共産主義者同盟(統一委員会)






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■『戦旗』1610号(3月20日)3面

 
障害者に対する強制不妊手術を許すな!
 国賠訴訟に勝利しよう!

                              
河原 涼



 二〇二二年二月二二日、旧優生保護法によって不妊手術を強制されたとして、近畿地方在住の三人が国に計五五〇〇万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が、大阪高裁であった。太田晃詳裁判長は、原告の訴えを退けた一審判決を取り消し、計二七五〇万円の支払いを国に命じた。強制不妊の規定は違憲と判断した。
 三月七日、国は、初めて賠償を命じた大阪高裁の判決を不服として、最高裁に上告した。このことを満腔の怒りを持って弾劾する。優生保護法による許し難い強制不妊手術を居直る、日帝―厚労省の障害者差別を断じて許さない。


●1章 「除斥期間」について

 第一に確認しなければならないことは、不法行為から二〇年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用を認めなかったことである。太田裁判長は、国が障害者に対する差別や偏見を「固定化し、助長してきた」結果として、「訴訟提起の前提となる情報へのアクセスが著しく困難な環境にあった」と認定し、賠償請求権を認めた。
 大阪高裁の判決では、旧優生保護法の差別的な規定が廃止された九六年が起算点になるとしたが、「除斥適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」とし、情報へのアクセスが困難な環境が解消されてから六カ月間は「除斥適用の制限が相当」とした。
 報道された「判決要旨」によれば、障害者自身が「旧優生保護法の下、非人道的かつ差別的な烙印を押されたともいうべき状態に置かれ、個人の尊厳が著しく損なわれたことも権利侵害の一部を構成する」とし、「そのような違法な侵害は、改正法の施行日前日の一九九六年九月二五日まで継続した」として、除斥期間の起算点を九六年九月二五日としたものの、その起算点そのものが「被控訴人(国)が立法や施策によって障害者らに対する差別や偏見を正当化・固定化し、更に助長してきた」とし、「これに起因して、控訴人らが訴訟を提起する前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことに照らすと、除斥期間の適用をそのまま認めることは著しく正義・公平の理念に反する」として、除斥期間の適用そのものを認めなかった。これにより、訴えた障害者の賠償請求権を認めたのである。


●2章 国家の責任を追及する

 第二に確認しなければならないのは、一方において、国会議員が被害者への救済措置を講じてこなかった「立法不作為」は違法ではないと判断したことである。
 全国で九つの裁判が闘われているが、二〇二一年八月三日の神戸地裁判決では、「子どもを産み育てるか否かの意思決定の機会を奪った」として旧優生保護法を違憲と指摘し、国会議員が速やかに優生条項を改廃しなかった「立法不作為」を違法とする初めての判断を示した。神戸地裁小池裁判長は、「九六年の旧法改正まで国会議員が条項を放置したのは国家賠償法上、違法」としたのである。ただ、手術から二〇年の除斥期間が過ぎ、損害賠償の請求権が消えたとして原告側の請求を棄却した。
 今回の大阪高裁判決は、「除斥期間」の適用を認めず、障害者の賠償請求権を認めた。そして旧優生保護法そのものが「反人道的」あるいは「違法」であるとし、立法行為の「違法性」は認めた。
 しかし、その違法状態を改めなかった国会、国会議員による救済法の立法行為は、「厚生労働相が優生手術の被害への対応に言及した二〇〇四年三月当時、被害者に対する金銭的な補償などを盛り込んだ立法措置をとることが必要不可欠で明白であったとはいえず、立法措置を怠ったことが違法の評価を受けるものではない。歴代の厚労相や首相による救済措置の不作為について、国家賠償法上の違法性を認めることはできない」としたのである。
 言い換えれば、大阪高裁は、障害者が被った甚大な差別、理不尽な現実に対して、国家責任の根幹を認めなかったが、それでもなお、障害者に対する「非人道的」な仕打ちに対する賠償を請求する権利は、認めざるを得なかったと言える。
 不妊手術を矯正された障害者は、差別の現実を跳ね返し、国家賠償責任追及を闘ってきた。それは一方において、裁判において、国家責任が追及されて然るべきものである。大阪高裁判決は、旧優生保護法が差別法であったことは認めたが、差別法を改めなかったことは違法ではないとして、国家の加害責任を曖昧化した。このことを徹底的に確認しなければならない。


