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   改憲―戦争国家化と一体の

   「新捜査手法」の導入阻止

   


 法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下、特別部会)において、警察権力による「新たな捜査手法」の導入が画策されている。それは、捜査段階における通信傍受の拡大強化や会話傍受などである。また、公判段階では、司法取引や被告人の証言強制、証人の匿名化や偽名使用、公判廷での供述を録音・録画の再生をもって主尋問に代えることを可能とするなどである。これら捜査段階、公判段階を貫いた警察・検察権力の強化が画策されている。
 安倍政権は、日本版NSCと位置付けて国家安全保障会議を設置し、そのもとに内閣情報局を新設しようとしている。同時に特定秘密保護法の制定を狙っている。その先にあるのは、憲法解釈の変更だけで集団的自衛権の行使を合憲化させること、そして憲法九条の破壊だ。共謀罪の新設もしぶとく狙い続けている。日帝の支配者層は、戦争を実際に遂行することができる体制へと転換させようとしている。日帝―国家権力が侵略反革命戦争に突き進むためには、日帝の軍隊が国外で軍事行動することを合憲化し、国内においては情報を統制し、反戦運動を抑圧、鎮圧することが不可欠なのだ。
 日帝の侵略反革命戦争に反対する労働者人民の運動を「組織的犯罪」として鎮圧することを許してはならない。そうした観点から「新たな捜査手法」を捉え、その悪辣な本質を暴露し、日帝―安倍政権の改憲策動、治安立法策動を弾劾しなければならない。

 ●1章 司法制度改悪に続く治安弾圧法制定の動き 

 日帝―国家権力は、二〇〇一年に成立させた司法制度改革推進法をもって、司法制度の全面的再編を行った。裁判員制度と公判前整理手続の導入、法テラスや法科大学院の新設、司法試験合格者三千人目標などである。これらによって裁判の迅速化が叫ばれ、弁護士自治に対して国家が介入し、弁護士には競争原理が押し付けられるようになった。この司法制度改悪は、刑事裁判へも大きく影響した。裁判の迅速化を押し出すことで、近代刑法の原則である推定無罪は、ますます脇に追いやられている。刑事裁判において被告人は、圧倒的な捜査権限をもつ検察官と対峙しなければならない。そこに裁判の迅速化が持ちこまれることによって、被告人は検察に対する反論の機会を奪われ、防御権を切り縮められている。検察官の証拠隠しや立証における矛盾点も、被告人がそれを追及するのは難しくなっている。裁判官は、無罪推定の原則にのっとって検察の主張や証拠を綿密に検討するよりも、早く判決を出すことを第一の目標としている。法テラスの導入によって国選弁護人の国家管理が進められ、法曹人口増加策によって、食っていけない弁護士が増大している。「無罪の人間を罰してはならない」という原則が後退し、対等であるべきとされる弁護士と検察官・裁判官の力関係が崩され、近代に確立してきた刑事裁判の構造が大きく変えられてきた。
 こうした流れの上に「新時代の刑事司法制度の基本構想」が出されていることを、はっきりと捉えなければならない。その本質は、近代的刑事裁判の構造を破壊した上での、国家権力の証拠収集手段、立証手段の拡大強化である。その目的は、国家権力に抵抗するあらゆる組織の把握、そして解体である。日帝―国家権力の組織弾圧の動向をはっきりと捉えて、たたかう労働者人民の運動・組織への弾圧を許さず、たたかいの前進をかちとろう。

 ●2章 証拠収集のための録音録画、ビデオリンク方式の導入

 この特別部会は二〇一一年六月二十九日に第一回会議が開かれ、これまで二十回の会議が行われている。今年一月末には、中間報告として「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」(以下、基本構想)が公表された。これに基づいて二つの分科会が月一回のペースで、具体的な制度の検討作業を進めている。この分科会での検討作業を今年度中に終わらせ、来年の通常国会に法案を提出することが狙われている。
 基本構想は、大きく検討指針を定め、次に検討すべき具体的方策を取り上げていくという構成になっている。まずは、検討指針から見ていく。
 基本構想は、新たな刑事司法制度構築の理念として①「取調べへの過度の依存からの脱却と証拠収集手段の適正化・多様化」と②「供述調書への過度の依存からの脱却と公判審理の充実化」を掲げている。
 そして、以下の具体的な点を挙げている。まず、①のために、被疑者取り調べの録音録画制度を導入、証拠収集手段の多様化を図る、証拠収集手段の適性を担保する点を挙げている。②のためには、ビデオリンク方式による証人尋問や証人に関する情報の保護、証人の勾引要件の緩和など証人の出頭および証人を確保するための実効的な方策などである。
 次に具体的方策として、何を検討しているのかを見ていく。

