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   粉飾まみれの「アベノミクス」

    毎月勤労統計不正問題を考える

               


 国会で毎月勤労統計不正問題が焦点になっている。どのような不正であったのか整理しておきたい。
 毎月勤労統計調査とは、「賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすることを目的に厚生労働省が実施する調査です。その前身も含めると大正十二年から始まっており、統計法(平成十九年法律第五三号)に基づき、国の重要な統計調査である基幹統計調査として実施しています。」(厚労省HPより)
 毎月勤労統計(以下、毎勤統計と略す)はその頻度と詳細さにおいて、最重要の経済指標と考えられてきた。内閣府が作成する国民経済計算の基礎統計にも使われており、毎勤統計を利用した研究や書物は数えきれないものだろう。

 ●1章 東京都五〇〇人以上規模の事業所調査における偽装

 発端は二〇〇四年にさかのぼる。常時五〇〇人以上を雇用する規模の事業所については全事業所を調査するべきところ、東京都(約一五〇〇事業所)の調査では、三分の一(約五〇〇事業所)しか調査されてこなかったというものである。これ自体が不正だが、厚労省は手続きの変更を総務省に届け出せず、勝手に変更していたとされている。通常のサンプル調査は抽出割合の逆数を乗じて、全体を推計する(三分の一の調査なら三倍する)が、二〇〇四年から二〇〇一七年までその調整は行われずに、全国の集計に統合されていた。東京都には規模の大きな事業所が集中しており、賃金水準も高いが、実際の三分の一しか反映されていない。その結果、全国平均の賃金水準は実際よりも低い値になっていた。

 ●2章 三〇人~四九九人規模の事業所調査における偽装

 二〇一五年、アベノミクスが成果を出せず、賃金の動向が世間の注目を集める中で、厚生労働省は六回の有識者検討会を開催し、三〇人~四九九人規模の事業所の調査方法見直しを検討している。統計の方法を再検討しようというものだったが、具体的な結論を得ずに終了している。その議事録の後半は三年以上たった今も公開されていない。よほど都合の悪いことがあるのだろうか。
 同年一〇月には、麻生財務相が経済財政諮問会議で、毎勤統計について「具体的な改善方策を早急に検討していただきたい」と求めた。
 三〇人~四九九人規模の事業所調査は二~三年に一度、調査対象事業所を入れ替えて調査してきた。この入れ替えの時に平均賃金が下がるという「段差」が発生する。同一対象の調査でも三年ほどの間には倒産する事業所もある。その結果、経営状況の悪い事業所が減り、平均賃金は徐々に上昇していく。三年たって対象を総入れ替えすると、平均賃金は下がる。麻生財務相はこの、およそ三年毎に平均賃金が下がる「段差」を「何とかしろ!」と「改善方策」を求めたのだ。つまり「賃金は下がっていない。アベノミクスのおかげで賃金が上昇しているということを毎勤統計の上に描き出せ」という圧力をかけたのである。
 そしてこの麻生の圧力の後に厚労省は統計のルールを変えている。二〇一八年一月からは、調査対象の一部入れ替えを毎年行い、「段差」を小さく見せることになっている。

 ●3章 偽装の結果は

 こうした偽装の影響は、雇用保険(失業給付)、労災保険(休業補償給付・年金給付)をはじめとするセーフティネットの過少給付を結果している(表1)。失業や労働災害で収入が途絶えた労働者の「命綱」であるこれらの給付を五六七億円も政府はかすめ取ってきたのである(表2)。
 厚労省はサンプル調査の調整(三倍する)を忘れていた、ミスだと説明しているが、統計のプロがそのような〝ミス〟を一四年間も続けてきたとは全く信じがたい。は労働保険の積立金残高の推移のグラフであるが、二〇〇四年(平成一六年)以降、積立金残高が順調に増加している。増加のさまざまな要因の中には毎勤統計のからくりが一助となっていることはまちがいない。労働分野の規制緩和が進み、不安定雇用労働者が大量に生み出される中で、破綻しかかった雇用保険制度を、保険料の引き上げと、支給の制限、そして統計のからくりを利用した〝節約〟で乗り切りをはかろうとしというのが本質ではないのか。

 ●4章 アベノミクス偽装の「奥の手」

 さらに、二〇一八年一月になって、東京都の調査結果を三倍にして統計することで、平均賃金は一気に上昇した。アベノミクスの成果だと安倍内閣は声高に宣伝した。極めて悪質なペテンとしか言いようがない、まさに「アベノミクス偽装」だ。厚労省の官僚が、長年かすめ取った五六七億円を吐き出し、統計のからくりが露呈する危険を冒してでも本来の数字を出さざるを得なくなったのは、アベノミクスの破綻を隠蔽するための奥の手を発動したということだ。賃金上昇による経済の好循環が実現しないことにいらだった麻生財務相が、厚労官僚に圧力をかけ毎勤統計の操作で賃金上昇を演出しようとしたというのが、事の本質ではないのか。

