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 ■『戦旗』第1652号(2月20日)6面

  大阪・関西万博をただちに中止せよ

 予算や資材は震災被害の救援・復興へ

  

阿月道太郎     


 

 大阪・関西万博が二〇二五年の四月の開催に向けて強引に突き進められている。巨額の税金を投入し、ひたすらゼネコンや関連企業の利益のために奉仕し、さらにそのためには労働者の健康や生命すら犠牲にしようとするこの計画を、維新の会もろとも潰してしまおう。


● 万博の概要

 「大阪・関西万博」は、二〇二五年四月一三日から約半年間、大阪市此花区の人工島・夢洲を会場に行われようとしている。公益社団法人「2025年日本国際博覧会協会」が準備から運営までを担う。二〇一八年一一月に大阪が開催地として正式に決定され、以降、会場決定(夢洲)を含めて、維新の会の府・市政が強引に準備を進めてきた。
 協会は、経団連会長の十倉雅和が会長、関西の経済団体の会長・会頭や大阪府知事・吉村洋文、大阪市長・横山英幸、関西広域連合長・三日月大造(滋賀県知事)など二十数名が理事となっている。ちなみに、「連合」会長の芳野友子も理事の一人だ。総合プロデューサーには、大阪市の特別顧問を務め、維新のブレーンの一人である森下竜一(大阪大学医学部教授)が就任している。
 森下は、自身が設立した企業で新型コロナウイルス感染症のワクチン開発をすると発表し、吉村洋文が「(二〇年)九月にも実用化したい」と発言したことなどで、この会社の株は急騰した。厚生労働省などから約七五億円の補助金を受けたにも関わらず、結局ワクチン開発はできなかった。万博の運営母体一つをとっても、維新と利権が浮き彫りになる。


●問題だらけの万博開催

 「大阪市廃止・特別区設置」(いわゆる「都構想」)の是非を問う住民投票は、一五年、二〇年と二度にわたって否決された。すると今度は「大阪府・市一元化条例」を維新と公明で強行採決した(二一年四月から施行)。結果、大阪市の財源が大阪府に吸収され、大規模開発の推進に拍車がかかった。都構想が頓挫した後の維新の目玉政策は、夢洲を舞台にした「万博」と、その後に予定される「IRカジノ」(開業は三〇年に延期されている)に移っていった。全く根拠のない「経済効果」をダシに巨額の国家予算、自治体予算を投じてメガイベントを開催し、大型の公共事業を誘致することが、維新の「経済政策」なのである。

杜撰な計画その1 膨れ上がる経費

 万博の会場建設費は、一二五〇億円から二三五〇億円へと、当初の見積もりからほぼ倍に膨れ上がっている。
また、国が負担する総額が、「日本館」整備費など万博に直接関係する費用だけで一六四七億円、大阪府・市は一三七七億円を負担する。これ以外に、国や自治体、民間が負担する会場周辺のインフラ整備の総額が、約九兆七〇〇〇億円になることも明らかになった。そのすべてではないが、その多くがわずか半年間のイベントのために使われることになる。
 一方、運営費(一一六〇億円)は、入場券や会場内の飲食店の売り上げでまかなうことになっている。入場券販売計画は、二三〇〇万枚だが、昨年一二月に毎日新聞が行った世論調査では、入場券を購入したいという回答は僅か10%、維新の支持層でさえ七割以上が購入に否定的だった。同じ大阪にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)でさえ、年間の入場者数が一五〇〇万人を超えたことがない。焦った関西広域連合長・三日月は、「修学旅行で来てほしい」などと全国に呼び掛けているが、大赤字は必至といえる。
 この事態に西村経産大臣(当時)は、国会で「国が補填することはない」と答弁し、吉村や横山は「万博は国の事業、国が不足分を負担すべき」と述べ、さらに関経連会長・松本正義も「経済界が資金を出すことは難しい」と、すでに三者とも責任逃れに躍起になっている。

