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■寄稿(2008年10月)


  今、大阪労働運動が面白い

   〜現在の雇用状況との関係から〜




 
「今、大阪労働運動も面白い」……と言ったほうが、いいだろうか? どういう意味で面白いか、現在の雇用状況との関係でみていこう。

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 先日、発表された「就業構造基本調査」(総務省二〇〇八年七月)では、正社員・正規職員外の雇用形態で働く労働者は、35・5%となった。おおよそ一千八百万人を越える。この二十年で、中小企業がつぶれ、大企業がリストラを遂行し、農業・漁業が成り立ち行かなくなり、若者・女性が雇用の機会を減少させ、広大な相対的過剰人口が形成されてきた。こうして、いつでも好きな時にえり好みして雇い、要らなくなれば簡単にクビにできる産業予備軍を拡大し、今や大企業―独占資本はやりたい放題である。

 その結果、貧困と格差はとどまるところを知らず、将来に希望を持てない若者の割合が、世界でナンバー・ワンの社会に、日本はなってきた。昨年の国税局の調査(二〇〇六年分)では、所得一千万円以上は、納税者の10・4%ながら、全所得額の約半分(48・7%)、納税額で言えば四分の三(74・5%)である。比して所得二百万円以下は、全体の納税者の34・3%であるにもかかわらず、全所得額なら一割弱(8・5%)、納税額にいたってはスズメの涙(2・5%)である程に、所得額は細っている。このような中で、自殺者が三万人台を越えてもう十年になり、ネットカフェ難民や野宿者が増え、窮乏する自治体は「水際作戦」という政策で生活保護者を減らし餓死者が出るという事態が起こっている。こんな状態のうえに、消費税の増税が検討されているという、とんでもない状況だ。

 かくも貧困化が推し進められているのだが、独占資本家たちの描いた「新時代の日本的経営」による雇用身分制という差別分断の枠組みを突破できず、日本労働運動は後退に継ぐ後退を重ねてきた。雇用身分制とは言っても、正社員や正職員が保証されているわけではない。それどころか、若年正社員の低賃金化、サービス残業や「名ばかり管理職」など、その労働条件は、かつてない程に悪化しており、過労死や過労うつ・自殺などが後をたたない。

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 現在の状態は、まさに資本の本性発揮であり、これを押しとどめることができるのは、労働者階級の闘いしかない。とはいうものの、現在、日本の階級闘争は、大きな困難期にある。『共産党宣言』では、「……この、階級への、それとともにまた政党への、プロレタリアの組織化は、労働者自身のあいだの競争によってたえずくりかえしうちくだかれる」(第一章・ブルジョアとプロレタリア)とあるが、九〇年代後半から顕在化した「終身雇用と年功序列賃金」という「日本的雇用」の解体は、そこから外れた膨大な労働者群を登場させ、労働運動を無力化し、階級闘争の基盤を破壊した。新たな時代が開始されたが、「日本的雇用」の上に存在してきた企業内労組は、保守化、少数化していき、雇用身分制の底辺に据え置かれた圧倒的多数の労働者にとって、労働組合や政党、様々な労働者の団結体は遠いものとなった。このような中で、貧困・格差固定の社会を流動させられるのは、もはや戦争のようなことでも起きない限り難しい、という「希望は戦争」(『論座』二〇〇七年一月号)という主張も登場してきた。

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 こういう風潮の中で、東京都政は三選目の石原に委ねられ、大阪では自公推薦の橋下徹候補が圧倒的勝利で知事に就任した。橋下知事は、「大阪府は民間なら破産企業」と公言し、女性センターや男女共同参画事業・財団の切り捨て、生活保護の見直し、府職員の賃金・労働条件カットを狙い撃ちする暴挙に出ている。破産や民事再生法なら、まず銀行など金融機関の債権圧縮をおこなうのだが、そこには全く手をつけてはいない。大阪府は、本年四月に財政再建プログラム試案(PT試案)提出、五月には人件費削減提案を行い、六月には大阪維新プログラム案を発表し、福祉切り捨て、賃金引き下げを政策として打ち出した。その前段三月には、自治体関係労組の切り崩しを狙って、三十才以下の府職員三百三十名を集めて「意識改革を呼びかける」朝礼を行い(〇八年三月)、「時間外にやりたかった」と、暗にサービス残業を要求、その場に居合わせた女性職員からこっぴどく批判を受けている。また、人件費削減提案は、年収百万余しかない府関連の非常勤職員にまで及び、一層の雇用不安と生活苦を引き起こした。

