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■フィリピン情勢と民族民主運動


 アキノ政権の成立から三年が経過したが、フィリピンの労働者人民が直面する政治的、社会的、経済的状況は変わらず、搾取と抑圧は深まっている。アキノ政権はまた、これまでの政権以上に米日帝国主義との軍事同盟・軍事協力関係の強化を推進しようとしている。プロレタリア国際主義にもとづく、たたかうフィリピン人民との連帯のいっそう強化が求められている。ここでは最近のフィリピン情勢のなかで焦点となっているいくつかの問題を取り上げる。

  ●1章 五月中間選挙と民族民主運動

 今年はフィリピンでは三年に一度の中間選挙の年にあたっており、さる五月十三日、上院(十二議席)の半数、下院(二百九十二議席)、そして州や市町村など地方自治体の首長と議員を選ぶ投票が全国で一斉に行われた。
 選挙の結果は、ノイノイ・アキノ現大統領が率いる与党連合が、ジェジョマール・ビナイ副大統領を中心にした野党連合を抑えて上下院の双方で過半数を制するなど、総じてアキノ大統領が有権者の信任を獲得したと報じられている。しかしそもそも、この正副大統領がひとつの政府を構成し、単一の政策を推進していることからも分かるように、その階級的・政策的な基盤は同一であり、与野党とは言っても両者のあいだに本質的な違いはない。
 それゆえフィリピン共産党(CPP)は、「フィリピン人民は二〇一三選挙の結果からいかなる利益も受けることはない」と端的に指摘している。「選挙結果は過去半世紀の新植民地支配の下での選挙とまったく違いがない。かつてのように、この選挙も大買弁ブルジョアジーや大地主が資金を出し、かれらや外国の大企業の利益を代表する巨大政党に支配されたものであった」「フィリピン人民が直面している最大の問題や課題は、この選挙では無視された。この選挙に参加した進歩的政党の努力を除けば、選挙期間中、農地改革、民族的工業化、賃上げ、物価の値下げ、雇用、強制立ち退きの中止、住宅の確保、その他の民主的要求に焦点をあてた論争や議論は行われなかった」(フィリピン共産党機関紙『アンバヤン』五月二十一号)
 大地主・大資本家の利害を代表する巨大な与野党、世襲政治家たちの圧倒的なカネや物量を投じた選挙戦のなかで、民族民主主義勢力は人民の利益を議会に反映させるための原則的な選挙戦をたたかい、下院議員選挙においては政党リスト制度を通じて、バヤン・ムナ、ガブリエラ女性党、アナクパウィス、アクト、カバターンのそれぞれから前回二〇一〇年の選挙と同じく計七人の下院議員を当選させた。また、上院議員選挙にはバヤン・ムナの現職下院議員であったテディ・カシーニョ氏が立候補し、当選には及ばなかったものの三百五十万票を獲得した。

