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   独裁政治と腐敗を許すな

     安倍政権を打倒しよう

                      
坂本龍男




 クルーズ船の乗客七名が新型肺炎で亡くなり、下船した乗客からも陽性反応が確認されている。対策にあたっていた政府関係者の中にも感染者が確認され、クルーズ船内の感染拡大防止策は完全に失敗した。二月二五日「この一~二週間が急速な感染拡大か収束できるのかの瀬戸際」だと新型コロナウイルス対策が政府から発表された。しかし、その内容たるや軽症の場合は自宅療養、満員電車の回避、不特定多数の集まりの自粛など、いつの時点での対策かと驚くような内容である。現場の多くの医師や医療関係者が求めているPCR検査(ウィルス検査)の保険適用がいつから始まるのか時期も明確にはしなかった(その後検査実施を求める強い世論の声におされて、三月初旬から保険適応決定)。
 PCR検査が実施されることで感染の全体像や症状の実態把握、的確な治療方針を決めることができる。そして、何よりも感染したかもしれない不安の中で四日間も自宅待機を強制され、重症化するまで検査を待たねばならない人々の不安といらだちをよそに保険適用を見送る安倍政権は、感染者の数を可視化させたくないと考えていたとしか思えない。感染症の専門家からは、実際にはすでに数万、数十万の感染者がいる可能性が指摘されている。
 日に日に高まる政権への批判にあわてた安倍は、二月二七日突如、小中高などへの臨時休校の要請をおこなった。政府が国内初の感染者確認を発表したのが一月一六日。感染症対策本部設置が三〇日。この一カ月間政府は一体何をやっていたのか。中国のみならず全世界へと感染が急速にひろがる中で、危機対応の遅れを世界から指摘され、国内からも批判が高まる中で場当たり的対応へと追い込まれたのだ。安倍政権の危機管理構築の根本に国民の生命や生活を守るという視点はない。政権支持率がどうなるのか、支持基盤がどうなるのかという点にしかないことが明らかとなったのだ。福島第一原発事故同様、人命をなんとも思っていない、この腐敗しきった安倍自公政権を絶対に許すことはできない。一日も早く打倒しよう。
 安倍は、一月の施政方針演説冒頭で再び「復興五輪」を謳いあげた。聖火リレーの出発地点を組織委員会での沖縄案から被災地案へと変更させ、沿道のにぎわいを演出するために東電や関連企業社員を動員するという。ソフトボール会場や聖火リレーのルート近隣からは除染土の入ったフレコンバックは、すべて撤去された。原発の見えるルートも「悪いイメージがつく」(県幹部)として外され、帰宅困難区域でリレーの有力候補地とされる双葉地区では、JR双葉駅周辺のみ避難解除がおこなわれ、そこを聖火が走る。「きれいな地点を切り取り、東京の人だけで盛り上がっている気がする」とは、地元住民の声だ。まさに「復興オリンピック」ではなく、「隠蔽オリンピック」に他ならない。このようなオリンピックを絶対に許すことはできないのだ。
 戦後最長となった安倍政権は、憲法改悪にむけて解散・総選挙にうって出てくる可能性がある。
 第二次安倍政権下の七年間で政治、経済、社会の劣化が著しく進み、新型コロナウイルスでは人の命までも奪われ始めている。大企業と富裕層のみが恩恵を受けて、国民の圧倒的多数は矛盾と犠牲を強いられてきた。残り二年を切った安倍政権に対して労働階級・人民の側から総決算を突きつけていかなくてはならない。いかに歴代政権の中で最悪の反人民的極悪政権であったのか、歴史にしっかりと刻印していかなければならない。安倍政権の「レガシー」として憲法「改正」を成し遂げたなどとの歴史的評価を絶対に許さない闘いが問われているのだ。聖火リレーも見させることなく自公政権を完全に崩壊させなくてはならない。

