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 ■『戦旗』第1639号(7月5日)3面

尹錫悦大統領就任一年

朝鮮、中国、ロシアと人民に宣戦布告

米帝従属、専制政治、民生破綻の検察国家(中)

高橋功作


●1 対中国包囲戦略の挫折と方向転換

 だが米帝の基軸戦略であるインド太平洋戦略=対中国戦略は完全に行き詰っている。
 第一に、軍事的には、クアッド(日米豪印)とAUKUS(米英豪)、そして軍事同盟への格上げを目指した日米韓軍事協力の強化の三つを軸にアジア版NATOをつくり、ウクライナ戦争の実質的当事者としてロシアとの戦争に踏み込んでいるNATOと結合させて中国への軍事的圧力をかけ続け、必要時には「台湾有事」を起こして日韓をはじめとする同盟国の戦力を投入する、という構想だ。
 しかし、①インドが中国との国境紛争を抱えているとはいえ、対中国の軍事的経済的包囲網には加わらず、また、ロシアから原油を廉価で大量に買い続けているため、「インドなきインド太平洋戦略」(「餡のないアンパン」(金鐘大(キム・ジョンデ))に陥っていること、②オーストラリアが政権交代した労働党政権の下で中国との関係改善へ方向転換したこと、③フランスがNATO日本連絡事務所開設に反対していること(六月の報道)などにより、その構想どおりには進んでいない。
 第二に、経済的には、経済安保(経済と安保の結合)のスローガンのもとで既述の通りに半導体などの核心分野の供給網から中国を排除して米国中心の供給網を同盟国及びパートナー国との間で新たに作り上げる計画だ。
 だが、一つに、G7加盟国首脳の訪中が昨秋より相次いでいる。昨年一一月にはドイツ首相ショルツが訪中して脱中国反対を明言し、「伝統的な分野と同時にエネルギーや人工知能(AI)などの新分野で協力を活発化させる」と関係強化を表明した。今年四月にはフランス大統領マクロンと欧州連合(EU)欧州委員長フォンデアライエンが訪中してウクライナ問題などについて意見交換するとともに仏航空機一六〇機や仏産豚肉の受注で合意し、「フランスは米中問題に巻き込まれてはいけない」と発言。数日後には「(アメリカの)同盟国であることは下僕になることではない」、「『一つの中国』政策と事態の平和的解決の模索を支持する」と述べた。
 二つに、米帝自身がこれまでも「脱中国」ではなく「危険性削減」と主張していたが、広島サミット開催の五月以降にそれを実行に移すために関係改善に向けた米中外交を活発化させている。バイデンが来年の大統領選挙で勝つためには経済状況の好転が必須と位置付け、そのためには最先端技術以外での中国との貿易をさらに進展させて米製品を買ってもらう必要があるからだ。肝はバイデンの腹心である米中央情報局(CIA)長官バーンズが五月に極秘訪中したことだ。内容は明らかにされていないが、「デタント」への方向転換の合図だ(金鍾大)。
 実際、閣僚級の米中接触が同月以降五月雨のように相次いでいる。サリバンが中国外交トップの王毅と会談。米国商務省長官レモンドおよび米通商代表部代表タイが中国商務部部長王文濤と会談。六月にはアジア安全保障会議で国防長官オースティンが中国国防相李尚福と「短い会話」を交わすとともに、演説で米中の国防当局間対話再開を求めた。今米帝は、中国侵略戦争ではなく、中国への政治的関与を強めている。二月の中国気球問題で頓挫した国務長官ブリンケンの訪中と米中外相会談が六月一八、一九日に行われた。
 三つに、日帝もまた米帝の動きを鋭意注視し、強硬発言を続けながらも「親分」と足取りを合わせている。四月には外相林芳正が三年ぶりに訪中し日中外相会談を行った。六月のアジア安全保障会議で防衛相浜田が中国国防相李尚福と会談し「日中防衛当局間ホットライン」など今後も対話を進めることで一致した。日中間でも事務レベル接触の活発化を前提とする閣僚級の接触が相次いでいる。


