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               ギリシャ人民に連帯しよう

   
                  2012年6月




 
 六月十七日、全世界の注視のもとで、ギリシャの再度の総選挙が行なわれた。この選挙は、ギリシャにおいて経済危機の口実のもとに三年にわたって人民に強制された「緊縮政策」をめぐる激烈な階級闘争の力関係を映し出すものであり、つぎの階級攻防の見通しを予見させるものであった。EUにおいても全体のGDPのわずか3%しか占めない小さい経済規模のギリシャの選挙が世界的に注目されたのは、単に欧州連合EU・欧州中央銀行ECB・IMF(これら三者は通称トロイカと呼ばれる)がおしつける緊縮政策が拒否され、ギリシャがユーロ圏から離脱するか、否か、ということや、ユーロ危機がどう推移していくか、だけに留まらない大きな深い意味をもっていた。全世界のブルジョアジーにとっては、ギリシャの危機が各国に飛び火し、二〇〇八年リーマン・ショック以降の景気回復の弥縫策が破綻し、経済危機と政治危機の沼地に入るのか否か、という問題であった。他方、全世界のプロレタリアートにとっては、ブルジョアジーがまったく信頼を失い人民大衆がまったく別の生存の道を求める状況のなかで、当面する生活防衛に留まらず、長期的な根本的な変革の道に進まねばならない問題であった。危機の引き金をひいたのは財政赤字であり債務の累積である。ギリシャ政府はEUに支援を要請し、EUは支援の条件として財政赤字の削減と公務員の削減、給与の削減、年金の削減、増税にはじまる一連の過酷な緊縮策をおしつけた。ギリシャは支援の見返りに、三つ国際機関の監視下におかれ、経済が管理されている。かつてない生活苦、権利の剥奪、そして社会の荒廃にたいして、人民はデモ、ゼネストなどで抗議に立ち上がった。この三年間において反緊縮策ゼネストは二十回近くにも達しており、経済活動、社会活動を停止させ、政権を交代させた。闘いを反映して今年行なわれた二度にわたる総選挙は従来の政治構造を崩壊させ、左派連立政権の実現手前にまで迫る左派の躍進を示した。そして今、危機を労働者人民みずからの権力を樹立して根本的な社会改造によって突破するのか、新自由主義の過酷な社会改造によって突破を許し、屈服するのか、の根本問題に立ち向かっている。闘いは、同様の財政危機に覆われているヨーロッパの各国にも波及している。ギリシャ労働者人民はその先頭にたっているのである。
 ギリシャ人民の闘いを理解し、防衛し、支持連帯することは国境を越えて労働者人民の任務である。とりわけ、EU、ECB、IMF、各国ブルジョアジー、それと癒着しているマスメディアのデマ・中傷を暴露し、危機の根源を資本主義そのものの矛盾の結果として批判しつくさねばならない。そして、ギリシャの人民が直面している複雑な政治過程と革命情勢を学び、われわれの現代の革命運動に教訓化していかなければならない。


  ●(1)08年恐慌と欧州危機

 ギリシャの経済危機の背景には〇八年秋のリーマン・ショック後の世界的な金融危機がある。ギリシャは世界各国と同様に景気対策などで以前をはるかに上回る国債による財政支出を行い財政状況が急速に悪化した。今回の危機の発端は二〇〇九年十月総選挙に勝利し政権復帰した全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のパパンドレウ政権が〇九年の財政赤字見通しを前政権が示したGDP(国内総生産)比3・78%を12・7%へと大幅に修正したことにある。これに対して欧米の格付け会社がギリシャ国債を格下げした。ギリシャ国債は信用が低下し、金利の上昇によって、国債からの資金調達も国債の償還も困難になり、いっそう財政難が進行した。