 ●1章 腐敗を極める安倍政権

 内閣支持率は昨年一二月に「桜を見る会」をめぐる疑惑で急落し、今回の検察人事に対する露骨な介入により支持率は低下傾向を強くしている。
 二月に各社がおこなった世論調査をみるならば、時事通信が実施した世論調査では、安倍内閣の支持率は前月比1・8ポイント減の38・6%、不支持率は2・8ポイント増の39・8%となり、不支持率が支持率を上回った。またNHKでは支持45%。不支持37%となっており、各社概ね支持と不支持が逆転あるいは拮抗する状況になっている。しかし、問題は、その内容である。時事通信での不支持の理由の49%が「人柄が信用できない」。NHKでも「首相を信頼できない」24・3%、「期待が持てない」19・4%、「政策が駄目」12・0%などとなっている。支持する理由として最多が「他に適当な人がいない」の20・3%で、「リーダーシップがある」9・7%、「首相を信頼する」7・9%と一部の安倍支持のコアな部分を除けば、「他に適当な人がいない」という消極的理由に支えられているに過ぎないのだ。
 すでに多くの人々は、安倍そのものの隠蔽体質、強権的姿勢といった右翼としての本性を見抜いているのである。財務省による決裁文章改ざん、自衛隊日報や「桜を見る会」名簿の破棄、勤労統計の不正など、ことあるごとにその不正が明らかとなり、歴代の自民党政権でも飛び抜けた隠蔽、開き直り、国会無視の独裁政権なのだ。国民はすでに安倍そのもの、人格を信頼していないのであり、死に体状態に突入している。
 先の民主党政権時代には、官僚主導から政治主導へ、「コンクリートから人へ」、アジアの一員としての日本へと舵を切ろうとしたが、米帝の圧力と霞ヶ関官僚のネグレクトにより、政権は挫折した。そして、安倍は政治主導から政権主導へ、権力維持のためには、ブルジョア民主主義制度すら無視した独裁的手法を駆使して政権基盤を固めてきた。
 一二年一二月の第二次安倍政権成立後、翌年七月の参議院選挙に勝利した後、早速内閣法制局に小松一郎仏大使を起用し、集団的自衛権行使が現憲法で可能との解釈変更を強行した。一四年五月には、内閣人事局を発足させ、一府一二省庁の約六八〇人の幹部の人事をにぎり、今日に至る「忖度」政治の温床を築きあげた。
 NHKへの介入では協会会長人事に直接介入できないために経営委員会人事に手をつけて(経営委員は、……両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する)、右翼の籾井勝人を会長に仕立てたのだ(一四年一月)。籾井は、会長就任会見で「秘密保護法はできちゃんたんだから、しょうがないだろう」「(慰安婦は)戦争をしているどこの国にもあった」などと知性も恥のかけらもない発言をした極めつけの右翼である。その後のNHKの報道が日テレやフジと変わらないようになったのは、記憶に鮮明に残っている。
 政府から独立性が強く求められている日銀総裁の人事ではリフレ派の黒田東彦を据えた(一三年三月)。そして、黒田は一八年に再任され安倍―黒田体制(アベクロノミクス)は、二三年まで続くことになった。
 安倍は、権力維持のためには手段を選ばず、国会も法律も無視して独裁体制を築き上げ、腐敗を極めているのだ。安倍右翼反動政権の本性はすでに多くの国民から見透かされ支持も共感も失い、激しい怒りへと転化してきている。

