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   日帝の戦時障害者政策を粉砕せよ

                               
河原 涼
  


 二〇一六年、日帝安倍政権下、障害者に対する戦時抹殺攻撃は、二つの法制の新たな攻撃として障害者にかけられている。一つは、障害者差別解消法の四月施行であり、二つ目は二〇一三年施行された障害者総合支援法の「三年後の見直し」である。

  ●第1章 戦争と障害者をめぐる問題

 二〇一六年四月一日、障害者差別解消法が施行された。この法律は、二〇一三年六月十九日に成立したものであるが、もともとは二〇〇六年十二月、国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)をもとに、日本国内においてこの条約が求める法文化の要請を受けて施行されたものである。二〇一一年障害者基本法を改正し、「障害を理由とする差別の禁止」の「理念」が枕詞的に付け加えられた。
 また、二〇一二年十月一日に障害者虐待防止法(障害者の虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)が施行されている。
 障害者虐待防止法は、児童虐待防止法(二〇〇〇年十一月)、配偶者暴力防止法(二〇〇一年十月)、高齢者虐待防止法(二〇〇六年四月)の施行に続き、二〇一二年になってようやく施行となったものである。
 障害者虐待防止法は、障害者権利条約第十六条「搾取、暴力および虐待からの自由」に基づいて、「あらゆる形態の搾取、暴力および虐待から、家庭の内外で障がい者を保護するためのすべての適切な立法上・行政上・社会上・教育上その他の措置をとることを、締約国に義務付け」(障害者虐待防止法活用ハンドブック 民事法研究会発行)たことを受けてやっと施行された。
 障害者差別解消法は、こうして、障害者にかけられている様々な領域での社会的経済的に理不尽な現実を、曲がりなりにも「変えるべき」との圧力を受け、国内法を整備した上で、二〇一三年四月二六日に閣議決定し、同年六月十九日に成立した。二〇一六年四月一日、施行された。
 しかし、差別解消法が施行されるまでに、いくつもの国内法を新しく整備したり、権利条約に沿った形で改正したりしたその動きにも明らかなように、差別解消法そのものが、現実に何も変わらない障害者の差別の現実に対しては、未だまったく具体的施策を伴っていない。法律そのものが理念のみで構成されており、具体的に差別をどう「解消」していくのかは全く掲載されていない。
 季刊「福祉労働」一四九号によれば、二〇一五年九月二十四日、国連障害者権利委員会へ提出される第一回政府報告(案)が、障害者政策委員会の審議資料として提出された。それに対する評価として条約の各条項に関連する法制度や施策について詳しくふれてはあるものの、条約を評価軸に据えた法制度、政策、実態等に対する分析やそれによって浮かびあがるはずの課題は見えてこない。
 条約実施に関する「事実」についての具体的な情報を盛り込むべきであり、「条約を実施する上でこれらの事実がどういう意味を有しているのか、付属されたデータをもとに法制度の目的から見た達成度や実際的な効果、ないしは法制度と実態との乖離などの事実分析について記載された部分は少ない」とする。(東 俊裕 「国連・障害者権利員会へ提出される第一回政府報告(案)の分析と評価」)
 四月二十八日東京新聞記事によれば、「四月に施行された障害者差別解消法で策定が義務付けられている対応要領を実際に作った全国の市区市町村は、21%にとどまることがわかった」と報道している。
 特に行政に対して、障害者に対して、不当な差別をせず障害者に対する「合理的な配慮」を義務付けている同法が、施行当初から何も効力を発揮せず、ほとんど有名無実化している。
 交通アクセス、就労問題、施設病院など社会的インフラ(社会資本)を利用する際などの平等な待遇、生活上の不利益を被ることに対する平等な保障を求めることは、それとして実現されなければならない。
 差別解消法は、その理念として障害者の「社会参加と平等」を基調としている。
 ノーマライゼーションという考え方は、デンマークにおいて、一八八五年以来の障害者施設による隔離収容、一九三三年ナチス政権奪取直後の断種法施行、一九四〇年ナチスによるデンマーク占領の後、四十万もの障害者断種、不妊手術、数万人がガス室へと送り込まれるという事態の中で、一九五一年以降デンマークにおける親の会の全国組織が結成され、大規模施設による非人間的処遇に対する異議申し立てをおこなったことに端を発する。
 障害者権利条約は、そのような声を受け、国連内での「戦争と障害者」をめぐる問題としても歴史的に論争が繰り広げられてきたものとしてある。帝国主義の植民地への戦争攻撃によって生み出された障害者の人権の問題としてうちだされたのである。
 一定の制約があることはあるが、植民地従属国の障害者を中心に、その議論は反戦争の思想的イメージともかさなりつつ論議されてきた。そうした領域への踏み込みが必要である。

