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   ■「経営労働政策委員会報告」の背景
   

    
派遣法改悪阻止、賃上げ・権利拡大 14春闘勝利を

 

 一月十五日、日本経団連は、二〇一四春闘での経営の交渉指針となる「経営労働政策委員会報告」(経労委報告)を発表した。経労委報告は、二〇〇六年には「春闘終えん」をうちあげ、二〇〇八年リーマン・ショック後は「雇用か、賃金か」と賃金抑制の脅しをかけ、ここ数年は「定期昇給の凍結・見直し」を掲げ、労働運動の沈滞化をはかってきた。今年の経労委報告では「六年ぶりベア容認か」と、従来姿勢の転換が報道されている。今年の経労委報告がもくろむものは何なのか。これをシッカリとつかみ、今春闘をたたかうことが必要である。

 ●1章 経労委報告の背景

 今年の経労委報告のトーンの変化は、マスコミが言うような「景気の回復」等だけを根拠にしたものではない。ましてや安倍政権の再三の賃上げ要請に応えたものでもない。その背景には、海外権益の急速な拡大がある。
 安い労働力と成長市場を求め、この二十年、日本企業は凄まじい勢いでアジアへの侵出を遂げてきた。製造業の海外現地生産比率は、二〇一一年には、東日本大震災による電力供給不安や円高を理由として、過去最高の18・4%に上昇し、それ以降もアジア諸国への移転の流れはとまらない。とりわけ二〇一一年以降は、震災や円高による危機感、リスク分散の必要性などから、早急な海外権益拡大のために、積極的な対外買収が展開されている。図表(我が国企業の内部留保と対外買収額の推移)を見れば明らかであるが、二〇〇八年リーマン・ショックで打撃を受けた企業は、リストラや賃金抑制を進めて急回復し、豊かな内部留保資金をもってアジア太平洋諸国での対外買収に打って出ている。
 アジアでは、アメリカの量的金融緩和の縮小などで短期マネーが流出しているのに対応し、インドネシアやベトナムなどが、外国資本の投資規制の緩和に動き出している。また東南アジア諸国連合(ASEAN)では、ASEAN経済共同体(AEC)発足があと二年に迫り、域内関税撤廃やサービス分野での相互参入規制の緩和などが、先んじて進んでいる。
 日米欧やBRICSなどの巨大資本が、これを商機として権益を確保するために、しのぎを削る競争を展開している。アメリカに至っては、アジア権益確保のために、TPPなどによって自己に都合いいルールを確立しようと強権を振るっている。
 海外資本受け入れ諸国内においては、低賃金と無権利、不安定雇用に対する労働者の反撃が成長してきており、軒並み賃金上昇が続いている。このような中で、労働者階級の反攻を押さえ込み、いかに資本間抗争に勝ち抜いていくのかが、企業にとっての重要課題として浮上している。
 昨年夏、スズキ経営陣は二〇一二年のインドでのスズキ子会社での暴動を振り返って、「労使協調こそが重要」「階級意識の払拭がカギ」と述べている(『日経新聞』二〇一三年八月)。激しい資本間抗争に勝ち抜いていくために、労働者階級の一部を飼いならし、動員していくことが、資本家にとっては極めて重要な関心事なのである。
 他方で、権益の暴力的・軍事的防衛も不可欠である。日本資本のアジア権益の拡大と連動し、安倍政権の戦争国家化も、急ピッチで進んでいるというわけである。このような背景の中で、経労委報告を読み解くことが必要である。

