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 ■医療法改悪を弾劾する

                                河原 涼



 二一年六月一六日に閉会した通常国会で、医療体制の再編を目指す改悪医療法が成立した。
 正式には「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」という名称で、医療法や医師法、感染症法、労働基準法など幾つかの法律が一括して提出された。ここではそれを改悪医療法とする。
 これは、いわゆる団塊世代が七五歳以上となる二〇二五年に向けて、病床削減をはじめとする医療体制を再編する一大攻撃である。
 今回の改悪では、
 1 医師の長時間勤務を制限する「医師の働き方改革」
 2 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、医療計画に「新興感染症」への対応を位置付ける。
 3 医療体制の再編を目指す「地域医療構想」を進める一環として、統廃合などで病床を削減した医療機関にばら撒く財政制度の恒久化、外来医療機能、医師の業務範囲を見直す「タスクシフト」などが含まれている。


●1章 七五歳以上二割負担

 六月四日、七五歳以上の医療費の窓口負担を二割に引き上げる改悪法が成立した。
 原則一割となっている窓口負担を、年収二〇〇万円以上の人を対象に二割に引き上げるものである。
 引き上げの実施から三年間は、一カ月の自己負担の増加額を最大三〇〇〇円までとすることが定められているが、医療費の増額による受診控えが増加することは必至である。


●2章 「医師の働き方改革」

 政府は一九年度、働き方改革関連法に基づき、多くの職種について残業の上限規制を導入したものの、医師については、医師法が診療を原則として拒めない「応召義務」を定めていることなどの理由で、適用を五年間猶予してきた。
 一方、厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」などを記載するなどして、二〇年一二月に「中間とりまとめ」が公表された。
 医師の働き方改革では、法律が施行される二〇二四年より、医師は暫定的に定めた上限=年間一八六〇時間以上を超えて労働することができなくなる。現在、この上限を超えて働いている大学病院や三次救急病院などの勤務医はおよそ二万人。
 また三五年からは、標準と定めた九六〇時間以上の上限時間を超えて働くことができなくなる。現在、九六〇時間以上一八六〇時間未満で働いている勤務医は六万人。合計八万人もの勤務医が三五年から九六〇時間超えの労働ができなくなる。
 これらの見直しで、すでに医師の医療行為のうち三八行為は特定行為研修を受けた看護師が担うことになっている。タスクシフトとして今回の改正ではさらに救命救急士に病院の救急外来などでできるようにする。さらに医学生が臨床実習として医業を行うようになる。
 このことで、以前は大学の医局が割り振った病院で研修を受けるのが普通だったのに対し、新制度では多くの研修医が都市部の民間病院を選ぶようになる。一方、大学も研修体制の充実が求められるようになり、医局から派遣していた医師を地方の病院から引き揚げる。残された医師の労働環境が悪化することになる。負担増を避けるために開業したり、病院を辞めたりする医師が続出し、残された病院勤務医の負担が増す悪循環となる。


●3章 「新興感染症」への対応を医療計画に追加

 感染症法は、ハンセン病違憲訴訟などを経て、従来の伝染病予防法、性病予防法などを廃止・統合して九九年に施行された。
 二〇〇三年に改正され、緊急時における国の権限強化などが図られたほか、〇八年の改正でも新型インフルエンザ等感染症を追加した。〇五年に「新型インフルエンザ対策行動計画」が初めて作成され、一二年には、新型インフルエンザ対策等特別措置法が成立した。新型コロナウイルスへの対応は同法に基づいて、「緊急事態宣言」に伴う休業要請が出された。
 医療計画とは、各都道府県が六年サイクルで策定する計画であり、五疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)と五事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療)と在宅医療を計画に位置付けることが義務付けられている。
 医療計画は元々、一九八五年改定の医療法で導入された。当時から「医療費削減」を前提に、「病床過剰地域(!)」における民間病院の病床について、上限を設定するための計画を各都道府県が五年周期で策定することになった。同様の病床規制については、既に公立・公的病院に導入されていた。この改定を通じて民間病院にも規制がかかった形となった。
 一方、感染症対策は専ら感染症法の枠組みで実施されてきたため、医療計画では新興感染症が位置付けられていなかったが、新型コロナウイルスへの対応では医療の逼迫に伴い、病床確保などが焦点となった。そこで、「新興感染症」への対応を医療計画に位置付けることで、都道府県を中心とした対応が要請されるようになった。
 感染症対策は、保健所を中心とした枠内で実施されていた。都道府県は発生時の対策や医療提供、患者の移送などを定める「予防計画」を策定している。これに対し、今回の制度改変で医療計画に感染症対策が位置付けられたことで、医療計画と予防計画のせめぎ合いが焦点になる。
 日本の感染症対策は、八六権力以降労働者の劣悪な環境下、蔓延した結核の感染を契機に始まる。
 一九世紀後半から二〇世紀に入ると、結核対策が懸案となった。紡績工場や製紙工場などで働く「女工」と呼ばれた女性労働者の健康問題が浮き彫りとなった。こうした環境の下、結核となる女性労働者が後を絶たず、労働時間の制限などを盛り込んだ工場法が一九一六年に施行。現在に繋がる健康保険法(二七年施行)、労働安全法制の基礎となった。
 さらに、結核にターゲットを置いた対策として、結核予防法が一九年に制定され、人口五万人以上の自治体に対して療養所の設置規定が盛り込まれた。さらに、三七年の結核予防法改定では患者の届出制度が創設された。
 保健所法を制定する際(三七年)、政府は保健所を「一般国民に対し、保健上満般の指導をなす機関」と位置付けた上で、人口二〇万人に一カ所程度の保健所を設置することを通じて、「国民体位を向上せしめるため衛生思想を啓発し、衣食住その他日常生活の衛生的改善を指導し、結核その他疾病予防の指示をなすなど……保健上の指導をなす」と説明していた。
 三六年「二・二六事件」の後、陸軍は「健兵健民」を重視する。後の厚相となる小泉親彦は「全国から某師団に集まる優良なる壮丁(筆者注:成人のこと)が慢性の胸の疾患を持っている」とした、こうした危機意識が保健所法に加えて、三八年の厚生省や国民健康保険制度の創設に繋がった。
 敗戦直後は、結核は死亡理由のトップだったが、衛生環境の改善、特効薬の開発などを受けて、五〇年代後半には死亡理由の上位から姿を消した。疾病構造の変化や公的医療保険財政の拡大など様々な要因が重なり、感染症対策を含めた公衆衛生のウェイトが小さくなり、感染症に対する政策は、軒並み縮小されていく。
 保健所の設置個所数についても、六〇年代から一貫して八〇〇カ所を上回っていたが、現在は半分近くにまで減少している。こうした保健所の機能低下は、現在のコロナ対策の悲惨な現状を見れば、明らかである。
 感染症対策は、結核以外の感染症に対応する体制をほとんど取らなかった。国立感染症研究所、保健所など、予算自体が削られ、保健所は拡充どころか統廃合で大きく数が減っている。そうしたことをしておきながら、今になって医療計画に感染症を盛り込むと言われても、現場は混乱の度を深めるだけである。
 医療体制の再編を、人口問題、高齢者問題として、医療費削減を軸に再編していく流れは、コロナ禍でもあえて粛々と行われている。


