共産主義者同盟(統一委員会)


1561号(2020年1月1日)






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  第1新年号

 深まる分断、対立、貧困、戦乱

 現代帝国主義を打ち倒そう

 激化する排外主義と対決し国際共産主義運動の前進を



 
 トランプ政権が呼びかけた「有志連合」によって、ホルムズ海峡で新たな戦端が開かれようとしている。二〇二〇年年頭、混迷する現代帝国主義の破綻した世界戦略が、新たな戦乱を誘発し、放置し、激化させる事態に至っている。労働者人民がこの無責任な戦争に動員され、殺し、殺されるのか。強いられた貧困の中で、差別と憎しみ、対立を担うために動員されるのか。資本主義世界そのものを根底から覆すのか。現代帝国主義そのものが世界規模の危機と対立の時代に突入している。労働者階級人民は何を選択するのか、どう闘うのか。
 二〇一九年、われわれは「天皇即位」反対闘争、G20大阪会議反対闘争を二大課題としつつ、戦争と改憲に突き進む安倍政権を打倒すべく闘い抜いてきた。現代資本主義の混迷と暴走、そして安倍政権のさらなる反動をはっきりと捉え抜き、二〇二〇年日本階級闘争の課題を明確化していこう。
 『戦旗』では、今号と次号の二回にわたって、共産同(統一委員会)の年頭論文を掲載する。今号第一五六一号では情勢についての見解を明らかにする。次号第一五六二号で、一九年の総括と二〇年の方針を明らかにしていく。


 ●第1章 世界情勢

 ▼1章―1節 トランプが拡大する分断と対立、戦乱

 ◆1章―1節―1項 中東の戦乱の拡大


 米大統領トランプは昨年一〇月六日、シリア北部の米軍を突然撤退させた。この一方でトランプは、トルコ大統領エルドアンと電話会談した。
 そして、米軍の撤退開始と軌を一にして、トルコ軍のシリア越境攻撃が始まった。クルド人武装組織「人民防衛隊(YPG)」、クルディスタン労働者党(PKK)のトルコ・シリア国境地帯での活動を圧殺しようとする攻撃だ。エルドアンは、まさに米帝トランプの容認の下でクルド人殺戮に着手した。
 米帝は、IS掃討作戦のためにYPGを利用しながら、トルコ軍の攻撃が明白な状況下でYPGを切り捨てた。しかし、今回の米軍シリア北部撤退の顛末は、トルコ軍にYPGとシリア―アサド政権を攻撃させるというトランプの邪悪な企図に貫かれたものである。エルドアンにクルド人の解放闘争を圧殺させるものだ。
 このトルコ・シリアの軍事的緊張激化の一方で、米帝―トランプ政権は二年前にイラン核協議を一方的に離脱してから、対イラン制裁をエスカレートさせてきた。
 また、トランプは大統領就任以来、エルサレムを「イスラエルの首都」として米大使館をエルサレムに移転するなど、イスラエル支持の立場を鮮明にして、パレスチナ解放闘争に敵対してきた。昨年一一月にはトランプ政権はイスラエルの入植地を容認するという許しがたい発表を行なった。
 トランプ政権はイラン制裁を強め、イスラエルの暴虐を支援し、中東の軍事的対立を先鋭化させてきた。イランとサウジアラビアの対立激化もこの中で起こっている。
 米帝の利害、トランプ政権の利害の貫徹が、新たな戦乱をもたらしているのだ。全世界に戦乱を拡大し、サウジアラビア、日帝、韓国など同盟国に大量の武器を売りつけていくトランプ政権の薄汚い野望は、直ちに断ち切らなければならない。米軍基地を作らせない、撤去させる闘いをさらに強めよう。
 トランプ政権は、対イラン制裁の先に侵略戦争を準備しており、同盟国に対して「有志連合」形成・参加を呼びかけている。安倍晋三は一〇月一八日、国家安全保障会議(NSC)において、中東海域への海上自衛隊の派遣を検討することを指示した。日米同盟を何より重視する安倍政権は、イランとの友好関係を維持しつつも、自衛隊中東派兵をなそうとしている。トランプ政権が戦乱を作り出し、これに乗じて安倍政権が自衛隊派兵を強行する。こんなことを絶対に許してはならない。自衛隊派兵阻止―参戦阻止を闘おう。

 ◆1章―1節―2項 トランプ政権の核軍事戦略

 中東だけの問題ではない。トランプ政権は一八年二月に発表した「核態勢見直し(NPR)」に基づいて核軍事戦略を危険な形で再編しつつある。
 「戦略核の三本柱」は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した戦略原潜(SSBN)、陸上配備大陸間弾道弾(ICBM)、無誘導爆弾および空中発射巡航ミサイル(ALCM)であるとし、それを更新し近代化するとしている。
 トランプの危険な発想は、「低出力オプションをも含めるような柔軟な米国の核オプションを拡大する」としていることだ。「抑止力」ではなく、小型の核兵器を開発して実戦で「使いやすい」ものにするということだ。SLBMの一部についても小型核弾頭に換え、新型の海洋核巡航ミサイル(SLCM)、戦闘機に搭載する小型核爆弾を開発するとしている。
 さらに米軍だけの問題ではなく、「同盟国との核抑止力任務におけるさらなる責任分担の機会を検討する」としており、同盟国への核配備の意図を明示している。
 トランプは一九年二月には、ロシアとの間で結ばれている中距離核戦力(INF)条約の運用停止を発表し、ポンペオ国務長官がロシアに対して脱退通告した。トランプ政権は、ロシアが長年にわたってINF条約の「重大な違反」を続けてきたと主張している。これに対してロシア側は、米国がルーマニアに配備した迎撃システム「イージス・アショア」こそINF条約違反だと主張している。イージス・アショアはトマホーク巡航ミサイルの発射が可能だからだ。
 これ自体は米・ロ間の対立する主張だが、トランプ政権の本当の意図は、中国への対抗である。米ロ間で中距離核戦力を制限している間に、この条約の外にいる中国が中距離ミサイルの保有を増やしてきたことがある。トランプ政権は、中国が無制限に中距離ミサイルを配備することに強い不満を持っているのだ。中国も含めた新たな核軍縮の枠組みを作るのではなく、対中国、対ロシアを明確にして新たな核軍拡に踏み込んでいるのだ。

