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   安全保障技術推進制度―軍学共同研究粉砕

  
    学生・研究者は戦争協力を拒否し、
         「戦争のできる国家」づくりと闘おう

     
 


 防衛省が二〇一五年度から導入した「安全保障技術推進制度」(以下、推進制度)は、大学や民間の研究機関、企業を対象に、防衛省が示したテーマで研究を募集し、採択された研究に対し一定の予算を支給するというものだ。
 推進制度に至る一連の流れを振り返ってみよう。二〇一四年十二月、安倍政権は「新たな防衛計画の大綱」を決定した。防衛力の質と量を確保し、統合機動防衛力の構築を掲げ、米軍に倣って、ドローンなど無人装備や宇宙空間、サイバー空間への進出を図った。同時に策定された「中期防衛力整備計画」では、「優れた民生先進技術の取り込み促進や装備品等への適用を目指す」として、防衛省以外で軍事(防衛装備)技術の育成を図るとした。また同年四月、武器輸出三原則が防衛装備移転三原則に転換され、武器輸出が可能となった。つまり大学や民間を巻き込んで高度な兵器産業を確立し、アメリカ並みの兵器開発を推し進めて戦争準備を図るとともに、武器輸出によって経済成長を図ること、ここに制度の狙いがあるのだ。
 制度導入と並行して、防衛関連予算は大幅に増大した。二〇一四年度からはついに五兆円を突破し、一七年度までこの水準は維持され、来年度は「北朝鮮のミサイル」問題を最大限利用して、過去最大の五・二兆円が要求されるに至っている。このうち、制度に関わる予算は一五年度に三億円で開始されたが、自民党国防族が大幅な増額を求めたことで、一七年度には百十億円に急増した。
 逆に、国立大の運営費交付金はこの間、大幅に削減されている。〇四年の独立行政法人化以降、一五年度までに一千四百七十一億円が削減された。「年間研究費が七万円しかない」という大学もあり、多くの研究者が経済的に追い込まれている。

 ●1章 研究成果は「軍事機密」に

 推進制度導入に当たって、防衛省は批判の声を和らげるために、「基礎研究にすぎない」とか「デュアル・ユース(軍民両用)である」と誤魔化そうとした。だが防衛装備庁「中長期技術見積もり」(一六年度)によれば、(推進制度の)「成果は優れた将来の装備品の創製のための研究開発において効果的・効率的に活用していく」とその狙いを隠してはいない。実際、推進制度の公募内容をみれば、兵器になじみ深い電子材料・物性・光波のニューマテリアル分野、機械・制御、情報・通信の三十課題に限定されている。兵器開発に関する「基礎研究」なのだ。「デュアル・ユース」とは、例えば「冷戦」時代に米軍が旧ソ連と対抗して開発した、人工衛星を利用した位置情報の測位システムであるGPSがやがて民生利用されたように、軍事が民生に活かされることを言う。しかしこれもまごうことなき軍事研究というイメージを払しょくするためのごまかしであり、実際には応募の審査に当たって防衛省側がただちに武器製造への可能性があるかないかで採択を判断する。研究終了後も、秘密保護法の下で、研究成果が「軍事機密」とされないという保証はどこにもないのだ。
 さらには、大学の研究者自身が軍事研究に携わることは、防衛省にとってみれば軍事産業の人材育成や、防衛装備庁へのリクルートにもつながってくる。

