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■『戦旗』1621号(9月20日)6面 物価高騰を乗り越える最低賃金の再引き上げを 内田加奈子 今年度の最低賃金について、地方最低賃金審議会の決定が行われ、一〇月初旬に発効する。 今年度の最低賃金審議会の経過を振り返ると、中央最低賃金審議会が八月二日に目安を発表し、A・Bランク三一円、C・Dランク三〇円の引き上げを答申した。以降、各地方最低賃金審議会で各地の答申が行われ、一〇月に発効する(発効日は都道府県によって異なる)。 ●1章 同一労働同一賃金を否定し、地方格差を拡大するランク制 最低賃金制度は一九七五年に各都道府県で最低賃金審議会が設置されて現在の形になっている。当時、労働運動側は「全国一律最低賃金」を求めていたが法制化されず、全国の整合性をはかるために都道府県を四ランクに分けて、中央審議会で「目安」を発表することになった。目安制度の下で一九七八年以来、各地方の最低賃金は「目安」に従って決定されてきたが、二〇年前の二〇〇二年には最高七〇八円、最低六〇五円で差額は一〇三円、比率は85%だったが、二〇二二年は最高一〇七二円、最低八五三円で差額は二一九円、比率は80%になる。ランク別目安制度によって都市部と地方の格差が開き続け、都市部への人口集中と地方の過疎化の原因となっている。 二〇二〇年はコロナパンデミックによる経済の停滞を受けて中央審議会の目安は「据え置き」となった、二〇二一年の目安では「一律二八円引き上げ」とされた。今年はA・Bランク三一円、C・Dランク三〇円の目安が発表されたが、Dランクでは福島県を除くすべての県で一円~三円目安を上回る改定となった。昨年は目安を上回る改定を行ったのは七地方だったが、今年は二二地方と三倍になった。地方の格差をなくし、全国一律を求める声は大きくなっている。特に茨城県では知事が経済団体に最低賃金引き上げへの理解を要請するなど、各地方とも近隣県との差を意識した動きが強まっている。 地方ごとの最低賃金制度は、同一労働同一賃金という賃金原則と矛盾する制度でもある。全国展開するチェーン店や郵便局では最低賃金を基準にアルバイト・パートタイマーの賃金が決められている。同じ仕事をしていても働く場所によって賃金が異なる。商品の価格やサービスの価格は同じなのに、賃金だけが大きく異なる地方格差を突破しなければならない。都市部では生計費が高いと言われているが、その主な要因は住居費である。一方、地方では公共交通が都市のようには充実していないために、自動車の必要性が高く、医療や教育などへのアクセスに費用がかかり必要生計費には大きな差はないという調査結果が出ている。 ●2章 低所得層は物価高騰で生存の危機に直面している 今年度最低賃金の引き上げは加重平均三一円(3・3%)で過去最高と言われるが、物価高騰の中で実質賃金としてはむしろ下がっている。現在の物価高は「スクリューフレーション」と呼ばれる生活必需品を中心とした物価高騰だ。七月の物価指数は前年同月比2・6%の上昇と発表されているが、個別にみると、電気代19・6%、ガス代18・8%、生鮮食料品を除く食料は3・7%上昇している。食料品では食用油40・3%、調理カレー15%、食パン12・6%などが顕著だ。家電製品も洗濯乾燥機、電子レンジ、携帯電話機、ルームエアコンなどで10%を超える。食品や飲料で一〇月に値上げを予定しているのは六三〇五品目にも及び八月の二・五倍になる。今後さらに物価上昇は強まるすう勢だ。 冬に向かって暖房費の負担と食料品値上げが低所得層に重くのしかかってくる。グラフは六月までのデータを表示しているが、選択的支出項目では0・2%の上昇だが、基礎的支出項目(食料、家賃、光熱費、保健医療サービスなど)では4・4%になっており、生活必需品の占める割合の大きい低所得層では極めて厳しい状況である。まさに生存の危機と言って過言でない。 ●3章 一〇月発効の最低賃金を再改正せよ! このような物価高騰の中で一〇月からの最低賃金改定は3・3%の引き上げであり、全く不十分である。最低賃金近傍で働く労働者の生活は確実に低下する。 最低賃金法では、第一条で「労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与する」ことを目的にうたっている。さらに第一二条で、「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して必要があると認めるときは、その決定の例により、その改正又は廃止の決定をしなければならない」と定めている。まさに今こそが、「生計費を考慮して(最低賃金改正の)必要があるとき」である。諸外国では物価スライド制によって、一年間に二回も三回も最低賃金を改定しているケースもある。速やかに最低賃金の再改定を諮問するように厚労大臣と各都道府県の労働局長に迫ろう。 全国で声を上げ、行動し、生存のための最低賃金制度を実現しよう。 働く者の賃金底上げは、年金生活者や生活保護受給者にとっても重要な闘いだ。平均賃金の低下が年金引き下げ、生活保護切り下げの理由とされている。非正規雇用を拡大し、低賃金労働者を増やし続けている結果、平均賃金は下がり、実質賃金は三〇年間低下し続けている。これ以上資本の都合で労働者の生活破壊を許すわけにはいかない。全労働者・市民の大規模な決起を生み出そう。 |
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