 ◆1章―1節―3項 米中貿易戦争から通貨戦争へ

 トランプ政権が引き起こしてきた分断と対立は、経済領域においては米中貿易戦争として勃発し深化してきた。
 トランプ政権は一八年三月に鉄鋼とアルミニウムに高率の関税をかけて以降、保護主義関税を次々に発動してきた。とくに中国に対しては、数次にわたって高率関税をかけ続け、中国もこれに対抗して米国製品に関税をかけてきた。米中間の貿易戦争として展開している。
 国内総生産(GDP)で日本を抜き世界二位となっている中国は、極東から南アジア、中東、アフリカ、欧州にいたる経済開発戦略「一帯一路」構想を掲げると同時に、中国全体の製造業の水準を一挙に高めて「製造強国」になることを目標にした「中国製造二〇二五」を掲げている。
 米帝ブルジョアジーが恐れているのは、中国の経済規模ということではなく、中国が現代資本主義の機軸産業である自動車、機械、航空宇宙、電子・電機産業、素材産業の技術において米国産業を凌駕するようになることなのだ。
 新自由主義グローバリゼーションの展開によって、国境を越える資本の生産体系は、複数の国々にまたがってさまざまな技術に対応して部品生産を行い、最も賃金の安い国で組み立て生産を行う、ということが日常的になされている。当然のことながら、後発諸国の産業技術のキャッチアップによって、技術移転が行なわれていく。
 そのような展開が予想されていても、帝国主義資本はあくなき利潤の拡大、利潤率の拡大を求めて、その資本輸出を拡大せざるをえない。そもそも新自由主義グローバリゼーションを掲げ、国際的な資本移動の障壁を打ち破ってきたのは、ワシントン・コンセンサスに基づく米帝の世界戦略だった。
 トランプはこの貿易戦争の当初、鉄鋼業は米国の空母や戦闘機を造るために重要だとしていた。しかし、米帝ブルジョアジーにとって重要なことは、産業技術総体における、中国との競争なのである。
 しかし、事態はさらに深刻化している。
 〇八年金融恐慌以降、世界経済は本格的な景気回復に至ってはいない。さらに、米中貿易戦争を大きな要因としながら、世界経済総体が収縮し始めている。米連邦準備制度理事会(FRB)は一九年七月末に一〇年半ぶりの利下げに踏み切った。欧州、日本がそのマイナス金利、ゼロ金利の出口をどうするのかという議論すらなくなった。「マイナス金利の深掘り」ということまでが論じられている。
 一方、米中間での関税合戦では一向に米国の貿易赤字が解消しない状況の中で、一九年八月五日、米財務省は中国を「為替操作国」と決め付けた。この認定に基づいて、米財務省とFRBが為替介入し「ドル高」是正に踏み込もうとしている。
各国の金融緩和=金利引き下げが通貨安に直結し、貿易戦争から通貨安競争になだれ込んでいく可能性がある。
 この通貨戦争突入の過程で、ドル急落へと突き進むことも起こりかねない。
 米中間の貿易戦争が通貨戦争へと突き進む状況は、ドル暴落、基軸通貨の喪失、世界金融危機ということを孕んでいるのだ。

 ▼1章―2節 混乱と対立を深める欧州、アジア

 ◆1章―2節―1項 英国のEU離脱と欧州


 二〇一六年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱が多数を占めた英国では、ジョンソン政権が昨年一〇月にEUとの間で離脱協定案を合意した。しかし、英議会でその承認を得ることができなかった。ジョンソンは総選挙実施法案を可決させて、議会解散、一二月一二日の総選挙実施に踏み切った。離脱を争点にした総選挙であり、ジョンソン保守党は一月末の離脱強行を主張し、労働党は協定案を見直し、国民投票をやり直すことを主張している。
 英・独間の貿易をはじめとして、英国とEU各国との貿易・投資は、英国のEU離脱如何に大きく左右される。世界の金融の中心ロンドンの「シティー」に拠点を置く投資銀行などの金融機関は、EU離脱に際してロンドンから移転することになる。金融資本がロンドンから移転する状況が生まれると予想されている。
 英国のEU離脱問題は、欧州全体にも大きな影響を与えている。
 ヨーロッパの経済を牽引してきたドイツだが、その輸出相手国は米国、そして英国であった。英国が離脱した場合には、英国とEUの間では税関が必要になる。つまり、今までの欧州域内貿易が二一年には外国との貿易関係になるということだ。英独貿易が急激に縮小することが懸念されている。
 一方で、このドイツの工業生産の機軸産業であった自動車産業が減速している。自動車の生産、輸出ともに減少し始めている。
 ドイツを代表するフォルクスワーゲンは全世界での自動車生産一一〇〇万台で世界最大の生産規模だが、その37%は中国で生産している。しかし、中国市場も収縮し始めている。中国での自動車販売総体が減少し始めているのだ。資本主義のグローバルな展開によって、アジアでの減産が、ヨーロッパの資本に直接影響を与える状況にある。

