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   権力・資本による大学支配を促進する、
      欺瞞的な「大学無償化法」弾劾!

            
中央学生組織委員会




 五月一〇日、安倍政権は参院本会議で「大学無償化法」(大学等修学支援法)を与党と国民民主党などの賛成多数で可決、成立させた。二〇二〇年四月から施行される。これまで政府が提出した二〇一七年一二月の「新しい経済政策パッケージ」、二〇一八年六月の「経済財政運営と改革の基本方針二〇一八」を踏まえて、「意欲ある子供たちの進学を支援するため、授業料・入学金の減免と、返還を要しない給付型奨学金の大幅拡充により、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校を無償化する」というものだ。
 学費の無償化は多くの学生が求めてきたことである。また、国連人権規約の社会権規約第一三条「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」を、ようやく政府は二〇一二年になって留保を撤回したのであり、無償化を進めることは政府の義務でもあった。
 だが、「大学無償化法」と大きく報道されているそれは、実際には学費無償化とは程遠い代物なのだ。

 ●1 無償化の対象となるのはごく一部

 授業料や入学金、返済不要の給付型奨学金を、国や自治体の予算で無償化するというが、詳しく見ると実際に無償化といえるのは年収二七〇万円未満の世帯でしかない。そして三分の一、または三分の二の支援が受けられるのは年収三八〇万円未満の世帯だけとなっている。つまり年収三八〇万円を超えたら、学費や返済不要の奨学金を貰える対象とはならない。
 日本学生支援機構による学生生活調査(二〇一六年)によれば、奨学金受給者の割合は世帯年収六〇〇万円から七〇〇万円の層が最も多いという。つまりこの中所得層を対象から除外するのでは、「学ぶ意欲のある者が誰でも高等教育を受けられる」という目標から大きく外れることになるのだ。
 奨学金の利用者は一九九六年には21・6%だったのが、二〇一二年は52・5%にはね上がり、一六年も48・9%と依然高い水準で推移している。これは、学費負担が困難になっている層が、低所得層に限らず、中所得層の世帯まで広がってきたことを示している。
 その結果、非正規雇用の拡大、低賃金と相まって、卒業後、就職してもローン返済に苦しみ生活が破綻するケースが激増し、社会問題化した。それと同時に、学費値下げ、無償化を求める声と運動が高まってきた。教職員や学生自身による運動も始まっている。
 今年四月、首都圏の学生たちが東京・市ヶ谷にある法政大学前に結集し、「学生を借金漬けにするな」と叫び、防衛省の裏にある日本学生支援機構に向けたデモを闘った。授業にも出られないほどのアルバイト漬けの毎日、卒業後は返済すべき奨学金が借金となって重くのしかかる現実に対し、少数ではあれ学生自身が街頭で声を上げ、日本学生支援機構に抗議の声を叩きつけた意義は大きい。
 しかし、「大学無償化法」はこうした学生たちの要求を裏切るものに他ならない。ごく一握りの高所得層以外にとって、返済が困難になるほどの高い学費なのであるから、国公立を問わず、学費そのものを全体的に値下げないし無償にするのが本来の「高等教育の無償化」だ。それを誤魔化して低所得層のみに限定した「大学無償化法」というのはまったくの欺瞞である。
 しかも、「大学無償化法」の財源は消費税の増税分の一部、とされている。消費増税は間違いなく、低所得層の生活を直撃する。これに対し「増税分で低所得層も大学に行ける」と宣伝し、批判をかわす狙いもあることは明らかだ。