●3章 旧優生保護法糾弾

 そして、第三に確認しなければならないことは、そうであるがゆえに、旧優生保護法の差別性、反人民性そのものを徹底的に確認しなければならないということである。
 日帝の天皇制優生思想を全面に押し出した差別法ゆえに、多くの障害者が、筆舌につくしがたい差別に苛まれ、多くの命が奪われていった。旧優生保護法こそ、その法制度的象徴であり、このような差別法を立法化し、かつ長く放置してきた責任が一切問われることなく、誤魔化すことを、絶対に許してはならない。障害者差別糾弾―日帝打倒闘争の正当性を今一度確認しなければならないということである。
 旧優生保護法は、第二章第三条において「優生手術」を規定している。
 「第三条 医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、任意に、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない」としている。
 「未成年者、精神病者、精神薄弱者」に関しては、そもそも任意というものは存在しない。また、「同意」「任意」とは名ばかりであり、第四条には、医師の判断で強制不妊が堂々と認められていた。
 曰く「第四条 医師は、診断の結果、別表に掲げる疾患に罹つていることを確認した場合において、その者に対し、……前条の同意を得なくとも、都道府県優生保護委員会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる」としていた。
 以下三条にあがっている項目を挙げてみる。
「一 本人又は配偶者が遺伝性精神変質症、遺伝性病的性格、遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有しているもの。
 二 本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神変質症、……遺伝性身体疾患又は遺伝性奇形を有し、且つ、子孫にこれが遺伝する虞れのあるもの。
 三 本人又は配偶者が、癩疾患(ママ)に罹り、且つ子孫にこれが伝染する虞れのあるもの」。
 このような予断と偏見に満ち満ちた差別項目がずらりと並ぶのだ。ここでいう「遺伝性精神病」とは、別表によれば「精神分裂病」(ママ)「躁うつ病」「てんかん」のことを指し、遺伝性精神薄弱」には「白痴」(ママ)の但し書きがあり、「強度且つ悪質な遺伝性身体疾患」という項目では「筋萎縮性側索硬化症」(ALS)という原因不明の難病にすら、全くの根拠もなく、予断と偏見のみで「遺伝性」「悪質」というレッテルを貼りまくっている。「遺伝性奇形」に挙げられた項目は、徹頭徹尾、障害者に対する階級的悪意をもった項目ばかりである。
 徹底した天皇制優生思想を、これでもかと垂れ流し、優生手術を正当化している。
 このような法律を立法化した違法性、差別性、反人民性は言うに及ばず、こうした法律によって夥しい障害者やハンセン病などのその周辺の人々が筆舌につくしがたい辛酸を受け、呻吟し続けてきた理不尽の歴史を、われわれは決して忘れてはならない。
 ところで、二〇一九年四月二四日、旧優生保護法下で不妊手術を強制されるなどした被害者に一時金三二〇万円を支給する救済法(議員立法)は、旧優生保護法成立から七一年後にやっと施行された。しかし、支給が認められたのは一〇〇〇人に満たない。
 厚生労働省によると、不妊手術などを受けたと推計されるのは約二万五〇〇〇人。うち一時金の対象となる生存者は、一九年時点で約一万二〇〇〇人とされた。
 施行後、都道府県などに寄せられた相談は延べ五九八二件、申請は一一三八件あり、認定に至ったのは二二年一月末時点で九六六人。国は、被害者への個別通知を求めていない。障害者は、自分で調べて自分で申請しなければならない。そして申請してきた障害者のみ、いくばくかのお金を渡して、全てを終わらせようとしている。差別法で耐え難い苦痛を強いられた障害者一人ひとりに対して、本気で救済しようとは全く考えていないことがよくわかる。被害者は高齢化し、請求期限の二〇二四年も迫っている。
 このような、居直りを決して許してはならない。 日帝の障害者差別政策の根幹である天皇制優生思想とそれを体現した旧優生保護法を根幹から粉砕し、国家責任を認めさせよう!
 障害者解放―日帝打倒で闘おう!

            






 


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