  ●2章 労働者に対する新たな攻撃

 総選挙に先立つ五月一日、五月一日労働運動(KMU)傘下の労働者約三万人がマニラ首都圏のボニファシオ広場から大統領府に向けてメーデーのデモ行進をおこなった。その主要な要求は「大幅賃上げ」「契約雇用の廃止」「労働組合弾圧をやめろ」などであった。これらのスローガンはこの十年近くにわたってKMUに率られたフィリピンの戦闘的労働運動の主要なスローガンであり続けてきた。
 フィリピンの法定最低賃金は現在、マニラ首都圏の「非農業部門一般」で一日あたり四百五十六ペソであり、農業労働者や従業員が十人に満たない小規模経営では四百十九ペソである(二〇一二年十一月より実施)。マニラでの六人家族の一日あたりの最低生活費は一二年十二月の時点で千三十四ペソであり(IBON基金調べ)、現在の最低賃金では労働者とその家族が生きていくのに圧倒的に不十分な水準であることは明らかである。同時に、契約労働者と呼ばれる有期雇用の非正規労働者の多くは、この最低賃金ですら受け取っていない。また、この法定最低賃金は基本賃金四百二十六ペソと物価の上昇に対する調整額としての「生活手当」三十ペソからなっており、残業代や年末の特別手当、定年退職金等の算出は基本賃金をベースに算出される。こうした手法をとることでアキノ政権は賃金総額の抑制を図ろうとしてきた。
 加えて、フィリピンは地方別最低賃金制度であり、日系企業など外国資本が多く進出する南部タガログのカラバルソン地域は非農業部門で一日あたり三百四十九・五ペソ、中部ルソンは三百三十六ペソなど、地方によって大きな格差があり、最賃額改定時の上昇率もまちまちである。南部タガログのミマロパ地方は今年二月に二百七十五ペソに改定されるまで、他の地方とは異なり、二年間にわたって最低賃金が据え置かれてきた。フィリピン雇用労働省の関係者によれば、これは「投資誘致を目的とした据え置き措置」とされてきた。
 さらにこのかん、アキノ政権は労働者に対する新たな攻撃に打って出てきた。それは「二段階(最低)賃金制度」と呼ばれるもので、昨二〇一二年より南部タガログのカラバルソン地域およびマニラ首都圏のいくつかの企業で先行的に実施され、今年に入って全国に拡大されようとしてる。
 「二段階(最低)賃金制度」は、「基本賃金」と「生産性手当」のふたつの部分からなり、「生産性賃金」については企業単位で労使の交渉により決定する、というものである。企業はこの制度を任意に導入することができる。これに対して、KMUなどは「賃上げを凍結し、さらには賃下げに導くもの」と強く弾劾し、その廃止を求めている。
 具体的にカラバルソン地域の事例を見てみよう。すでに述べたように、この地域には日系企業をはじめ多くの外国企業が進出している。
 この地域の法定最低賃金は一日三百四十九・五ペソ(生活手当を含む)である。しかし、この地域で活動するKMU傘下のパマンティックによれば、この地域で働く契約労働者が実際に受け取っている賃金は、一日あたり二百六十五ペソから二百九十八ペソだ。多くの場合、一年以上継続して働いた後、企業はようやく最低賃金額を支払い始める、とパマンティックは指摘している。しかし、契約労働者が同じ企業で一年以上働ける保障はない(六カ月以上継続して雇用した労働者は正社員化しなければならないと法律では定められているため多くの場合は六カ月未満の有期雇用とされる)。
 こうした状況のなかで、カラバルソン地域の地域賃金・生産性委員会が導入を決定した「二段階(最低)賃金制度」は、①基本賃金を二百五十五ペソとし、これを今後五年間で段階的に九十ペソ引き上げる、②当面は「条件付き暫定生産性手当」として十二・五ペソを支給する、というものである。すぐに分かるように、これは現在の法定最低賃金を下回っており、五年後にようやく基本賃金がほぼ同額となるということである。また、「生産性」は企業によって異なり、また実際には経営側の移行が大きく反映する。さらに、契約労働者はフィリピンの労働法制では団結権を認められておらず、「生産性手当」をめぐる労使交渉に参加できない。それがより安価な労働力を求めてこの地域に進出する外国資本に奉仕するものであることは明らかだ。
 こうしたことからKMUは、この「二段階(最低)賃金制度」を賃上げ凍結・賃金切り下げをおし進め、最低賃金制度を掘り崩し、無効化するものと強く弾劾している。KMUは同時に、労働者を分断する地域別最低賃金制度に代わる全国一律最低賃金の導入、そして全国一律百二十五ペソの賃上げを要求して闘いを続けている。

