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   戦争準備と一体の労働法制改悪を阻止しよう

    
労働時間規制の破壊に道を開く労働基準法改悪案
  
     


 安倍政権は昨年の通常国会において戦争法(安保法制)を強行的に成立させた。その国会では労働者派遣法の改悪案が審議をされ、九月十一日に多くの反対を踏みにじって採決された。派遣労働の固定化=生涯派遣へと道を開くこの改悪は戦後の直接雇用の原則を大きく転換させるものである。
 労働法制の改悪は安倍政権の悲願である。安倍首相は「日本を世界一企業が活動しやすい国にする」「わたしのドリルで岩盤規制を突き破る」と公言し、戦後の憲法や労働法規で定められていた労働者保護のためのルールを「岩盤規制」として破壊していこうとしている。アベノミクスの第三の矢「成長戦略」の具体的政策だ。派遣法改悪に続いて、八時間労働制を解体する労働基準法の改悪や「解雇の金銭解決」制度の導入などが矢継ぎ早にたくらまれている。ここでは、「高度プロフェッショナル制度」と呼ばれる労働時間規制の緩和を中心にみていきたい。

  ●1章 八時間労働制の破壊をたくらむ労動基準法の改悪案

 昨年四月三日に国会に上程された労働基準法の改悪案は、労働時間の規制を根本から変えてしまうものになっている。その目玉が高度専門職の労働者に残業代を支払わないとする「高度プロフェッショナル制度」をつくることだ。これが第一次安倍政権時の〇七年に多くの労働者民衆の反対を受けて廃案となった「ホワイトカラー・エグゼンプション」(ホワイトカラーの労働者に残業代を支払わないことを合法化する制度)の焼き直しである。文字通り「残業代ゼロ法」「過労死促進法」なのである。

  ▼1節 労基法改悪と特定高度専門業務・成果型労働制

 厚労省が昨年二月十七日に労働政策審議会(労政審。樋口美雄会長)に諮問した「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」では「高度プロフェッショナル制度」について「職務の範囲が明確で一定の年収要件(少なくとも一千万円以上)を満たす労働者が、高度な専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議などを要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする」と明記された。この内容が塩崎厚労相に答申されて法案の基礎となっている。

  ▼2節 「労働時間」から「成果」への転換

 改正案では「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」について、「書面等の方法によりその同意を得た者を当該事業場における(中略)業務に就かせたときは、労働基準法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しないものとすること」として、対象労働者を概ね以下のように設定している。いくつか抜粋して要約してみよう。
 ①高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせる業務(対象業務)
 ②特定高度専門業務・成果型労働制の下で労働する期間において次のいずれにも該当する労働者であって、対象業務に就かせようとするものの範囲
 イ、使用者との間の書面等の方法による合意に基づき職務が明確に定められていること。
 ロ、労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
 ③使用者と労働者代表らでつくる委員会が厚生労働省令で定める労働時間以外の時間を除くことを決議したときは、当該決議に係る時間を除いた時間と事業場外において労働した時間との合計の時間(健康管理時間)を把握する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
 ④使用者は、同意をしなかった対象労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
 この法案の一番の問題は、休憩、休日、深夜に割増賃金の対象外となる労働者をつくることで、戦後はじめて労働時間規制の適用を受けない働き方・働かせ方を合法化する点である。これまで、少なくとも法律上は大企業の管理職でも裁量労働制の適用労働者でも休日や深夜に働けば割増賃金が適用されてきた。この法案では労働時間を「時間」ではかるのではなく、「成果」ではかるのだという。したがってどれだけ長時間働かせても使用者には残業代を支払う義務が発生しない。法律上は一年三百六十五日・二十四時間、どれだけ働かせてもOKということになってしまう。「残業代ゼロ」「過労死促進」へと道を開くものである。
 前記①にある「対象業務」として、さしあたり金融商品の開発、金融商品のディーリング、アナリスト(企業・市場等の高度な分析)、コンサルタント(事業・業務の企画運営に関する高度の考案または助言)、研究開発などに携わる労働者が想定されている。また、②にあるように制度が適用される労働者を一般労働者の平均年収の三倍の賃金を稼いでいる者とし、省令で「千七十五万円」と定めた。安倍首相自身も国会答弁でごくごく一部の労働者にのみ適用されるものだという趣旨のことをいっている。
 しかし、年収要件も対象要件もきわめてあいまいなものであることに着目する必要がある。八五年に制定された労働者派遣法についてみても、当初は十一業種にかぎられていた派遣可能業種がおよそ二十年かけて原則自由化され、製造業にまで拡大されることになった。「小さく産んで大きく育てる」は労働法制改悪を推進する際によくいわれることだ。現在、「高度プロフェッショナル制度」が適用される労働者は4%弱といわれている。財界は適用労働者を10%台にまで拡大させることを要求している。また、年収要件を「四百万円」にまで引き下げることを主張している推進派官僚もいる。今後、年収要件の引き下げや適用業務を営業職などへと拡大していく危険性も軽視することはできない。
 ④についても、制度適用に合意しなかった労働者には解雇などの不利益取り扱いをしてはならないというが、現実の労使の力関係を無視した空論に過ぎない。

