共産主義者同盟(統一委員会)






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 ■1655号(2024年4月5日)3面

 
〈翻訳資料〉
 
フィリピンの現情勢を知るために
        


 

〈解説〉

 独裁者マルコスの長男フェルディナンド・マルコスが前大統領ドゥテルテの支持を得て大統領(任期六年)に当選してから今年五月で二年になる。フィリピン階級闘争は今どうなっているのか? 
 フィリピン共産党主席情報責任者であるマルコ・ヴァルブエナ「マルコスとドゥテルテの争いはファシズム的抑圧者たちの間の矛盾だ」(二四年一月三〇日)は冒頭、次のように述べている。「マルコス派とドゥテルテ派の対立をフィリピン人民は徹底的に拒絶する。労働者・農民・半プロレタリアート・専門家・知識人といった広範な大衆の利益を双方とも代表していない。両者は実際には、最悪の官僚資本主義者と、大地主および買弁ブルジョアジーからなる抑圧的かつ搾取的な支配階級とを代表している。また、ともにファシズム的抑圧と帝国主義によるフィリピン支配を推進している。」
 続いて次のように指摘する。
 ――対立するマルコス派とドゥテルテ派が集会・デモ合戦を繰り広げている。マルコスは父親の「新しい社会」という標語を彷彿させる「新しいフィリピン」というスローガンを掲げて先代の軍事独裁政権を美化している。だが、そこに新しいものは何もない。フィリピン社会は、物価上昇、低賃金、失業、土地喪失、経済的喪失、社会的条件の悪化、公共サービスの欠如が深刻化している。マルコス政権はまた一九八七年憲法の改悪を推し進めていて、新自由主義・規制緩和・民営化、外国資本による資源の所有およびフィリピン経済の独占化とを推し進める条項を盛り込もうとしている〔訳注:一九八七年憲法は、独裁者の父親が不正選挙を行い、国軍の反乱と大衆運動の力で打倒された一九八六年の二月革命をきっかけに制定された〕。そのために「民衆の主導性」という標語を掲げて大衆を煽動している。
 改憲について、議会では下院が賛成しているが上院は反対を唱えており、また上院議員であるマルコスの姉、副大統領であるドゥテルテの娘、そして前大統領のドゥテルテ自身も反対している。だがマルコス派はもちろん、大衆の現状へのいら立ちを利用してそれに乗っかるドゥテルテ派もその本質は上記の通りであり、後者からマルコス辞任要求が上がるほど激化している両者間の対立はしかし権力内部の主導権争いに過ぎない。ドゥテルテには、政権期の麻薬戦争と国軍による人民弾圧のための軍事作戦の責任を取らせなければならない。
 マルコスは票を操作した不正選挙で大統領になり、ドゥテルテと全く同様に、巨額の軍事兵器を買いまくりつつ中抜きし、農民と少数民族の抵抗をつぶして外国資本の地下資源投資を進めるために国軍の軍事作戦を繰り広げている。米国との軍事同盟の強化が中国との対立と中国包囲を助長しつつ南中国海・朝鮮半島・台湾での軍事的緊張の高まりにつながっている。「米国―マルコス体制」はフィリピン人民に対する抑圧と政治弾圧と帝国主義の支配をさらに強めている。
 しかし、一九八七年憲法改悪の策動は、賃上げ、非正規職撤廃、真の土地改革、燃料と生活用品の価格引き下げなどを求める広範な民衆の決起につながっている。「党とすべての革命勢力は、労働者、農民、プチブルジョアである知識人・専門家、その他すべての進歩的・ポジティブな勢力など広範な大衆が決起し行動し闘うためにあらん限りの努力を行使し続ける。そして、マルコス体制の下での危機的条件の中で、都市と農村双方での革命的大衆運動は、新人民軍により展開されている革命的武装闘争と共に、自らを強め、一層大きな頑強さをもって闘う責務がある。」――
 以下、フィリピンの現状、中でも労働者を取り巻く条件を知るための一作業として、フィリピンの左派系研究団体であるイボン財団の二つの文章を紹介する。
(訳者)


●1 「広がる非正規職と拡大する貧困はフィリピン政府の『力強い労働市場』という主張と矛盾する」(イボン財団二〇二四年二月七日)