  ●3章 米日との新たな軍事協定締結策動

 アキノ政権はまた、スプラトリー諸島(南沙諸島)の領有権をめぐる中国等との対立が強まるなかで、米国、そして日本との軍事同盟や軍事協力関係を強化しようという顕著な動きを見せている。
 米国がそのアジア太平洋重点化政策のもとでフィリピンにおける米軍のプレゼンスを強化し、実質的な米軍基地建設策動を進めてきたことは『戦旗』紙上でも指摘してきたが(一二年十二月五日付・第一四〇六号参照)、報道によれば、さらにこのかんアキノ政権は米軍および日本の自衛隊に対してフィリピン国内の軍事基地により長期的な駐留の許可を与えるための新たなアクセス協定の締結を進めようとしている。
 七月二日、アキノ大統領はあるインタビューのなかで、米国と日本を「戦略的同盟国」と呼び、その協力関係を強化するために、クラークおよびスービックの旧米軍基地への一時的なアクセスを認めるための作業を進めていることを公に明らかにした。また、これに先立つ六月二十七日にはガスミン防衛大臣が日比防衛大臣会合の後の記者会見で、「フィリピン政府は他国の駐留、とりわけ日本の自衛隊の駐留を、この分野における共同戦略として、既存の取り決めに基づき歓迎している」と語った。
 日本はこのかんフィリピンとの軍事協力関係を強化してきた。米比合同軍事演習バリカタンへの自衛隊の派遣、昨年七月の「防衛交流・協力に関する意図表明文書」への調印、スプラトリー諸島問題を念頭においたフィリピンへのODAによる巡視艇供与策動などである。新たに浮上しているフィリピンの軍事基地への米軍・自衛隊の駐留・アクセス協定の締結策動は、米―日―フィリピンの軍事的連携をさらに強めるとともに、フィリピンにおける膨大な日本の経済権益を背景に必要なときに自国の軍隊を海外出動できる態勢をつくりだそうとする日本帝国主義の野望に沿ったものだ。
 BAYAN(新民族主義者同盟)はただちにこの米日との新たな軍事協定の締結策動に反撃し、「比米フレンドシップデー」とされている七月四日には、マニラのアメリカ大使館に対する抗議行動を展開した。われわれもまた、たたかうフィリピン人民に連帯し、米軍・自衛隊によるフィリピンへの駐留・アクセスの強化策動を粉砕するたたかいに立ち上がろう。

               ※ ※ ※

 アキノ大統領は七月二十二日には施政方針演説をおこなう。BAYANを先頭とする民族民主主義勢力はこれに対する大規模な抗議行動を準備している。アキノ政権は年率7・8%の高い経済成長の達成を誇っているが、それは抑圧され搾取されるフィリピンの労働者人民の生活状態はまったく改善していない。物価の高騰、生きるのがままならないほどの低賃金、拡大する契約労働など、労働者・人民が直面する状況は何ら改善されず、さらにここで紹介した「二段階(最低)賃金制度」をはじめ新たな攻撃がかけられている。貧農の基本要求である農地改革もまったく前進していない。そうしたなかで、米日帝国主義との軍事同盟・軍事協力の強化が進められている。弾圧に抗してたたかうフィリピン人民に連帯し、日米帝国主義の政治的、経済的、軍事的なフィリピン支配の強化に反対してたたかおう。



  
■非正規職青年労働者を組織しよう。日韓労働者民衆連帯の前進を


 朴槿恵(パク・クネ)政権は二〇一三年二月の発足以後、大統領選挙で掲げた改革の公約をことごとく放棄し、財閥=大資本の利害に適う諸政策を露骨に推進するとともに、労働運動に対しては敵意をむき出しにして李明博(イ・ミョンバク)前政権以上の弾圧を畳みかけている。雙龍自動車・現代自動車の正規・非正規を貫く労働者のたたかいに対する相次ぐ不当逮捕と闘争拠点の強制撤去、鉄道公社の分割民営化方針の推進をはじめとする暴虐が労働者の生活と権利を踏みにじっているのだ。他方、戦争責任・歴史認識と領土問題を理由として日帝とは一定の距離を置きつつ、米帝との軍事同盟関係の強化と合同軍事演習の連続した強行、および、最大の貿易相手国である中国との経済的関係の強化をもって、朝鮮民主主義人民共和国に対する敵視政策を継続しているのが、韓国の新たなブルジョア政治委員会に他ならない。にもかかわらず、これに抗すべき労働運動陣営は、進歩政党運動の混乱(統合進歩党の分裂)にも規定されて大統領選時に民主労総指導層が雪崩を打つかのように民主統合党(現在の民主党)=ブルジョア改革派に合流していった。議会主義・出世主義・機会主義に対する批判の声が運動内部から沸き起こっている。
 だが、そうした新自由主義と帝国主義の暴風雨の中にあっても、資本と政府に抗する労働者の闘いの火は至る所で燃え上っている。非正規職労働者の組織化は徐々にではあるが確実に進み、労組組織化率は増加に転じた。済州島海軍基地建設に反対する住民と活動家の抵抗は、度重なる重弾圧にもかかわらず粘り強く続いている。南北統一と朝鮮半島の平和を求める取り組みは帝国主義と反動政権の攻撃を打ち破り前進している。
 われわれは闘う韓国―アジアの労働者民衆と連帯し、その闘いに学び、結合して、国境を越えた共同の力をもって新自由主義と帝国主義を打ち砕いていかなければならない。本稿では、韓国労働者の労働条件を見た上で、韓国労働運動の抱える問題点と方向性を指し示す第七期民主労総役員選挙の過程、そしてアルバイト連帯の登場について考える。