 ●3章 取り調べの録音録画は可視化に制限

 まず第一に、取り調べの録音録画制度を導入するといっているが、全面可視化は排除している。導入されるのは部分的可視化にすぎないことがはっきりした。すなわち「一定の例外事由を定めつつ、原則として、被疑者取調の全過程 について録音・録画を義務付ける」か「録音録画の対象とする範囲は取調官の一定の裁量にゆだねる」というものである。例外を設けることが前提化され、そのうえで可視化対象事件の範囲も裁判員対象事件など重大事件に絞ろうというものだ。例外とは、「組織的犯罪」や「共犯事件」等である。権力との取引や裏切り、売り渡し、でっちあげの供述場面は可視化しないということだ。
 今でも部分的録画は捜査側に有利な証拠として利用されている。取り調べの可視化が捜査機関に都合のよい武器に転化されようとしているのだ。絶対に許してはならない。
 録音録画の意味は、密室での取り調べを許さないことだ。取り調べという権力行使の場面を人民の前に公開するということに本質がある。公開してこそ、冤罪を生み出す「自白の強要」が不可能となるのだ。部分可視化では、録画していないところで、「職務熱心な余り、無理な取り調べ」をすることが可能なのは誰にでもわかることだ。なぜこのような、デタラメな結論になるのか。
 それは、基本構想が取調べの果たしてきた機能を賛美しているからだ。たとえば、「取調による徹底的な事案の解明と綿密な証拠収集及び立証を追求する姿勢は、事案の真相究明と真犯人の適正な処 罰を求める国民に支持され、その信頼を得るとともに 良好な治安を保つことに大きく貢献してきたとも評される」といっている。あくまで取調中心の捜査手法を賛美し、今後も捜査の中心として位置付けていくことを表明しているのだ。
 代用監獄制度のもとでの長期勾留、その上に現場警察官・検察官の恣意的な制度運用の下で、強引な取調べが行われている。こうした構造的な問題が冤罪事件の発生を許してきたのだ。しかし、基本構想はこの根本的な問題を覆い隠している。「取調及び供述調書に余りにも多くを依存してきた結果、職務熱心な余り、取調官が無理な取調をし、それにより得られた虚偽の自白調書が誤判の原因となったと指摘される事態が見られる」「真相解明という目的が絶対視される余り、……無理な取調を許す構造となってしまっていないかとの指摘もなされている」というのだ。「職務熱心な余り、取調官が無理な取り調べをし」た結果、無罪の人間が刑罰を強いられたという総括、そして取り調べは部分的に可視化するという方針など、絶対に認めてはいけない。
 冤罪や証拠偽造は、一部の警察官や検察官が「職務熱心な余り」生じたのではない。治安を最重要視し、表面上の「事件の解決」を優先させる警察の体質の問題だ。そうした体質を許してきたのが、密室での取り調べである。狭山差別裁判はじめ、最近の鹿児島志布志、村木事件等多数の冤罪やでっち上げ事件をみれば、それが決して「職務熱心」のあまり惹き起こされたものではないことは明らかだ。現場警察官・検察官は意図的に冤罪をでっち上げている。そのために、無実の人間が冤罪の下に「処罰」されるという、許しがたい権力犯罪をひきおこしてきたのだ。代用監獄の廃止と取り調べの全面可視化こそ実行させなければならない。

 ●4章 捜査協力と引き換えの司法取引の導入

 第二に、証拠収集手段の多様化を図るとして、具体的には①刑の減免制度、②捜査・公判協力型協議・合意制度③刑事免責制度について「それぞれの採否をも含め、どのような制度を導入しうるか判断する」としている。
 刑の減免制度とは、「自己又は他人の犯罪事実を明らかにするための重要な協力をした場合に刑が減免され得る旨の実体法上の規定を設けることにより被疑者に自発的な供述の動機付けを与える」としている。②は「検察官が弁護人との間で、被疑者において他人の犯罪事実を明らかにするための協力をすることと引換えに、検察官の裁量の範囲内で、処分又は量刑上の明確な恩典を付与することに合意できるとする」制度である。③は裁判所(長)の命令により証人の自己負罪拒否特権を消滅させて証言を強制でき、その代わり、証言した内容について使用免責を付与する制度」である。とりわけ②については、警察官僚が「末端の関与者に処分または量刑上の明確な恩典を保障してでも、より上位の者の刑事責任を解明・追及するというダイナミックな手法を可能とするものとして、有効な活用が見込まれる」と強調している。裏切って捜査に協力するこの型の司法取引導入が「組織的犯罪対策」として必要視されている。

