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   2016春闘

    
経営労働政策特別委員会報告批判
  
     


 二〇一五年十二月十二日、二〇一六けんり春闘がスタートを切り、年明けて一月四日、通常国会開催にあわせた戦争法廃止総がかり行動から今年のたたかいが開始された。
 一方、経団連など経済三団体は一月五日、新年祝賀会をおこない、大企業トップが「賃上げはデフレ脱却の牽引役」などの発言を軒並み行なった。また、日銀総裁・黒田東彦は、連合の新年交歓会に出席して、賃金交渉に強気で対応するよう促す異例の挨拶をおこなった。
 時代の転換点をどのように切り拓くのかをめぐる春季攻防が始まっている。

  ●1章 二〇一六春闘をとりまく状況

 海外の主要メディアでは昨年来、アベノミクスの「失敗」「終焉」がささやかれてきた。景気浮揚をめざす安倍政権は、拡張的な財政政策をおこない、「成長戦略」として公的年金の株式運用比率を50%まで高めることをもって、株価を維持するというバクチまでうった。しかし、内閣府が昨年十一月に発表したGDP速報値は、2四半期連続でマイナスとなった。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、「(マイナス)は過去七年間で五度目、安倍首相が政権に返り咲いてから二度目のリセッション(景気後退)」と報じ、「今こそ抜本的に再考しなければならない」と警告をおこなっている。
 二〇一六年年頭の資本市場は大荒れとなり、日経平均株価は大幅下落となった。これらの結果、財政赤字は千三百三十六兆円(一人当たりで一千四十七万円)に膨らみ、公的年金基金が八兆円の損失となったことは記憶に新しい。この数年、独占大企業は利益を拡大し続け、内部留保を膨らませて批判を浴びてきたが、それらの企業業績も急減速し始めている。
 国内では、厚生労働省が「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(二〇一五年十一月四日)で、非正規雇用労働者が就業人口の四割を超えたことを明らかにした。年間平均賃金額は二年連続で上がっているが、表1「所得金額階級別・世帯数相対度数分布」(国民生活基礎調査)をみれば明らかなように、平均所得(五百二十八・九万円)より中央値(四百十五万円)が百万円以上低く、平均以下の世帯比率は全体の六割を超えている。
 すなわち周辺正社員化や非正規雇用化が進み、低所得世帯が増加し、平均所得は高所得層によってかさ上げされている状態が明らかとなっている。これを固定化するような派遣法改定が二〇一五年秋には行なわれ、臨時的・一時的労働であった派遣労働が、企業にとっては恒常的、労働者にとってだけ一時的なものへと抜本的な性格変更がおこなわれた。
 円安の影響を受けて、消費者物価は上がり続け、実質賃金は減少し続けている。さらに二〇一七年四月には消費税増税が待ち構えており、ささやかな預金にもマイナス金利政策が襲いかかろうとしている。もはや圧倒的多数が、このままでは生活していけない我慢の限度に近づきつつある。

