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■『戦旗』1618号(7月20日)6面 外国人技能実習制度は 一刻も早く廃止すべきだ! 村上 哲 深刻な社会問題となっている外国人技能実習制度問題。約三五万人の外国人技能実習生が、「技能実習」の名の下に低賃金で過酷な労働を強いられている。 二〇一七年に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、技能実習法という)が成立し、技能実習機構が発足したものの、問題点はいっこうに改善されないまま、労働から生活問題まで多様で複雑な社会問題として現れている。全国的に報道された岡山でのベトナム人技能実習生暴行・傷害事件は、技能実習制度の理念と実態の著しい乖離を明らかにした典型的な事例だ。 ベトナム人技能実習生に対する暴行・傷害事件が示したもの 暴力、未払い賃金、帰国強要など、外国人技能実習生問題は大きな社会問題となっている。わたしたちの社会には、およそ一七二万人の外国人労働者(二〇二一年一〇月末時点)が生活を営んでいる。そのうちおよそ三五万人の技能実習生が過酷な労働に従事し、日本社会の底辺を支えている。日本社会はもはや移民社会と言っても過言ではない。外国人労働者は、わたしたちの隣人であり、大切な仲間である。困窮する彼ら、彼女らからの相談、争議、組織化は、労働組合の大切な課題である。 岡山市でのベトナム人技能実習生暴行・傷害事件は、暴行シーンが公表されたことから各報道機関がおおきく取り上げ社会問題となった。 彼は、二〇一九年一〇月にベトナムに妻子を残して単身で来日、岡山市内の建設会社でとび職として「技能実習」を始めたものの、ほどなく日本人社員から暴力を受けるようになった。 暴力の実態はすさまじいもので、移動中の車内で小突かれる、事務所で日本人労働者から腹や腰を蹴られる、トラックの荷台で作業をしている時、箒の柄や棒状のもので頭や、背中、尻を執拗に叩かれる。また、作業中、日本人社員の過失によってろっ骨を折ったことがあり、唇を裂傷、歯を折るケガも負った。休憩時間を取り上げられたり、雨中の作業では、日本人社員から泥を投げつけられたり、帰社の際、車にすぐ乗せることなく置いてきぼりにさせるなど様々な嫌がらせがあった。こうした実態は全国で起きていることなのだ。 一月二四日、出入国管理庁、厚生労働省、外国人技能実習機構は、連名で「技能実習生等の外国人に対する人権侵害行為は、外国人の人権擁護の観点からも、決して許されるものではありません」などとする注意喚起を文書をもって実習実施者、監理団体に対して行った。翌二五日、古川法務大臣が記者会見で「技能実習生に対する人権侵害行為は、決してあってはならず、入管庁に対して速やかなに対応するよう指示した」と述べた。こうして岡山の技能実習生に対する暴行・傷害事件は大きな社会問題となり、技能実習制度のあり方を根本的に問うきっかけの一つとなった。 ベトナム人技能実習生を保護した労働組合が交渉した結果、事業所は、日本人社員による暴力行為をすべて認め「謝罪と補償」を行うことを明らかにした。また、監理団体も、事実関係と保護責任を果たしてこなかったことを認め「謝罪と補償」を行うことを明らかにした。 また、次のような労災隠しの事実も明らかになった。 作業中、日本人社員から蹴られ「ろっ骨を折ったこと」について、ベトナム人技能実習生は、日本人社員から「階段から落ちたことによるケガにしろ、そうしないと、病院には連れて行かない」と言われた。仕事を休むことも許されず、治療を受けたものの、完治しないまま仕事をすることを強要された。 日本人社員から資材を投げ渡された際、「唇を裂傷、歯を折るケガ」を負った。このケガについても、「自転車によるケガ」として監理団体が処理した。 彼は、こうした暴力やケガを受けていること、不眠で悩んでいることなどを監理団体に必死に訴え、別の事業所への転籍を相談していた。しかし、監理団体は、彼を保護することもなく適切な支援策を講じてこなかった。暴行・傷害の加害者である会社に第一義的な責任があるものの、監理団体としての監理、保護責任の欠如は厳しく問われなくてはならない。 外国人技能実習制度は、「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力することを目的」(厚労省ホームページ)としている。 「建築の仕事を学びに来たが危険な仕事や力仕事ばかりやらされた。働く時間も長かった。ベトナムで役立つことは学べなかった。暴力を受けたり、いじめられて心身ともに疲れました」というベトナム人技能実習生の訴えは、制度の目的と実態が乖離していることをはしなくも明らかにしたといえる。 この岡山での暴行・傷害事件で明らかになったことは、実習実施者である会社は、「労働力の需要の調整の手段として行われてはならない」(技能実習法)にもかかわらず、安価な労働力として技能実習生を受け入れていたこと、また、日常的に人権侵害がおこなわれ、失踪者を出すなど実習実施者としての適格性にも欠けていた。 監理団体も、実習実施者が、技能実習生を受け入れるだけの条件を満たしているかを十分調査することもなく、一人でも多く技能実習生を送り込むことを優先していたことだ。失踪者を出している現実を真剣に考えないから、労働環境や人間関係などに注意を払うこともなく、その場限りの安易な対応をしていたことになる。 また、それらを監理、監督する外国人技能実習機構の在り方も厳しく検証されなくてはならない。 技能実習制度の廃止のために力を尽くそう 技能実習制度が安価な労働力を受け入れるための制度実態になっていることは明白である。全国的な相談事例では、多額の債務、違約金、低賃金・賃金未払、強制帰国、暴力・ハラスメント、妊娠・出産問題など人権侵害が多数寄せられている。 中でも建設関連の技能実習生からの相談事例では暴力が顕著である。事業所の規模は、ほとんどが五、六人というもので、なかには日本人社員と技能実習生が同数程度の事業所もあった。こうした規模の事業所では、労使の力関係は圧倒的に使用者側が強く、その下に技能実習生が位置している構造がある。「技術の移転」とは程遠く、作業内容も十分教えられず、ひたすら指示に従うことを強要される現実がある。物を投げつけられたり、罵声を浴びせられる。劣悪で危険な労働環境、低賃金、長時間労働のなかで暴言、暴行も日常化しているといえる。 そこには、技能実習生の人権が軽んじられ、対等な労使関係もなく、人間としての尊厳が踏みにじられている現状を見過ごす人権意識の希薄さ、アジアの人々に対する差別感情がにじみ出てきている。技能実習生にまつわる現実は、日本社会の現実を反映したものである。その意味では、日本社会の問題であり、私たち自身が解決すべき課題でもある。 こうした嘘やごまかしによる技能実習制度は、速やかに廃止し、基本的人権、労使対等原則が担保された新たな仕組みこそが求められている。 労働者の国際連帯を堅持し、技能実習制度廃止に向けて闘いぬこう。 |
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