  ●第2章 障害者総合支援法の「見直し」を批判する

 二〇一六年五月二五日障害者総合支援法の修正案が成立した。
 実はその前段において、障害者団体から自立支援法違憲訴訟が起こされている(憲法二五条生存権の侵害 二〇〇八年十月)。
 二〇〇九年年民主党は党公約に「自立支援法の廃止」を約束し、内閣府直属の「障害者制度改革推進本部」が設置された。二〇一〇年一月七日、国との「和解」が成立し、二〇一一年八月十一日「骨格提言」がなされた。
 二〇一二年、当時の野田政権は、「制度改革推進本部」で話されたそれらをほとんど無視した形で自立支援法の名前を変えただけの総合支援法を成立させた。翌十三年四月一日に施行されている。
 今回の修正の中身は、六十五歳以上の障害者が介護保険に移行されるという件については、「所得の状況、及び障害の程度その他の事情を勘案して政令で定める」とする。新聞記事によれば、障害者福祉サービスではなく介護保険に変わるということはそのままで、その際の利用料について低所得者に限り無料とすることなど。障害者の望む改正とは程遠い。
 総合支援法の中の福祉サービスで、地域生活支援事業の要としての「居宅介護(ホームヘルプ)」があるが、介護保険報酬基準の縮減に歩調を合わせて、地域生活支援の「居宅介護(ホームヘルプ)」の報酬は減額となっている。
 障害者福祉サービスの報酬である自立支援給付の財源は全てが税であり支給決定の権限は市町村である。従って市町村ごとの支給格差は拡大する一方であり、相当の部署で支給の抑制が公然化している。
 精神病院での入院患者は、総合支援法の対象外であり、精神保健福祉法での強制入院制度をはじめとした差別精神医療体制下にある。介護保険報酬基準の縮減に同調した意見が巻き起こる中で、精神保健福祉法、総合支援法、医療観察法と連動して、地域、病院、施設、作業所といったところを横断するかたちで監視体制が敷かれているのである。
 新聞報道によれば、精神科病棟における身体拘束を受けた患者は、二〇一三年度一万二百二十九人に上り、十年前の二倍に増えている。差別精神医療は、悪化の一途を辿るのみである。
 精神障害者は総合支援法下、通院時公費負担や、地域生活支援、地域移行支援などが対象となるが、通院時公費負担の関係で言えば、四月厚労省通達により、処方される抗うつ剤の種類が三種類を超えている場合は、二種類以下にせよという通達が、一方的に全国の医療機関に出された。今まで三種類以上服用していた患者は選択権を奪われたまま処方に従わざるをえない。
 保護施設や矯正施設に入所している精神障害者に対する地域移行支援などは、報酬単価が低く、事業所も増加しない中で、未だ現実的な利用がされていない。
 障害者手帳の交付時においては、主治医の作成する診断書を本人が高額自己負担で買い、封印されたまま行政窓口まで持って行き、精神障害者本人の前で行政の職員が封印を解いて診断書を見て手帳交付を決定する。本人の診断書でありながら本人は見ることができずに、本人の処遇が決定されていく。
 二〇一六年五月十七日付新聞報道によれば、「作業所を利用する障害者の82%は、年収が「相対的貧困率」算定の目安となる所得百二十二万円を下回り、本人の収入だけでは貧困状態にある(きょうされん発表)」という。
 障害者と健全者の経済格差は目を覆うばかりである。
 二〇一六年年五月十日、衆院厚生労働委員会で行われた総合支援法改正をめぐる参考人質疑で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の出席が拒否される。
 新聞記事によれば、自民党はALS患者の招致を認める見返りに児童福祉法改正案の審議入りを要求し、民進党は保育士賃金関連法案の審議入りを要求。両者は譲らず、ALS患者招致は断念された。障害者の国会での出席を政争の道具としか見ていない、極めて悪質な事態である(参議院は出席)。
 障害者の市場経済下での位置と同じように、介護労働者の過酷な労働条件もまた、「コストパフォーマンスの充実」の中で徹底した合理化、非正規雇用の最下層で働かざるを得ない状況に追い込まれていて、障害者と共に矛盾を抱えさせられている。
 われわれは、資本主義経済下、映し出された障害者と介護者の関係を、帝国主義の差別政策としての社会保障政策、戦時政策として弾劾し、これを粉砕し、障害者解放―日帝打倒闘争に勝利しなければならない。


 

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