政府は対応策として二〇一二年末までに財政赤字をGDP比3%以下に抑えるために公務員給与削減や社会保障の抜本的削減など厳しい財政健全化策を策定した。この緊縮策を条件としてEUはIMFと合同でギリシャにたいして千百億ユーロの緊急支援融資を行なう決定を下した。以降も、EUは財政赤字が拡大したことを理由に追加の緊縮策をギリシャに要求し、議会はさらなる歳出削減、増税を決定した。さらに先進国財務省・中央銀行総裁会議(G7)は日米欧が結束してギリシャ、ユーロの金融不安の沈静化を目指すことを確認した。こうして全世界のブルジョアジーが火消しに全力をあげる姿勢を示した。
 しかし、その後、財政危機と金融不安はアイルランド、さらにスペイン、ポルトガルの国債をも直撃した。
 〇八年の世界的な金融恐慌のなかで、各国は大規模な景気対策や金融緩和、銀行への資金注入による救済を行なった。その結果、各国で財政危機が表面化し、これを背景とする金融市場の混乱が世界経済を覆い始めた。これにたいしてブルジョアジーは「景気対策が効果をあげ、世界経済はゆるやかな回復を示している。財政赤字がつづけば世界経済の回復を阻害する。いまや出口戦略の時期だ」といいながら、先進国は財政赤字を削減する財政再建路線へと舵をきった。しかし、すでに経済の実状はブルジョアジーの予測を一蹴した。米国経済の停滞は悪化の道をたどった。ギリシャ国債を多数保有している欧州の大銀行も経営破たんするなど欧州金融不安にともなう世界市場の混乱で世界経済の牽引役であった中国経済の先行きも不安定になった。
 赤字財政のもたらす経済危機は政治にも波及した。市場においたてられ、人民の抗議をうける中で各国では与党が選挙で次々と敗北し、政権が交代した。このような状況のなかで、ユーロはドル、円にたいして安値を更新している。
 今年一月、米格付け会社S&P社はフランスなど九ヵ国の国債格付けを一斉に引き下げ、EUと欧州単一通貨ユーロは創設以来の試練をうけている。


  ●(2)ギリシャ財政危機と政治危機

 ギリシャ人民は一九六七年から七四年まで軍事独裁政権の支配のもとに抑圧されてきた。七四年に独裁政権が崩壊するとアンドレアス・パパンドレウが「全ギリシャ社会主義運動」(PASOK)を結成し政権を獲得した。この中道左派の政権は、軍事政権時代を払拭する一連の民主主義的制度を導入し、国民健康保険制度や年金制度を発足させ、労働者の権利拡大や最低賃金の引き上げなどの社会福祉政策を実行した。また大企業の国有化を行い、公共部門を拡大して失業者を吸収した。他方で空港、道路などインフラ整備に力をいれた。いわゆる社民政権によるギリシャ流の福祉国家とでもいうものが定着していった。しかし、産業基盤の弱いギリシャは石油ショック以降の不況に苦しみ、また欧州の貿易自由化の波にさらされた。高額所得者の脱税も多く税収が伸びないなかで、国債や対外借り入れの借金で歳出がまかなわれた。この結果、政府の債務は増え続けた。この趨勢は、交互に政権を担った中道右派の新民主主義党(ND)政権のもとでも変わらなかった。政府債務は一九八〇年には対GDP比で約23%であったが、一九九〇年には約60%、一九九三年には100%弱に達した。二〇〇五年以降は100%から徐々に増大していった。そして二〇〇八年以降債務は対GDP比160%を超えた。
 EUとIMFの強制する過酷な緊縮策に対してギリシャ人民は総力で闘いを続けている。とりわけこの三年間人民の憤激は爆発し、闘いは一層拡大深化している。
 二〇一〇年二月、公務員給与凍結など政府の緊縮策に抗議し、最大の公務員労組連合「ギリシャ公務員連合」の四十五万人が全国でストライキを行なった。続いて最大の民間企業労働組合「ギリシャ労働総同盟」も参加し、ゼネストになって社会機能が停止した。さらに五月五日にはこれら官民の二大労組連合が二十四時間ゼネストを実施した。首都では五万人以上がデモに参加した。この過程で火炎瓶によって銀行が燃え三人が死亡した。