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 橋下府政は、労働運動の困難期の狭間から台頭する、あれやこれやの反動的主張や気分に支えられている。橋下のサービス残業批判を行った女性職員に対しては、「サービス残業は民間なら当たり前や」という、過去最高数の意見が府庁に寄せられたという。

 だが他方、労働運動の反撃も着実に開始されつつある。先ほどの「共産党宣言」の引用は、続けて以下のように主張する。「……だが、それ(注:プロレタリアの組織化)はいつも、いっそう強力な、いっそう強固な、いっそう有力なものとなって復活する。それは、ブルジョアジーのあいだの分裂を利用することによって、法律の形で労働者の個々の利益の承認をかちとる」(同上)。

 そうだ。いっそう有力な労働運動再生へのたゆまない動きが、全国各地で緩やかに始まっているが、それは大阪においても同様である。今春期においては、おおさかユニオンネットワークが、恒例の春闘総行動を行ったが、それは従来の争議共闘的なものにとどまらず、このような橋下府政の反労働者政策に真っ向から対決する性格を帯び、新たな労働運動攻勢を予感させるものになった。おおさかユニオンネットは、大阪地域を中心に全港湾、連帯労組、大阪全労協、コミュニティユニオンなどによって構成されている。橋下府政との闘いの中心課題になったのは、府の非正規雇用労働者の生活防衛と権利確立であった。大阪府の教育委員会がNOVAなどの英会話企業に丸投げして「偽装請負」を強要されたゼネラルユニオンの英語指導助手(ALT)の直接雇用要求や、橋下府政の人員削減提案のターゲットとなっている大阪府の臨時や嘱託職員などの雇用確保である。

 
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 このような闘いの背景には、正社員以外の働き方をする非正規雇用、外国人労働者の権利を防衛し、労働者の階級としての全体的利益を守るために奮闘する各労組の粘り強い闘いが存在している。

 今年四月三日、郵政労働者ユニオンは、ゆうメイトなどの非正規職員に対する春闘ゼロ回答に抗議し、三八年ぶりのストライキを行った。

 また七月十五日には、大阪教育合同労組が、橋下府政による非常勤職員の賃下げと解雇の撤回を求めて、これも十数年ぶりのストライキを行った。これにより橋下府政は、賃下げ率の縮小と解雇問題を継続議題とせざるを得なかった。

 全国一般全国協の中心組合の一つであるゼネラルユニオンは、NOVA倒産時には、その力を大きく発揮したが、英会話産業で働く外国人講師の産別的な結集体として、厚労省に社会保険や雇用保険加入要求を行うなど多彩な活動を行っている。教育委員会が小中学校の英語指導助手として外国人講師を、英語学校から派遣や請負でまかなっていることに対する、行政要求や交渉なども盛んである。

 全港湾が組織するクボタ分会は、派遣労働を行っていた滞日外国人によって構成されている。クボタ企業は、全港湾との団交を拒否し、待遇改善を求めていた滞日外国人たちを、派遣から二年十一カ月の契約社員へと切り替えた。この背景には、派遣法の改定によって、一定期間以上、働いている派遣労働者に対しては、正社員などに転換する申し入れ義務が課せられたことにある。ところが労基署や社労士の脱法指南として、派遣労働者を有期契約の直接雇用労働者として雇い入れ、三年になる前に解雇・雇い止めにして、正社員化を逃れると言う手法が蔓延している。クボタにおいては、二年十一カ月の契約期間満了時に、日本語でのペーパーテストを行い、全港湾に加入する外国人労働者を合法的に排除する、ということが画策されている。派遣法改定との関係で現れた、このような経営のやり口は、全国的に広まっており、来二〇〇九年三月に有期契約期間が終わって雇い止めになる労働者が大量に出ることが予測されるため、「〇九年問題」と呼ばれ、これを突破すべく様々な試行錯誤が行われている。

