日の「普天間日米合意」をもって旧来の辺野古新基地案に回帰し辞任した鳩山元首相の「(沖縄海兵隊の)抑止力は方便」自白。当然にも沖縄人民は即座に弾劾しつつ、辺野古新基地計画阻止の意思をいっそう強めたのであった。「本土」の労働者民衆にしても同様である。ここで見ておきたいのは、この発言が鳩山の政治的資質の問題とか、あるいは「抑止力」というものがペテンでしかないことの確認にとどまるものではないという点である。日米同盟関係のあり方、その「深化」ということにかかわって、きわめて本質的な内容も開陳されているのである。
 「本当は私と一緒に移設問題を考えるべき防衛省、外務省が、実は米国との間のベース(県内移設)を大事にしたかった」「自民党(政権)時代に相当苦労して(県内移設という)一つの答えを出して、これ以上はないという思いがあり、徐々にそういう方向に持っていこうという意思が働いていた」「防衛省も外務省も沖縄の米軍基地に対する存在の当然視があり、数十年の彼らの発想の中で、かなり凝り固まっている。動かそうとしたが、元に舞い戻ってしまう」などの発言である。
 ここで示されているのは、鳩山自身が描いた「対等な日米関係」ということが外務・防衛官僚および、たちどころに取り込まれた北澤・岡田らの閣僚の手によって潰されたことの暴露にあることは明らかである。
 それでは、鳩山いうところの「沖縄の米軍基地に対する存在の当然視があり、数十年の彼らの発想の中で、かなり凝り固まっている」とされる「日米同盟」観とは何か?
 「沖縄差別暴言だ」としてただちに徹底批判の渦を沖縄に巻き起こしたメアの暴言記録(アメリカン大学生らへの講義録)からその点を拾っておこう。なお、メアはこの暴言を吐いた時点は国務省日本部長(当時)の肩書であるが、その前は沖縄総領事、そしてその前は駐日米大使館の安保担当責任者として米軍再編『日米ロードマップ』の策定を中心的に行った人物の一人でもある。
 「日米安全保障条約に基づく日米関係は非対称で、日本は米国の犠牲によって利益を得る。米国が攻撃されても日本は米国を守る責務はないが、米国は日本を守らなければならず、日本の人々と財産を保護する」、これがメアの日米同盟認識の基本である。そのうえで「米国が沖縄に基地を必要とする理由は二つある。既にそこに基地があることと、沖縄は地理的に重要な位置にあることだ」「沖縄の地理的状況は、地域の安全保障に重要」と展開している。容易に見てとれるのは、駐日大使館安保担当責任者として米軍再編計画の立案を行ったメアの脳裏には、沖縄の「負担軽減」という発想などみじんもないということなのだが、ここでは、メアの言う「地域」とは、「日本(沖縄を含む)」ではなく、アジア太平洋地域を指すことは明らかであるという点に着目しておこう。そして「米国は国益を増進するために日本の土地を使う」「米国は日本で非常に得な取り引きをしている」とこの講義を結んでいる。
 メアのいう「日米関係は非対称」という点は、在日在沖米軍存在を核心とする日米安保条約の条文解釈のことである。それからすれば米国の犠牲の上に日本が利益を得るとする。ところが、「アジア太平洋地域」に舞台を移しそこでの「米国国益増進」を媒介にすれば「米国は日本との間で得な取り引きをしている」となってしまう。メアが意図的に述べていないのは「すでに強大化した自衛隊があるので日本の防衛は自力でやるべし。そして世界的な米軍展開とともに日本の自衛隊が活動することを望む」とする、旧ガイドライン以降積み重ねられた日米安保の実質的改変およびこれを定式化した九六年「日米安保共同宣言」という点だ。メアの日米同盟観とは、条約上の「非対称性」の実質としての米軍存在をベースとしつつ、「地域の枠組み拡大」とそこでの「米国益増進」および「自衛隊の役割拡大」をセットにすれば、「非対称」は「日本との間での得な取り引き」を生み出す「打ち出の小槌」となるというところに本質がある。そしてそれはオバマに至る米歴代政権においても共通した認識であるだろう。
 鳩山の嘆く「凝り固まっている日米同盟」観の内実とはこのようなものなのである。米側が大前提とし改変不要としている「非対称」な関係を、「非対等」というような脈絡でとらえつつ、「対等であること」を追求課題として日米関係を方向づけようとしたことがその失敗の根拠なのであった。その意味では、日米安保と米軍駐留は不可分のセットとされているのであり、「駐留なき安保」による「対等性」獲得ということはやはり夢想なのであった。日米安保条約破棄と米軍存在の否定が一体として進められる以外にその「非対称」を砕くことはできないのである。
 だがしかしそのような「非対称性」を維持しうる根拠そのものが、米側の財政難を原因とする外国駐留米軍体制見直しや、日本政府の直面する巨大な財政難の問題、米側のアジア太平洋地域での「国益」増進のためのパートナーの再設定や拡張の可能性などの理由から動揺している。そして決定的には「日米同盟深化」の基軸的課題とされてきた在日・在沖米軍再編そのものが、沖縄人民を先頭にした労働者階級人民のたたかいによって暗礁に乗り上げている点に特に留意しなくてはならない。


