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   米帝の「新たな国防戦略指針」弾劾

   アジア太平洋地域における日・米の利害と軍事戦略

   



 
 米帝―オバマ政権は、新たな軍事戦略の構築に踏み込んでいる。その背景には次の点が指摘できる。
 イラクとアフガニスタンの二つの侵略反革命戦争を強行した米帝は、戦争の泥沼化による巨額の戦費投入によって膨大な財政赤字を抱え、これに追い討ちをかける二〇〇八年リーマンショックを画期とする世界的な金融危機の拡大・深化の中にある。米帝は、世界を支配する中心国としての力量の歴史的後退に直面している。
 一方、中国は高度経済成長を実現しつつ、政治的経済的軍事的に、第二次大戦後米帝が構築してきたこれまでの支配秩序に公然と挑戦を開始している。米中は、国債購入や貿易などの経済関係を強めながらも、アジア太平洋地域における軍事的な主導権をめぐる熾烈な争闘戦も展開している。
 日帝は、このようなアジア太平洋地域における新たな情勢への対応策として、米軍との一体化・動的防衛力の構築を掲げ、中国をにらんだ戦争態勢の強化あるいは米軍の侵略反革命戦争に参戦可能な自衛隊の再編・強化に突き進んでいる。
 以下では、二〇一一年六月にワシントンで開催された日米安全保障協議委員会(以下「2+2」)における合意内容や二〇一二年一月に公表された米帝の「米国の国際的な指導力の維持・二十一世紀の国防における優先順位」と名付けられた「新たな国防戦略指針」(以下では「新国防指針」)、二〇一二年四月二十七日、日米首脳会談直前に公表された在日米軍再編の見直しの中間報告(これによって、普天間基地移設問題と米軍再編が切り離された)などを手がかりに、米帝―オバマ政権のアジア太平洋地域における新たな戦略、急速に進む日米軍事一体化の現状を概観していく。