 二〇一一年五月、政府はEUに融資の返済期間延長や財政再建計画の見直し要求などの要請を行なった。そしてその見返りに国営企業の民営化など赤字削減策を盛り込んだ新たな緊縮策をうけいれた。
 六月、追加緊縮案に反対する官民二大労組が四十八時間のゼネストをおこない二百万人が参加した。七月、EUはギリシャにたいする千五百九十億ユーロの第二次金融支援を決定した。これらの支援条件として、大幅な歳出削減が要求された。政府はこのために公務員数の一層の削減や公共事業費の削減を行い、徹底した「民営化」を行なっている。空港、港湾、高速道路、郵便など公営企業、国有財産が売り出され、外国企業に安く買い叩かれていく。この支援条件は借金をするたびに追加され、留まることがなく、ますます苛烈なものになっていく。
 このなかで、当然のことながら、深刻な景気後退が続いた。ギリシャの一〇年のGDP成長率はマイナス3・5%と収縮し、インフレ率は4・7%、失業率は18・3%と悪化した。全国で存在した百万社の企業は四分の一が倒産した。労働者の賃金や年金生活者の年金はすでに最低でも30%以上も減少した。一二年には失業率は20%を超え、とくに若年層の間では50%を超えた。
 この状況では、EUに公約した財政赤字削減計画は達成できるはずなどなかった。しかし未達成を理由としてEUは融資の先送りをするなどギリシャ政府への圧力を強めた。十月にはEUとIMFはギリシャに査察団を送り監視を強め、ギリシャ発の金融危機封じこめのための包括対策案を策定した。そこではじめてギリシャ政府の債務削減のために民間銀行が保有するギリシャ国債の50%の減価を受け入れ、実質的なデフォルト(債務不履行)を認めた。
 今、ギリシャは次のような悪循環にはまりこんでいる。国債を発行して自力で資金を調達することはできず、IMFやEUの融資によって財政をやりくりしている状態である。緊縮政策のために景気は悪化し、税収は減少する。それを補うためには更なる歳出の切り詰め・削減や増税策が必要となる。また、EUからの資金の借り入れが必要となる。借金には一層の厳しい歳出削減条件・緊縮政策がついている、というように、借金返済どころか、ますます深みに落ち込んでいる状況である。
 この構造は、約三十年前の第三世界の債務危機を想起させる。当時、南の貧しい諸国は国際金融資本が作り出した利子率の高騰と商品価格の下落にさらされた。そして激しい財政赤字―財政危機におちいった。その諸国の指導者の腐敗、独裁などが事態をより悪化させた。IMFからの援助と引き換えに「構造調整政策(SAP)という名目で、自由化がおしつけられ、財政の歳出削減が強要された。住民サービス、保健や教育などは破壊され、諸国人民の生活は悪化し社会は荒廃した。こうした八〇年代に第三世界でおきたことが、今度はギリシャで起きている。仏・独の大銀行など債権者どもが債務返済を最優先事項としてギリシャに要求している。これを実行させるべくトロイカが一連の実行不可能な緊縮策をギリシャ人民に押し付けているのである。
 EUはしらじらしくも「銀行は順調に復活し、ECBは事態を管理できている。懸念は諸国の債務過剰、ギリシャのデフォルトの可能性、その他国への波及である。しかし、ECBが一兆ユーロを準備し貸与することによって各国の負債問題を処理しつつある。また、各国で行動指針が執行され、各国での支出削減が行なわれ、年金改革が行なわれ、労働市場を一層柔軟化する改革が進行し、財政危機、金融危機の出口が見えてきた」と繰り返し述べてきた。