 ●2章 経労委報告がめざすもの

 経労委報告は、第一章で、好転する経営環境と今後の政策課題について述べ、とりわけ「雇用・労働市場の改革」において、非正規雇用が社会的問題となっていることを意識し、真っ向から反論を行っている。いわく「家計補助的な主婦パートが、非正規雇用労働者全体の30%を占めている」「(非正規雇用労働者増加の)内訳を見ると、六十歳以上の非正規労働者が約92%占めている」と。そして「正規雇用と非正規雇用の二極化論から早急に脱却」し、解雇権濫用法理(労働契約法第一六条)では正社員と同列視されない(要するにクビ切り自由の)「勤務地等限定社員」を活用することを明らかにしている。
 またアベノミクスによる「世界で一番ビジネスのやりやすい国にする」という労働政策を背景に、労働時間制度改革(残業代ゼロ制度)や、最低賃金の見直し(中央最低賃金審議会による目安の意義の喪失、産別特定最低賃金の廃止)なども主張している。
 非正規雇用問題は、不安定雇用と低賃金の温床となり、若年・女性労働者を中心に労働者の雇用・生活を破壊してきた。「痛みを伴う改革」とも言われてきたが、日本経団連は「好転する経営環境」を主張しながら、この不安定・低賃金雇用を恒常化する「限定正社員」制度の導入へと歩を進めている。のみならず、裁量労働制の拡大によって残業代ゼロで長時間労働を欲しいままにし、またこの数年、最低賃金が上がり続けたことを嫌って最賃制廃止を求めている。おまけに、「改正労働契約法の無期転換ルールへの対応」と称して脱法指南(六ヶ月間のクーリング期間のチェック)をする有りさまである。
 経労委報告では、非正規雇用の中心は女性の家計補助パートだから何の問題もないと、低賃金・不安定雇用の拡大に開き直りながら、第二章では、女性の活躍推進を恥ずかしげもなく掲げている。ここに典型であるが、資本家たちは、労働者階級全体を差別分断し、年収百万・二百万の明日の雇用に脅える食うや食わずの労働者を大量に作り出し、これらを「家計補助労働者」としてキッパリ切り捨てて、労働組合を持つ大企業労働者に、経営のパートナーとなれと呼びかけているのである。
 第三章「一四春季労使交渉・協議ちんに対する経営側の基本姿勢」の冒頭に述べられているのは、「労使パートナーシップ対話」である。「企業にとって労働組合や従業員は、いわば同じ舟に乗るパートナーである」とまで述べている。労使一体化して激しい国際競争の時代を勝ち抜き、日本資本の権益拡大戦に乗り出そうと主張しているのである。
 しかし、パートナーの中味たるや、まさに賃金奴隷にふさわしいものである。賃金は、生産手段を持つ資本家と、労働力以外に何も持たない労働者の間にかわされた売買契約によって支払われる。賃金は、労働力の生産・再生産の費用と釣り合うものである。そして不変資本(工場や原材料)と可変資本(労働力)をもって、資本家は生産や販売に乗り出し、そこから生まれる剰余価値を自分のものにする。しかし経労委報告は、「総額人件費のパイ(原資)は、企業が生み出す付加価値」だと主張する。しかも厚かましく、「内部留保を確保しておくことは企業の持続的成長に不可欠」だと、あらかじめ除外することを主張する。労働者が作り出した利潤から、設備投資や海外M&Aのための内部留保を取り、高額な役員報酬を取り、株主配当を取り、それで残ったものが人件費の原資だと言うのである。
 現代の生産・流通は、社会全体を組み込み、複合体のように絡み合って存在している。中小零細諸企業の圧倒的多数の不安定・低賃金労働者たちを、生存費以下に買い叩きながら、大企業の利潤はあげられている。その犠牲の上に、余ったら少しだけの分け前をやるから、従僕のように働け、というのが「パートナー論」である。過労死防止の割増賃金率に対しても、「労働時間削減も見込めず、総人件費の増加だけをもたらす」と、反省のかけらもない厚顔ぶりをさらけ出している。
 このような非人間的な本性を露わにしながら、経労委報告は、熾烈なグローバル競争を勝ち抜くために、新たな付加価値を生み出し続けよ、その最も重要な経営資源が人材―労働者だとムチを入れるのである。そのエサとして、賃金制度の見直しをちらつかせながらも「六年ぶりのベースアップ容認」が主張されているのである。

 ●3章 階級的労働運動の再建、横並び春闘再生が課題

 経労委報告は、「労働組合が実力行使を背景として、賃金水準の社会的横断化を意図して闘うという意味での『春闘』は、もはや終焉している」と述べているが、労働者階級の雇用・生活破壊、そして権益争いの消耗品としての動員という、資本が生み出す非人間的で悪辣な状況を打ち破り、人間らしい暮らしと働き方を実現していく道は、労働者の階級的連帯戦によって、横並び春闘を新たに再生していくこと以外にはない。「多様な働き方」は、社会横断的な均等待遇原則、同一労働同一賃金、同一価値労働同一賃金をたたかいとることなく、決して労働者にとって有利には働かないのである。
 資本家階級が、奴隷的労働を強めるために進めようとしている派遣法改悪、限定社員制度、残業代ゼロ制度、最低賃金制度廃止などを打ち破り、企業や雇用形態を越えた大幅賃上げ・権利拡大を一四春闘で実現していこう。


 

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