 政府の経済管理機関が誇大に宣伝している高い雇用率と低い失業率の数字は、もっと多くのフィリピン人が置かれている厳しさとつながっていない、と研究団体のイボンは述べている。同団体は年間労働力に関する資料を吟味しつつ、公正な労働が広範囲に損なわれており、貧困層に転落するフィリピン人が増えているので、マスコス・ジュニア政権が「『力強い』労働市場」という誇大広告をいくら宣伝しても誰も受け入れない、としている。
 二〇二二年と二〇二三年を比較すると、雇用者人口は四六九〇万人から四八二〇万人へ一三〇万人増えた。他方、失業者は二七〇万人から二二〇万人へ四八万人減った。非正規職労働者もまた六八〇万人から五九〇万人へ七三万人減った。だがイボンは、こうした表面的なバラ色の数字は、やれる仕事なら何でもやってギリギリ凌いで更にひどい貧困状態に陥ったフィリピン人の数がどれだけ増えているのかを反映していない、と述べている。
 例えばイボンは次のように指摘している。労働者階級の中では非正規職と判断しうる仕事が増え、自営業者の数が一五万七〇〇〇人増えて一三〇〇万人から一三一〇万人と増加し、無給の家族従業者が一五万四〇〇〇人増えて三七〇万人から三八〇万人になった。以上の非正規職労働者は、総数が一九九〇万人から二〇四〇万人へ四八万三〇〇〇人増え、二〇二三年には全被雇用者の42・2%を占めた。この中には国内の自営業者、雇用者、賃金労働者、家族経営の農業もしくは事業において無給で働く家族従業者が含まれる。これに民間企業の非正規職労働者を含めると、非正規職労働者の全体の数は三四七〇万人にのぼり、被雇用労働者全体の72%に達することになる。
 さらに、期間雇用・非正規職・低賃金の労働で悪名高い分野で働き口が増えたとイボンはみなしている。農林水産業の雇用者は三五万七〇〇〇人増えて一〇八〇万人から一一二〇万に増加し、建設労働者は一六万三〇〇〇人増えて四四〇万人から四五〇万人に増えた。
 公正な労働と生活が欠けているために貧困状態に陥る人が増えているので、政府の主張する高い雇用率と低い失業率の恩恵を受けているフィリピン人は明らかに少ない。〔民間組織の〕社会気象台によれば、貧困若しくはぎりぎりの生活水準と自己評価する家庭の数は、二〇二三年第4四半期時点で前年同期比一二七万世帯増えて二二〇〇万世帯に達したが、これは全世帯の八割に当たる。また、飢餓世帯は五〇万人増えて三五〇万世帯に達した。フィリピン中央銀行の資料によれば、同時期の貯金なし世帯は五九万四〇〇〇増えて一八六〇万世帯から一九二〇万世帯に増えた。
 マルコス政権は『力強い労働市場』という幻想にしがみつき、大多数のフィリピン人の状況が悪化していることを見ていない、とイボンは述べている。イボンはまた、政府に対して、雇用の危機という現実を認識し、ごく少数の富裕層と権力者たちだけを潤す労働ではなく公正で維持可能な雇用を実際に作り出す政策を実行するべきだ、と述べている。


●2 「一四〇万人が職を失い、地方の農業、フィリピンの産業を強める必要が高まっている」(イボン財団二〇二四年三月九日)

 研究団体のイボン財団によれば、最新の労働力資料では雇用者が減っている、これは、働く意欲を持つ人の減少という現象、および、労働力に含まれない人の数の増加――落胆したフィリピン人労働者の数が増加していることを指す――とつながりがある。フィリピン政府は、わずかな利益を得ようとする外国投資者の歓心を買う代わりに、雇用危機を阻み、利益を生む仕事を作り出す経済を目指して国内農業とフィリピンの産業を発展させることに重点を置くべきだ、とイボンは繰り返している。
 イボンによれば、二〇二三年一月と二〇二四年一月の労働力人口を比べてみると、かなりの数のフィリピン人が劣悪な労働条件を予想して労働力から離脱していることが分かる。雇用者数は四七四〇万人から四五九〇万へ一四〇万人も大幅に減った〔一万人台を四捨五入した結果、数が合わないものと思われる――訳注〕。労働力人口が一六〇万人減って四八一〇万になる一方、労働力に分類されない人々が三二〇万人と桁外れに増えて三〇六〇万人に達した。フィリピンの一五歳以上の人口が一六〇万人増えて七八七〇万に達したにもかかわらずだ。
 同時期に失業者数は二四〇万人から二二万八千人減って二二〇万になった。イボンによると、これは失業中のフィリピン人が労働力人口から離脱してもはや失業者として公式に数えられていないためである可能性が高い。また、非正規職労働者の数は二六万人減って六四〇万人になった。
 また、主に非公式労働〔労働として認定されていない労働の意と思われる―訳注〕において雇用の喪失が顕著だ、とイボンは見ている。自営業者は一〇〇万人減って一一八〇万人になり、無給の家族従事者は一七〇万人減って二一〇万になった。
 農業での時間給労働・パート労働は一四〇万人、卸売業・小売業では一三〇万人減ったが、それぞれ収穫の終了と休暇の時期のためである可能性が高い、とイボンは述べている。
 また、主に不安定労働で知られている部門でも雇用が喪失した。卸売業・小売業の労働者は一五〇万人(ママ)減って九〇〇万人になり、農林水産業の労働者は六九万七〇〇〇人減って九八〇万人になった。
 製造業の雇用も一五万一〇〇〇人減って三五〇万人になったとイボンは言及している。農業での雇用の喪失と合わせて考えると、農業と製造業という生産部門で劣悪な条件の労働が生み出されており、それが、フィリピン経済がどれほど脆弱であるかを示している、とイボンは述べている。持続可能で公正な雇用を創出するために、政府は輸入と外国からの投資に安易に頼るのではなく、資源を管理し、国内の農業と工業が発展するように支援してフィリピン人民が必要とするものを作り出して支えるべきだ。
 イボンは、政府は数十年間も外国からの投資の自由化に固執してきたが、貧しく生活基盤の弱いフィリピン人にとってお約束だったはずの利益はもたらされていない、と述べている。そうした固執は国の発展を実際は妨げている。現政権が同じ誤った道を歩み続ければ、フィリピン経済が雇用を創出するのは難しく、労働力にとっての条件を悪化させるだけだ。
(高橋功作訳)


 



 


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