 しかし、たちまち逆の現実が暴露されている。現実は、公的資金による銀行救済は継続し公的債務は増大している。ギリシャでは銀行は巨額の不良債権と資金不足のため銀行取付けに直面し、ギリシャ国立銀行からの緊急融資によって延命している。そのなかでも大銀行は帳簿のごまかしを続け、リスクの高い投機を続け、経営者が多額のボーナスを維持していることが暴露された。また、EUは地中海諸国は行政効率が悪くユーロ圏のお荷物とみている。GDPの160%にも達したギリシャの負債は仮に財政再建が順調にいっても返済に四十年かかるといわれている。ドイツはじめユーロ圏の支配者は、どのような形の破綻がギリシャ国債を保有する周辺国や銀行の損害を最小限にできるか、という観点を基底にしてつねに政策をたてている。
 EUは財政危機におちいったユーロ圏各国を支援する「欧州金融安定化基金」(EFSF)を強化し融資枠を一兆ユーロに増額すること、欧州版IMFといわれる「欧州安定メカニズム」(ESM)を、財政危機国を支援する恒久的な機関として発足させることを決めた。他方で、厳格な新財政協定を一三年から発効させることを決め、各国の単年度の財政赤字をGDPの0・5%以内に抑えること、財政均衡の義務を各国の国内法に挿入すること、違反には自動的に制裁を科すことを公表している。
 二〇一一年人民の闘いは一段と前進していった。
 スペインの反政府運動にならったアテネの議会前での数十日に及ぶ座り込み運動、北アフリカの革命にならった広場占拠運動やIMFなどの国際機関の救済を拒否する国民投票を求める署名運動がはじまった。また労働者の闘いのなかで、工場占拠や労働者自主管理も登場した。緊縮策の痛み、それへの怒りが労働者、学生、失業者、年金生活者など、すべての階層の大衆をまきこんだ大きな緊縮反対運動へと発展した。民間の労組連合(GSEE)と公共部門の労組連合(ADEDY)は当初のPASOK政権支持から緊縮政策反対にかわり、共同ゼネストの主体へと前進した。
 このようななかで、ギリシャの緊縮措置実施の遅れにEUが金融救済中止の恫喝をし、トロイカが公務員の大量解雇、年金カット、20%以上の賃金カット、民間労働者の最低賃金の縮減、団体協約の制限などを含む新たな追加緊縮案を強要してきた。人民の深い憤激がただちに爆発した。「既に高い利子を支払った。破産してもこのうえなぜ借金を返さねばならないのか」「借金をした者が、腐敗した資本家と政府が、借金を返す責任がある」「私たちには契約を履行する義務もあるが、契約を破棄する権利もある」と。
 ゼネストは九月の大学と高校、中学における占拠闘争からはじまった。そして、公共部門労組がストに入り、庁舎を占拠した。民間部門の労働者にたいしてもトロイカとギリシャ政府は、法律によって「既存の労働協約の廃棄、最低賃金の引き下げ」を強要した。これは労働組合の存在を危機の名の下に抹殺しようとするものである。十月闘争のなかで、これまでの「公共部門労働者は優遇されており特権的地位にある」というブルジョアジーの宣伝がもはや崩れ、いまや公共―民間労働者の分断が乗り越えられてきた。二日間のストで公共交通機関など都市機能がストップし、大企業から商店を含め経済活動はとまり、官公庁、学校も閉鎖して政府機能は停止した。「EUとIMFは出て行け」「政府を倒せ」、「人民に権力を」などの政治スローガンを掲げて議会を包囲した闘いは多くの市民に支えられ「新しい次元の社会的抵抗」と評価された。しかし、警察の暴力的弾圧によって死者、多数の負傷者が生まれ、また、社会不安、右翼・ファシスト勢力の台頭、左右への人民の分裂が進行し暴力的抗争も激化した。