  ●1章 韓国労働者の労働条件

 韓国の全人口約五千万人のうち賃金労働者は一千七百七十一万人(一三年五月)で、そのうち非正規職は八百十八万人(46・1%、一三年三月)。失業率は政府発表3%だが、実質失業率は20%だ。
 ひと月の平均賃金は正規職二百八十三万ウォン(約二十五万円)、非正規職はその約半分の百四十万ウォン(約十二万円)で、女性非正規職の賃金は男性正規職の35・4%だ(一三年三月)。労働者の二人に一人(51・1%)が月給二百万ウォン(約十七万円)以下だ。さらに十人に一人(9・6%、百七十万人)が法定最低賃金の時給四千五百八十ウォン(約四百円)に達していない(一二年基準)。労働所得分配率は59%(一二年)で米英独仏日の70%前後より低い。
 年間労働時間は約二千二百時間。年間二千人以上が労災で死んでいる。
 貧富の差は拡大し続け、貧困ライン以下の割合は全人口の15%。平均自殺率と老人自殺率は世界最高だ。
 労組組織率は一一年八月10・9%(百九十一万人)から一三年三月12・1%(二百十四万人)に増加。非正規職の組織が広がっているためだ。

  ●2章 「民主労総の民主主義の危機」

 民主労総内の左派活動家グループである左派労働者会が発行する機関誌の月刊『左派』第二号(一三年六月)には、同会代表の許榮九(ホ・ヨング)元民主労総首席副委員長の「民主労総の民主主義の危機」と題する論文と、同会に所属し今年の民主労総第七期役員選挙に出馬した李甲用(イ・ガビョン)民主労総第二代委員長のインタビューとが掲載された。二人は同選挙での選挙管理委員会と暫定指導部の決定を痛烈に批判している。一体何が起こったのか? 彼らの見解を紹介しつつ、「危機」とは何かを探る。
 韓国労働運動の三つのナショナルセンターのうちの一つ(他は共に御用組合の韓国労総と国民労総)で、民主労組運動の精華である民主労総の役員は代議員大会での間接選挙で決められる。直接選挙制で選ぶべきとの声は当初からあったが、結成以来十八年間に渡り導入延期を重ねてきた。直接選挙制導入を公約に掲げて当選したキム・ヨンフン前委員長もまた一二年十月臨時代議員大会で三年間猶予案を通過させて辞任した。
 「首席副委員長が職務代行を担ったが、左派労働者会の情報公開請求で真相調査会が構成され、直前の代議員大会に不正と不実があったということが調査で明らかになった。そして職務代行と残りの役員が辞職し、非常対策委が設けられた。非常対策委もまた直接選挙制を実施する気がなかった。そこで左派労働者会は直接選挙制の実施を求めて民主労総委員長室で篭城を始めた。(中略)篭城を通じてこれ以上直接選挙制を延期できないという雰囲気がやっと作られた」(許榮九)。
 一三年一月二十四日、第五六回代議員大会で直接選挙制猶予期間を三年から二年に減らす案が通過。
 二月、左派系・右派系を含む活動家諸グループと産別及び単位労組が参加して「七期指導部構成のための円卓会議」が開かれた。七期指導部が過渡的性格を持つという点では一致したが、左派と右派の統合指導部を作るべきとする多数派と、左派指導部を作るべきとする左派労働者会など少数派に見解が分かれた。同会は候補者登録の数時間前まで他の左派系グループとの共同候補擁立を模索したが失敗し、同会の単独候補として李甲用―カン・ジンス組が出馬。産別労組代表者らが推薦した民主労総非常対策委員長ペク・ソックンとジョン・ビョンドクの候補組との二組による第七期役員選挙が三月二十日の第五十七回代議員大会で行われた。下馬評は統合指導部作りを目指す後者の圧倒的勝利だった。ところが、代議員九百十八名中五百七十名が投票した結果は李甲用組二百七十二票(47%)、ペク・ソックン組二百五十八票(45%)、無効四十票(7%)となった。李甲用組が一位得票者となったが、得票が過半数に至らず、委員長と事務総長は決まらなかった。
 四月二十三日の第五八回代議員大会では、その前にペク・ソックン組が出馬を辞退しため、実質的に李甲用組の賛否を問う再投票が行われた。在籍代議員数九百十八人のうち過半数(四百五十九人)をわずかに超える四百六十七人が出席して大会が成立。ところが、二十五人が投票に参加せず、投票者数は四百四十二人だった。民主労総中央選挙管理委員会は、在籍成員の過半に至らなかったという理由で開票をせず、また、李甲用組の再度の賛否投票ではなく、全てをチャラにする再選挙を決定した。李甲用組にとっては一位得票という結果を白紙に戻すための集団ボイコットと中央選管の決定だ。これが大問題となったのだ。
