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   新捜査手法導入を許すな

       
密告・スパイ、盗聴、黙秘権破壊


 
 ●1章 戦時司法への転換、刑訴法改悪攻撃

 五月十九日、衆議院において「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」の趣旨説明が行われ、審議入りした。安倍の戦争法案一括提案の陰で成立を目指そうとするものだ。
 この法案は暗黒の刑事司法への大転換を図る、反人民的で許し難いものだ。「新時代の刑事司法=新たな捜査手法の導入」という名目で司法取り引き(密告・スパイ制度)や通信傍受の無制限化、黙秘権の破壊、被害者情報秘匿をもって法廷での反証をできなくするなど、検察・警察に多大で絶対的な権力を与え、裁判を茶番化しようとするものである。独立した司法の下で裁判を受ける権利や、法廷での反証の権利、住居の不可侵など「憲法」上の権利をことごとく破壊する、戦争法案と一体の攻撃だ。
 小泉政権時の司法改革は弁護士自治の破壊を頂点として、弁護活動を骨抜きにするものであった(裁判員制度と被害者家族の検察官化、公判前整理手続き、法テラスの設置と弁護士の支配と大増員=競争化など)。この土台の上に、今回の改悪案は司法そのものを破壊する。検察・警察の恣意で犯罪と犯人がデッチ上げられ、暴力捜査が公認される。裁判官・裁判所は、この弾圧の追認機関になる。「法治」国家でなく、権力の恣意による恐怖支配国家=戦時暗黒司法への転換である。
 次にもくろまれている「共謀罪」、携帯端末のGPS位置情報の解禁、そして施行が近づいているマイナンバー制度で、労働者階級人民の生活の全てを権力が掌握し、反攻の芽を監視、必要に応じて際限ない犯罪のデッチ上げと投獄が可能になる。

 ●2章 わずかな「可視化」と強権的捜査の合法化

 そもそも、今回の「新時代の刑事司法」は、厚生労働省元局長・村木厚子さんが犠牲にされた「障害者郵便制度悪用事件」のデッチ上げに端を発した冤罪防止を巡る論議を、「取り調べの可視化」に狭めすり替え、大きく瞞着した悪辣なものだ。
 二〇一〇年、大阪地検検事が証拠をねつ造した事が発覚。検察・警察への不信、批判が巻き起こった。その一年前には、足利事件で服役中の菅家さんに無罪判決が、二〇〇七年には志布志・氷見事件に続けて冤罪無罪判決が出た。もはや、「障害者郵便制度悪用事件」だけの過ちでは済まなくなった法務省は、「検察の在り方検討会議」を作らざるを得なくなった。そこで、最高検が再犯防止策として(特捜事件の)「取り調べ可視化試行」を提示し、自ら一部実施したのである。
 そして、この鳴り物入りの「可視化」をかかげ、法曹関係者だけでなく文化人、冤罪被害者村木さん、冤罪を扱った映画監督などを迎えた法制審議会特別部会での論議を宣伝したのだった。
 ところが、法務省は当初から「一部の事件だけ、検察の調べだけ、部分的にだけ、警察は裁量で」などと、スタートラインを限りなく後ろに引いた。警察など捜査機関側は端から「可視化すれば容疑者から供述を得られにくくなる」と抵抗し、多くの冤罪を居直っていた。法務省―検察、警察は、このように冤罪の温床である「取り調べ供述、自白中心」の立証手法を明け渡すつもりはなく、むしろ、密室の「取り調べ」でより多くの「デッチ上げ立証」を可能とする「新たな捜査手法の導入」をねじこんできた。
 改悪案はごくごく一部の「可視化」と引き換えに、司法破壊の強権的で恣意的な捜査を合法化しようとする。審議会関係者自らが「焼け太り」と言うほどの、デタラメな議論運営が行われた。
 村木さんをはじめとした「可視化」を求めて委員になった人々を裏切り、その名を徹底して利用したのである。わずかな「証拠開示の前進」などで、このひどい答申案を了承した弁護士会の委員も批判されなければならない。また、秋田や兵庫などの弁護士会は、当然といえる「抗議声明」を出しているが、日弁連は「一日も早い法の成立を希望する」なる会長声明を出す信じ難い体たらくなのだ。
 怒りを禁じえないのは、数々の冤罪の物質的背景にある一番重大な問題―代用監獄制度を最初から審議対象から排除して、審議会の「議論」を装い、誘導したことだ。冤罪の防止、拷問的取り調べの防止、黙秘権の自由な行使が保証されるためには、可視化は極めて小さな一部でしかない。全面的な弁護士の取り調べ立ち合いや、外部との完全な交通権の確立がなければならない。
 そもそも批判された「密室の取り調べ」のよる数々の冤罪は、代用監獄制度の下でこそ行われたのだ。冤罪―自白の誘導は留置場の過酷な取り調べ環境の中でつくられる。二泊三日を過ぎても、身柄を拘置所に移さず劣悪な警察留置場に留め置き、衣食住や外部との交通全てを取り調べ官が掌握する中で、いわば、権力の掌中で自白を強要されるのだ。起訴後まで、転向や、自白・密告のために留め置かれることもいくらでもある。弁護士の接見ですら「取り調べ中」との理由で拒否されることもしばしばなされているのである。
 本来は、拘置所で、取調べと関係の無い官吏の下で生活し、弁護士も取調官(刑事、検事)も同じ条件で被疑者と接見するはずなのだ。この代用監獄制度を問題にすることない「可視化」は欺瞞そのものである。
 改悪案の本質はこのように「可視化」ではなく、「新たな捜査手法」の導入なのだ。
 まず、うそと欺瞞の「可視化」自体はどうなっているのか。一部の事件(2%)だけに適用され、かつ、「捜査官の判断」で「取調べ」が録音録画されるというものだ。例外規定だらけだ。
 その「捜査官の判断」とは、その録画録音が法廷で立証に使えるかということだ。つまり、「自白」場面を録音録画するということだ。権力を監視する「可視化」ではなく、権力の有罪立証に使われるのだ。「一部でも可視化が進むのは防御権の前進につながる」という評価はまちがいだ。全く逆の「有罪の証拠」として録音録画が行われるのだ。