 ●2章 改憲につき進む安倍自公政権を打倒しよう

 権謀術数だけにすぐれる安倍政権は、データ偽装、底上げ、言い換えなどあらゆる手段を弄してアベノミクスの「成果」を最大限強調することで、第二次政権成立後、四度の衆参選挙を凌いできた。また、ことあるごとに民主党政権時代を「悪夢のような時代」として印象操作し、野党が頼りない存在であり、政権選択の余地がないものとして描き出してきた。しかし、今や人々の多くがアベノミクスの「成果」に疑問を抱き、いくらその「成果」をお得意の口先だけで国民を騙そうとしても、もう騙しきれないところまでアベノミクスの破綻があきらかとなってきている。安倍が「戦後最長の好景気」と言おうとも、世論調査では景気回復を実感できない人が毎回八割を上回っている。あまりにも安倍が言う「成果」と人々の生活の「実感」はずれている。現実はごまかしの効かない地点にまで到達しているのだ。アベノミクスの破綻の現実を徹底して暴露すること。これこそ安倍政権打倒にむけた最重要課題である。
 「失われた二〇年」とはよく言われてきたフレーズであり、これがあたかも民主党政権時代の責任でもあるかのように安倍は印象づけデマをふりまいている。しかし、日本のデフレは、九七年四月の消費税増税や特別減税の廃止、医療費の引き上げといった増税策の実行や、この年七月にアジア通貨危機が勃発したことで、五月以降景気後退局面に突入し本格化してきたのである。それは自民党の橋本、小渕、森政権時代に当たる。そもそも自民党の政策失敗からデフレは本格化したのだ。
 安倍は、アベノミクスの成果としてことあるごとに①経済は成長し、②雇用は改善され、③賃金は大幅にアップしたと吹聴している。ここまでくれば詐欺としか言い様がない。今年の施政方針演説でもアベノミクスに触れ「今般取りまとめた新しい経済対策は、まさに、安心と成長の未来を切り拓くものであります。事業規模二六兆円に及ぶ対策を講じることで、自然災害からの復旧・復興に加え、米中貿易摩擦、英国のEUからの離脱など海外発の下方リスクにも万全を期してまいります。日本経済は、この七年間で13%成長し、来年度予算の税収は過去最高となりました。女性の就業者数は、新たに二九〇万人増加しました。就業率は、二五歳以上の全ての世代で米国を上回っています」と。
 アベノミクスの最大の目標であった「デフレからの脱却」は一体どうなったのか。一言の説明もない。2%の成長はどこへ行ったのか。七年が経っても2%を達成できていないではないか。日銀総裁・黒田と副総裁磐田は、二年で達成すると豪語していたのだが。
 人手不足が叫ばれ雇用の急速な回復が成果として強調されている。それは、団塊の世代の大量退職(安倍政権の成立した一二年は、ちょうど団塊の世代が六五歳に達した年だ)―生産年齢人口の激減により人手不足になっただけであり、アベノミクスの成果でも安倍政権の経済政策の恩恵でもない。
 「来年度の税収は過去最高となりました」というにおよんでは、開いた口が塞がらない。今や税収の二割近くを人々の消費税が占めている。これは、法人税よりもはるかに多いのだ(法人税は12・7%)。
 女性の就業者が大量に増え、米国を上回ったと誇示してみたが、低賃金の非正規職が増えただけで男性労働者の半分以下の賃金は何も変わっていない。
 今年の最低賃金は、東京、神奈川で一〇〇〇円を超えたが「先進国」ではほぼ最低である。時給があがることで若者がアルバイトなどで賃金上昇を身近で実感し、大卒者が就職氷河期を抜け出して就職率があがったことで若者に安倍支持が多いことの理由はここにある。安倍にとって何十円かの賃上げ(消費税増税で実質賃下げとなる)と生産年齢人口の減少のおかげなのである。
 施政方針では、この四月からの大企業での「同一労働・同一賃金」の開始、子育て支援や教育の無償化援助といった選挙を意識した政策がちりばめられている。
 一方で一連のIR(カジノ)疑惑や「桜を見る会」をめぐる問題には一切触れず、何もなかったかのごとく装い、最後に「新たな時代を迎えた今こそ、未来を見つめ、歴史的な使命を果たすため、憲法審査会の場で、共に、その責任を果たしていこうではありませんか」とあくまでも憲法改悪を目論んでいるのだ。安倍政権を完全打倒していかなければならない。