 一部の代議員は抗議した。裁判所に告発した代議員もいた(ソウル地方裁判所は六月にこの告発を棄却したが、「議事定足数」か「議決定足数」かを巡る民主労総内部の論争に関しては以下引用する許榮九氏の見解に代表される左派労働者会の主張に沿う判断を下した)。李甲用―カン・ジンス選挙対策本部は「民主労総は死んだ」という声明を発表し、投票を忌避した全国会議などを批判した。他方、統合指導部を目指す部分はこうした動きを「分裂主義」と厳しく非難している。なぜか。
 「民主労総中央選管委は選挙管理規定にもない『第二次投票不成立時の再選挙』という越権的解釈を行い、民主労総中央執行委は選挙管理規程を制定した中央委員会の有権解釈もなしにこれを受け入れた。第二次投票を不成立にすれば再選挙をすることができると考えた人々は、選挙管理規程ではなく会議規定を利用したのだ。代議員大会は過半数で成立するが(議事定足数)、投票行為(議決定足数)では組織的に参加せずに選挙を不成立にするという戦略を組んだのだ。しかし、民主労総選挙管理統合規定第二編間接選挙制編第二七条(当選)①項には、「役員は代議員大会で直接、秘密、無記名投票で選出し、在籍代議員の過半数出席に出席代議員の過半数の得票で当選する」となっている。従って、選挙を不成立にするために席を離れた地域本部長など二十五名は当然棄権として処理しなければならない。しかし、中央選管委は、投票した代議員が過半になった時にのみ開票して当選者を決定するのが既存の慣例と主張して『出席代議員を選挙人名簿に署名した代議員とする』と再選挙を強行しようとしている」(許榮九)。選挙管理委員会の決定は規定違反で無効という趣旨だ。
 李甲用候補はインタビューで「今回の事態を経る中で既存の民主労総の主流勢力は手段と方法を選ばず、たとえ理由が成立しなかったとしても権力を譲り渡す気がないということを改めて確認しました」と述べている。
 民主労総の現状について、許榮九氏は次のように表現する。
 「全労協と民主労総創立初期の民主労組運動の精神はすでに死んだ。」
 「民主労総の民主主義は、変革性、民主性、自主性、闘争性、連帯性の総合だ。しかし、民主労総は今、戦闘的経済組合主義でもない資本主義体制内日常の機構として固定化している。」
 「労働組合権力は労組官僚主義者たちに委任して以来長く経ち、労働者政治は議会主義者、出世主義者、小英雄主義者たちに抵当に取られて久しい。」
 「民主労総代議員を『何でも賛成屋』にする構造が定着した。直接選挙制など権力構造と関連して重要な決定を傘下執行機構である中央執行委員が要求する通りに従う。代議員はゼネストをはじめ闘争についての責任ある決定や執行を行わない。だからといって十分に総括を行うわけでもない。」
 李甲用氏は次のように言う。①民主労総は個人の政治的出世の道具になった、②議会政治に依存してきた、③正規職労組の委員長たちは組合員を組合員主義に陥れた。
 民主労総を今後どうすべきかについて、許榮九氏は、①役員のみならず、単位労組委員長が指名して代議員が選ばれる現在のやり方を止め、組合員の直接選挙で選出する、②労働者を糾合してたたかいを展開する、③「資本の搾取によって断片化させられてしまった労働者と連帯し、彼らを組織」する、④第七期役員選挙と一四年の直接選挙制を出発点として民主労総の組織と構成員を根本的に革新する、などを挙げている。
 李甲用氏は、①右派に任せてはいけない、②組織の規定と規範の整備、③闘う組織にする、④非正規不安定雇用労働者の闘いを結合させて爆発力を持たせる、⑤被解雇者全員を局長級の専従にする、⑥社会的連帯、個別事業所の闘いに対する総連盟レベルの積極的な支援と連帯、⑦民主労総を革新して左派労総を作る、などの努力が必要だとしている。
 だが結局、中央選管の決定に沿って再選挙が七月後半に行われることになった。李甲用組を含む三組が立候補した。「委員長が地域本部の専従まで人事権を行使できる」(李甲用)民主労総の行く末はどうなるだろうか。