 人民の激烈な怒りのまえにパパンドレウ政権は、EUの金融危機封じ込め包括対策について受け入れの是非を問う国民投票を行なうと発表した。これに対し、EU支配者どもはギリシャ労働者階級の怒りの爆発を恐れた。もし、ギリシャ人民が受け入れず追加融資を拒否するようなことがあれば、ギリシャの債務不履行がユーロ圏全体の信用不安に発展する。メルケルとサルコジはギリシャがユーロ圏にとどまることを誓約せねば救済しない、と脅迫した。そして各国政府、議会、マスメディアを総動員して国民投票を撤回させるよう圧力をかけた。強固な包囲網のなかで政府は国民投票実施を撤回した。ギリシャは国家予算の決定権ばかりか国民投票のような決定権=主権も剥奪されたのである。
 パパンドレウはこの財政再建問題の混乱を収拾できず、退陣した。そして最大野党新民主主義党NDと大連立をくみ、財政危機を乗り切るためとして、ECBから送り込まれたパパデモス内閣を作り、一二年の総選挙実施を合意した。だが、パパデモスは選挙で選出されていない中央銀行総裁にすぎない。こうして、軍事政権以来はじめて選挙で選出されたこともない人物が首相にすえられたのである。この交代は民主主義の否定・ある種のクーデターであった。EUはユーロを守るために、そしてEUの政治統合を一挙に進めるために、加盟国の主権と民主主義的手続きを蹂躙したのである。そして、パパデモスはギリシャをユーロ圏にとどまらせ、EUから追加融資を受け、その条件となっている緊縮政策を受け入れる役割を忠実にはたした。


 
 ●(3)EUと帝国主義の欺瞞

 EU支配層のみならず、全世界のブルジョアジーやマスメディア、「経済専門家」は口をそろえてギリシャの財政危機の本質を歪曲してきた。そしてギリシャの特殊な状況から生じた問題であり例外的な失敗であるとして、次のようにギリシャ人民を中傷し世界の人民を欺いてきた。「雇用者の四分の一が公務員であり異常な公務員天国だ」「ギリシャの政治家は有権者にいい顔をすることばかりしてきた。市民も税金を払わずにサービスを受けることになれてきた。福祉やサービスのもとになる経済の競争力を強めることは誰も真剣に考えなかった」「そのような汗を流して働くことをしないギリシャのために、われわれが汗を流して作った税金から支援するわけにはいかない」「軍事政権がおわってからギリシャ国民は最大限の民主主義を享受した。しかし、自由と権利の乱用があった。学生や労組によるデモも限界を超えていた」などと。
 そして、EU評価においては「通貨はひとつだが、政治も財政もばらばらというEUの限界を露呈した」として、EU支配層の都合のいい強引なEU政治統合を推進しようとしている。「国家が困難なときには選挙で選ばれた政治家よりも選ばれていない人の方がいい仕事をする」としてEUの押し付けた方針を迅速に強引に執行するギリシャ現政権の専制的強権支配を擁護したのである。
 これらの歪曲を徹底的に批判暴露せねばならない。第一に今回のギリシャ危機の基本的なそして最大の背景は、新自由主義グローバリゼーションのもとで金融資本やIMFが牽引してきた金融の規制緩和であり、またその破綻による世界恐慌にある。ギリシャ財政危機の背景には、ギリシャの国債を仏、独などの欧州の大銀行・金融機関が購入して大きな利益をあげていた事実がある。また、このかんのギリシャへの融資は借金返済にあてられ、最終的に銀行、投資家、株や投資で利益を得た富裕層の懐に還流している。この構造が破たんするとすべての責任をギリシャに負わせ、きょくたんな緊縮策をとらせて、結局はギリシャ人民に矛盾をおし付けたのだ。
 米国も欧州も財政危機である。そして財政危機を口実に、公務員を解雇し、労働者の最低賃金と年金を削減し、富裕層の税金を減らし、付加価値税の値上げなど大衆への増税を行なっているのである。お金が金融資本の懐に入るだけで、労働者大衆の消費が生まれたり内需が増えることはない。リーマン・ショック後に、オバマ大統領は、形だけの金融規制を強化してウォール街を規制しようと試みた。しかし、それすらほとんど骨抜きにされて、金融機関は従来のように投機を追求し役員は法外な報酬を受け取りつづけた。メルケル首相も国際金融資本の規制の必要性を述べたが何もしていない。危機の要因は解消されるどころか深まっており、世界資本主義は当面の弥縫策でもって危機の爆発を先送りしているだけである。