 ●3章 司法取引導入はデッチ上げ弾圧拡大する

 次に、司法取り引きが初めて導入されることだ。しかも、自分の犯罪についての司法取り引き「自己免責型」ではなく、他人の犯罪についての協力で取り引きする「捜査・公判協力型協議・合意制度」だ。要するに、密告で罪が軽くなる。経済・財政事件、組織犯罪事件が対象とされて、最終的には弁護士同席の下で、供述や証拠を提出し合意書面を作ることになっている。
 しかし、単なる報奨制度ではない。また、無責任に罪が軽減されるような甘いものでもない。
 司法取引が捜査官(検察官および指示された警察官)から持ちかけられる現場はどのようなものか。対象事件は今回の2%の「可視化」の事件ではない。録音も撮影もされない中で行われる。どのような甘言や脅し、利益誘導がおこなわれて証言や証拠が被疑者から引きだされたかは見えない。捜査官が「これは使える」と判断した場合「協議・合意」が初めて弁護士立ち会いで行われ、取り引きが成立する。
 取り引きも密室で捜査官主導で行われる事には変わりがない。つまり、利益誘導しながら捜査官の思うような証拠・証言がいくらでも捏造ができるということだ(逆に考えれば、被疑者がどんなに取り引きを望もうとも、捜査官が必要としなければ成立しない)。あくまでも、捜査官の都合の良い立証に使われるのだ。
 さて、合意が成立したとしよう。そうすると、その他人の事件の裁判が終わらないと証言者の「取り引き利益」は得られないので、その期間は「合意」の下で拘束され続ける。証人として出廷し、その他人(友人かもしれない)の前で証言したりしなければならない。このような中で、取り引きを後悔して、証言を曖昧にしたりしたら「虚偽供述罪」(五年以下の懲役)が課せられてしまう。つまり、いったん合意したら、ある一定の期間、捜査官の支配下に完全に置かれてしまうのだ。合意を維持しつづけること、捜査官に都合の良い、迎合的な態度が強制される。このような状況下での他人の犯罪についての証言は、冤罪と捜査官によるデッチ上げの温床になることは容易に想像できる。
 これまでも、事実上の利益誘導で被疑者から他人の犯罪について、証言をとることが行われてきた。また、被疑者でもない単なる参考人や証人がしつこい脅迫的な調べで、事実と違う証言をしてしまった例は冤罪事件でたくさんあった。
 さらに重要なことは、「共犯者」や同じ組織グループの他人について、この取り引きが強要されることだ。たまたま知りえた他人の犯罪についての司法取り引きは実際は稀だろう。これは、もっぱら組織破壊に使われる。裏切りと組織不信を広げ、組織の密集力を解体するのが目的だ。たたかう組織や、労働組合などの弾圧に常用されることは目に見えている。仲間や組織に弾圧をひろげ、その本人も徹底的に潰してしまうのが目的だ。
 何も「犯罪をした覚えのない人」こそ、申し開きをして、「罪」から逃れようとするのが一般的だ。組織やグループの周辺の人を狙って、軽微な罪で捕らえ、脅しで司法取り引きを持ちかけ、組織的な犯罪をでっち上げる、このような事も充分起こりえる。対象となる経済事件では、汚職、公務執行妨害、文書偽造、詐欺罪、恐喝罪などがある。組織的犯罪では爆発物取締り法、薬物、銃刀法などがある。これらは、たたかう組織への弾圧でつかわれてきた「罪」だ。労働組合の抗議は「恐喝」で、活動家がアパートを借りたら使用目的外使用(事務所として使ったとデッチあげる)の「私文書偽造」とされた例もある。司法取り引きで「犯罪」そのもののデッチあげがいくらでも行われるようになるのだ。
 もうひとつ、「刑事免責制度」も導入された。これは証人(被疑者となっていない人)に刑事責任を追及しないと約束して証言を得ることだ。これも、司法取り引きと本質は同じで冤罪とデッチあげのための密告制度だ。
 これを打ち破るのは、完全黙秘のみであることを再確認しよう。