 ●3章 米軍再編の中断―中止へ向けて闘おう

 このような中で日米外交防衛閣僚による安全保障協議会=「日米2プラス2」は六月二十一日に開催される。
 だが、それ自体の意義とはどこにあるのか、またこれを踏まえて行われてこそ意義のある「日米首脳会談」は果たしてありうるのか?ドービルでやっとなされた日米首脳会談九月上旬開催合意はまたもや流動化している。

 ▼3章―①「日米2プラス2」では何が議論されるのか

 「日米2プラス2」協議の議題について見ておこう。
 その第一は、普天間基地の辺野古移設方針の再確認と新基地の形状や工法についての詰めを合意するという点である。つまり、〇六年米軍再編『日米ロードマップ』合意時の「Ⅴ字型二本滑走路」案を再確認するということだ。これこそがほとんど唯一の協議議題であったといっても過言ではなかったところである。だがそれは日米政府そして沖縄をはじめとした労働者階級人民のたたかいという三者の関係の中で意味合いを変えている。それは議題の第二に、辺野古新基地計画を再確認しつつも「二〇一四年完了」という期限を先延ばしすることを合意するということが端的にあらわしている。この点は決定的に重要である。沖縄民衆のたたかいによって辺野古新基地計画の進展が絶望的ということを日米双方が確認しつつ、ゆえに普天間基地の継続使用を確認することでもあるのだろう。しかも、この普天間基地継続ということに対する基地周辺住民への圧力という意味合いも込めながら、二〇一二年からの「MV22オスプレイ普天間配備」ということも「事実上の議題」として協議されようとしている。というのは「基地運用上の問題(単なる装備・機種変更問題)」としておくことが双方にとって都合がよいからである。責任逃れである。そしてまた、この点は公然化するか否かは不明だが、グァムへの沖縄海兵隊移転に伴う部隊変更とともにその日本側費用負担増額ということも議論されようとしている。
 さらに先の「新防衛計画大綱」で盛り込まれた「武器輸出三原則緩和」という点にかかわって、日米共同開発の次世代海上配備迎撃ミサイルの米国経由の第三国への輸出ということも議題とされるとのことである。米軍需産業はもとより日本の軍需産業もまたもろ手を挙げて推進を政府に迫るという図式は容易に想像できる。最大議題と目されてきた辺野古新基地計画詳細の確認が後景化し、代えるにさまざまな「日米同盟深化」のための諸議題がてんこ盛り化しているという感がぬぐえない。

