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   「気候正義」実現迫る国際的な闘いを

        
            田代 基
 
 

 ●1章 COP26に向けて闘う世界の民衆

 「Fridays for future」の呼びかけるグローバル気候アクションが三月一九日、世界六八ヶ国一〇六八ヶ所で取り組まれました。
 掲げられたスローガンは、「空約束はもうたくさんだ」。コロナ禍の影響もあり、多くがオンラインでの取り組みであったり、参加者が互いに距離をとりながらの行動となりました。例えばベルリンでは、参加者全員が自転車に乗ってのデモが行われました。日本国内でも、言葉を発しない街頭でのスタンディングアクションや、各種SNSで共通のハッシュタグをつけて発信することで注目度を上げる「SNSストーム」などが各地で取り組まれました。
 昨年コロナ禍で延期されたCOP26(第二六回国連気候変動枠組条約締約国会議―於グラスゴー)の開催を今年一一月(於グラスゴー)に控え、「気候正義」の実現を求める世界民衆の声はコロナ禍の制約を突き破って高まっています。

 ●2章 「パリ協定」復帰を決めた米帝バイデン政権

 昨年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが敗北し、民主党バイデン政権が誕生したことは、単なるアメリカ帝国主義内での政権交代にとどまらない意味を持っていました。バイデンと民主党は、選挙中から「パリ協定への復帰」と気候変動対策を進めることを公約していたからです。「気候正義」の実現を求める世界の民衆が、トランプの敗北=バイデンの勝利を歓迎したのは、当然のことではありました。実際バイデンは就任初日に、パリ協定に復帰する大統領令に署名をしました。
 とはいえ、世界第二位の温室効果ガス排出国の大統領と政権が、気候危機の存在をすら否定し、国際的な枠組から外れていたということがあまりにも論外な事態なのであって、米帝のパリ協定復帰は、これでやっとどうにかスタートラインについたか、くらいのことでしかありません。バイデンは「二〇五〇年までにアメリカの温室効果ガス排出を実質ゼロにする」と公約していますが、気候変動対策の研究機関で作る国際団体「クライメート・アクション・トラッカー(CAT)」の試算では、バイデン政権の公約が完全に達成されたとしても、今世紀末までの世界の気温上昇を抑える効果はたった「〇・一度」分でしかないからです。米国民衆と運動体は、バイデン政権の不十分性を認識し、対策の一層の強化を要求しています。

 ●3章 「史上最高タイ」の平均気温と相次いだ災害

 二〇二〇年は世界的な新型コロナウイルスのパンデミックで、生産活動が停滞し、温室効果ガスの排出が抑制された、と言われました。しかしながら世界の平均気温は二〇一六年に並び観測史上最高でした。そして、地球温暖化が加速させたと思われる災害も続きました。米カリフォルニアでは、州史上最大の山火事が発生しました。大西洋では名前の付けられた熱帯低気圧の数が史上最多の三〇個となりました。ロシアのノリリスクでは五月、永久凍土の融解で火力発電所の地盤が傾き、燃料油が川に漏れ出す事故が起きました。ロシアでは、建物や生活・産業インフラが傾いたり沈下して使えなくなる事態が多発しています。また、地中のメタンガスが爆発的に放出されて地表に大きなクレーターが現れる現象が続いており、温暖化の加速が強く懸念されています(メタンガスの温室効果は二酸化炭素の二八倍)。

 ●4章 「二〇五〇年実質ゼロ」日帝―菅の表明の意味

 二〇一五年のCOP21で採択された「パリ協定」は参加国に「産業革命以来の平均気温の上昇を二度未満、できれば一・五度までに抑える」努力を求めていますが、日帝政府と日帝資本は、これまで一貫して不熱心でした。日本は現状、人口は世界の1・7%ながら温室効果ガスは約3%を排出する、世界第五位の排出国です。殊に石炭火力発電をやめようとしない姿勢は、国際的に強い批判の的でした。国連のグテーレス事務局長は昨年二月と九月に、他国と並んで日本を名指しして批判しています。
 ところが現首相菅は、昨年一〇月の就任後初の所信表明演説と一一月のG20サミット(オンライン)で、「二〇五〇年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」ことを突如表明、国際公約としました。社会的なインパクトは小さくないものがありましたが、しかしこれは、菅が何かしら良識に目覚めたというようなことではありません。これに先立つ九月二二日、中国の習近平が「二〇六〇年までに」同様にネットゼロを実現すると表明していました。この時すでにアメリカでは民主党政権の誕生が濃厚となっており、これ以上、気候変動対策を真っ向から否定する米帝トランプの陰に隠れてはいられなくなりつつありました。かくて従来の姿勢のままでは国際的に孤立しかねないことや、巨大な米中両国の市場における競争に不利に働きかねないことから、菅はこの時期の態度表明に急転直下、追い込まれたということです。
 勿論、民衆の利益を考えてのことではなく、ただ帝国主義国とその政治委員会として生き延びるためだけに、です。