 ●4章 盗聴の無制限的拡大が狙われている

 次に通信傍受の飛躍的な拡大が行われることだ。
 二〇〇〇年施行の「通信傍受法」は裁判所の令状で組織的殺人、銃器、薬物、集団密航の四種の犯罪に限り、かつ、NTT職員などの通信事業者を立ち会わせることで電話やメールの傍受が出来ることになった。答申では、この二つの制限を大きく取り払い、捜査機関のしたい放題になる。
 対象犯罪は、先の四種に加えて「組織性が疑われる放火、殺人、逮捕監禁、誘拐、詐欺・恐喝、爆発物、窃盗など九種」が加えられ拡大された。そして、通信事業者の立会いは必要なくなった。音声データを暗号化したものを受け取り、警察署内の特殊な機械で聴くことができるのである。
 そもそも、「通信の秘密」は憲法の基本的権利であって、「通信傍受法」自体が本人の知らないところで人々のプライバシーを破壊し、情報を盗み取る許しがたいものだ。対抗手段が取れない捜査手法であり、裁判の公正からいっても、本来違法なものだ。
 これまでの「傍受法」の四種の「犯罪」はいわば特殊といえるもので、年間十数件の令状しか出されていない。拡大された対象犯罪をみると、特殊なものでなく、非常に幅広いものだ。事件数も桁違いに多い「犯罪」だ。捜査側は、わずかでもこれらの「犯罪」容疑の根拠を示せば、令状をいくらでも得ることが出来るのである。近年、裁判所は請求された令状を乱発する機関になっている。逮捕令状、捜索令状などの発布にストップがかかる事はほぼ無い。このままで行けば、通信傍受の令状も安易に出される。
 社長が労組との団体交渉の場面を「逮捕監禁」「恐喝」と訴えたとする。それを容疑の根拠に通信傍受の令状を取り、その内容から通信相手の傍受の令状を取る。ついには組合員全員の通信を傍受するというようなことが可能になる。「詐欺」や「窃盗」も捜査側にとっては使い勝手の良い幅のある「犯罪」だ。
 そうして、裁判所が令状を出した「通信傍受」はその「容疑の解明」のための法廷での証拠となる。しかし、それ以外の裁判とは直接関係しない膨大な情報を捜査官に与えることも大問題だ。
 趣味、家族・交友関係、悩み事、経済的事情などなど、中には問題を抱え困っている事情などもあるかもしれない。捜査官はこれらの情報を集積して、その裁判以外でも都合の良い時に使うだろう。人の弱みに付け込む材料にするだろう。
 法制審議会の議論で捜査側から出されていた「会話傍受」は答申案から除外されたが、答申案付属の「今後の課題」には銘記されている。「会話傍受」とは、事務所や家の中に(当然、忍び込んで)盗聴器を仕掛け、会話をダイレクトに盗聴すると言うものだ。法案が成立すれば次はこのようなとんでもない「課題」が出されてくるのだ。
 現在でも、さまざまな通信技術の発達で、傍受や盗聴が行われている。かつて、某党の人が盗聴器を発見して問題化したことがあるが、当時より、技術は比べ物にならないくらい進んでいる。
 建物の外から、内部の音を拾うことなどもできる。
 法が成立したら、今も行われているこのような非合法な情報収集も促進されるだろう。
 通信傍受・盗聴は、起きた「犯罪の解明」だけに使われるのでなく、それ以降の組織弾圧のため、それ以降の「犯罪」のために使われるという両面がある。むしろ、後者が法改悪の本質なのである。
 そして、三度めの共謀罪が準備されていることとの関連性も見る必要がある。共謀罪は起こっていない「犯罪」の二人以上の団体による共謀だけで「罪」となる恐ろしい法だ。その共謀行為は文書でなくても、会話でも成立する。つまり、共謀罪にとって、通信傍受は不可欠なものだ。この二つが合法化すれば、何もしていなくても、会話だけで逮捕―起訴―収監ができる。共謀罪ともども、通信傍受の拡大を葬り去ろう。