 ●5章 盗聴の「合法化」

 第三に、証拠収集手段の多様化をはかるとして、通信・会話傍受を取り上げている。まず通信傍受については、対象犯罪を拡大し、「通信傍受の合理化・効率化」の名の下に通信事業者の立会をなくそうとしている。現在は、通信事業者の施設に警察官が立ち入り、事業者立会いの下で盗聴している。それを、通信事業者から警察署内の傍受施設に、録音データを送信させるというのだ。通信事業者の立ち会いは、警察による盗聴が事実上無制限にならないための制約として組み込まれたわけだが、その制約と取り払おうとしている。また、振り込め詐欺や組織的窃盗対策だというが、それらの対策に有効であるという検証は、警察官僚も出せないでいる。
 会話傍受は、街を歩いている人の会話を聞くのではない。ここでの会話は、室内で行われている会話を想定している。警察官が、賃貸なら家族を装って貸主に鍵を開けさせたり、業者に依頼して開錠させるなどして、勝手に室内に侵入し盗聴器を仕掛けるというのだ。この室内への立ち入りという事実を緩めるために、室内傍受とは言わず、会話傍受とごまかそうとしている。「指摘される懸念をも踏まえて、その採否も含めた具体的な検討を行う」としており、振り込め詐欺の拠点事務所、暴力団事務所、幹部の使用車両への盗聴機器の設置が検討されようとしている。これが通れば「極左暴力団事務所」「争議団事務所」も対象とするのは明らかだ。

 ●6章 でっち上げ証言可能にするビデオリンク

 第四に「公判審理の充実化」としては、ビデオリンクの適用拡大、捜査段階での供述の録音・録画の再生を以て主尋問に替えること、証人の住居・氏名の匿名化(氏名及び住居に代わる呼称及び連絡先を開示する)、証人の偽名使用、だれにも追跡されないように住所変更させるなどを検討項目としてあげている。
 これがそのまま制度化されたらどういうことになるだろうか。例えば、でっちあげ争議弾圧の事件が起訴されたとする。警察権力と結託した経営者は、どこかわからない遠くの裁判所に出頭してテレビモニターで証言する。あるいは、警察での売り渡し供述を録画したDVDの再生を主尋問とすれば、弁護人は、尋問の途中で異議申立もできなくなるだろう。また、事件現場を「現認」したという公安刑事は、氏名・所属を明らかにせず、安心してでっちあげ証言をするようになる。逆に弁護側は、目撃証人がいても住所・氏名も教えてもらえないから面談して事情聴取をすることもできなくなるだろう。

 ●7章 団結・連帯つぶしの住居制限命令制度

 第五に、「証人の勾引要件の緩和など証人の出頭および証人を確保するための実効的な方策」として、具体的には、住居などの制限命令制度を取り上げている。これは「勾留と在宅」の中間的処分として新設しようとしているものだ。住居、立入場所、会える人を制限した上で、身柄を拘束せずに取り調べる仕組みとしている。
 しかし、身柄勾留するかしないかの決定権はあくまで裁判官にある。この制度ができたからといって勾留される件数が減ることはない。否認事件では、裁判官は「罪証隠滅の恐れ」を理由に検察の勾留請求を乱発しているのが現状だ。そんな裁判官のもとでは簡単に釈放とはならないだろう。
 たとえば、原発反対運動のメンバーがデモで逮捕されたとする。当局がいちばん望むのはメンバーの活動をやめさせ、運動をつぶすことである。そこで取調刑事は、逮捕された人に対して住居制限命令に従うなら即釈放だが、黙秘していたらいつまでも勾留し続けるぞと恫喝してくるだろう。家族の心配や仕事の都合も抱えるならば、どうしても釈放されたいと思うのが自然な感情だろう。ここで命令に従うことを約束して誓約書を書かされてしまうことになるのだ。こうして黙秘権が奪われる。そして警察は、その誓約書を利用して、運動の仲間との接触を妨害し、信頼関係まで破壊しようとしてくるのだ。
 このように住居制限命令制度は現行の身柄勾留を何一つ改善するものではない。むしろ、現行制度ならあまりに不当ですぐに釈放されるようなケースでも、条件を付けて釈放されるようになることが予想される。このような労働者や市民の団結や連帯をつぶそうという住居制限命令制度の導入など許してはならない。

 ●8章 労働者人民の広範な闘いで「新捜査手法」導入阻止

 以上のような、これまでにない捜査手法の検討が法制審議会の特別部会において行われている。これらの捜査手法は、組織活動に対する証拠収集手段として位置付けられている。そして警察権力が「組織犯罪」対策に必要だとして、執拗に狙っているのが共謀罪の新設だ。警察権力による治安弾圧体制の強化を許さない、労働者人民の広範な陣形をつくりあげ、「新たな捜査手法」導入を阻止しよう。



 

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