 ◆1章―2節―2項 矛盾が増大する中国スターリン主義

 米トランプ政権がオバマ政権のアジア太平洋重視戦略から転換して環太平洋経済連携協定(TPP)から撤退し、対中国貿易戦争をしかける状況の中で、中国―習近平政権は、二〇一三年に打ち出した一帯一路戦略を具体化させてきた。中国が中心になった国際金融機関=アジア・インフラ投資銀行(AIIB)と中国独自の「シルクロード基金」をその金融の軸にしながら、開発と経済連携を進めようとする構想である。二〇一七年五月には最初の国際会議「一帯一路国際協力サミットフォーラム」を北京で開催し、一三〇カ国の代表が参加している。
 習近平政権は、中国の金融支援によって、東南アジア、南アジア、中東、中央アジア、アフリカ諸国の開発を進め、経済発展を推進していくという「展望」を語ってきた。
 しかし、実は、資本主義化を急速に進めてきた中国が、その過剰資本を資本輸出に振り向けていくことが目的である。現実には、この中国の資本輸出が「経済発展」と同時に、さまざまな矛盾を生み出している。
 一帯一路戦略の下で、つまり中国の資本投下によって、インドネシア、マレーシア、タイ、ラオスでは高速鉄道計画が進められている。これは、日本の「新幹線」輸出との競合の末に、中国高速鉄道が進出を決めたものだ。カンボジアでは、〇八年に開発されたシアヌークビル経済特区に中国企業一〇〇社ほどが進出していたが、一帯一路によって中国企業を三〇〇社まで増やすとして工業団地の拡張工事が進められている。
 このASEAN諸国のみならず、南アジア、中央アジア、東欧、アフリカなどでもAIIBやシルクロード基金を軸にして中国からの直接投資が急激に増えている。「海外経済貿易協力区」が中国のてこ入れで各国に建設され始めている。
 しかし、この直接投資の進展の中で、スリランカでは対中返済が滞り、担保となっていた港湾の九九年間の使用権が中国に譲渡される事態になっている。ジブチ、キルギス、ラオス、モルディブ、モンゴル、モンテネグロ、パキスタン、タジキスタンが、スリランカと同様に対中債務リスクの特に過大な国とされている。それでも、「経済成長」のための資金が不足している諸国は、この中国の直接投資を受け入れている現実がある。
 かつて、日帝資本が、アジアNIEsやASEAN諸国に対して、政府開発援助(ODA)と民間資本輸出で戦略的に資本輸出を拡大したのと同様の状況が、中国によってより大規模に、急速に展開されているのだ。
 中国の一帯一路とAIIBに強い警戒感を示していた安倍政権だが、米トランプ政権のTPP離脱という事態の中で、アジア戦略の一つの選択肢として、一七年以降は一帯一路に一定参加し協力し始めた。新自由主義グローバリゼーションは世界規模で限界に達している。アフリカを「最後のフロンティア」だとする意図が、中国、そして日帝資本にはあるのだろう。地球の全てを搾取、収奪の対象とし続ける現代資本主義は、侵出と対立、争闘をさらに繰り広げていこうとしている。
 習近平政権は、対外的な侵出によって新たな矛盾を生み出してきたのと同時に、国内的には、スターリン主義としての人民支配を急激に強めている。後述する香港問題では、習近平自らが林鄭月娥行政長官と会談し、民主化デモの鎮圧を指示している。ウイグル自治区に対しては、ウイグル人民の解放闘争を「伝染病」だと例えた上で「痛みを伴う一定期間の治療が必要だ」として、「再教育施設」収容を強く指示している。ウルムチ市の警察に対しても「容赦なく対応せよ」という言葉で弾圧強化を指示しているのだ。
 中国が抱える根本的な矛盾は、その「経済成長」が農村から都市に移り住んだ農民工によって大きく担われていることだ。
 都市住民と都市戸籍を持たない農民工との身分的格差は厳然と存在している。日本、ドイツなど帝国主義資本が侵出し続ける中国で、農民工はその侵出企業において労働者であり、労働者としての矛盾を抱えているが、中国の公式の労働組合=工会には農民工は所属してはいない。
 中国の、組織されることのない非正規労働者=農民工は、労働組合がないところでストライキに立ち上がっている。
 中国の市場経済化は、資本主義国での制限された形での労働者・労働組合の権利すらも認められない農民工を生み出し、その労働力が中国経済を支えているという、歴史を逆回転させるような矛盾を生み出しているのだ。