杜撰な計画その2 会場建設、運営は可能なのか

 会場となる夢洲は、一九七〇年代からごみの埋め立てによって造られた人工島である。市民団体の請求によって出された資料によれば、万博(およびカジノ)予定地は、地盤の強度を表す「N値」が、地下五七メートルまで「5」だったという。住宅建設にはN値10~30、大型構造物の場合、50以上が必要という。とうてい巨大なパビリオンなど建てられる状況ではない。すでに夢洲は、埋め立て開始から約三〇年間で、五メートル地盤沈下している。
 地盤改良工事には一本一億円といわれる杭を数百本打ち込む必要があるという。数百億円の新たな費用がかかることになる。
 海外パビリオンは、今年一月になってやっと建設が始まったが、多くの施設で建設業者さえ決定していないのが実情だ。昨年一〇月時点で、パビリオンの建設申請を出しているのは僅か一カ国、申請の準備をしているのが二カ国という状況だ。人手不足と資材の高騰、そして建設の困難さから経費が上振れする危惧などが主な原因だ。

「三〇〇〇万人が参加する」の非現実性

 吉村は「万博には三〇〇〇万人がやって来ます」と見通しを述べた(二三年八月六日)。単純に計算すると一日当たり一六万人余りとなるが、港湾局データによれば夢洲の上下水道の供給・処理能力は一日当たり八万人分だという。また、交通アクセスは咲洲とつながる夢咲トンネル、舞洲とつながる夢舞大橋、そして延伸された地下鉄だけ。来場者の半分を地下鉄、半分をシャトルバスで輸送するというが、バスの車両、運転手の確保の問題が未解決のままだ。また、夢洲の四区はすでに物流拠点(トラックターミナル)として稼働している。バスやトラックが僅かな道路に集中し、大渋滞が予想されるが、その解決策はいまだに確定していない。
 元日に発生した能登半島地震では地震や津波で道路が寸断され、電気やガス、水道など生活インフラが絶たれ、半島という地形が救援・救助の遅れの原因といえるが、夢洲は交通アクセスが限られた人工島だ。南海トラフ大地震の可能性が高まっている中、自然災害が発生した場合、避難が困難という島を会場にしたイベントそのものの無計画性は明白だ。

労基法違反の建設工事

 昨年七月、万博協会が「来年四月から建設業に導入される時間外労働の上限規制を適用しないよう」政府に要請していたことが分かった。建設資材の高騰や人手不足によって海外パビリオンの建設準備が遅れており、工事を加速させるためになりふり構わない姿勢を示したといえる。そもそも、時間外労働の上限規制は一九年の労働基準法改正(働き方改革)で決められていたものであり、建設業界には「例外的」に五年間の猶予が与えられていたものである。二一年の東京オリンピック・パラリンピックでは、新国立競技場建設工事で長時間労働が続いた現場監督が自殺したほか、労災死亡事故が相次いだ。
 また、大阪府・市は昨年一一月、プロ野球の優勝パレードの際に二五〇〇人の職員を「ボランティア」と称して無償で動員し、会場整理などに当たらせ、大きな批判を浴びたところである。
 「いのち輝く未来社会のデザイン」をメインテーマに据える大阪万博の主催者が、このように労働者の権利や健康、生命を蔑ろにすることなど、決して許されない。


●大阪万博を直ちに中止せよ

 以上みてきたように、大阪万博は、決して労働者や大阪府民・市民の利益になるものではなく、国や大阪府・市の財政を圧迫するだけである。そして巨額の税金をつぎ込んでゼネコンや関連企業を設けさせるためだけの事業である。東京オリンピックが利権と汚職の温床になったことは記憶に新しい。
 元日の能登半島地震を受けてなお、経団連十倉(万博協会会長)は「救援救助、復興と万博とを並行して進める」、吉村も「なぜ(万博と復興が)二者択一になるのかわからない」、維新の会の代表・馬場は「万博開催が夢や希望になる」と述べるなど、あくまで開催に突き進んでいく姿勢を示している。岸田もまた、一月三〇日の施政方針演説で「新型コロナや大規模な自然災害を乗り越え、いのちへの向き合い方、社会の在り方を問い直す機会となる大阪・関西万博の成功のため、オールジャパンで進めていきます」と万博開催を強行することを宣言した。皮肉な発言である。旧統一教会との癒着、パーティー券問題を見よ! 維新や自民党の政治、企業と財界のための政治・社会の在り方をこそ、問い直さなければならない。
 このような大阪・関西万博は直ちに中止せよ! そして、予算や資材、人材を能登半島地震の被災者救援、復興へと振り向けよ!

 


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