 ●1章 米帝のアジア太平洋地域における戦略

 はじめに、米帝―オバマ政権が、大統領就任後おこなってきたアジア太平洋地域における軍事体制の強化の動きについて振り返ってみる。資料として、「東アジア戦略概観―(防衛省防衛研究所編)」(以下「概観」と略)から引用をおこなう。
 「オバマ政権は、アジア太平洋地域を米国の安全保障に大きな影響を与える重要な地域として位置づけており、同地域における民主主義と人権尊重の浸透、貿易・投資の拡大、軍事的プレゼンスの維持という政治・経済・軍事的側面における戦略的関与を強化している」。
 「二〇一一年十一月にオーストラリア議会で行われた演説の中で、オバマ大統領自らが、『米国がアジア太平洋地域の秩序の形成に向けて、より大きな、長期的な役割を担う戦略的決定を下した』と述べ、米国の『アジア回帰』路線を改めて明確にした」。
 大統領就任と同時に、住宅金融バブルの崩壊によって米帝を中心にして形成された世界経済を支えてきたドルの還流システムの崩壊と大不況に見舞われたオバマ政権は、経済成長を続ける巨大な市場―アジア太平洋地域への関与・介入を画策していることがわかる。経済侵出、輸出の促進による米国内雇用の回復とアジア太平洋に駐留する米軍を活用し軍事的主導権の維持・拡大をねらっている。ゆえに、巨額の財政赤字による国防費の大幅な削減を強いられながらも、昨年十月インドネシア、日本、韓国を歴訪したパネッタ国防長官は「将来においてもアジア太平洋地域における強力な米軍のプレゼンスを維持しさらに強化するとの決意」を明らかにしている。
 では米帝―オバマ政権は、アジア太平洋地域においてどのような政策・戦略を立てているのか。
 「概観」では、「オバマ政権のアジア太平洋政策の具体的な特徴は、①日本をはじめとする同盟国との関係強化、②東南アジア諸国やインドを含むパートナー国、および中国との関係強化、③東南アジア諸国連合(ASEAN)などの地域的枠組みへの関与・拡大を同時平行的に進めるという、重層的な地域的関与の強化・拡大を追求している点である」、と述べている。
 ①の日本については後で詳しく検討するとして、ここでは韓国とオーストラリアとの関係強化の策動を見てみる。
 韓国との間では、昨年十月下旬にパネッタ国防長官が訪韓し、第四十三回米韓安全保障協議会が開催された。そこでは「米韓両国が二〇〇九年に合意した『米韓同盟のための共同ビジョン』で示された『共通の戦略目標』を追求することを確認すると共に、北朝鮮の核兵器開発や軍事的挑発という脅威に対して、警戒・即応態勢を強化すると同時に合同演習を実施することでその姿勢を示すことが必要であるという点で意見が一致した」。「米韓同盟のための共同ビジョン」では、米韓同盟を共和国にたいする軍事同盟から、東アジアさらにはアジア太平洋地域を対象とした同盟へと拡大していくこと、また「自由民主主義と市場経済による統一」を公然と掲げ、朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)の体制転覆策動を隠そうともせず、6・15南北共同宣言、10・4南北共同宣言に基づいた自主的平和統一のため民衆の闘いを破壊しようとしている。そして共和国への軍事挑発・重圧である米韓合同軍事演習を強行しようとする姿勢を明らかにしている。合同軍事演習「キーリゾルブ」や野外機動訓練「フォールイーグル」を、毎年繰り返し強行している。
 オーストラリアとの間では、昨年十一月訪問したオバマ大統領は「ギラード首相と会談し、オーストラリア北部のダーウィンに米海兵隊の部隊(当初二百五十人規模、将来的には二千五百人規模)をローテーション展開させることや、米空軍によるオーストラリア北部のオーストラリア空軍基地使用の拡大について合意した」。また二〇一〇年に行われた米豪閣僚会議(AUSMIN)において、米豪防衛協力イニシアティブとして、①オーストラリアの訓練、演習および訓練用レンジへの米国のアクセス増大、②米国装備のオーストラリアへの事前集積、③オーストラリアの施設・港湾の米国使用の増大、④地域における統連合活動、のそれぞれの方策」の検討がなされている。「今回の合意は、米軍が東アジア太平洋地域で生じる、人道支援や災害援助を含むさまざまな事態により迅速かつ効果的に対応できるようにするために、オーストラリアの基地を共同使用するというものである。特に南シナ海やインド洋へのコミットメントを深めていく上で、オーストラリアの基地へのアクセスは重要な意味を持つことになるであろう」。