 ◆1章―2節―3 東アジア情勢

 一八年の南北首脳会談、米朝首脳会談によって一挙に進んだ朝鮮半島の自主的平和的統一の流れが、昨年二月のハノイでの首脳会談の決裂によって一旦頓挫していた。しかし、米朝の首脳間、政府間では「親書」外交がなされており、昨年六月三〇日にはトランプが文在寅(ムンジェイン)大統領とともに板門店(パンムンジョム)に赴き、金正恩(キムジョンウン)国務委員長と首脳会談を行なった。
 トランプは九月には、極右の大統領補佐官ボルトンを更迭した。直接の要因は、トランプ政権がタリバンとの和平交渉を選択するためであったが、ボルトンは、朝鮮民主主義人民共和国に対しても政権の中で最も強硬であった。トランプ自身は、自らの政治的利害に適うことなら何でも選択するのであり、極右のボルトンがこの局面では邪魔になったということだ。
 しかし、トランプがそのポピュリズム的野心からであったとしても「和平」を選択しなければならないとするならば、それは南・北・在外の朝鮮人民の闘いをはじめとした全世界のさまざまな闘いの結果であるだろう。
 この一方で、東アジアの和平の大きな流れに逆行する外交に突き進んできたのが日帝―安倍政権である。安倍政権は共和国に対する制裁を強化し続け、朝鮮半島の自主的平和統一に敵対し続けてきた。そして、昨年後半には、共和国ばかりか韓国に対する排外主義的報復外交に突き進んだ。
 安倍政権は、G20大阪サミット直後の七月一日に、このG20首脳宣言に謳った「自由貿易」を根底的に否定する行動をとった。経済産業省は昨年七月一日に、半導体材料三品目について韓国への輸出規制に入ることを発表し、七月四日からこの措置が発効した。
 韓国政府は、八月一日の日韓外相会談で日本の輸出規制措置が日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に影響を与えることを示唆した上で、八月二二日、GSOMIAの破棄を正式に決定した。
 安倍政権は、韓国―文在寅政権に対してGSOMIA破棄の撤回を要求し続けた。しかし、安倍政権が強行している輸出規制も、そもそもの原因である韓国人徴用工問題への対処も、決して変更しようとはしなかった。一方で安倍政権は、米政府および米議会に働きかけ、韓国に対する米帝からの圧力に期待した。
 トランプ政権は、日米同盟、米韓同盟を護持するという米帝の利害から、韓国、日本に対して圧力をかけ続けた。期限直前の一五日にはエスパー国務長官も訪韓し、「GSOMIA失効と日韓の確執で利益を得るのは、中国と北朝鮮だけだ」と語って、文在寅政権にGSOMIA維持を迫った。米議会上院は二一日、GSOMIAの重要性を再確認する決議を可決した。
 この米帝の政治圧力の急激な強化の前に、文在寅政権は二二日、「いつでも協定の効力を停止させることができるという前提の下、終了するとした通知の効力を停止させる」と発表した。
 これをもって、日本政府側は、失効回避できたと捉え、米帝の威力を評価するような言説が垂れ流されている。しかも、安倍政権は、GSOMIAと対韓国輸出規制問題は別問題のように扱っている。しかし、これに対して韓国政府が抗議している。韓国政府の発表によれば、二二日までに日韓間で協議され合意された内容は、「日本が不当な輸出規制措置を撤回すること」が「GSOMIAの正式な延長を新たに検討する」条件とされているのだ。
 GSOMIAそのものが日米、米韓の軍事同盟を結びつけ、日米韓軍事同盟というべき朝鮮戦争重圧の要となってきたものだ。自主的平和統一を希求する南・北・在外の朝鮮人民はこの軍事協定に反対して闘ってきた。日韓政府の対立から起こったこととはいえ「GSOMIAの破棄」という事態を支持していた。文在寅政権が土壇場で「通知の効力を停止」したことに厳しい批判が起こっている。
 われわれは、何より、この文在寅政権に対する安倍政権、トランプ政権の強烈な圧力を、南北分断を強める攻撃として徹底弾劾する。

 ▼1章―3節 混迷する現代資本主義に抗する闘い

 ◆1章―3節―1項 緊縮政策に対する反撃


 東アジアにおいては、二〇一六年の韓国民衆の朴槿恵打倒のろうそく革命こそが、現在の文在寅政権をうみ出し、南北、そして米朝の関係を歴史的に変革する大きな流れをつくり出した。その上で、韓国労働者階級人民は文在寅政権のブルジョア的性格に対しては一歩も引かず闘い続けてきている。
 フィリピンにおいてはドゥテルテ政権と対決するフィリピン民族民主勢力の闘いが、武装闘争を含めて闘い抜かれている。ドゥテルテ政権の労働者・農民に対する弾圧が超法規的殺人攻撃も含めて激化する熾烈烈な状況の中で「全面的抵抗」を闘い抜いてきている。
 世界各地で、緊縮財政をはじめとする新自由主義政策と対決する闘いがまき起こっている。
 イラク、イラン、レバノン、エクアドル、チリなど世界各地で、公共料金の値上げやガソリン値上げ、スマホ通話料金への課税、あるいは政府の汚職に対して反政府デモが起こっている。
 チリでは一〇月、地下鉄運賃値上げに対する「無賃乗車デモ」から抗議行動が拡大し、一〇〇万人を超える反政府デモに発展。政府が抑えることができず、一一月にチリで開催予定となっていたAPEC首脳会議、そして国連気候変動枠組み条約会議(COP25)の中止を発表した。
 エクアドルでは燃料補助金の廃止や生活支援金の廃止に対して大規模なデモが発生。全国ストに発展している。
 イランでは一一月一五日、政府が一リットル八円に抑えていたガソリン価格を値上げした。購入量によっては三倍の価格にはね上がった。これに反対するデモが全三一州のうち二〇州で起こった。首都テヘラン市内での道路封鎖や、高速道路の封鎖などが起こっている。SNSでの拡散を恐れるイラン政府は、全土で携帯電話によるインターネットの接続を制限したが、収拾できているわけではない。一八日には一〇〇〇人以上が拘束されている。全土に拡大したデモに対して、治安部隊が容赦なく発砲し、死者が一四〇名を上回ると報道されている。
 米帝の制裁の影響もあるが、現在のイランの政権運営に対するイラン人民の怒りが全国規模で噴出した。イラン最高指導者ハメネイは一一月二七日、「敵による策略はイラン国民によって打倒された」と宣言し、全国規模のデモに「敵による策略」というレッテルをはったが、このような支配の継続は労働者人民のさらなる怒りを生むものだ。
 イラクでは一〇月以来、政府の汚職や失業問題に対する不満からデモが続いている。一一月末までに四〇〇人が死亡する事態になっている。反政府デモとして拡大し、アブドルマハディ首相は一一月二九日に辞任することを表明した。
 レバノンでは一〇月一七日、政府がスマホの通話料金への課税を発表したことから反政府デモが起こった。大規模な反政府デモに発展し、一〇月二九日にはハリリ首相が辞任を表明し、暫定政権に移行する事態となった。
 フランスでは、一昨年一一月一七日に始まった燃料税引き上げ反対の全国規模のデモ「黄色いベスト」運動から一年の昨年一一月一六日、全国で二万八千人がデモに参加した。労働者人民は、緊縮政策の下で物価高、失業にあえでいる。資本家と富裕層の立場で反政府デモに敵対してきた大統領マクロンに対するフランス労働者の怒りは決して収まってはいない。