  ▼3節 改悪を粉飾する厚労省

 この労働基準法改悪案について厚労省が示した概要には「長時間労働を抑制するとともに、労働者が、その健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するため、労働時間制度の見直しを行う」と書いてある。一見すると労働者のための法改正のような印象を与える。日本の労働者が長時間労働を強いられてきていることは世界的にも問題になってきているからだ。では、そこで提案されている「長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策等」はどのようなものかをみてみよう。以下引用する。
 (1)中小企業における月六十時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
・ 月六十時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する(三年後実施)。
 (2)著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
・ 時間外労働に係る助言指導に当たり、「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」旨を明確にする。
 (3)一定日数の年次有給休暇の確実な取得
・ 使用者は、十日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、五日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)。
 (4)企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正)
・企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組を促進するため、企業全体を通じて一の労働時間等設定改善企業委員会の決議をもって、年次有給休暇の計画的付与等に係る労使協定に代えることができることとする。
 これらは現行法のなかでも十分に実現可能なものである。中小企業の残業代割増猶予措置の廃止については本来なら政府がもっと早く実施しなければならないものだ。そもそも「月六十時間の残業」は過労死ラインである。また、有給休暇の取得促進についてもむしろ「十日のうち五日取らせた」というふうに使用者側のアリバイづくりにされかねない。むしろ労働者が100%有休を消化できる条件をきちんと整備していくべきだ。
 これらの「美辞」はむしろ「高度プロフェッショナル制度」の反動性・反労働者性を押し隠すための粉飾だといえる。安倍首相も塩崎厚労相もこれらの実効性のない対策を口実にして、改悪案を「長時間労働を抑制するためのもの」「労働者の健康確保に資するもの」といった宣伝を行っている。年収要件や対象業務の限定、さらに前記のような粉飾に惑わされず、労働時間規制を大幅に緩和するという全労働者への攻撃という本質を見据え、労働基準法の改悪と「高度プロフェッショナル制度」の新設に反対していこう。

  ●2章 闘争によってかちとられてきた労働時間規制

  ▼1節 長時間労働の放置を居直る財界のキャンペーン

 この間、財界や御用学者たちは労働者が残業代目当てに「ダラダラ残業をしている」というキャンペーンをはって「高度プロフェッショナル制度」を正当化してきた。しかし、実際に「残業代が欲しくて」残業をしている労働者がどれだけいるというのか。仮に「ダラダラ残業」が放置されていたとしたら、それを是正するのは使用者の責任である。
 そもそも残業代とはなんだろうか。
 多くの労働者は職場以外にも、家庭や地域に責任を負っている。職場で賃金労働をしている時間だけがその人の生活ではない。使用者は所定の労働時間が終わったら労働者を賃金労働から解放する義務がある。それにも関わらず、残業(時間外労働)を強いるということは違法行為であり、度が過ぎれば犯罪行為にもなる。残業代の割り増し支払いは「労働者の権利」という側面のほかに、使用者の違法行為への制裁という本質があることを確認しよう。

  ▼2節 メーデーと八時間労働制

 労働者は自らの労働力を売らなければ生活ができない。今からちょうど百三十年前、一八八六年五月一日、アメリカの労働者たちが八時間労働制を要求してストライキに起ち上がった。全米で四十万もの労働者が参加したといわれる。当時は、一日の半分近い十時間を超える労働時間が当たり前の時代だった。「八時間働き、八時間休み、八時間は自分のために使う! それで二十四時間だ!」というスローガンを掲げた。そのたたかいで約二十万の労働者が八時間労働制を獲得した。しかし、運動の拡がりをおそれた資本家・権力は血の弾圧で応え、何名かの労働者が警察に射殺され、組合指導部には投獄され絞首刑にされた者もいた。それでも労働者たちは運動を立て直して四年後の五月一日にはふたたびストライキに決起した。その闘争を記念したのが今日まで続くメーデーの起源だ。
 一九一七年のロシア革命の成果で八時間労働制が初めて国家の法律として明文化された。そして、一九一九年のILO(国際労働機関)第一回総会で、「一日八時間・週四十八時間」労働制を第一号条約に定め、国際的労働基準として確立するに至った。八十七年経つ現在も日本政府はこの第一号条約を批准していない。
 第二次世界大戦とファシズムへの反省として、不安定雇用や低賃金がファシズムの温床になったという認識がイデオロギーの違いを越えてつくられた。戦後は労働時間のますますの短縮が進められてきた。このことは今日においても大きな意味をもつ。日本においても労働者の保護よりも「人的資源の確保」に重点が置かれた戦前の工場法(一九一一年公布)が廃止され、GHQの指導のもとで四十七年に労働基準法が制定された。

  ▼3節 「戦争する国づくり」と労働者の雇用不安定化政策

 日本においては、二〇〇〇年代の小泉―竹中の新自由主義政策によって雇用の劣化がもたらされ、格差・貧困が大きく拡大した。非正規雇用は四割になり(女性労働者においては六割近く)、全労働者の実質賃金も下がり続けている。こうした労働者をとりまく状況の不安定化は社会に深刻な事態をもたらす。長時間労働や低賃金・不安定雇用の増加は、労働者を心身ともに疲弊させて体制側にとって「余計なこと」を考えさせないようにする。長時間労働の強制や雇用の非正規化・貧困化は労働者の問題意識を「外」へとむけさせないようにしてしまう。それは職場や社会のなかに差別や排除、排外主義を容認し、固定化する雰囲気をつくる。これ自体が戦争準備のひとつだ。
 メーデーのスローガンであった「八時間は自分のために」はただ「遊ぶ」ということだけではない(もちろん遊ぶのはわるいことではない)。賃金労働から解放された「自由な時間」として家族や友人と過ごしたり、地域の取り組みに参加したり、文化や芸術にふれたり、さらには組合活動をしたり選挙活動や街頭行動に参加したりと、自分(たち)の今と未来をよりよくするために使う時間である。
 労働法制は戦後最大の危機を迎えている。戦争と新自由主義を推進して、ハードな人民支配体制の構築を急ぐ安倍政権が戦争法と労働法制の改悪をセットにしてきていることには必然性があるといえる。「反安倍」の多くの課題を結びつけて、労働法制改悪と対決することが求められている。


 

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