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 このような各労組の、新たな時代を闘いぬける労働組合への様々な挑戦の積み重ねの中で、政府―独占資本とのやったりやられたり、行きつ戻りつしながらの前進が切り拓かれているのである。当然、権力の弾圧も激しい。連帯労組・関生支部は、武委員長を筆頭に政治警察―公安による狙い撃ちデッチ上げ逮捕を受けたが、長期拘留と重罪攻撃をはねのけ、組織の強化と拡大を前進させている。サミット時には、やはり地域合同労組を狙い撃ちにした弾圧が洛南地域合同労組(ユニオン)や自立労連をターゲットに行われた。四年も前の雇用保険受給をめぐって、政治警察が労働組合に介入するというとんでもない政治弾圧である。ささいな雇用保険受給上の問題は、年間に何万件もあるにもかかわらず、ハローワークさえ問題にしない(民事的には時効となっている)ことを、あえて`詐欺罪aとして立件・公訴するという、経営にとっても獅子身中の虫である地域ユニオンを破壊しようという政治的意図に満ちたものである。

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反労働者政策を掲げた橋下府政の登場は、もともと気骨のある第三勢力を形成してきた大阪労働運動を、その対抗勢力として浮かび上がらせている。さらに現労働組合の活性化と試行錯誤にとどまらず、現在、進められているのが、労働運動では拾いきれない貧困や人権問題に対応する運動と組織の形成の模索である。

 すでに雇用は、九〇年代の「新時代の日本的経営」以降、労働者の生存と福祉を切り捨てることによって、企業利益を拡大してきた。こうして雇用破壊が進む一方で、小泉政権の「小さな政府」「構造改革」路線以降、社会保障(保険)、あるいは公的扶助の縮小・切捨てが加速度的に進んできた。北九州で生活保護を打ち切られた人が、「おにぎり食べたい」と書き残して餓死したのは、記憶に新しい出来事である。雇用からも外れた失業者・病気を抱えた人・高齢者など、元労働者たちが置かれている状況は極めて厳しく、自分たちが築いてきた社会から切り捨てられて死ぬしかない。社会からの切捨ては、同様に、滞日外国人やシングルマザー、障害者の人々へも降りかかっている。

 このような社会を変えていく事業は、ひとり労働運動だけで成しうるものではない。首都圏では、反貧困ネットワークなどが登場してきている。大阪においても、現在、大いに論議中であるが、より広く労働と人権をサポートしていくセンターを作ろうという動きが、外国人支援団体(RINK)やコミュニティユニオン、様々な分野の労働組合などによって模索され始めている。

 労働者階級の生存権を防衛し、自己解放闘争を進める運動と組織の形成は、同時に、帝国主義―独占資本の侵略戦争遂行国家化―米軍基地再編などと対決する政治闘争を、労働者・労働組合が担っていくこととも結びついている。今年、六―七月には反サミット闘争が大衆的に組織された。そして十月五日には反戦・沖縄連帯、反米軍基地再編の闘いが、労働運動の総力で結集しつつ切り拓かれようとしている。反帝国際主義を掲げるアジア共同行動も、アジア労働者連帯や軍事基地と性暴力問題を課題として、闘いを形成している。

 戦後の一時代を構成していた戦後的な階級闘争構造が、国労つぶし―総評解体を契機として崩壊していく中で、帝国主義―独占資本による`侵略戦争と民衆生存権破壊aの社会再編に抗し、各地区で、その歴史に沿った様々な闘いが形成されてきている。今はまさに、歴史の現在進行形なのだ。「大阪労働運動も面白い」と報告したように、各地で先進的労働者たちの創意工夫をこらした闘いが、「より強力で、より有効なものとなって復活する」労働運動の次の時代の序章となっていくのだろう。
 全国の仲間の皆さん、ともに頑張りましょう。

 
 

 

 

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