 ◆1章―3節―2項 香港民衆の闘い

 昨年六月以降の香港における逃亡犯条例改定反対闘争は、中国スターリン主義―習近平政権が「逃亡犯」引き渡しという手法で「一国二制度」を有名無実化して香港人民への統制を強めようとする攻撃に対して、香港民衆が実力で立ち上がって、これを阻止する行動に出た。林鄭月娥行政長官とそれを後押しする習近平・中国共産党指導部が強硬姿勢をとり続ける中で、香港民衆の全人民的闘争へと高まった。香港民衆は攻防の中で、自らの主張内容を「五大要求」にまとめ上げた。それは、①条例改定案の完全撤回、②警察と政府による市民の行動に対する「暴動」規定の撤回、③デモ参加者の逮捕・起訴の撤回、④警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査の実施、⑤林鄭月娥行政長官の辞任と民主的選挙の実施であった。
 中国共産党は第一九期中央委員会第四回全体会議(四中全会)において、香港政府の高度の自治を保証するとしつつも、「国家を分裂させるいかなる行為も許さない」と明示した。四中全会終了直後の一一月四日、習近平と林鄭月娥は上海で会談した。習近平は「高度に信頼している」とした上で、「法に従って暴力を止め、処罰することが香港民衆の幸福を守ることになる」と述べた。この会談以降、林鄭月娥はデモ弾圧を強化させた。「覆面禁止法」をもって実力デモそのものを規制する弾圧に踏み込んだ。警察官がデモ参加者に向けて実弾を発砲し、一一月一九日には香港理工大学への警官隊突入を強行した。
 この状況の中で一一月二二日に実施された香港の区議会議員選挙では、全四五二議席の85%にあたる三八二議席を民主派が獲得した。
 弾圧のエスカレーションに対する香港民衆の闘いは本質的には中国スターリン主義の支配強化に対する民主化闘争である。労働者階級人民が民主主義を希求するのは当然の権利であり、われわれは香港民衆の闘いを支持する。しかし、対中交渉の一つのカードと捉える米帝―トランプ政権が政治的に介入することを許してはならない。
 中国スターリン主義―習近平政権の厳しい統制ゆえに、中国本土には未だこの香港民主化闘争の影響は及んではいない。香港のおかれている状況は、習近平政権が香港の位置を中国スターリン主義の利害からのみ捉えているところにある。現代資本主義そのものが危機に直面する事態の中で、東アジアの金融の拠点としての香港の利害の争奪をめぐって引き起こされていることである。
 いつの日か、中国本土の労働者の闘い、あるいはウイグルをはじめとする民族解放闘争と結びつくとき、香港民衆の闘いが国際主義的な発展を遂げるであろう。われわれは、日帝―安倍政権の独裁的排外主義的支配を打ち破る闘いをもって、香港民衆の闘いの発展に応えていかなくてはならない。

 ●第2章 国内情勢

 ▼2章―1節 安倍右翼反動政権の改憲攻撃


 安倍晋三は自らの総裁任期二〇二一年までに改憲を果たすことを公言し、昨年秋の臨時国会で国民投票法改定案の成立を狙っていたが、衆院憲法審査会を三回開催したが、野党からCM規制の議論が未了であることを批判され、憲法審査会での国民投票法改定案の採決を見送らざるを得なくなった。
 安倍自民党は、①九条への自衛隊明記、②緊急事態条項、③参議院合区の解消、④教育無償化の四項目を改憲案としており、安倍自身は二〇年に施行を目指すと発言してきた。
 昨一九年、安倍政権は、「天皇代替わり」として退位・即位の式典を国費をもって強行した。退位、即位、即位礼正殿の儀、饗宴、祝賀パレード、大嘗祭が挙行され、そのたびにテレビ・ラジオは特集番組を組むなどマスコミを総動員して「日本国民」に「祝賀」を強制した。天皇を「万世一系の神の子孫」として祀り上げ、「代替わり」儀式に政府、議会など権力機関が参列するだけでなく、芸能人、マスコミを総動員して「国民的儀式」へと高め上げ、昨年だけの「祝日」を設けて「国民総動員」状況をつくりだしてきた。
 この「代替わり祝賀」の過程において、「明治維新」以降の天皇制が、日本帝国主義の侵略戦争と植民地支配の根幹にあったこと、そして現在にもいたる日本社会の差別排外主義の元凶であることは、隠蔽されてきた。天皇制への批判、論議を圧殺し、同時に、反天皇闘争に立ち上がる人々に対しては徹底的に弾圧する。まさに、「祝賀」行事を完遂する過程において、天皇制・天皇制イデオロギーが貫かれていたのだ。
 われわれは、この状況に対して、「反天皇制・反戦・改憲阻止行動」を形成して、断固街頭政治闘争に立ち上がってきた。そして、大衆行動として立ち上げられた「終わりにしよう天皇制! 『代替わり』反対ネットワーク(おわてんねっと)」に賛同し、この行動に参加し支援してきた。同時に、関西、九州、山口など全国各地で反天皇制の行動を闘いぬいた。安倍政権が思うとおりに、労働者人民すべてが天皇の下にひれ伏す状況ではないことを示しきった。
 安倍政権はさらに、二〇年東京オリンピック・パラリンピックを「国民的行事」として挙行し、「国民統合」の環にする攻撃を連続してかけてきている。
 「国民的行事」を立て続けに行い、「日の丸・君が代」を繰り返し、そこへの参加を促す。マスコミが映像を通して、これを視覚的に行なって、多くの労働者人民を「国民的行事」に動員していく攻撃が二年にわたって続けられようとしている。安倍政権は、この状況を作り出した上で、その「日本国民」意識を改憲へと集約していこうとしているのだ。
 そして、東京オリンピック・パラリンピックは、「復興五輪」として、東日本大震災と福島原発事故から復興した日本を示すことが位置づけられている。安倍は、東京開催決定に際して、福島原発事故による放射能は完全に「コントロールされている」と強弁した。しかし、これは全くのウソだ。原発事故の処理の展望はないし、毎日発生し続ける汚染水を処理することができない。汚染水の海洋投棄を画策し続けている。このような事態のまま、原発再稼働を強行し、四〇年越えの老朽原発の再稼働も強行しようとしている。
 安倍政権は再生可能エネルギーを本気で推進することをせぬまま、原発再稼働を進め、一方では不足する電力を石炭火力発電で補い続けている。COP25においても、日本の二酸化炭素排出状況が批判されている。
 安倍がなんとしてもなそうとしている九条自衛隊明記改憲は、新たな世界情勢に対応して日本が担うべき「積極的平和主義」と位置づけている。安倍政権は、自衛隊派兵を強行し、ジブチに日本の派兵拠点を構築し、参戦を進める条件をわざわざ作り出してきたのだ。
 トランプ政権がむりやり作り出したイランとの緊張関係、その上で米国主導の対イラン派兵の有志連合形成という事態に対応して自衛隊派兵を強行しようとしている。国会での承認が不要な「調査・研究」名目の派兵として、防衛相の判断で可能だとしているのだ。派兵―参戦を安倍政権が勝手に進め、戦争状況にのめりこむことをもって、改憲論議をも進めようとする攻撃だ。絶対に許してはならない。