 ●3章 完全破綻に追い込まれたアベノミクス

 この間、いたるところでアベノミクスの破綻が言われている。われわれも『戦旗』紙上においてアベノミクスに対する批判を折に触れおこなってきた。改めてアベノミクスの破綻と弊害について確認しておかなければならない。アベノミクスは、①大胆な金利政策、②機動的な財政投資、③民間投資を喚起する成長戦略のいわゆる「三本の矢」が柱になっているしかし、事実上、大胆な金融政策がアベノミクスの柱だ。
 日銀の黒田と磐田による量的・質的緩和政策の実施が決定されたのが一三年四月。その規模の巨大さから「異次元緩和」と呼ばれ、彼らリフレ派は二年をメドに消費者物価(生鮮食料品を除く)上昇率を2%に引き上げることを公約した。しかし、アベノミクス七年間で2%を超えたのは一度だけであり、未だにデフレ脱却の宣言も出されていない。
 昨年の消費税増税後、その消費動向が注目されていた昨年一〇~一二月期の国内総生産(GDP)は、物価の変動を除いた実質(季節調整値)で前期(七~九月期)よりマイナス1・8%。この状況が一年続いたと仮定した年率換算ではマイナス7・1%となった(内閣府が三月九日に発表した二次速報)。マイナス成長は5四半期ぶりで、個人消費の低迷が大きく影響したことが明らかとなった。
 安倍は、この間アベノミクスのおかげで、景気は戦後の「いざなぎ景気」、〇二年からの「いざなみ景気」を超えて戦後最長となったと自慢した。しかし、期間が最長となったと自慢してみてもその内実が問題である。そもそも戦後の高度成長期にあたる「いざなぎ景気」では年平均で10%を超えていたが、アベノミクスのもとでの平均は1%前後である。八割以上の国民が「景気回復に実感がない」というのももっともなことである。
 日銀・黒田は、二年で2%の約束も実現できないまま、2%達成までこの政策を続けるとしている。日銀は、異次元の金融緩和策により大量の国債を購入。一四~一六年にはマネタリーベースが年間約八〇兆円増加していたが、一九年一二月末の残高は五一八兆円で、前年末と比べた増加額は一四兆円にとどまった。年末の増加額としては異次元緩和を始めた一三年以降で最小となったが、これは副作用を伴う過度の金利低下を抑えるために金融機関からの国債の買い入れを減らしている影響の表われである。つまり日銀が国債を買い尽くし、買えるものが少なくなってきている結果である。これまでゼロ金利からマイナス金利へと踏み込み、大量の国債を買い込み市中に大量の貨幣を投入してきたがそれも限界にきているのだ。
 マイナス金利政策は、一六年から導入され四年が経過したがマイナス金利が続く中で金融機関への影響(副作用)がますます大きくなってきている。
 マイナス金利政策とは、民間銀行などが日本銀行にお金を預ける際、金利をもらえるのではなく逆にお金を払うことにする政策。当然、銀行は損をするために日銀に預けず企業への貸し出しにお金をまわすように促すねらいがあった。しかし、長引く低金利で銀行の収益はじわじわと悪化し、顧客にも負担を求める動きが広がってきている。
 朝日新聞の調査では利用されていない預金口座に手数料を課す金融機関が二三あり、過半数は昨秋以降に導入したようだ。銀行は企業への貸出金利と預金金利の差(利ざや)の収入が減り続けている。海外展開や収入源の多角化が難しい地方の中小金融機関ほど、維持費の負担も重く、収益の悪化が続いている。
 岡三証券の試算によればマイナス金利導入後「家計」部門では利息減などの損がローン金利減などの得を上回り、約二〇〇〇億円の損失超過。銀行など「預金取扱機関」の損失超過は約一兆六〇〇〇億円。一方、政府と企業など「非金融法人」の利益超過はそれぞれ、約四兆一〇〇〇億円と一兆二〇〇〇億円となっている。つまり、政府は国債の利払いが減り、企業も債務負担が減るからである。超低金利政策が「政府と企業を『勝ち組』にし、銀行と家計(個人)を『負け組』にした」といわれる所以である。
 アベノミクスの柱である大胆な金融政策はすでに限界を迎えている。そればかりか金融機関を毀損し、金融資産といっても富裕層とはちがい圧倒的に預貯金が多い家計(個人)には、利息もなく、各種サービスは有料化され(振り込み手数料や口座管理費用など)追い打ちをかけるように消費税増税が家計を直撃しているのだ。そして、安倍と日銀はこの政策を続けるというのである。

 ●4章 独占資本・富裕層を優遇するアベノミクス

 アベノミクス以降、企業業績が好調といわれるのは、金融政策により円安が進行し、輸出企業の業績が伸びたことは周知のことである。政権発足当時、ドル円相場は一ドル八三・九一円(一二年一二月)。一五年七月には一二三円を更新し、新型コロナ暴落直前までは一一〇円前後を推移してきた。例えば、トヨタでは一円円安がすすめばそれだけで四〇〇億円の収益を押し上げるという。大幅な円安が輸出企業の業績を押上げてきたのだ。
 また、安倍が雇用とともに強調するのが株価の問題である。株価の上昇がもたらされているのは上記した①異次元の金融緩和、②日銀のETF購入、③年金資金の投入が主な要因である。①と②は日銀によるものだから、「日銀と年金」で株価をつり上げているのだ。
 ここで「年金」と言っているのは、正確にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人/国民が払った年金保険料のうち、積み立てている分を管理・運用している機関で、約一三〇兆円を有する世界最大規模のファンド)による株式投資のことを指す。GPIFは、二〇一四年一〇月に資産構成割合を変更し、株式への投資割合を約二倍にした。それによって、日本の株式市場に年金資金が大量に投入されることになったのだ。
 株式の運用額は、それまで二〇兆円程度だったのが、二〇一四年度には三〇兆円を超えており、前年度と比べた金額で見ると約一・五倍にもなっている。このように実体経済とは無関係に株価のつり上げがおこなわれ、実際に株価の上昇がもたらされ、会社の株式資産の増額を結果してきたのである。
 また、安倍政権は段階的に法人税減税をすすめ、税制上の優遇措置もおこなってきた。これにより企業の内部留保は一八年度で四三六兆円にもなっている。
 そして、株主資本主義といわれる今日、富裕層など株主への配当が優先され、証券税制の優遇もあわさり、富裕層の資産がますます増加しているのである。
 輸出企業が儲かり、株主が資産を増やしてきたのだ。ちなみにETFというのは上場投資信託というもので、自分で株を購入するのではなく、投資信託会社にお金を預けて、上場企業の株式に投資してもらい、その運用益をもらうというものだ。
 日本では日銀が一〇年一二月から購入を開始。当時の日経平均株価は〇九年にバブル後最安値の七〇五四円まで下げた後、一万円前後で足踏みしていた。日銀は自らETFを購入することを通じて投資家の不安を和らげ、株式を買いやすくする効果を狙ったのだ。その後、段階的に購入額を増やし、一八年末には六兆円を超え、過去最高になっている。
 このようにアベノミクスの本質は、巨大独占資本、金融投機資本、富裕層を極端に優遇するものだったのだ。