 第二に、「安定した通貨、為替レートによって皆が繁栄する」と喧伝されたユーロ圏の構造問題がある。ユーロ圏では、中心国の大資本が利益を確保し、労働者、とりわけ周辺国の労働者がそれを保証する構造が深まったのである。一九九九年ユーロ単一為替レート導入後、各国産業の競争力を反映して経常収支黒字国と赤字国との格差が増大した。周辺部の赤字国は通貨切り下げ、輸出の拡大などの独自政策がとれないために、財政支出を増やすか、低賃金・長時間労働の強制によって産業競争力を強化するしか選択肢がない。その結果、ますます財政支出―財政赤字が増大していく構造におちいった。他方、ドイツは経常黒字が累積し、またみずからが実質支配しているECBを通じて通貨政策・金融政策を決定し、ユーロ圏各国の経済政策を管理することができた。この構造の上に、ギリシャなどの財政赤字が増えるのは必然であった。さらに、ギリシャの困難のもうひとつの原因は、二〇一〇年以降IMFやEUが押し付けた処方策であった。財政赤字の増大はただちに財政危機になるわけではない。前述した緊縮策―景気悪化―歳入減少―借り入れ増大という悪循環のなかで危機のスパイラルに落ち込んでいったのである。
 ちなみにスペイン、ポルトガル、イタリアでも金融支援と引き換えにEUがおしつけた国家資産売却、民営化、緊縮予算、「労働市場改革」の名による「雇用の柔軟化」が実施され、ポルトガルでも公務員の賃金カット、労働時間の延長、付加価値税の値上げが実施された。だが、市場の暴走はEUの思惑をのりこえて進行している。イタリア・スペインの国債は売られて値下がりを続け、国債利回りは財政再建を不可能にする目安といわれている7%を突破した。
 第三に、以上の根本的な国際的な原因とは明確に区別したうえで、もちろんギリシャの財政危機の国内的な原因は存在する。ギリシャ人民は支配層による放漫財政や反人民的な政治経済政策を徹底的に追及し根本的に変革しようとしている。トルコとの緊張にそなえて、ギリシャ政府はドイツから多くの武器を購入し、それによってドイツ資本は多額の利益をえている事実などを見逃すわけにはいかない。
 グローバル資本主義は、みずからの利益のために必要ならば、専制を擁護し、口先でとなえる彼らの「民主主義」や「国家主権」をやすやすとふみにじるのである。


  ●(4)人民闘争の持続的昂揚と選挙闘争の飛躍的前進

 ギリシャの労働者大衆は、発足した過渡政権にたいして「過酷で反人民的な緊縮措置をおしつける過渡政府反対」をかかげて闘いを持続した。そして二〇一二年五月六日の総選挙において、トロイカに従属して緊縮策を押し付けた連立政権にたいするきびしい批判を下した。
 五月選挙の結果の最大の特徴は、ギリシャを支配してきた伝統的な二つの政党支配体制が崩壊し、急進左派連合SYRIZAが議会第一党の中道右派である新民主主義党NDと大差がない得票を獲得し、第二党へ躍進したことである。そして全社会的な運動を反映して大衆組織の支持がPASOKからより左派へ移動したことである。SYRIZAと共産党KKEと反資本主義左翼・革命勢力とで約30%を獲得した。SYRIZAは金融支援と引き換えの緊縮措置の撤回を要求する他方で、ユーロ圏とEUにとどまるべきだとも訴えた。選挙においては「すべての左翼勢力を包含する反トロイカの左翼政権」を訴え、大衆運動からの広範な支持も獲得し、労働者階級に浸透した。SYRIZAは議会少数党であったが、職場・地域で労働者、移民、学生青年の闘いを支持しともに闘ってきたことによって支持を広げた。もうひとつの特徴は人民の左右への分極化と極右勢力の浮上である。公然とヒトラーを信奉し、移民を暴力的に襲撃するネオ・ナチ党である極右「黄金の夜明け」党が議会に進出し、保守的な民族主義右翼の立場から反緊縮を掲げる「独立ギリシャ」党が一定伸張した。