 ▼2章―2節 安倍外交の失敗

 ロシア、中国、朝鮮民主主義人民共和国、そして韓国、いずれに対しても安倍が掲げてきた外交方針は貫徹できていない。
 安倍晋三は外遊を繰り返し、「地球を俯瞰する」などと「グローバリゼーション」を推進するかのように気取って、その外交を自画自賛してきた。
 安倍政権は他帝の支配者どもと同様に「新自由主義グローバリゼーション」にかじりついてきたのではあるが、そこには根本的な矛盾がある。安倍晋三は凝り固まった国粋主義者だ。国境を越えた地域的な枠組み形成や、地球的な規模での国際条約をまとめあげていくような政治構想を持つことができない。
 極右天皇主義者である安倍晋三には、世界史における日本帝国主義の戦争犯罪、植民地支配について捉え直し反省するという思考回路がない。「地球を俯瞰」しながら、自国の利害、自党の利害、自分の政治的命運ということ以外、何も見えてはいない。日本帝国主義が、日本人が、アジア―世界からどのように見られているのかということを捉えることができないのだ。この厚顔無恥な日本の首相には、外交の前提がないというべきだろう。
 ロシアとの領土交渉では、四島ではなく二島の返還を実現かと報じられながら、前述したように日米同盟関係を何より重視してイージス・アショア配備を進める安倍政権がロシアから不信を持たれ、交渉の道を断たれ、自滅した。
 米国からすると、イージス・アショアは「太平洋の盾」であり、その配備によって日本列島そのものが「巨大なイージス駆逐艦」ということになる。それはロシア側から見れば、トランプ政権のINF条約違反に日本政府が積極的に加わったということなのである。ロシアのラブロフ外相は「INF条約とクリル諸島問題は明確に関連している」と明言している。米帝におもねった安倍政権の軍事外交路線こそが、対ロ外交膠着の要因なのだ。
 米朝首脳会談、朝鮮半島南北首脳会談が進む状況の中で、安倍晋三は共和国との直接交渉の意思を表明してみたが、その言葉だけである。日帝の侵略戦争と朝鮮植民地支配の責任について言及することもない安倍政権が、現段階で共和国から相手にされないのは、安倍自らの責任である。
 米トランプ政権におもねり、日米同盟関係は「磐石」だとしてきた安倍政権だが、日米貿易協定では、日米間の協議内容を具体的に明らかにしないまま、国会での「承認」案の可決を強行した。本年の大統領選を前にしたトランプ政権の「外交成果」のために、安倍政権は日帝資本に不利な交易条件すら呑んだのだ。何より、日本の畜産農家をはじめとする農民に対して徹底的に犠牲を強いる協定だ。
 東アジア情勢に述べたように、安倍右翼反動政権は、共和国に対する制裁外交に加えて、韓国に対して元徴用工に対する韓国大法院判決を非難し続け、制裁外交を発動するという暴挙に出た。
 安倍政権の主張は、一九六五年の日韓基本条約・請求権協定によって「解決済み」だということを繰り返すだけだ。二〇一八年韓国大法院判決は、日本の朝鮮植民地支配と侵略戦争の批判の上に、強制動員された被害者の日本企業に対する慰謝料請求権として、元徴用工の損害賠償請求権を認めたものだ。
 安倍政権をはじめとする日本側が「根拠」としている六五年日韓条約そのものが、当時の朴正煕(パクチョンヒ)軍事独裁政権に対して反共という位置付けで米帝とともにてこ入れし、戦後再び日帝資本のアジア侵出の先鞭をつける企図をもって、結んだものだ。だからこそ、植民地支配の根拠となった一九一〇年韓国併合に関しても強制なのか「合法」なのかを明確にせぬままであった。
 日本政府は無償三億ドル、有償二億ドルの「経済援助」をもって、韓国の対日請求権を放棄させたのだ。そして、この「経済援助」は、援助どころか日帝資本の韓国侵出の根拠となったのだ。
 安倍政権にまでいたる戦後の日本の保守政権が、一貫して侵略戦争と植民地支配の反省などなく、日韓関係を戦後のアジア再侵略として位置づけてきたことの積み重ねが、現在の困難な日韓外交を生み出しているのだ。安倍政権が安倍政権である以上、戦前―戦後を貫いた日本の外交を反省的に捉え返すことなどできようはずがない。