  ●3章 アルバ連帯の登場 非正規職の組織化ひろがる

 数年前に結成された青年ユニオンが委員長の民主党入りと共に実質的に開店休業状態に陥ったと言われる中、一三年一月にアルバ連帯(「アルバ」とはアルバイトの略語)が結成され、活動を始めた。構成しているのは、一二年十二月の大統領選挙に出馬した非正規職女性清掃労働者キム・スンジャ候補の選挙運動に参加した二十―三十代の非正規職の若者だ。
 アルバ連帯の中心要求は、①最低賃金の時給四千五百八十ウォン(約四百円)を二倍以上の一万ウォン(約八百五十円)に引き上げることと②労働時間の短縮の二つだ。最終的には非正規職・失業者などの不安定雇用労働者が溢れている韓国社会を不安定雇用労働者自らの手で根本的に変えることを目指している。
 なぜ時給一万ウォンなのか。そうしなければ最低限の生活を送れないからだ。バイトをフルで働いて月給は百万ウォン(約八万五千円)前後。ところが一人世帯の標準生計費は労働界発表では約百九十万ウォン(約十六万円)、統計庁発表では約百四十六万ウォン(約十二万円)だ(一一年)。バイトでは最低の生活賃金を得られないのだ。それを手に入れるためには最低賃金の大幅引き上げが必須というわけだ。民主労総も最賃引き上げ闘争を行っているが、最低賃金を全労働者の平均賃金の50%水準を目標としていて、額にすれば千ウォン引き上げだ。青年ユニオンも同じ主張だ。しかし、アルバ連帯にとっては全く不十分なのだ。
 なぜ労働時間の短縮なのか。そうしてこそ過労死も自殺率も世界最悪という労働条件を改善して人間らしい暮らしを送ることができるからだ。最賃が低いがゆえに、生きて行くために長時間働く。こうした構造は自動車など正規職労働者も同じだ。しかしそれで体を壊し、寿命を縮め、生活できなくなる。この悪循環を断つために、根が一緒の問題である低水準の最賃と長時間労働とを共に解決すべきだ、という主張だ。
 これまでアルバ連帯は次のような活動を展開してきた。①最賃すら守らず過酷な労働条件のコンビニ、コーヒーショップ、ファストフードに対する抗議のパフォーマンス。②コンビニを夜回りしてアルバイト労働者の意識調査。③アルバイト労働者が多い学生街などでの時給引き上げ署名活動と労働相談。④経済団体の経総(日本の経団連に相当)が労働大臣を招いた朝食会の会場に突入してプラカードを掲げた奇襲デモ。⑤六月に最賃額を決める最低賃金委員会に対する行動、などだ。この半年間で延べ数十名の逮捕者を出しながらも、今年後半期にはアルバイト労働者の労組結成を目指している。
 青年ユニオンとは異なり参加者の年齢に制限を設けないアルバ連帯の取り組みは、まさしく非正規職による非正規職解放のための闘いだ。時代の要請なのだ。韓国非正規職青年労働者のこうした努力に、私たちも学び、結びつき、共同の戦線を作り上げよう。そして何よりも日本における非正規職青年労働者の自己解放闘争の根拠をあらゆる場所に作り上げ、取り組みをさらに力強く推し進めていこう。


 

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