 ●2章 学術会議が「反対」の新声明

 推進制度が始動して以降、科学者の代表機関である日本学術会議は「安全保障と学術に関する検討会議」を設置し、時間をかけて議論してきた。その先鞭をつけ、率先して大学の軍事研究を解禁しようとした者こそ、学術会議の会長である大西隆(豊橋技術科学大学学長)だ。「自衛目的ならば安全保障に関連する研究は容認してよい」が持論だ。
 日本学術会議は軍事研究に関して戦後、二回の声明を出していた。朝鮮戦争直前の一九五〇年の声明では「戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対従わない」と決議し、ベトナム侵略反革命戦争を背景にした六七年の声明でも「戦争目的の科学研究は行わない」としていた。大西会長は防衛省の意向を受け、ここからの大転換をはかろうとした。しかし、学術会議での大方の意見は、かつての声明を堅持すべきで、研究制度推進に反対、もしくは批判的であった。
 結果的には、大西会長が目指した声明は実現しなかった。一七年三月二十四日、学術会議の幹事会が出した「軍事的安全保障研究に関する声明」は、過去の二つの声明を「継承」するものとなった。
 新声明は言う。「(過去のふたつの声明が出た)背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し、上記二つの声明を継承する」。
 さらに、推進制度について次のように批判している。「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」。また先述のデュアル・ユース論についても、「研究の入口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる」とこれを退ける立場を表明している。
 新声明が、安保法制をはじめ安倍政権の「戦争のできる国づくり」とたたかう全人民政治闘争の高揚を背景に、また軍学共同反対連絡会など研究者・市民による反対運動の影響によって、大学の軍事研究に対し反対の立場を明らかにしたことは大いに評価できる。もちろん、学術会議という性格上、軍事研究に対する具体的な規制へつながるものではない。実際に大西会長が学長を務める豊橋技術大学をはじめ、新声明を換骨奪胎して、米軍や自衛隊からの研究要請に応えようとする動きもある。しかし今回の新声明が軍事研究に関して一定の歯止めとなるとは言えるだろう。
 推進制度の応募状況はどうなっているか。二〇一七年度、その予算は先述の通り百十億円と発足当初の三億円から十六倍と激増したものの、大学からの応募は二十二件にとどまった(昨年は二十三件)。このうち、採択されたものはゼロだった(公的研究機関、企業からの応募はそれぞれ二十七件、五十五件)。新声明の影響は明らかであろう。
 ただこの間、反対運動を展開してきた軍学共同反対連絡会は九月七日、この結果について次のように分析している。「ただし、他の採択課題五件の『分担研究機関』に大学が加わっている(大学名は非公表)」「防衛装備庁と企業が結びついて『軍産連携』があからさまに強化された」「大学や公的研究機関には、企業と『産学共同』の形で防衛省からの資金が流れ込む危険性が大きい」「その結果として、『軍産学複合体』の形成が懸念される」として、分担研究機関となった大学に抗議していくという。

 ●3章 軍事研究に関する学生の意識

 ところで、大学の軍事研究に関して、当の学生自身はこれをどう捉えているのか。筑波大学新聞(七月十日号)が軍事研究に関する学内アンケートをおこなった。それにもとづいて書かれた記事には「教員と学生で意見にずれ 教員は反対が多数」という見出しが付いている。
 同記事によれば、学生は軍事研究賛成派が31・1%、反対派が34・4%と意見が拮抗した一方、教員は反対派が54・4%で賛成派23・9%を大きく上回ったという。さらに学生でも理系の賛成派は34・4%で反対派の26・3%を上回り、文系(賛成28%、反対42%)と逆の結果となったことが注目される。これは一大学の結果に過ぎないが、教員より学生の方が軍事研究に抵抗感がないこと、またとくに理系では政府による研究予算の削減という状況にも規定されて、「軍事利用であっても研究費がほしい」という意識を反映していると推察される。
 だが、高い奨学金や生活費に圧迫されて自衛隊に入隊せざるを得ないような「経済的徴兵制」と同様、学生が軍事研究に依存して兵器開発にいそしみ、他国の民衆を虐殺する戦争にみずから協力するようなことがあって良いのか。そのような道を断固として拒否し、民衆を搾取して戦争で儲ける支配権力とたたかうことが学生の責任ではないだろうか。

●4章 七三一部隊に大学が協力

 八月十三日に放映されたNHKのドキュメンタリー「七三一部隊の真実~エリート医学者と人体実験」は、旧日本軍・七三一部隊が細菌兵器の開発のためにおこなった人体実験を、旧ソ連の軍事法廷において元部隊員が証言、その肉声が放送されて話題を呼んだ。日本支配に抵抗した中国の人々などを捕らえ、生きたまま細菌を感染させるなどおぞましい人体実験を七三一部隊はおこなった。
 この軍部による「研究」には多額の予算がつぎ込まれた。一九四〇年で年間一千万円、現代では三百億円に相当するという。京大、東大、慶応大などの医学部が競い合って研究費を獲得した。そして大半の研究者は率先して中国東北部・ハルビンに赴き、人体実験に参加し(四二年には七十五人)、戦後は誰一人として犯罪者として裁かれることはなかった(米軍への実験データ提供と引き換えに免責されたと言われている)。七三一部隊への協力を決定した大学の指導教授たちの責任は一切、問われていない。
 ひるがえって今、防衛予算の急速な膨張と、一方での研究予算の大幅な削減という状況の下、学生、研究者自身が「軍事研究反対」「研究予算を増額しろ」という声を上げなければ、学術会議の新声明なども換骨奪胎されるだろう。「自国防衛のためだ」とか「軍需産業で経済成長を」と軍事研究が正当化されるだろう。そしてみずからが侵略戦争に加担する道を歩むことになるのだ。七三一部隊への大学の協力という過去の過ちを、決して繰り返してはならない。


 

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