 ●5章 アベノミクスこそ生活破壊の元凶だ

 最後に、アベノミクスがわれわれの生活をいかに破壊してきたのか今一度確認しておこう。
 まず賃金をめぐる問題であるが、最低賃金は二〇年は東京一〇一三円、全国加重平均九〇一円となった。実質賃金は、二〇一〇年(民主党政権下)を100として93・8。実質家計消費も92・4と大きく下がっている。アベノミクス開始(一二年を100として96・4に)時より3・6%も下がっている。これは、名目賃金の伸びを、物価が大きく上回ったからである。そして、物価が上がったのは、消費税増税に加え、異次元の金融緩和で無理やり円安にし、輸入物価が上昇したからである。
 なお、二〇一八年の名目賃金が一年で1・4%も上がったが、それは算出方法を変えて(毎月勤労統計の調査対象の入れ替え)かさ上げしたからである。賃金の下振れを回避するために行われたのである。この実質賃金の下落が大きく国内消費に影響し、日本の実質GDPの約六割を占める実質民間最終消費支出が大きく停滞したのだ。賃金が低下すれば消費が落ち込むのは当然である。
 安倍は賃金というと「賃上げ2%達成」を盛んに強調するが、この賃上げ率は春闘における賃上げ率を使っている。問題は、春闘の賃上げ率のサンプルだ。当然のことながら、春闘に参加した組合員しか対象になっていない。安倍が盛んに強調している賃上げ2%の対象となった労働者は全体の約5%程度しかいない。それも連合傘下の大手組合員が中心だ。5%にしか当てはまらない数字を声高に言い、あたかも国民全体の賃金が上がっているかのように錯覚させようとしている。中小零細で働く多くの労働者が2%の賃上げだといわれてもピンとこないのは当たり前の話である。
 さらに、野党が実質賃金低下を指摘する度に安倍が持ち出すのが「総雇用者所得」、すなわち雇用者の賃金の総額である。確かに総雇用者所得は増えている。その理由は単に「雇用者が増えている」からであり、数が増えたから総額が増えるのは当然だろう。安倍政権の成立した一二年以降一八年段階までにもっとも増えた雇用者数では医療・福祉関係の労働者で約一二五万人増加した。しかし、これもアベノミクスとは何の関係もない。高齢者が増えたことによりそれに携わる労働者が増加し、その分の総雇用者所得全体が伸びるのは当たり前だからである。つまり、安倍は都合のいい数字だけを声高に叫び、それをアベノミクスの「成果」だと言い張ってるにすぎないのだ。
 あわせて確認しておくと賃金の実質上昇率であるが、民主党時代最も低かった二〇一二年の実質賃金上昇率1・72を上回った年は、アベノミクス以降だと、二〇一六年のたった一回しかない。二〇一四年は大幅なマイナス。このように、実質賃金上昇率でみると民主党時代よりもアベノミクス以降の方が圧倒的に低いのである。
 賃金とともに安倍がよく持ち出す自慢に失業率と有効求人倍率の問題がある。確かに失業率は下がり、有効求人倍率は上昇している。しかし、これは先にも述べたが生産年齢人口の減少、医療・福祉関係の労働者が増加したことなどが大きく影響しており、またその傾向は民主党時代からはじまっていた。その上昇時期と安倍の登場が重なっただけであり、アベノミクスの影響ではない。
 また、経済成長を見る上でGDP統計が用いられるが、一六年一二月GDP統計をめぐっては研究開発(R&D)費を新たに加えるなどの新しい基準が採用され(「2008SNA」の導入)、GDPの再計算がおこなわれた。その結果、従来基準では五〇一兆円だった二〇一五年度の名目GDPは五三二兆円と約三〇兆円膨らんだのだ。同様に数値の底上げがされて一六年、一七年と順調にGDPが上昇(?)としているのだ。
 しかし、実際にどれほど経済成長しているのかといえば、国連の統計では日本の実質GDPの経済成長率は直近の二〇一八年で一九三カ国中一七一位の0・81%。経済が厳しいと言われている韓国でも一一三位の2・67%なのだから日本の低成長ぶりがわかる。