 ▼3章―②中断―中止は正当な要求

 こうして、日米首脳会談自体は不明であるにしても、しゃにむに「日米2プラス2」協議だけは開催されることとなるのだが、これには日米双方の思惑がある。米側のそれは、普天間問題の進展の展望を喪失していることや、新設も含めたグァム基地の強大化などの計画がグァム住民の反対と予算計画のそもそもの杜撰さなどのゆえに進展が見込めないということがある。米来年度予算案策定作業の本格化(米会計年度は九月が起点)に対して、「2プラス2」合意という条件を絶対的に必要とするという理由である。日本側の思惑とは、とにもかくにも「日米同盟深化」の基軸的課題としてきた米軍再編計画を維持してゆくことを確認・再確認して見せるということが重要だとしているわけである。それなくしては、日本側としても来年度予算の策定においても大きな支障をきたすことになるがゆえでもある。たとえその実現性が大きく遠のいたにしても「シンボル」として米軍再編計画の維持ということが至上命題化しているというようにも言いうる。まして、あとで述べるように、米議会内や政権内外においてさえ、米軍再編計画の見直し論議がもはや提出されているところなのである。
 しかしである。米軍再編計画の維持を日米当局者同士が確認すること自体に対して、いまこそ労働者人民はその中断ということを大きく突き出してゆくべき時である。
 この「再編計画の中断」ということは、いまとりわけ正義性と正当性をもつものでもある。
 何よりも第一に、「三・一一」を受け、いまだ被害からの復旧も大半が手つかずという状況であり、避難所生活を余儀なくされている被災者も十万の水準であるというのが実情である。被害の全体像がいまだ見えず、その復旧のための費用総額さえ数十兆円規模と見積もられているに過ぎない。国家予算としても全力で被災地支援と復旧に充てるべき時である。「一円たりとも米軍存在などのために使う金などない」というのが当然ではないか。米軍再編計画を維持することは、日本の財政投入を必然化する行為なのであり、これを少なくとも中断すべきだというのは、防衛費全体の徹底した見直しということも含め道義にもかなう正当な要求なのである。

 ▼3章―③イノウエ発言と費用問題

 その点にかかわって、ダニエル・イノウエ米上院予算委員長の来日と発言について見ておこう。このイノウエ議員の来日は、それに先立って相次いで表沙汰となった辺野古新基地計画不可能論を打ち消すためのものである。
 五月八日、元海兵隊総司令にして昨年十一月までオバマ大統領の下で安保担当補佐官をつとめたジョーンズの「辺野古新基地の実現性には疑問があり、米政権内で見直しがなされるのでは」という発言が明らかとされた。次いで米上院軍事委員会のレビン委員長やウェッブ議員らの訪沖などを経た米国防長官ゲーツへの提案書が明らかとなった。五月十二日のことである。そこでは辺野古新基地計画は「非現実的で、実行不可能で、費用負担もできない」と断じつつ「嘉手納への統合」などの「見直し」をも提言している。レビンらの提案書は、米政府の財政削減という点を大目的にしたものである。だがそれにとどまらず、米軍再編計画の見直しということが、米軍海兵隊の側から策定されつつあることをも反映したものでもある。その点に関して詳しく紹介する余裕はないが、要するに第三海兵隊司令部は合意通りグァムに移転するとともに、それにとどまることなく在沖海兵隊を再構成してグァム、ハワイ、沖縄などの太平洋地域に司令機能と部隊配備を「分散配備」すべきとするものである。それは、「テロや自然災害対処」と「対中国」の観点から合理的だという理由による。もちろん嘉手納統合案などは、沖縄内移設であり到底認めることなどできないことは明らかだ。
 五月二十五日には、米連邦政府監査院(GAO)によって、グァム移転費用もふくめた在日・在沖米軍再編費用について米国防総省―米軍サイドの見積もりが杜撰であり、そもそも見積もりがいまだなされていない項目も多数あることが指摘されもした。それによれば、少なくとも米軍再編の総額は少なくとも約三百億ドル(約二兆四千億円)にのぼり、米側が負担するとしている費用はグァム移転・整備費百十三億ドル(約九千憶円)(『日米ロードマップ』では四十二億ドルのみ計上し日本側負担を六十一億ドルとした)を含む百三十億ドル超(約一兆円)だという。見積もり未提出の項目も六億目におよび費用がさらにかさむことも必至である。財政赤字削減問題が次期大統領選の争点化必至という中でこの問題は巨大な意味をもつ。
 こうした中で来日したイノウエは、「(レビンらの提案書は)厳しい財政事情の中で日米関係を維持していきたいという考えから出てきたもので、懸念する必要はない。米政府の方針に変わりはない」と北澤防衛相との会談などで明言しこの認識と発言が米国務・国防長官らとも確認した上のものであることを明らかにした。五月三十一日のことである。日本政府は、このダニエル発言に安心し感謝まで伝えたというが、ダニエルは次の発言もしている。「いつまでも米側は待てない」、のみならず、上に述べた形での米側支出増が不可避となる中で、グアム移転経費負担の増額をはじめ米軍再編費用の見直し論議も含めて、「2プラス2」の議題となると。してみれば、総じて米側の真意とは脅しをかけさらにカネを出せと日本側に迫るということが見て取れるのである。ところが、今月二日、米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長自身がこの論議に介入した。「米国が費用と日本の政治状況に留意する必要がある」「ここで現実主義にならなければならない」として、米軍普天間飛行場の辺野古移設現行計画の見直しに柔軟姿勢を示したのである。
 いずれにせよこの過程で明らかになっているのは、米政府・議会において在日・在沖米軍再編計画についての意見対立が明白となり、それぞれが日本側に向けて独自の動きを開始しているということなのである。