●2 対米従属性の深化と孤立化

 その結果どうなったか。対中最強硬派である英国とともに韓国が取り残され、外交的に孤立する事態に陥ったのだ。「自由と法治」を基盤とする「価値外交」「理念外交」を掲げる尹錫悦自身と閣僚が当初から「脱中国」などの強硬発言を繰り返し、昨年一一月には米安全保障戦略および米防衛戦略に基づき、同調して韓国版インド太平洋戦略を発表した。今年に入ってからは「中国がルールに基づく国際秩序に挑戦している」「中国が武力や脅しで台湾海峡の現状を一方的に変えようとしている」「力による一方的な現状変更の試みに反対する」「台湾海峡問題は韓国の安保と結びついている」など岸田政権および日本の右翼と全く同じ非難を連発している。「台湾有事」の際は米国の要求を受け入れて韓国軍が参戦する確率が極めて高くなった。これに対して中国外相秦剛は四月に「台湾問題で火遊びをする者は必ず自らが焼死するだろう」と猛烈に批判した。中国の競争力上昇もあって韓国の対中貿易も赤字が急増して貿易収支悪化の主因になっている。韓中間の対話の通路は閉ざされたままだ。両国関係は全体としてかつてないほど冷え込み、改善の兆しが全く見えない状態だが、韓国政府は何一つ手を打とうとしていない。
 朝鮮との軍事的緊張は一気に高まり、戦争勃発の危険性はかつてなく大きくなっている。尹錫悦政権は昨年五月に「大胆な構想」を発表したが、李明博・朴槿恵元政権同様に内容が全くなかった。南北間の交渉の線が全て断ち切られた中で米韓合同軍事演習が強化され、日米韓合同軍事演習も加えて軍事的恫喝が切れ目なく続いている。
 日米韓軍事協力は、四年前に日本の海上自衛隊所属の哨戒機が韓国海軍艦艇に対して低空危険飛行を繰り返した事件を不問に付した上で、朝鮮のミサイル発射情報を米日韓が同時共有化する方針が公表され、そのための準備が進行中であることが公表された。これが実現すれば、最高軍事機密である韓国軍のロー(生・未処理)データを同盟国でもない日本の自衛隊が対価なしに入手することになり、同時に、韓国軍の軍事水準の把握が可能になる。さらには、日本が米国の承認のもと、韓国へ通告することなく朝鮮への敵基地攻撃ミサイルを将来発射できることになる。日米韓軍事協力の同盟への実質的格上げが日米帝主導の朝鮮侵略反革命戦争への突撃を可能とする条件になるのだ。
 日米韓がもたらす朝鮮半島の軍事的緊張の高まりの中、朝鮮も短距離・中距離ミサイル訓練に加えて長距離・大陸間弾道ミサイルの開発を進め、発射に数十分かかる液体燃料から即座に発射できる固形燃料への転換が図られている。また、最近では偵察衛星ロケット発射実験も進行中だ。加えて、昨年末には数機のドローンが休戦ラインを越えて南下し、うち一機は日本の内閣府に当たる大統領室の近くまで飛来し、一帯を撮影して、撃ち落されることなく帰還した。ドローンで大統領室を攻撃できる可能性をこれは示した。韓国軍内部からも防衛上の欠陥を生むと批判の声が上がった青瓦台から龍山(ヨンサン)にある国防部敷地内への大統領室の移転による防空態勢の穴が表面化した。韓国側は対抗して休戦ラインを越えてドローンを北方へ飛ばしたが、国連軍司令部から「南北ともに休戦協定違反」との誹りを免れなかった。ちなみに、六月半ばに朝鮮と中国の間の人と物の行き来がコロナ以前の水準に復元される見通しだ。
 ロシアとの関係では、四月の米韓首脳会談を前にした三月、ウクライナ戦争をめぐり韓国軍が一五五ミリ砲弾五〇万発を米国への「貸与」としてヨーロッパへ搬出した。現時点ではすでにウクライナに移送されたはずだ。戦争当事国への殺傷兵器支援が原則禁止になっている韓国軍の規定違反だが、韓国政府はこの移送を「輸出」ではなく「貸与」だから問題ない、殺傷武器の直接支援ではないと強弁した。米軍の保有する砲弾がウクライナ支援により全世界的に枯渇状態で、駐韓米軍の砲弾備蓄も底をついた中、米韓の秘密協定に基づく移送と報道された。
 ロシアと韓国の関係は日ロ間とは経済的軍事的に比較できないほど深い。ソ連崩壊後の資本主義ロシアには多数の韓国企業が進出し定着した。また、米国が韓国への軍事技術供与を拒否したため、韓国軍は軍事力の基礎作りにおいてロシアの全面的な協力を選択した。韓国のミサイル・ロケット・戦車の技術的基礎はすべてロシア由来だ。だが、ウクライナ戦争勃発以来、「韓国がウクライナに武器を提供する場合、韓国とロシアの関係が破綻するだろう」という昨年一〇月のプーチン発言をはじめ、ロシアは韓国への参戦に度重なる警告を発してきた。朝鮮の武器がロシアに移送されているという東京新聞の昨年の報道は根拠のない誤報だったが、実際、朝露間の人と物の行き来量は増えている。また、国連安保理で帝国主義国の提出する朝鮮のミサイル発射に関連する制裁決議案は中露の反対で全く成り立たない状態が続いている。ロシアの技術者数人が協力すれば朝鮮の大陸間弾道弾の大気圏再突入が可能になって完成するといわれているが、最近プーチンはそれを示唆しつつ、韓国の参戦を牽制している。