●4章 医療再編を許さず、生活防衛、生の防衛を

 この問題の本質は、医療問題そのものに対する概念の問題を孕む。いわゆる「感染症対策」というときに、医者と患者の対面の「臨床医学」の問題としてだけでなく、公衆衛生学と言われる観点も合わせて考えなければならない。いわゆる社会的な観点からの感染症の発生の問題があるのだ。日本の歴史的な感染症対策といえば、結核への対応をみるまでもなく、官憲が介入する隔離(社会からの排除)を軸とした治安の観点のみの対応であって、人々の社会生活の維持、保障の観点などからのアプローチは希薄であった。
 本来ならば、保健所の機能は地域保健法にあるとおり、感染症対策だけでなく、栄養改善・食品衛生、住宅、水道・下水道の処理などが含まれており、臨床の「医療」に比べて、かなり広範な範囲を担わなければならない。しかし現実には、九〇年代からの行政改革、医療費抑制の政策と、保健所そのものが、国の機関から自治体の出先機関に変わり、統廃合を繰り返し、本来の公衆衛生の観点からの業務を担えないまま、機能が完全に麻痺している。保健所は、もはや公衆衛生の業務を十分に行うことができないほど、脆弱になってしまった。政府は、資本の要請による経済政策を打ち出す一方、人々には「自粛自粛」を無意味に強制し、いたずらに飲食店のみに責任をなすりつけ、感染爆発を安易に誘発させる。PCR検査体制は、未だに決定的に不十分である。
 重症患者が増加して医療機関が機能不全に陥れば、そのまま自宅療養を押し付け、一方で「医療費の削減」のために医療の再編は進められ、感染症対策のみならず、一般医療そのものも、ともに機能不全につきすすむ。医療の格差が拡大し、医療難民として切り捨てられていく人々が続出する。
 厚生労働省は二〇一九年九月、「再編・統合に向けた検討が必要な公立・公的病院」として、四二四病院を名指しした(後に四三六病院に修正)。これに対し、全国の首長や関係者から反発が出たため、全額国費の予算措置が二〇年度予算から創設された。
 その後、二〇年に入って新型コロナウイルスの感染が国内で拡大したことで、医療体制の再編の動向は、宙に浮いているが、それでも厚生労働省は「(大規模な感染症が)起こっても十分に対応できるような体制は……各地域で……検討をしていただきたい」として、都道府県を主体にして地域医療構想を推進する考え方自体を変えていない。
 改悪医療法の核心は、増大する高齢者に医療費の自己負担増を強制し、「医師の働き方改革」によって、都市部と地方における医療の格差を拡大させ、病床などの削減を余儀なくされた病院に幾ばくかの補助金をばらまき再編を推し進め、日本の医療体制を脆弱なものにし、保健所の機能不全が常態化したまま、臨床医療、公衆衛生体制の混乱と混沌―脆弱化を深めさせる悪法再編である。コロナ禍、医療の再編―格差拡大で、救える命をあえて切り捨てるこの悪法、体制そのものを、粉砕しなければならない。



 



 

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