 ▼3章―④決定的な「二〇一四年」期限先送り

 さらにとらえておくべきことは、「二〇一四年普天間移設完了、グァムへの海兵隊部隊移駐完了」などの、米軍再編『日米ロードマップ』合意が完全に崩壊したということである。『日米ロードマップ』に記載された二〇一四年という期限は破たんしたのである。ならば、「個別の再編案は統一的なパッケージとなっている」と冒頭に記した『ロードマップ』合意自体が、米軍再編計画実行の根拠たり得ないことは誰が見ても明らかなのである。「米軍再編計画を中断せよ」ということは必然である。来年度予算に、少なくとも米軍再編経費を計上させてはならない。
 そしてまた、その『日米ロードマップ』自体の破たんが日米間で確認されるということは、この日米合意を基礎にしてその上に打ち立てられた法的諸内容もまた崩壊するということである。すなわち、米軍再編計画の着実な進展を図るためとしてなされた「五・三〇閣議決定」そのものが廃止されなくてはならないし、同様に「グァム移転協定」(日米行政協定)もまた廃棄されなくてはならないのは至極当然なのである。

 ▼3章―⑤全人民の要求として

 日本政府の思考停止を越えて米軍再編の中断要求を、全人民の名において高く掲げるべきときだ。すでに述べてきたように、いまは一円たりとも無駄にせず、被災地への救援・支援に財政を集中すべき時だ。こんな折に本年度予算に盛られている完全な「冗費」としての軍事費、とりわけ駐留経費負担や米軍再編進展のための費用支出など絶対に許されない。米軍の基地機能の強化や新設あるいはリニューアルなどに使うことこそ世界の非常識なのである。
 そして、米軍再編計画の中断ということをステップとしながら、この計画そのものの廃止へと進まなくてはならない。米軍再編『日米ロードマップ』自体の破たんを日米政府が糊塗しようとしたところで、いまや米議会・軍および政府内部からも、競い合うかのように見解や議論を日本側に向けて噴出させている。このことは、〇六年の米軍再編『日米ロードマップ』合意を境に「再編計画の進展はもっぱら日本国内問題」としてきた米側の立場と態度を自ら破るものでもある。