 日本と同様、米軍のアジア太平洋地域における戦略・兵站基地としてオーストラリアを位置づけ、米軍との演習や訓練を通じた関係強化をはかっていることがわかる。
 同時に、中国とベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾が領有権を争うスプラトリー諸島(南沙諸島)問題への米帝の介入の拠点と位置づけようともしている。すでに米帝は、「南シナ海における航行の自由や国際公共財としての海洋への開かれたアクセス、国際法の順守などに国益を有するとの立場から、この海域の安定に向けて東南アジア諸国との関係強化を図っている。その一環として、米海軍はベトナム軍やフィリピン軍との交流や共同演習を強化しつつある。二〇一一年六月末から、米軍はフィリピン軍と『協力海上即応訓練』演習を行い、パラワン諸島沖で海上阻止、海上哨戒、情報共有、海賊対処などの訓練を実施した。同年七月には、米海軍のイージス艦がベトナムのダナン港を訪問し、ベトナム軍と補修や医療分野の交流を行った」。
 こうした米帝の関与・介入に対して、中国は強く反発している。二〇一一年七月中国を訪問したマレン米統合参謀本部議長に対し、中国側は「南シナ海問題に関与しないよう明確に要求した」。両者の共同記者会見において中国側参謀総長は、「南シナ海における航行の自由には何の問題もない」と断言した。そして、米国は南シナ海での領有権問題について不介入の立場を表明しているが、「言葉と実際の行動は一致していない」と批判し、米軍がフィリピン軍・ベトナム軍と行った演習を「妥当でない」と強く非難した。
 スプラトリー諸島を核心的利益として、領有権問題で一切の妥協を拒む中国も、領有権を争う諸国や米帝との対立のエスカレートは抑制し、問題をASEANとの多国間協議の場で取り扱う意思を表明したり、フィリピンやベトナムとの二国間対話を一定推進している。
 スプラトリー諸島(南沙諸島)の領有権問題に介入し、軍事的緊張を作り出し、米軍のプレゼンスの確立を狙う米帝の攻撃を許してはならない。話し合いによる多国間あるいは二国間での解決が図られなければならない。
 二〇一二年一月六日、米帝―オバマ政権は「米国の国際的指導力の維持―二十一世紀の国防の優先順位」と題する新たな国防戦略方針を明らかにした。新国防指針は、軍の規模や形態、配置の決定など、二〇二〇年までの戦略のガイドラインとなるものだ。
 この新国防指針では、まず二つの大規模な地域紛争に同時に対処する能力を維持するとした「二正面戦略」を放棄し、大規模な紛争への対処は一箇所にとどめ、それにともない現在五十五万人規模の陸軍を、今後十年間で四十九万人以下に削減し、海兵隊を二十万二千人から十八万二千人に計約十万人削減する、としている。
 また「米国の経済的利益と安全保障上の利益は、西太平洋から東アジア、インド洋、南アジアに至る不安定な弧の動静と密接につながっている」として、アジア太平洋地域に米軍の戦力を重点配備する必要性を強調している。特に中国とイランについては、弾道ミサイルや巡航ミサイル、サイバー攻撃など、米軍の前方展開を阻止する「アクセス拒否」能力を向上させるだろう、と強い警戒感を表明し、「アジアの同盟国との関係は地域の安定と成長にとってきわめて重要だ」と、日本や韓国、インドなどと連携を強化する方針を鮮明にしている。
 昨年成立した予算コントロール法によって、国防予算は、二〇一三年~一七年度の五年間で総額二千五百九十億ドル、二〇一二年~二一年度の十年間では四千八百七十億ドル削減されるが、国防総省は新国防指針に沿って次の対応策を打ち出している。
 ①イラク、アフガニスタンから全部隊を撤退させる。部隊撤退に伴いアジア太平洋地域及び中東地域における戦力を再配置。②現行の空母十一隻の体制は維持。③ヨーロッパにおいて陸軍二個師団を削減。④「対テロ」戦やサイバー戦対策など新たな脅威に対する軍事的投資を拡大継続する。⑤開発が遅滞している次期統合打撃戦闘機F35の調達の先送り。⑥先述した陸軍と海兵隊計二十万人の削減。
 大幅な予算削減措置を余儀なくされながらも、空母十一隻体制を維持し、空母打撃群による侵略反革命戦争体制は、保持し続けようとしている。全世界に駐留する米軍のプレゼンスをテコに帝国主義支配体制の防衛と侵略反革命戦争遂行を鮮明にする、米帝―オバマ政権の新国防戦略を打ち砕こう。アジア共同行動の推進する反帝国際主義に貫かれた闘いを支持し、その発展拡大のために奮闘しよう! アジア米軍総撤収をアジア規模の闘いへと発展させよう!