 ▼2章―3節 アベノミクスの破綻と労働者人民の貧困化

 安倍政権は、経済政策を優先することで「支持」を確保し、歴代最長の政権になったことを誇っている。その経済政策―アベノミクスは①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」だとして進められてきた。
 しかしその経済政策は、理論的には矛盾する経済政策の寄せ集めにすぎない。〇八年恐慌と一一年東日本大震災―福島第一原発の破局的事故で決定的に打撃を受けた日本資本主義、そのブルジョアジーを救済するために、金融緩和でも、財政政策でも何でもやるというものでしかない。資本家と富裕層を救済し、その利権を拡大するものだ。
 安倍政権がアベノミクスと称して行なってきた政策は何だったのか。黒田日銀総裁は「異次元の金融緩和」と称して、ゼロ金利、マイナス金利に踏み込み、大量に国債と株式を買い続けて金融市場に資金を流し続けてきた。この金融緩和によって株価は維持されており「好景気」が続いているように安倍は主張しているが、これは「官製相場」と批判されている。現実には、安倍が掲げた成長率目標も物価上昇率目標も実現できてはいないのだ。
 安倍は「世界で一番企業が活動しやすい国」を目指すとして、企業と富裕層を優遇する法人税減税を進め、その一方で消費増税を実施して大衆課税を強化してきた。アベノミクスの一環として進められた国家戦略特別区域制度は、新たな利権を生み出し、加計事件に明らかなように安倍晋三の取り巻きがその利権を独占する構造を作り出してきたのだ。大学入試制度の民営化、「桜を見る会」でも、新たな利権とその私物化が進められていたことが暴かれてきている。
 一昨年の「働き方改革」と銘打った労働法制改悪は、実は「残業代ゼロ制度」導入など資本の側の利害が貫かれている。さらに全く不十分な国会審議で強行可決した入管法改悪によって、移民としての権利を認めずに外国人労働者受け入れ枠の拡大だけが進められてきた。
 安倍政権は「雇用が増えた」と主張してきたが、現実には正規労働の非正規化が進められ、低賃金の非正規労働者が増大してきた。労働者人民に貧困を強制しながら、資本が利潤率を高めてきたのだ。
 安倍政権の六年間で、労働者人民の生活はより苦しくなっている。
 総理府の勤労者統計によれば、世帯平均の可処分所得は若干上がっているが、物価上昇と消費税増税を差し引くと、ほとんど増えていない。日本の労働者の平均的生活は、賃金がほとんど上がらない中で、実質的な生活水準を落とさざるを得ない状況にある。
 日本の労働者の賃金は、経済協力開発機構(OECD)の統計(フルタイム就労の賃金比較)によれば、消費購買力平価換算でOECD諸国平均以下であり、イタリアと並ぶ水準になっている。一方で、その格差が激しくなっており、G7諸国の中の貧困率(国民の平均値の半分に見たない人の割合)で比較すると、最悪の米国に次いで悪く、ワースト二位である。
 すでに日本は「豊かな国」ではなくなっている。平均賃金でも工業国の下位にあり、格差の拡大によって米国なみの貧困化が進んでいるのだ。

 ●第3章 共産主義運動は何をめざし何を実践するのか

 ▼3章―1節 現代の帝国主義


 米帝国主義が自ら主導してきたはずの新自由主義グローバリゼーションをかなぐり捨てて、中国との貿易戦争、為替戦争に突入している。トランプ政権は、中国ばかりではなく、欧州諸国や日本など同盟国に対しても、米国の利害を第一に掲げて、貿易の条件の改定を力ずくで進めてきた。米帝資本の利潤の源泉としてきた世界的な統一市場を、自ら分断し、対立を煽ってきた。米中貿易戦争・通貨戦争、英帝のEU離脱、欧州諸国間の経済格差と対立、貿易をめぐる日米間の対立。米トランプ政権が引き起こした中東での新たな戦乱。東アジアの和平の流れに対して日帝―安倍政権が煽り立てる軍事的緊張。
 資本の搾取と収奪、その利害対立はむき出しであり、帝国主義同士の対立もあからさまになっている。一〇〇年前のレーニンの時代の帝国主義戦争の時代に単純に回帰したのか、とも見える。しかし、われわれは、現在起こっている事態とこれを主導している現代帝国主義が歴史的に何なのかということをはっきりと見据えていかなくてはならない。
 眼前にある世界も、決してレーニンの時代と全く異なる世界であるわけではない。金融資本が独占的に支配する帝国主義であることは根本的に同様である。
 確かに、国際連合があり、核兵器を独占する安保理五大国(米・英・仏・ロ・中)が対立しつつ軍事的に世界支配を貫徹している。国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)、G7―G20が存在しており、国際通貨体制や統一世界市場が現代資本主義の共通の利害のごとく確認され続けてきた。しかし、これは安定でも平和でもなかった。戦後の米帝を軸にした帝国主義の支配の下でも戦争はなくならなかったし、他国を隷属させ従属化し、そこに帝国主義資本が進出していくことは一貫して行なわれてきた。金融資本にとっては、その利害が貫徹できるならば、政治的な支配の形態はさまざまな手法があるのだ。
 戦後の資本主義においては、レーニンが明らかにした資本の輸出が、かつてとは異なる規模で、その直接投資の質も変えてなされてきた。戦後、とくに七〇年代以降の日帝資本のアジア侵出に明らかなように、工業国と農業国の関係ではなく、資本輸出した従属国を工業化してきた。侵出した国・地域を、帝国主義資本の再生産構造の中に従属的に組み込んできた。はっきり言えば、かつての帝国主義のような農業国からの収奪ではなく、工業化し、そこでの生産の中で直接搾取していく構造を大規模に拡大してきた。現代資本主義はアジア、ラテンアメリカから着手して、全世界を工業化し資本主義化してきた。
 現代資本主義は、レーニンの時代以上に明確に、資本輸出を体系的に位置付け、世界中の人々を労働者にし、資本主義的生産関係の中に叩き込んできたのだ。