 ▼3章―⑥米軍再編計画の中止へ向けて闘おう

 中断要求を掲げつつそれをステップとしながら、沖縄や岩国など米軍再編計画の対象とされる地域住民市民と固く連帯し支援しながら米軍再編計画そのものの廃止へと歩を進めるべき時である。このたたかいは、その勝利へ向けた流れへのターニング・ポイントが形作られているがゆえに決定的に重要でもある。
 第一に、沖縄のたたかいこそがゆるぎない前進局面を相次いで進みつつ、日本政府そして米政府・議会そして軍の大動揺を形成してきた点を確認しておこう。
 辺野古新基地建設阻止のたたかいが全沖縄を「県内移設絶対反対」の一色に染めた。鳩山自白、メア暴言がそのたたかいに一層の拍車をかけた。沖縄においては、「トモダチ作戦」の米軍展開は、騒音増大や基地被害の増大とセットのものであることは目に見える事態である。称賛する意見などない。「それはそれ、だが基地へのたたかいは不変」というのが沖縄民衆の普遍的な意識である。そして普天間の固定化とMV22オスプレイ配備計画に対して、沖縄人民はさらにたたかいを強化しようとしているのである。
 四月には、嘉手納第三次爆音訴訟が提訴された。原告は実に二万二千五十八名。史上空前の大型訴訟となったのだが、ここでは爆音被害への賠償とともに、飛行差し止めも大きな柱である。こうした嘉手納基地に対するたたかいを基盤としながら、レビン上院議員らの「嘉手納統合案」をも許さず打ち砕くたたかいへとつながっているのである。
 沖縄民衆の怒りは、日米地位協定の改定要求としても大きく発展している。本年一月の米軍属による交通死亡事故につき、「公務中」であるから米軍側に第一次裁判権があるとされ、その下で軽微な免停処分判決で決着させられ、日本の検察は不起訴とした事件に対して、沖縄検察審議会は、「不起訴不当」の議決を行った。基地の存在と運用のなかから生み出されるさまざまな住民被害に対するたたかいとともに、日米地位協定そのものの改定を迫るたたかいもまた、沖縄を先頭に進んでいるのだ。
 ヘリパッド新設阻止を掲げた高江でのたたかいも、昨年末以降の工事強行をも許さず継続している。七月から予定されている工事再開は、新たに公然化した「MV22オスプレイ」配備反対のたたかいとともに展開されてゆくことになる。事故をくり返してきたMV22を沖縄に離発着させるなど言語道断である。そして同機の離発着時の爆音と風圧は、現在のヘリをもはるかに超えるものである。
 第二に、とりわけ岩国のたたかいへの注目と支援を徹底的に強化しなくてはならない。高江の問題もそうだが、新基地や新施設を新規用地取得とともに進める計画は、辺野古新基地計画の座礁状況を強制していることがあらわしているように簡単には進められない。そして今日米政府が狙っているのは、辺野古計画の大頓挫の現実を認めながらも、民衆のたたかいで思うように進展していない計画の一つ一つを「できるところからやる」(北澤)として進めてゆくというところに力を傾注し始めているのだ。その意味では、まさに岩 国のたたかいが米軍再編計画全体の流れを左右する位置を持つに至っているのだ。
 「日米2プラス2」の直前となって、厚木艦載機部隊の岩国移駐に伴う艦載機の恒常的離発着訓練施設(FCLP)の場所設定を「鹿児島県馬毛島(まけしま)とする」ことが明らかにされた。岩国市民はたちどころにこれを「目くらまし」と批判した。愛宕山跡地買取予算(昨年度予算)の執行が地域住民・市民のたたかいによって阻止されていることを見据えた政府―防衛省の「アリバイ作り」ということを指摘しているのである。馬毛島問題が進展する保証はもちろんない。鹿児島でも反対運動がただちに始まった。また位置決めが進行すると仮定しても、馬毛島で訓練した艦載機が岩国基地に帰還するのは深夜・早朝ということになり到底許されるものでもないのである。
 岩国のたたかいは、爆音訴訟、愛宕山訴訟、公有水面埋立訴訟の三つを同時に展開しつつ、なおも新たなたたかいを切り開いている。愛宕山跡地への米軍住宅化阻止のたたかいの地平に加え、震災被災者のための住宅用地として跡地を活用せよとする行動がいま展開されている。きわめて理にかない道義に則した要求であり行動である。岩国のたたかいを重視し、今夏から十一月岩国行動の大成功へ向けたたたかいをただちに開始しよう!
 第三に、神奈川におけるたたかい―とりわけ核空母G・ワシントン配備へのたたかいの継続や座間・相模原での日米軍事一体化促進に対するたたかいを重視してゆくことが必要である。また厚木爆音訴訟への支援や、横田での日米ミサイル防衛司令体制の一体化反対のたたかいなどを推進しなくてはならない。
 第二、第三の点は、先に本紙(一三六一号)においても強調されているように、沖縄民衆のたたかいの地平が「本土」における米軍再編計画―基地強化と日米軍事一体化を許さぬたたかいの断固たる発展として引き受けられ波及されなくてはならないという点にかかわって重要な課題である。
 先のメア暴言は「在日米軍は、東京に司令部がある。物流中核の位置にあり、危機が発生した場合、補給と軍の調整ができる。米国の基地として最もロシアに近い三沢基地は冷戦時に重要な基地だった。岩国は韓国からたった三十分だ。その上で沖縄の地理的状況は、地域の安全保障に重要である」という解説とともになされている。沖縄のアジア太平洋地域における軍事的重要性とともに、首都圏における米軍基地の役割と意義、そして岩国基地が朝鮮半島に「たった三十分」と語られていることが示す岩国基地の朝鮮半島へむけた出撃基地としての意味が、このようにあからさまに米政府当局者の視点で語られているのであるなら、いっそう「本土」における米軍基地に対するたたかいを強化していくことは重大な課題なのである。
 紙数は尽きた。米軍再編とのたたかいの具体的な内容展開は別の機会に行わざるを得ないし、アジア米軍総撤収へ向けた、アジア民衆の共同したたたかいの進展という点も同様である。
                     (六月五日記)



 

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