 ●2章 米帝と一体に戦争体制強化する日帝を打倒しよう!

 二〇一〇年十二月、「動的防衛力」を打ち出した菅民主党政権によって閣議決定された新防衛大綱と新中期防衛力整備計画、二〇一一年六月に開催された日米安全保障協議員会「2+2」の共同発表「より深化し、拡大する日米同盟に向けて:五十年間のパートナーシップの基盤の上に」で打ち出された日米軍事同盟強化のための諸政策を粉砕しなければならない。
 これまで建前としてあった「専守防衛」と「基盤的防衛力整備」から日米軍事同盟を「アジア太平洋地域の平和と安定に大きな役割を果たし」「金正日国防委員長死去後の北朝鮮の動向」や「中国などの新興大国の急速な経済発展など」さまざまな不確実要因に対処する軍事同盟へと強化する戦略として「動的抑止力」「動的防衛力」が打ち出されてきている。
 それでは「動的防衛力」の具体化として何が追求されているのか見てみる。
 「概観」によれば、「『動的防衛力』は、防衛力を『使う』ことに主眼を置いており、何らかの有事が発生したときに部隊を機動展開させ対処することに加え、それらを平素から活発に活動させていくことによる抑止や安定化が追求されている」。それと同時に、「南西諸島方面における配備態勢の見直しが行われた。これは、大まかに言って三つの柱からなっている」としている。
 その「第一の柱は、情報収集・警戒監視能力の強化である」。「移動警戒レーダーの島嶼部への展開」「南西地域においてE―2C早期警戒機を常時継続的に運用できるような整備基盤の整備といったレーザー監視能力の強化」「これまで十六隻であった潜水艦の二十二隻への増勢」「沖縄本島より西側の島嶼が陸上自衛隊の配備の空白地域であることから、空白を解消するための沿岸監視部隊の配備」(これを根拠に、与那国島への陸上自衛隊の配備がなされようとしている)といった対応を挙げている。
 「第二の柱は、対処能力の強化である。事態発生時に状況を偵察し、重要施設の防護や災害発生時の即応などの任務にあたる初動担任部隊の新編や、戦闘機一個飛行隊の那覇基地への配備による同基地の戦闘機部隊の二個飛行隊化、対空ミサイルの近代化を通じた防空能力の強化などが行われる」。
 「第三の柱は、機動展開能力能力の強化である。CH―47ヘリコプターの整備や現有のC―1の後継となる新たな輸送機の整備などに加え、また島嶼部への迅速な部隊展開に向けた機動展開訓練が行われる」。
 これはまさに、沖縄を対中国の最前線地域として位置づけ自衛隊の配備や強化を策動するものだ。
 そして「日本おける動的防衛力の構築と並行して、日米協力についても同様に動的な方向性を目指して進めていくことが重要である」として、「施設の共同使用の面では自衛隊活動拠点の増大や後方支援機能、基地の強靭性の強化、相互運用性の向上、また共同訓練・演習の面では部隊の即応性や運用能力、相互運用性の向上や抑止・対処力の明示、警戒監視の面では常続監視の効果としての動的な抑止の機能や情報優越の確保などをもたらすことが期待できる」と、米軍との部隊レベルからの運用まで踏み込んでいる。まさに米軍と一体に侵略反革命戦争に参戦することを想定しているのだ。
 二〇一〇年防衛大綱は、日米軍事同盟の強化と共に、日韓、日豪協力の重要性が強調されている。「アジア太平洋地域においては、北大西洋条約機構(NATO)のような単一の多国間同盟ではなく、米国を中心とする複数の二国間同盟が展開する『ハブ・アンド・スポーク』体制と呼ばれる同盟システムが構築されている。こうした日韓、日豪の二国間協力及び米国を含む三ヶ国協力の強化は、この『スポーク』間の協力を強化し、ネットワーク化していくことによって、米国を中心とする同盟がそれぞれ相乗効果を持ち、地域を安定させていく効果が期待できる」と、防衛省は位置づけている。
 具体的に日米韓三国の間では、二〇一〇年に韓国が主催した拡散に対する安全保障構想(PSI)海上阻止訓練への日米の参加や、二〇一〇年の日米共同演習への韓国からのオブザーバー派遣、米韓共同演習への日本からのオブザーバー派遣など、ここ数年間で日米韓の協力は大きく進展した。さらに、日韓二国間においても二〇一一年一月に北沢防衛相(当時)が訪韓した際の金寛鎮国防部長官との会談において、情報保護協定(GSOMIA)とACSA締結の重要性について一致した。日豪間での軍事関係の強化も打ち出している。二〇一〇年五月には日豪両政府によって物品役務相互提供協定が締結されている。
 日米軍事同盟の強化は部隊レベルから一体化が進められ、アジア太平洋地域全体を睨み、そのなかでも特に中国との戦争態勢として行われている。日米軍事同盟の強化を許さず、自衛隊の侵略反革命戦争への参戦をなんとしても阻止しなければならない。



 

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