 ●2 無償化の対象大学は政府が選別

 だが、同法についての深刻な問題はむしろ、無償化の対象となる大学等を、政府が恣意的に選択できる、という点にある。
 無償化の対象になるためには、大学等が一定の要件を満たす必要がある。それは、「実務経験のある教員を配置し、学校法人の理事に産業界の人材を複数名、任命しなければならない」ということだ。
 この「産業界から理事を選任せよ」というのは、端的に言って、大学トップに産業界からの人材を据えることで、独占資本の利潤追求に役立つ大学教育、「人材育成」をはかるのが目的なのである。
 政府―文科省はこれまでも大学への補助金を利用して、独占資本にとって都合の良い大学を優遇する政策をとってきた。
 二〇一四年、文科省は「スーパーグローバル大学創成支援事業」なるものを開始した。「国際的な産業競争力の向上や国と国の絆の強化の基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図るため、大学教育のグローバル化のための体制整備を推進する」として、東大などの旧帝大と早慶など計一三校を「トップ型」、そこまでいかない計二四校を「グローバル牽引型」の「スーパーグローバル大学」に選定し、前者に年四・二億円、後者に年一・七億円の財政支援を行っている。「国際競争力」に打ち勝つ人材育成をせよ、と大学機関をハッパをかけ、それに従う大学にカネをばらまいている。
 文科省はまた「Society5・0に対応した高度技術人材育成事業」なるものを始めている。「産学が連携し、社会人学び直しプログラムを含む教育とそれらを支える実務家教員を育成・活用するシステムを構築することで、人材不足が深刻化しているサイバーセキュリティ人材等の情報技術人材やデータサイエンティストなど我が国の成長を牽引する人材育成を促進」するという。こうして産学連携でAI教育を進める大学に対して、優先的に財政支援をしているのだ。
 このように政府・文科省が目指している大学の理想像は、国際競争に打ち勝ち、「Society5・0」を推進する人材育成をする大学、というものだ。今回の「無償化」を通じてそうした大学を恣意的に選択・優遇し、かつまた大学理事に産業界出身者を据えることで「産学連携」を強固なものにするのが狙いだ。
 逆に、こうしたタイプに該当しない大学教育は冷遇されていく。文系や教育系、芸術系など政府や資本にとって魅力のない大学(学部)は、来年四月からの「無償化」の対象から外される可能性がある。
 これは大学教育への国による不当な介入であり、いわゆる「学問の自由」を脅かすものだ。学生が、大学で何を学びたいのかを選ぶ権利の侵害でもある。
 若者の教育と貧困問題に詳しい大内裕和・中京大学教授は、同法審議過程の国会陳述の場でこう述べている。「大学の自治や学問の自由への介入を引き起こす危険性を持っている。支援対象者は修学支援が行われないからその大学は選べないというような形になってしまって、選択する自由を狭めてしまう可能性がある」。
 「大学無償化法」は、資本の利潤追求に有利な「人材育成」の場へと大学教育そのものを転換させていく内容を持つものであり、断固批判していかなければならない。無償化の対象となる大学は今年九月頃に公表されるという。注目し、警戒しておく必要がある。
 今年一月には、東洋大学で「竹中平蔵による授業反対」の立て看板を設置した学生が当局に監禁され、退学処分をちらつかされるといった弾圧を受けた。竹中平蔵と言えば、非正規労働を拡大させた「弱者切り捨ての張本人」であり、新自由主義の権化だ。学生を支持する声が高まり、東洋大学当局への批判が殺到した。
 この学生は明確に、政府が「人文学部系軽視・実学偏重」政策をとり、東洋大学が私大としてそれを先頭で推進している、と批判している。具体的には、竹中が教授を務める「グローバル・イノベーション学科」などが新たに創設され「研究の企業化」が進む一方、文学部の哲学科、インド哲学科、中国哲学科は再編統合され縮小されてきたことをあげている(『情況』二〇一九年春号「東洋大学における竹中批判の立て看板事件の真相」)。
 欺瞞的な「大学無償化法」を許さない闘いは、必然的に、大学教育への政府・資本の支配との闘いにならざるを得ない。全国の学生は真の無償化実現のために闘うと同時に、安倍政権が進める新自由主義政策の一環としての大学教育への介入と闘おう。


 

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