  ●2章 経営労働政策特別委員会報告が示すもの

 今年の経営労働政策特別委員会報告(以下、経労委報告)のテーマは、「人口減少下での経済の好循環と企業の持続的成長の実現」である。
 前述の状況を背景に、経団連は「企業の持続的成長=利益確保」を最重要課題に、今春季攻防に臨もうとしている。彼らにとって、「経済の好循環」とは、あくまでも「企業の競争力強化による成長と発展」であり、そのために国の政策的支援を公言してはばからない。企業減税、被災地での投資環境整備、原発再稼動のプロセス加速、消費税引上げ、社会保障削減、TPP遂行などだ。これが柱の一つである。
 二つには、春闘での基本スタンスを「二〇一五年を上回る『年収ベースの賃金引上げ』について、前向きで踏み込んだ検討が望まれる」と明記した。しかし、これには二重三重のからくりがある。
 まず中小零細企業の賃上げには、「支払い能力に基づかない要求……は、……労使交渉の妨げになるだけではなく、自社の労使関係に悪影響を与える」と、大企業による下請け値下げ圧力に開き直って、バッサリと切り捨てた。
 非正規雇用に至っては、「労働市場の需給関係の影響を強く受けるものとの認識を労使で共有」すべきと、賃上げの対象から除外した。
 賃上げの対象は大企業本工に限られているが、「収益が拡大した企業」に限定したうえ、月例賃金の引き上げ(ベースアップ=ベア)は選択肢の一つとする消極的な姿勢である。
 安倍政権が音頭を取り、「賃上げはデフレ脱却の牽引役」等と踊るふりをしながら、独占大資本の財布のヒモはしっかりと締められている。挙げ句の果ては、内部留保からの賃上げ論を厳しく批判し、「(内部留保は)持続的成長・競争力の強化に不可欠な『成長投資』のための貴重な資源」として、労働者の取り分ではなく企業の取り分であると「正しい理解」を求める有り様である。
 三つには、賃金を上げたければ、本工労働者(労働組合)は経営と一体化して、生産性向上に取り組み、総額人件費管理をおこなうことを強く求めている。下請け・中小零細や非正規雇用労働者などの相対的下層労働者を安く買い叩き、企業業績を上げよ、である。
 マスコミは「官製春闘」などと揶揄しているが、これは「春闘」でも何でもない。二〇〇三年の経労委報告は、「横並び春闘は終わった」と宣言した。その延長上に、今年の報告もある。
 報告では、集団的労使紛争が減少し、個別労使紛争が高止まりしているとして、法制度の整備や行政の解決能力を求めている。昨秋に引き続き、労働時間制度改革の推進(残業代ゼロ法)、改定労働者派遣法の徹底(「みなし雇用制度」の骨抜き)、特定最低賃金(旧産業別最低賃金)廃止など、労働法制改悪を進め、ますます労働組合の集団的労使対決の側面をそぎ落とし、労働者の個別化・アトム化を促進しようとしているのである。
 四つには、法人税減税、非正規雇用拡大等によって、利益構造を高めてきた独占大企業は、さらには法定福利費の削減に手を付けようとしている。
 非正規雇用の拡大と貧困化が進む中で、社会保険制度の担い手である正社員が減り、また企業の組合管掌健康保険の解散も相次ぎ、社会保険制度を支えてきた基盤が大きく揺らいできた。国民健康保険はすでに大幅赤字となっており、これを側面的に支えてきた社会保険制度の維持のため、保険加入対象者の拡大(現行週三〇時間以上から週二〇時間以上に適応拡大)や保険料上限・料率の増加が進められてきた。
 この保険料は労使折半で負担となっており、これを不満とする経労委報告は「付加価値と無関係に総額人件費が増加している」と、「社会保障制度改革の断行を強く求める」としている。
 すでに介護報酬減額と介護保険制度改悪で先取りされているが、保険料増額・重度者への重点化・圧倒的多数の要支援者の切り捨てなど、かつては国費で賄われていた措置制度を保険料で賄い、それ以外には「保険料あってサービスなし」という状態が進められようとしている。社会保険制度においても、三割負担の増大や補助制度の削減などによって、社会保障を支える企業の責任を放棄し、企業負担をなくそうとしているのである。
 最後に、こうして企業体力を高めながら、報告は、「国内市場が収縮していく中、旺盛な需要獲得のための海外進出は今後も進展し、海外事業の重要性はいっそう高まる」としている。
 二〇一四年度の直接投資収益(海外現地法人の収益)は、過去最高の約七兆二千億円に達した(表2)。大企業の経常利益のますます多くの部分を占めようとしている。海外でのこれら企業権益の軍事的防衛が長らく独占大企業の懸案事項であったが、昨夏、戦争法案が可決され、ひと安心ということで、今後の重要課題としてうち出されている。
 以上に見られるように、美辞麗句で修飾されてはいるが、資本家階級は、より一層の利益を求め、戦争と貧困・格差の沼地へと労働者民衆を引きずり込もうとしている。
 この政治的代理人である安倍首相は、施政方針演説で改憲論議の呼びかけと合わせ、「同一労働同一賃金」をうち出した。非正規雇用労働者の低賃金をおもんぱかるふりをしながら、実際には、正社員の定期昇給制度や福利厚生費を削ろうとするものである。ヨーロッパの産業別労働運動の団結基準としての「同一労働同一賃金」「同一価値労働同一賃金」とは、まったく似て非なるものであり、生活賃金要求を良しとしない資本家階級が、賃下げのために、事あれば持ちだしてきた代物である。

  ●3章 二〇一六春闘を闘い、階級的反撃を推し進めよう!

 連合は、二〇一六春季生活闘争方針(二〇一五年十一月二十七日)において、「日本経済の『底上げ・底支え』『格差是正』」を打ち出し、「それぞれの産業ごとの……最低到達水準・到達目標水準を明示し、社会的な共有に努める」ことをうち出した。しかし、「(既存)経済の好循環」や原発再稼動など資本との親和性が高い大企業労組も多く、また自動車では、非正規雇用労働者の処遇改善ではなく、格差が広がらないよう賃上げを抑えるなど、的はずれな対応が起こっている。
 独占大企業と連合・大企業労組の一部による、生産性向上と総額人件費管理を軸にした企業の持続的成長というエセ春闘路線と分岐し、その犠牲となる中小零細、非正規雇用労働者など現在の労働者大衆の横断的社会的利益を獲得するための、二〇一六たたかう春闘・連帯春闘をともに切り拓いていくことが必要である。全国のたたかう労働組合との協同・連携を強め、二〇一六春闘を通して階級的労働運動の再生を推し進めよう!


 

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