 ●5章 不十分な目標設定より大きな転換を要求しよう

 しかし、「二〇五〇年にネットゼロ」とは今や「誰でも言える」「当たり前」レベルのものです。日帝はそれを何周遅れかでやっと表明したに過ぎません。まして当の菅自身が二〇五〇年に実現に責任をもっているのかは怪しい。言いっ放しで終わる可能性すらあります。
 重要なのは、その最終目標をどう実現するのかという中期目標であり、国別約束(NDC)の内容です。日帝は「二〇三〇年に二〇一三年度比で26%削減」という極めて不十分な目標設定を、二〇一五年から据え置いたままです。これは、一九九〇年比では18%の削減でしかありません。先述のCATは、日本のNDCを「非常に不十分」と断じました。仮に世界中がこのレベルにとどまるならば、世界の気温上昇はゆうに三度を超えるのですから、どれほどお話にならない低水準のものであるかは明らかです。
 さる三月四日、CATは「日本はパリ協定の目標達成のために、二〇一三年比で60%以上の削減が必要だ」との報告を発表しました。また日本の「気候ネットワーク」は昨年末に、「50%以上の削減を」と提言しています。
 日帝菅政権は、今年四月の気候サミットか一一月のCOP26までには、二〇三〇年までの中期的目標を打ち出すでしょう。欺瞞的で不十分なものにさせてはなりません。

 ●6章 「気候正義」実現のための意識喚起と国際的連帯を

 菅に「二〇五〇年に排出ゼロ」と言わせたのは、決して当人の良識でもなく、また日本国内からの大きな声でも必ずしもありませんでした。気候変動の影響は現下、寒冷な高緯度地域でより顕著に出る傾向にあり、比較的温暖なアジア地域では問題への社会的関心が全般に低いままです。それは日帝足下の左派も全く同様で、菅の昨年の所信表明と本年年頭の施政方針について、日本国内の左派勢力は今日までほとんど言及、論評をしていません。しかし、関心が低いままで良いはずがないのです。
 気候変動のもたらす災害や食糧危機、水不足などの事態は、より弱く貧しい人民、階層から順に直撃して行きます。
 一例を挙げれば、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、二〇〇八年以降、世界で毎年二〇〇〇万人以上が「気候変動難民」として移住や避難を余儀なくされており、二〇五〇年までにその数は二五〇〇万人から一〇億人にまで達すると予測しています。すなわちその内の3%、数万から数十万人の難民化は、日本由来の温室効果ガスのせいだということになります。福島第一原発事故並みかそれ以上の避難、移住を毎年新たにもたらす(もちろん日本国内でも)事態を、私たちが見過ごしてよいはずがありません。
 世界の二酸化炭素の半分は、世界の上位人口10%(これには日本のほとんどの住民が含まれます)が排出しています。上位20%が70%を排出しています。排出を止める責任は、全くもって「平等ではない」のです。日帝足下の、世界的に見ればきわめて豊かな私たちには、より大きく重い責任があります。不正義は正さなてはなりません。
 突きつけられている課題と責任を見ようとしないままならば、日帝足下の左派はおよそ「人民の護民官」を名乗ることは出来ません。気候変動問題において、根本的な資本主義批判、帝国主義批判をなさなくてはなりません。
 生活の中の帝国主義、食卓の上の帝国主義と慎重に決別し、大量消費をほしいままにする生活様式を劇的に改めること。化石燃料や原発を再生可能エネルギーに置き換えることを求めるだけではなく、エネルギーの濫費自体を抑えること。日帝がなお進める火力発電所の建設に断固として反対し、阻止すること。これらをただ己の生活防衛としてだけでなく、国際連帯のたたかいとして推し進めること、これです。
 残された時間的猶予は決して多くありません。問題の所在を認識し、必要とされる闘いに起ち上がろうではありませんか。


 


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