 ▼3章―2節 金融投機資本と帝国主義の混迷、暴走

 戦後帝国主義各国の経済発展は、五〇年代、六〇年代には米帝の圧倒的な工業生産力と軍事力に裏付けられた金―ドルを基軸通貨として国際通貨体制の下での一時的な安定的な発展としてあった。しかし、帝国主義の不均等発展と繰り返されたドル危機、そして、ベトナム民族解放革命戦争の勝利=軍事強大国米帝の敗北という事態の中で、七五年以降のG7(サミット)諸国による世界支配へと転換した。金―ドル兌換は停止された状況で、帝国主義諸国が基軸通貨ドルを支え、資本主義体制は維持する。そして、それぞれの利害で従属国支配のための侵略反革命戦争を互いに承認し合い、現代資本主義世界を護持していく体制が続いてきた。
 八九年から九一年にかけてのソ連邦・東欧圏崩壊以降の資本主義は、「資本主義の勝利」が主張される状況の中で、金融資本の利害を極大にするためには何でも行なう、野蛮な資本主義へと脱皮していった。英帝・米帝が主導した金融ビッグバン(金融の世界規模での自由化)と情報通信技術の発達によって、金融投機によって莫大な収益を上げていくようになった。しかし、現実には生産過程での搾取によって利潤は生み出されているのであり、金融投機の世界規模での展開が、実体経済の利潤から収益を取り上げていくような資本主義へと変貌してきたのだ。
 二一世紀の資本主義、とりわけ〇八年金融恐慌以降の現代帝国主義は、この金融投機資本主義の破産の後に、国家の救済の下に延命してきた。しかし、新自由主義が破綻した現代資本主義が選択しているのは、新自由主義政策のさらなる強化でしかない。
 国家財政で資本を救済しつつ、労働者人民に対しては緊縮財政を徹底化する。教育、医療、福祉を民営化し、削減する。一方では、法人税を引き下げて、消費増税のように労働者人民への税負担を増やす。労働法制を改悪し、非正規雇用を拡大し、賃金を引き下げ、搾取を強めていく。
 そして、帝国主義間では各々の利害をむき出しにして、激しい争闘を開始している。恐慌から脱してはいないまま、互いに延命するために、利権を、市場を奪い合っている。グローバリズムを標榜してきた現代帝国主義が、G7サミットも、G20も、あるいは欧州連合やTPPのごとき地域的枠組みさえ、自国の利害に相反すれば投げ捨てる事態になっている。
 資本主義の本質が、帝国主義の本性が赤裸々になる時代に突入している。トランプにも、安倍晋三にも明らかだが、決して彼らは磐石ではない。まさに資本主義そのもの危機に直面して、その本性たる暴力的な攻撃、弾圧に出てきている。

 ▼3章―3節 現代資本主義の危機と労働者階級人民の闘い

 破綻した新自由主義政策の矛盾を徹底的に押しつけられた労働者人民は、世界中で抗議し、デモに立ち上がっている。ラテンアメリカ、イラン、イラク、ヨーロッパ、アメリカ、香港、そして中国本土でも。労働組合として組織された闘いも、組織されないまま開始されたデモも、さまざまに起こっている。相互に呼応したわけではない。もう耐えられない労働者人民が闘い始めたのだ。燃料価格引き上げに対する闘い、労働者階級の権利を要求する闘い、緊縮政策に反対する闘い。発端はさまざまではあるが、新自由主義政策の徹底化が生み出した矛盾に耐えられなくなった人民の決起が続々と起こっている。
 一方では、この労働者人民の憤激を反動的に集約しようとする排外主義の極右ポピュリズムも急激に強まっている。数年前から欧州において顕著に表れてきた、移民・難民排斥の極右排外主義運動は、労働者人民の憤怒を排外主義的に集約する運動だ。安倍政権は、その政権の危機ゆえに、対韓国排外主義外交をもって、人民の憤激を集約しようとし始めている。
 新自由主義政策、とりわけ、その一環としての緊縮政策は民生をことごとく破壊する。社会民主主義者の主張も、この事態の中で、現代帝国主義の支配そのものを問題視し、これと対峙する方針を次々と示してきている。
 トランプ政権の排外主義的保守的政策と真っ向から対決する、民主党左派サンダースの民主社会主義的主張は、貧困と格差を強いられている青年・学生層の支持を得てきた。同様に、英国のコービン労働党は、ブレアの「第三の道」と異なって、反緊縮を明確にして、公共サービスの再公有化、大学授業料の無償化、公共住宅の拡充、労働者の権利保障の強化、企業・富裕層への課税強化を公約としている。より積極的には、「所有の社会化」を進めるとしている。日本においては、山本太郎のれいわ新選組が、緊縮政策と真っ向から対峙する政策を明示して支持を集めてきた。労働者人民の怒りが、社会民主主義、左翼ポピュリズムに対しても強く突き上げているからだ。
 もうこれ以上耐えられないという事態が一国の中だけではなく、世界規模で起こっている。金融資本が世界規模で流動する現代資本主義世界にあって、同じ支配が、同じ搾取が、そして、同じ弾圧が世界規模で繰り広げられている。世界規模の気象変動を引き起こす地球温暖化問題も、根本的には、経済利害だけに突き進んでいる現代資本主義の問題だ。
 現代資本主義の限界ともいうべき事態の中で、過労死が横行する強搾取、富の独占・私物化、侵略反革命戦争の準備とそこへの動員を、支配者階級が選択している。これに対して、われわれは根本的で階級的な対決として闘っていく。
 労働者階級人民の闘いの、具体的要求の、その根底にあるものを見極め、闘いの展望をはっきりと示していくことが今こそ厳しく問われているだろう。世界中で命がけで闘っている労働者人民は、現代帝国主義が生み出した根底的な矛盾への憤怒をもって立ち上がっている。現代帝国主義の国内政策の改善ではなく、帝国主義の、あるいはスターリン主義の支配、弾圧、戦争を突き破ろうとしているのである。望むものは、帝国主義そのものを打倒することである。
 まさに、現代帝国主義の世界支配そのものを打ち倒していくべく闘おう。韓国、フィリピンをはじめとして、反帝闘争の国際的結合を強め、世界各国・地域で決起する人々との結合を創出していこう。
 今こそ、プロレタリア国際主義を貫徹する闘いを実践するときである。ともに闘おう。




 

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