 ●5章 不正発覚後の「不正」

 昨年十二月にこうした不正が発覚するが、それ以前から毎勤統計の数字が不自然であることは指摘されてきた。昨年九月の総務省統計委員会でも指摘されているが、厚労省は東京都のサンプル調査を隠したまま、「全数調査した」と虚偽報告をしている。それ以前の二〇一六年にも同様の報告を総務省に文書で提出している。不正が始まった二〇〇四年版の事務取扱要領には「全数調査にしなくても精度は確保できる」と書かれていたが、二〇一五年版では削除されている。不正問題に関する特別監察委員会のヒアリングについても国会での答弁は二転三転し、省内の身内調査の実態や官房長の同席など不十分な聞き取り、不正な調査が次々と暴露され、第三者の委員会でのやり直しとなった。

 ●6章 とかげのしっぽ切りで幕引きは許さない

 国会では、生ぬるい野党の追及に対して、根本厚労相は「事務方に聞いて」を連発し、安倍内閣は知らぬ存ぜぬの茶番が続いている。自民党の岸田文雄政調会長は「ルールやマニュアルの改訂を行っても、意識の低い公務員がやっている以上、何度でも同じことを繰り返してしまう」と言い放った。これに対し根本氏は「不適切な取り扱いを漫然と踏襲し、上司に適時適切に報告せず、事態の適切な把握を怠る。こういった組織は改革していかなければならない」と述べた。一切の責任を厚労省の官僚に押しつけて幕引きをはかろうとしている。
 しかし、事は厚労省の官僚だけの問題では済まされない。毎勤統計不正を機に行った国の基幹統計五六についての一斉点検では、三分の一以上の二三統計で、過大な数値の公表をはじめとする不適切な事例があったことが判明した。このうち二一については統計法違反の疑いが排除できないという。
 基幹統計調査は、統計法第一三条で「個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる」と規定し(報告義務)、また、同法第六一条では、「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」に対して、「五〇万円以下の罰金に処する」と規定している。
 罰則付の法律で強制する基幹統計調査に対して、政府の都合で統計を操作し、都合のいい結果を創作する安倍政権のペテンを決して許してはならない。

 ●7章 不正統計問題は社会全体の劣化状況の露呈

 安倍一強の元で、政治の腐敗も官僚の堕落も行きつくところまで来た感があるが、公務の末端で苦しむ労働者まで一からげにして、「また厚労省が……」という乱暴な批判でなで斬るだけでは事態は変わらない。安倍政権が、統計を自らの政権の維持と正当化のために利用し偽装していることを多くの人民の前に明らかにする必要がある。
 毎勤統計をはじめとする、全国、地方の統計調査を実際に行っているのは地方の非常勤公務員である。大阪府の調査員募集の広報をみると、例えば毎勤統計調査員の場合だと、調査員として登録し、説明会と研修をうけた非常勤公務員が、指定された調査区内のすべての事業所を訪問して労働者数・事業活動内容などの最新の事業所名簿を作成する(四万円)。一調査区あたり一〇軒の回答事業所が指定され、毎月一〇事業所を訪問して労働者数、労働日数・時間、現金給与額について調査し、調査票を作成して統計課へ提出する(二七〇〇〇円)となっている。
 こうした地道な調査活動を全国で何万人もの調査員が行っている。その集積である毎勤統計が労働者と社会を良くするための政策立案の基礎資料として、あるいは、政策評価の規準として使われるのならいいが、そうではなく、時の政府の誤った政策のごまかしのために偽装されるのだとしたら、どうして誇りとモラルを持って取組むことができるだろうか。非正規の劣悪な労働条件と格差の拡大を正当化するために自分たちの地道な労働が使われていると気付いたらまったくやりきれないことだろう。
 各地方では、調査活動の経費削減を切望している。東京都が五〇〇人以上規模の事業所調査を三分の一のサンプル調査にしたのも、誰が提案したにせよ、都の予算削減にとっては大歓迎だろう。予算にゆとりのあるはずの東京都がしているなら、他の地方でもサンプル調査を望むだろう。まして、統計の意義がこのように政治にゆがめられ、地に堕とされては、何のための統計調査か? という疑問も当然だと言える。
 「厚労省がまたか」とやり玉に挙げられているが、厚労省の業務範囲の広さ多さに比して職員数が足りていないのはまぎれもない事実だ。巨額の予算を軍事費につぎ込み、労働や福祉や民生にそっぽを向いて、予算と人員を削減している結果としての劣化とも言える。今回の不正に免罪符を与えるつもりは毛頭ないが、働き過ぎで倒れている労働局や労働基準監督署の職員が多数いる。その多忙さのつけは労働者や市民の生活に深刻な影響を及ぼしている。真に「働き方改革」をすべきは人民の生活と福祉に直結する公務職場の状況ではないか。



 

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