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  『新・日本の階級社会』
(橋本健二著 講談社現代新書)




 七四―七五年恐慌でケインズ主義政策がその限界を露呈し、一九八〇年前後から日本では新自由主義が台頭してきた。その結果、「福祉国家」と呼ばれてきたような戦後日本帝国主義の社会政策による階級支配構造が崩壊し、所得格差が拡大してきた。さらにこの一〇年間でその傾向は固定化し、新たな「階級社会」が到来した。その事実を様々な社会調査データにもとづいて論証した本書(今年一月発行)は、日本において階級闘争を推進している人々にとっても、注目に値する本だ。
 その特徴は、戦後日本社会を八〇年代まで規定してきた四階級、すなわち資本家階級(経営者、役員)、新中間階級(被雇用の管理職・専門職・上級事務員)、労働者階級、旧中間階級(自営業者、家族従業者)に加え、あらたにアンダークラスが登場し、階級としてほぼ固定化したとする点、もうひとつはそれぞれの階級が「格差拡大と支持政党、排外主義、軍備重視」についてどのような意識を持っているかを論じた点にある。
 「アンダークラス」とは何か。著者の定義ではパート主婦を除く非正規労働者のことであり、人口は九二九万人、就業人口の14・9%を占め、五つの階級の中で唯一、激増している。職種は、販売店員、総務・企画事務員、料理人、給仕係、清掃人、スーパー等のレジ係、倉庫夫・仲士、営業・販売事務員、介護員・ヘルパーなどの職種が多い。週平均労働時間はフルタイムと変わらない人が過半数だが、平均個人年収は一八六万円と極端に低い。貧困率は38・7%で、女性では48・5%にも達する。この階層の際立った特徴は、男性の有配偶者の比率がわずか25・7%と極端に低い点である。仕事や生活への満足度も低い。仕事の内容に満足している人は26・3%、生活に満足している人はわずか18・4%。また、将来の生活に強い不安を抱く人の比率は、資本家階級が10%台、正規労働者が20%台であるのに比べ、アンダークラスは50%にもなっている。
 こうした実情についてはある程度知られていることだが、各階級の健康状態についておこなったアンケート調査結果(二〇一六年首都圏調査)をみると、歴然とした階級差があることに驚かされる。「うつ病やその他の心の病気」で診断や治療を受けた人の比率は、他の階級で7~8%台だが、アンダークラスだけが20%と突出して高いのだ。年齢別では二〇歳代が30・8%にも達している。さらに抑うつ傾向を図る「気分が落ち込むなど心理的な理由で仕事やふだんの活動がふつうにできなかった」「絶望的な感じになる」「気持ちがめいって、何をしても気が晴れない」「自分は何の価値もない人間のような気持ちになる」という四つの質問に対し、「これらの状態になることがある」という人の比率はアンダークラスが突出して高く、25~30%となっている。これはほかの階級にくらべ三倍から五倍程度に達している。
 家庭を持つことができないほど低い賃金、将来の生活に不安を覚えるほかない雇用・社会関係、やりがいがなく、誇りを持つことが難しい労働。これらによって、非正規労働者は精神も生活もボロボロの状態に追い込まれているのがわかる。新自由主義―現代資本主義がもたらした荒廃であり、怒りをおぼえずにはいられない。
 本書ではまた、各階級が所得の再分配についてどのように認識しているか、かつ「排外主義」や「軍備重視」についてどのような意識を持っているかについて分析している。
 「政府は豊かな人からの税金を増やしてでも、恵まれない人への福祉を充実させるべきだ」「理由はともかく生活に困っている人がいたら、国が面倒を見るべきだ」という所得の再分配に関する設問に、アンダークラスの55%が所得の再分配を支持している一方、資本家階級では35%と低いのは、それぞれの階級的利害からして容易に想像がつく。ところが正規労働者も37%と資本家階級と同じ程度に低いのは極めて残念な点である。
 他方、「自分の住む地域に外国人が増えてほしくない」「中国人・韓国人は日本を悪く言いすぎる」という排外主義に関する各階級の調査結果も出ている。注目せざるをえないのは、アンダークラスでは、所得の再分配に積極的で、かつ排外主義的傾向の強い「格差是正排外主義」が34・2%と五つの階級のうち、最も高いという指摘である。「追い詰められたアンダークラスの内部に、ファシズムの基盤が芽生え始めているといっては言い過ぎだろうか」と著者は説く。
 本書の終わりで、著者はこの階級社会の「変革の担い手は」誰かという問いに、「アンダークラスは生活に余裕がなく、正規労働者と同様に政治意識が低い」「格差社会の克服という一点でリベラル派を結集する政治勢力の登場を」と立憲民主党の躍進に期待している。
 しかし、これには同意できない。どんなに困難であろうとも、アンダークラスが階級として立ち上がり声を上げつつ、排外主義を国際連帯で克服すること、「労働者階級」はこのアンダークラスの生活向上に心を寄せ、みずから資本家階級との闘争を通じて団結しながら政治勢力化すること、ここにしか「戦争と貧困」の根源を断ち切る道はないのだ。

                                                        (鬼沢鉄平)




 

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