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   2015年中学校教科書採択攻防の特徴

    
日帝―文科省・育鵬者一体の「つくる会」教科書採択許すな
  
     


  ●1章 安倍政権の教科書攻撃

 第二次安倍内閣は戦争する国づくりに向けて「教育再生」を重要な課題として位置づけ、グローバル資本主義が要求する人材の育成と戦争する国の「国軍兵士」育成などをめざして次々と「教育再生」(戦後教育の破壊)を推し進めてきた。
 その第一が教科書検定基準の改悪であり、見解が分かれる南京事件や慰安婦問題などは記述しないこと、政府見解や最高裁判例を書くことなどを検定の基準に据え、実質的に「近隣諸国条項」を骨抜きにして「国定教科書」へと教科書を変質させるものである。
 第二に戦後の教育委員会制度を根底から見直す地方教育行政法の改悪である。新たに総合教育会議を設け、教委の独立性を奪い首長が地方教育行政大綱的な方針を示し、教育委員会を首長の付属機関にするという転換である。
 そして第三に出てきたのが道徳の教科化だ。道徳を「特別の教科」に格上げして正規の教科とし教科書をつくり、評価する。高校に対しては「公共」を正規の教科に格上げして道徳教育とするのである。戦争をする国民づくりの中核に据える教科である。
 こうした攻撃の下で昨年行われたのが中学校の教科書採択であった。文科省は二〇一五年一月二十九日、「教科書採択の留意事項について」を配布し、「調査員からの報告等を鵜呑みにせず」教育委員のお好みで採択せよと通達した。続いて四月七日に調査員からの報告等の選定資料に基づかず、教職員の評定などを無視して、教育委員の独自の評価で決定する採択を促す「平成二十八年度使用教科書の採択について(通知)」を出して、教育委員の「お好み」で採択することを求めた。まさに安倍政権=文科省と育鵬社及び教育再生機構などが一体となり、「つくる会」教科書の採択を促す体制が作られた。

  ●2章 昨年の教科書採択の結果について

 昨年の中学校教科書採択で育鵬社教科書の採択率は、歴史で6・3%(前回3・7%)、公民で5・7%(前回4・0%)となった。 当初「10%をめざす」と豪語していた「日本教育再生機構」「教科書改善の会」は声明を出し、文科省の制度改革を通じて10%をめざしたが無理だったと認めた。以下昨年の採択の特徴を見ておく。

  ▼1節 橋下市長による教育支配が吹き荒れる大阪

 大阪では、東大阪での継続採択に続き、大阪市、泉佐野市、四條畷市、河内長野市で新規採択された。二〇一一年に育鵬社公民を採択された東大阪市では多くの市民が反対運動を繰り広げ、今回は選定委員会答申から育鵬社は外された。しかし教育委員たちは答申を無視して再び育鵬社公民教科書を採択した。ヘイトスピーチを賛美する市長の存在が背景にあった。
 大阪市では橋下市長が採択基準を独自に変え、教育委員を入れ替え、採択区を横浜市のように一区にし、育鵬社が一気に採択されるように条件を整えてきた。日本教育再生機構と密接な関係にある高尾教育委員が主導して育鵬社を歴史・公民ともに採択してしまった。
 この他、育鵬社は四条畷市と泉佐野市で育鵬社の歴史・公民教科書が、河内長野市で公民教科書が採択された。いずれも維新系の市長や自民党右派の市長で、日本会議の活動が活発な地域。これらの地域を合計すると、大阪府内の中学生の18%強、およそ五人に一人が育鵬社教科書で学ぶことになった。

  ▼2節 愛媛県今治市では育鵬社を継続採択せず

 愛媛県では、二〇〇一年県立中学で「つくる会」教科書の採択が始まり、その後〇五年、一一年と県内の市町村教委でも選定資料に基づかず、「採択権限は、教育委員会にある」ことを前提に、委員の多数決(お好み)で決めるという違法な採択がつづいてきた。
 その中心的役割を担ってきた今治市で、教育長が選定資料などに基づく採択を求め、歴史・公民では、東京書籍を採択した。これは地元市民団体による監査請求、住民訴訟など粘り強い闘いの成果。しかし依然として愛媛県立中(歴史・公民)、四国中央市(歴史・公民)、上島町(歴史・公民)、新たに松山市(歴史)、新浜市(歴史)などで育鵬社教科書の使用を継続した。