 さらにドル建てで計算する一人当たりのGDPを見るならば、IMFのランキングでは三万九三〇四ドルで、調査国中二六位。韓国の三万三三二〇ドル(二八位)と大差はないのである。安倍政権発足時の二〇一二年には四万八六三三ドルで一五位だったから、なんと九〇〇〇ドル以上減っているのだ。
 このようにアベノミクスでは都合の悪いデータは意図的に隠し、データの入れ替え、底上げ、偽装を行い、経済成長や賃金の上昇を演出してきたのである。安倍は民主党政権を「悪夢」と批判するが、多数の国民にとっては安倍政権は「地獄」である。
 貧困と格差の問題が全世界的に拡大する中で、国民の生活は大きく破壊されている。かねてから指摘されているが、直近のOECDの経済調査報告書(二〇一七年)では、日本の相対的貧困率は、一二年は16・1%、一六年は15・7%もあり、子どもの貧困率(子ども全体に占める貧困線に満たない子どもの割合)は「平成二八年国民生活基礎調査」によると13・9%、実に七人に一人の子どもが貧困となっている。一人親の場合、貧困率は50%を超えている。日本では一人親世帯、とりわけ母子家庭世帯が極めてきびしい状況に追い込まれている。母親一人の収入では平均で二四三万円であり、国立社会保障・人口問題研究所が一七年七月に実施した「生活と支え合いに関する調査」によれば、「ひとり親世帯(二世代)」の約36%が食料の困窮経験について「あった」と回答している。この現状ゆえにこども食堂が増え続けている。
 公的教育費の対GDP比が世界一五四カ国中一〇七位(3・59% 二〇一四年)と極めて低く、教育の格差の固定化が指摘され続けている。教育=自己投資論が横行し、英語検定における「身の丈に合わせて」なる発言が政権から平然と発せられているのである。
 「老後資金二〇〇〇万円」問題が社会問題となると同時に「貯蓄ゼロ」世帯に関する報道が大きな衝撃とともに関心を集めた。日本の金融資産の六割以上を高齢者が保有しているとされるが、すべての高齢者が裕福なわけではない。七〇代以上で「貯蓄ゼロ」が28・6%。五〇〇万円以下にすると40%。一方で三〇〇〇万円を超える世帯も18・3%となっている。他の全世代でも貯蓄ゼロが増加し、裕福な層とそうでない層との格差が広がっているのだ。
 財務省は二月二六日、国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担の割合を示す「国民負担率」は、消費税率が引き上げられた影響などで新年度には44・6%となり、過去最高となる見通しを発表した。40%を超えるのは七年連続となる。
 一方で、GDPに占める社会保障費は、OECD中一四位とフランスやドイツに比べても極めて低い。高齢化が急速に進む中で年金は低く抑えられ、支給年齢は繰り下げられ、介護制度の改悪が続き、生活保護世帯への補償は厳しい状況が続いている。
 二月には大阪府で無職の母親と長男の遺体が見つかった。水道とガスは止められ、食べかけのマーガリンや小銭などしか残っておらず、困窮の末に餓死したとみられている。自己負担だけが増えていき、国民の窮乏化、貧困化はますます深まり、餓死まで強制される事態を招いているのだ。
 アベノミクスは、大企業と富裕層に手厚く、大多数の人々には過酷極まりないものである。そして、ゼロ金利を七年間続けても物価上昇率は1%程度であり、公債発行残高は、九〇六兆円を超えGDP比280%で世界最高を更新している。
 アベノミクスは破綻している。企業の景況感はすでに悪化しており、オリンピック以降の景気後退は目に見えている。さらに今回の新型コロナウイルスにより経済悪化は前倒し的に加速している。危機管理能力のなさを全面的に露呈した安倍自公政権打倒にむけて全力で闘おう。




 

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