 米国との関係では、昨年五月のバイデン訪韓に続いて今年四月の尹錫悦の国賓訪米があり、「普遍的価値」を掲げて中露を批判しつつインド太平洋戦略へ韓国が全的に組み込まれた。韓国政府は「前政権が弱体化させた米韓関係を強固なものにした」と対米外交を自画自賛している。だが、バイデンは昨年の訪韓時に「米韓関係の基礎を作ったのは文在寅(ムンジェイン)政権」と公言して前大統領に直接会おうとし、それが適わず電話で話した。また、金峻亨(キム・ジュンヒョン)によれば、尹錫悦政権は「米韓関係が文在寅前政権で破綻したのでそれを再建する」と見えを切ったが、米国外交官僚が「前政権時の米韓関係は歴史的に最良だった」と座布団を投げたので、以降「再建」を「強化」(つまり破綻したわけではない)と言い直した。
 さらに、米国の軍と諜報機関が英国・イスラエルなど同盟国を相手に大々的な盗聴活動を行っていることが今年三月に米軍兵士の暴露で明らかになったが、韓国大統領室もその対象の一つだった。米帝にとっては同盟国も潜在的敵国であるわけだが、長い物には巻かれよの韓国政府は「悪意で行った盗聴ではない」と自分にけりを入れ続けていた「親分」をかばった。ブルジョア民主主義の基準からみても、主権を毀損する機密流出事件という国家犯罪に対して抗議の声一つ上げない、寄らば大樹の陰、虎の威を借る狐的な植民地主義的依存性の底なしの深化の典型例だ。
 大統領と閣僚の舌禍事件が相次いだ一年だったが、外交での代表的な事例は昨年九月の訪米中にグローバルファンドに関するバイデンの演説を聞き終えた尹錫悦が会場を去る際に「国会(=米議会)でこいつら(=議員)が承認してくれなかったらバイデンは小恥ずかしくてどうしようもないぞ」と呟いた事件だ。その場面が韓国マスコミの共同取材団のカメラにそのまま録画され、ほとんど全ての放送局でそのまま報道された。米国の大統領と議会を卑下する大問題発音だったが、大統領室は「『ナルリミョン』と言ったのであって『バイデン』とは言っていない」と言い張った。『動物農場』的世界の現実化だ。
 加えて、同カメラを担当していた記者が所属する、政府に批判的なMBCを非難し、次の外遊の際に同局の記者を大統領機に同乗させず、今年五月には法務大臣の個人情報流出容疑で同放送局の看板報道番組である「ニュースルーム」の記者に対する家宅捜索を警察が強行した。
 日韓関係については本紙の本年五月五日号を参照されたい。
 尹錫悦政権がこの一年の最大の成果とみなす軍事外交は、米韓同盟を基軸としつつも多国間外交を展開した前政権の実践を全否定し、米韓同盟に日韓協力強化を加える一方で、朝鮮・中国・ロシアを激烈な表現で非難し続け、対話の通路が全面的に断絶する事態をもたらした。
 米国をはじめ帝国主義諸国は上述の通り対中関係において対立から修復へ重点を移動している。だが、それを大きな要素としつつも、インド太平洋戦略の推進が東アジア地域において米日韓対朝中露という新冷戦とも言える構造を招来し、朝鮮半島と台湾海峡での戦争勃発の「可能性」を日米帝国主義が高めているのもまた事実だ。
 金峻亨によれば、尹錫悦はすでに戦場にいて、朝鮮だけでなくロシア(ウクライナ戦争)および中国(「台湾有事」)と対峙している。私たちは、日本の自衛隊と、日米帝国主義への従属性を極限にまで深めた韓国政府の下での韓国軍とが米軍の突撃隊として朝中露の軍隊と激突する事態を絶対に阻止しなければならない。そのためにも、韓国・朝鮮・中国(台湾を含む)・フィリピンをはじめとするアジアの労働者民衆、さらにはロシアの反戦派と結合した国際的な交流・連帯と国際反戦闘争を大きく前進させ、力量を大きくして行こう。


■訂正

『戦旗』第一六三七号(六月五日)四面掲載の
「尹錫悦大統領就任一年
朝鮮、中国、ロシアと人民に宣戦布告/米帝従属、専制政治、民生破綻の検察国家(上)」の文章中に誤字がありました。お詫びして、訂正します。
五面六段目一七行目
・誤 対話韓海峡
・正 台湾海峡

 

 


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