  ▼3節 尾道市、島根県益田地区など今回不採択、山口県では拡大

 中国地方で前回から育鵬社が増えた広島県では、継続採択したのは呉市(歴史・公民とも育鵬社)のみで、尾道市(前回公民が育鵬社)や島根県益田地区(歴史が育鵬社)では今回育鵬社は不採択。地元の運動が阻止したと言える。
 逆に増えたのは山口県だ。岩国市・和木町(歴史が育鵬社)が継続し、新たに防府市(歴史)、山口県立中(歴史・公民)と拡大した。育鵬社教科書を先頭になって支えてきた安倍首相のお膝元という山口の事情か? 今後地元住民の立ち上がりが待たれる。

  ▼4節 狙われた県立中学

 二〇〇一年「つくる会」教科書が登場して、まず最初に狙われたのは東京都立中学や愛媛県立中学など反動的な知事や議会が介入しやすい都道府県立の学校だった。その延長で熊本県立中学の副教材強制もある。これまで愛知県立中、埼玉県立中、香川県立中などが二〇一一年までに採択してきたが、今回新たに宮城県立中(歴史)、千葉県立中(歴史・公民)、山口県立中(歴史・公民)、福岡県立中(歴史・公民)が採択した。福岡県立中(二校)は九州では初めての採択となる。

  ▼5節 その他の動き

 注目されるのは石川県だ。金沢市(歴史)、小松市(歴史・公民)、加賀市(歴史・公民)で初めて育鵬社が採択された。自民党文教族のドン森喜朗、そして現文科大臣の馳浩など保守勢力の牙城だ。運動の構築が求められる。
 東京都では、前回採択していた大田区と武蔵村山市のうち大田区が育鵬社とは別の教科書を採択、小笠原村が歴史・公民とも育鵬社を採択した。大田区では教育委員会の傍聴を欠かさず、メディアを使った情報発信、全部の中学校入学式でのチラシ配布、市民集会の開催など粘り強いたたかいの成果であった。沖縄では、前回竹富町が採択の違法性をめぐって、文科省とたたかった。その結果竹富町は独自の採択が出来るようになり、分離した石垣市・与那嶺町だけが育鵬社公民を採択した。
 熊本県立中学の副教材裁判は七月十七日に最高裁の上告棄却により、敗訴が確定した。これを受けて熊本県教委は八月末の採択で、前回に引き続き育鵬社公民教科書を県立中学三校で副教材として使用する決定を行った。熊本ではこれに対して再度住民監査請求の準備が進められている。

  ●3章 その後の経過

 大阪市と広島県呉市の採択について、教科書問題に取り組む市民団体が情報公開を活用しながら採択過程の問題点を追及していくことで反撃を開始した。大阪市教委は昨年の歴史・公民の採択会議で、歴史・公民採択の冒頭で、市民アンケートの結果として育鵬社に肯定意見が約七割(七百七十九件)、否定意見が約三割(三百七十四件)と報告し、圧倒的に育鵬社支持が多かったと報告した。
 ところが岸和田市にあるフジ住宅(この会社の今井会長は日本教育再生機構の設立発起人)が大阪市の教科書アンケートに社員を大量動員していることが明らかになったのである。今井会長が「大阪市については教科書展示場にて数多く教科書アンケートを記入していただければ、育鵬社に採択される可能性が高くなる」と社員に伝え、勤務時間中に社員を大阪市の教科書展示会場に動員し、育鵬社推薦のアンケート記入を指示したことが発覚したのだ。
 また呉市の教科書採択においては、意図的な「総合所見(選定委員会答申)」が市教委事務局によって作成され、育鵬社に有利なようにカウントされたという報告がおこなわれていたのだ。登場人物数の数え方がデタラメで育鵬社の数値が水増しされていたり、市の採択規定では「調査・研究員は選定委員と重複できない」とされているにもかかわらず同じ人物がどちらにも入っていたとか、不正な採択であったことが明らかになった。今後育鵬社が採択された他の地域でも同様な不正が追及されようとしている。教科書採択の不正を追及するたたかいはこれからも続く。



 

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