 ●5章 「証人保護」を名目とした証人の匿名化

 さらに、「被害者保護」を進めるという名目で、証人も「保護」し、匿名化することが盛り込まれている。二〇〇〇年から、性被害者の法廷での訊問に別室での「ビデオリンク」方式が使われてきた。被害者の恐怖を軽減するためとされ、三者の協議によって採用されてきた。性犯罪被害者の氏名なども、公開される法廷の場では伏せる事も行われてきた。被害者を守るということだ。
 しかし、今回の答申では証人の氏名住所なども「危害が加えられる恐れ」があれば検察は相手に伝えなくても良く、裁判所が法廷で伏せることも可能にするというのだ。その証人が明確に被害者であることは要件ではない。全く恣意的な検察の判断による「危害の恐れ」なのだ。
 検察側証人の名もわからず、利害関係者かどうかも解らないまま法廷での証言を迎える。そこでも、名を伏せられ、場合によってはビデオリンクで顔も隠されたままの証言が通用することになる。被告人側は、証人「不同意」の理由を見つけることが出来ず、検察の言うままの証人採用となるし、法廷での反対尋問の材料も無い。このような状態で法廷で争うことができるだろうか? 証人が司法取り引きで証言している場合も、その事実すら解らないのだ。
 「危害が加えられる恐れ」というのも変な話だ。そういう危惧を抱く人はこれまで証言を断ってきたはずだ。したがって、危害は少なかったはずだ。ここで「保護」される証人とは報復が強く予想される密告者だ。「暴力団関係の内部協力者を保護する狙い」と正直に言うように、内部協力者=スパイの「保護」なのである。
 そもそも「証人保護」とはよけいなお世話で、スパイ保護のためのごまかしだ。
 われわれは被告とならない限り裁判にかかわることを拒否できる。証言しないことや、被害にあっても告訴しないことまでも自由に選択できるはずだ。逆に、リスクを覚悟で告訴したり、証人に立ったりもするのだ。裁判へのかかわりは、人の自由な社会的活動のひとつだ。一方的制度的に「保護」されるべき活動ではない。
 裁判員裁判の導入とセットで、「被害者の保護」や「被害感情」が宣伝され、被害者やその家族の検察側からの訊問が採用されている。裁判員に「被害感情」を強く訴え、重罪化を進めてきた(実際、裁判員が検察求刑以上の判決を出したこともある)。
 「組織的犯罪のスパイ」ではなくても、身元を伏せての無責任な証言を進めることは、被告をただただ断罪する魔女裁判にしてしまうことだ。
 戦後日本の裁判制度はブルジョア法の枠内の限界があるとはいえ、「私的報復」を排し、社会ルールの下で「罰」を与えることだったはずだ。「私的報復」はどんな理由や被害感情があっても、それ自体「犯罪」である。社会的制裁であるからこそ、そのために刑法と刑事訴訟法が定められ、国家権力に対する弁護の権利と弁護士自治制度がある。さらに言えば、法廷で公正な裁判をすることにより、個人の資質でない「犯罪」の社会的要因を解明し、より公正な法整備につなげるということだ。こうした「戦後民主主義的」な裁判制度は、小泉「司法改革」と今回の「刑事司法改革」で大きく解体されようとしている。共謀罪新設や、全体的な重罰化、特定秘密保護法とも相まって、戦時下の司法への大改変だ。反戦運動、労働運動、階級的な組織の壊滅をするための暗黒の司法への転換を大反対運動で阻止しよう。

 

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