 五月六日の選挙の結果においてはどの党も政権樹立にいたらなかったので六月十七日に再選挙がおこなわれた。
 急進左翼連合(SYRIZA)は二〇〇四年に発足した政党連合である。SYRIZAのなかで中心的な組織は、ソ連派であったギリシャ共産党KKEから一九九一年にユーロ・コミュニズム部分として分派した「シナスピスモス」(環境と左翼運動連合)である。この「シナスピスモス」は反G8サミット闘争や反グローバリゼーション運動に参加した。他方KKEは伝統的な共産党として公務員、産業労働者の中に基盤を保持している。この「シナスピスモス」と、他のいくつかのトロツキー派・毛沢東派系の流れをひく共産主義小グループが連合して二〇〇四年の総選挙に際してSYRIZAを結成した。そして、二〇〇八年世界金融危機のなかで青年層、移民のなかに支持を広げ、ここ数年において反緊縮をかかげて左翼の中心的存在としての位置を確保してきた。以降、二〇一〇年にSYRIZA内右派部分が脱退して「民主的左派(DL)」党を結成したが、SYRIZAは全体として左傾化してきた。しかし、それは綱領や戦略における変化を伴うものではなかった。
 SYRIZAのなかには革命派もいるが、現在の支配的な路線は社会民主主義である。この路線は「社会サービスの拡充や支配階級と労働者階級の協調を拡大する改良を通じてよりよい資本主義にしていく」ことを目指すものである。かれらのいう「平和的な革命」とは資本主義の改良であり、労働者権力の樹立と社会主義の建設の問題をあいまいにしている。
 選挙ではKKEが孤立戦術をとり具体方針を出さないなかでSYRIZAは左翼政府という方針を提起して票を吸収した。しかし、トロイカやブルジョアジーの外圧のなかでつねに動揺している。運動のなかでの要求「われわれには何の義務もない。われわれは払わない。われわれは売らない」というスローガンは放棄された。EUにたいする要請においても「社会的結束と安定」のために緊縮策の撤回を求める、としているのである。
 KKEはこのかんの反緊縮政策闘争のなかで労働者階級の闘争ゼネストに力を入れた。綱領に「労働者階級・人民の権力による政府」のもとでの生産手段の社会化をかかげ、議会内で唯一「EUからの離脱」を主張した。KKEは左翼政権への参加を拒否し、これは利潤追求の経済制度と資本主義国家に手を付けず、ギリシャをEUとNATOと帝国主義的機構に縛りつけるものである、と批判した。そして、資本主義の危機と新自由主義的金融支配のなかで資本主義拡張期の社会民主主義政策が実現することはなく、SYRIZAの方針は労働者階級の長期的利害を裏切る日和見主義である、と批判した。
 六月十七日の選挙では、中道右派の新民主主義党NDが30%の得票をもって僅差で勝利した。NDは「ユーロ残留。緊縮策のいくつかについては再交渉」を選挙公約として掲げた。だが、第一党に加増される五十議席のボーナス議席を加えても、議会全三百議席のうち百二十九しか確保できず連立が必至となった。そして惨敗したPASOKと得票を維持した民主左派(DL)を加えて、不人気で弱体な連立政権を発足させた。
 SYRIZAは27%の得票で第二位であった。「ユーロ残留。トロイカとの覚書の修正ではなく、緊縮策の終了・負債支払いの延期を含む新たな協定を結ぶ」という公約を掲げていた。ツィプラス代表は「緊縮策を終わらせ、かつユーロ圏にとどまることは交渉によって可能だ。債権者と闘うのではなく説得するのである」と述べた。
 KKEは得票を4・5%へと減少させた。「EU、NATOから脱退して債務を帳消しにする」という立場を訴え、「EUとユーロ圏に留まるかぎり、選挙によってはSYRIZAのいうような緊縮策の撤回は不可能だ。議会をこえる労働者の闘いこそ必要だ」とSYRIZA批判に集中した。KKEは一般的な宣伝をセクト主義的に行なうだけで、広範な人民の結集方針を打ち出さず、この全人民的流動のなかで、直面するその時点の大衆の意識・条件に対応した扇動・組織化ができなかった。
 右翼政党のなかでネオ・ナチ党「黄金の夜明け」は、このかん移民やジャーナリストにたいする暴力事件を起こしたもかかわらず、五月と同様の7%の得票を維持し、議席を維持し、政治勢力として定着した。
 国民統一政府に対する闘いは持続している。人民は選挙では勝利できずメモランダム連合政権の発足を許したが、敗北感・挫折感はない。人民は新たな追加緊縮策を粉砕するだけではなく、SYRIZA指導部のありうる動揺や後退とも闘いトロイカやギリシャ支配階級の戦略と真っ向から対決する道を歩んでいる。
 この急速に変化していく新たな政治状況にギリシャの革命的左翼はたちむかっている。いまこの時期に革命組織はどのように行動するのか。詳細はなお不明であるが、現代の全世界の革命的左翼にとっても避けて通ることのできない普遍的な問題を含んでいるといえる。われわれは情報の限界に大きく制約されながらも、SYRIZA、KKEに参加している革命的部分,そして選挙にも参加した左派少数派組織の連合などの論争に注目しなければならない。
 たとえばKKEとSYRIZAの論争は革命と改良をめぐる重要な問題を提起している。もちろん、そのことは、情勢を飛び越えた極端なスローガンをうち出すことではない。また、改良を否定することでもない。革命党は労働者人民の状態を改善する改良のために闘い、支配階級にたいする政治闘争を前進させるために闘う。それを革命の条件を近づけるため、準備するために闘う。
 だが、SYRIZAの要求は、革命的な情勢を切り開くものとはいえない。かれらの選挙中の公約には、緊縮策の撤回、富裕税の創設、銀行の国有化などが含まれている。しかし、路線的には、労働者権力を作るという重大な問題を欠落させている。革命の歴史は、左翼政権の発足は政府の変化ではあるが国家の基礎的・根本的な性格を変えるものではないことを教えている。国家の性格の変化は資本主義国家を打ち倒し、労働者階級の権力機構からなる労働者国家に置き換えること、すなわち社会主義革命によってのみ実現される。
 もちろん、現実には、左翼政権ができればその公約が既存の資本主義国家や政府のもとでも実行されうる、と期待する大衆が多くいる。また、連立政権が発足すればそれはギリシャとEU支配階級に大きな打撃を与え、階級闘争を昂揚させることは疑いない。
 この現状は、よく考えぬかれた政治闘争のなかで、そして大衆の実践的必要に応じた説得でもって変えていかねばならない。既存の国家では実行できないのであり、真に実行できるのは既存の国家と対抗する大衆闘争機関から成り立つ国家である。それこそ眼にみえる労働者階級・人民の権力であり、ロシアではそれがソビエトであった。労働者階級を中心とした労働者権力こそがそれを実行できる、ということを鮮明にし、このことを人民に説明し、ともに実現をめざすことである。革命派はそれを実現するために労働者階級を組織し決起させること、革命勢力を広範に統一する努力をせねばならない。
 SYRIZAはこれらの重要な問題に沈黙しているか、間違って答えているようである。
 ギリシャ労働者人民の階級闘争の前進に連帯し、それおしつぶそうとするあらゆる攻撃・介入に反対しよう。革命情勢を切り開こうとする革命的左翼に連帯し、学びつくそう。



 

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