共産主義者同盟(統一委員会)


1605号(2022年1月1日)






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■第1論文:情勢

 コロナウイルス・オミクロン株の発現とその世界的な感染拡大の兆候の中で、二〇二二年が始まろうとしている。二年にわたるコロナ禍の中で、現代資本主義の冷酷な現実に直面してきた。新自由主義グローバリゼーションを展開してきた現代資本主義は、これまでの矛盾をコロナ感染拡大の中でより一層鮮明にし、格差の拡大と貧困化を極限まで進める事態となっている。
 日本では、菅政権が強行した東京オリンピック・パラリンピックと軌を一にして爆発的な感染拡大に至り、入院することができぬまま「自宅療養」を強制され命を落とす人々が続出した。コロナ禍の中で命まで選別する政府の下にいるという事態を、これ以上続けさせてはならない。岸田に政権の顔が変わったからといって、日本帝国主義の支配が変わったわけではない。「新しい資本主義」なるスローガンをもって、改めて改憲攻撃、戦争総動員体制構築の攻撃が開始された。
 沖縄の玉城デニー知事が昨年一一月二五日、辺野古新基地建設の設計変更申請に対して不承認を決定した。岸田政権、防衛省は、この決定に従え! われわれは沖縄人民の決断に応えて、ともに闘う。軍事基地を廃絶しようとする沖縄人民の意志を貫くことこそが、日帝の改憲―戦争攻撃の基盤を覆すことである。
 コロナ禍の中で現代資本主義そのものの限界が露呈している。支配階級の強権発動や弥縫策で解決できる事態ではない。資本主義が続く世界では、人民の命も生活も奪われていく。人民の権利が破壊されていく。保護主義と排外主義に突き進む帝国主義の支配を今こそ打ち破ろう! 労働者階級人民の怒りを組織し、プロレタリア国際主義に立脚して、ともに未来を切り拓いていこうではないか。
 今号(一月一日)と次号(一月二〇日)で、共産主義者同盟(統一委員会)の年頭の見解を明らかにする。今号において第一論文(情勢)を、次号で第二論文(総括、方針、党建設)を、掲載していく。

●第1章 世界情勢
▼1章―1節 衰退する米帝と世界支配をめぐる再編
◆1章―1節―1項 対中戦略を強めるバイデン政権


 昨二〇二一年一月、直前のにトランプ支持極右団体の連邦議会議事堂突入のため戒厳態勢の下で大統領に就任した民主党バイデンは、就任演説で国内の「結束」を強く訴えた。それは、大統領選での対立というばかりでなく、その根底にある米国内の格差、分断、差別、対立の厳しさを浮き彫りにするものだった。
 〇八年恐慌の世界的な危機の後も強められてきた新自由主義政策の下で拡大してきた格差は、コロナ禍においてさらにその残酷な実態があらわになっている。グローバルな規模で展開する金融システムの防衛とは、実は独占資本の救済であり、格差の拡大の中で貧困に喘ぐ労働者人民は切り捨てられた。米国ばかりではない。二〇年から二一年、コロナ感染の世界的拡大という危機の中で、現代資本主義の残虐な実態が改めて明らかになった。
 バイデンは昨年の大統領就任式ではアメリカ国民に対して「結束」を呼びかけたものの、具体的な政策では、トランプの「アメリカ第一主義」で混乱が続いてきた外交関係の建て直しに力を傾注した。六月のコーンウォール・サミットを待たず、二月にはG7首脳会議(テレビ電話会議)を行なって、同盟関係の「修復」に着手した。G7の重視、北大西洋条約機構(NATO)、日米安保など軍事同盟関係の再確認、パリ協定への復帰をもって、米帝を中心国とした帝国主義の世界支配体制の「回復」を企図するものだった。
 バイデン政権の同盟関係の再強化は、中国を共通の敵として確認することを基盤にしている。トランプは中国を経済的な競争相手として捉えるだけだったが、バイデンは、中国がその工業生産力を軸とした経済力だけでなく、政治的にも軍事的にも米帝の世界支配を脅かすことを冷徹に捉えている。その上で、この中国との対決を、帝国主義諸国など同盟諸国の共通の利害として確認しようというのだ。
 バイデンは、同盟諸国を中国批判―中国対決に巻き込むために、「民主主義」を掲げ、香港問題、台湾問題、ウイグル問題を「人権問題」として扱い、習近平政権を徹底批判した。同時に、日本、インド、オーストラリアとともにQUADを形成し首脳会談を開催した。このQUADを軸にした合同軍事演習にも着手した。
 昨年六月に英国で開催されたコーンウォール・サミットでは、英首相ジョンソンとバイデンの企図の下に韓国、オーストラリア、南アフリカ、インドも招請し、「D11(民主主義一一カ国)」なる枠組みを形成しようとした。バイデンはサミットの場で「民主主義と専制主義の対決」を強く主張した。バイデン政権は、トランプ政権の否定ではなく、トランプが強行した対中国制裁を活用しつつ、さらに「人権問題」でイデオロギッシュに中国批判を強めて、同盟国による中国包囲を狙っている。
 昨年九月一五日には、米・英・豪の軍事協力の枠組みAUKUSの創設を発表した。インド太平洋地域の安定と安全を維持するための防衛パートナーシップの構築と表明している。QUADやD11のような政治的な粉飾もなく、明確な軍事協力のための枠組みだ。すでに同盟関係にある三国が、インド太平洋という領域での軍事協力を確認したものである。

◆1章―1節―2項 同盟関係のほころびと米帝のGPR

 バイデン政権は同盟国の共通の利害、あるいは「民主主義」を掲げてはいるのだが、資本主義諸国全体を領導する米帝の力の喪失を露呈している。
 対中国への戦略転換を急ぐバイデン政権は昨年八月、アフガニスタン撤退を強行した。二〇年に及ぶアフガニスタン侵略戦争での米軍の敗退を、全世界に印象付けるものとなった。バイデンは、国務長官、国防長官―国防総省の反対、欧州各国など同盟国の反対を押し切って、この撤退作戦を強行した。同盟諸国の撤退準備を待つことなく、なにより、撤退後のアフガニスタン人民の生命、生活の補償に責任を負うことをしなかった。
 二カ月後の一〇月二五日、国連世界食糧計画(WFP)は、アフガニスタンでは九月から一〇月に一九〇〇万人が飢餓状態に陥っており、一一月から二二年三月に向けてさらに食糧不足が深刻化し、人口の半数にあたる二二八〇万人が飢餓状態になるという予測を発表した。干ばつとコロナ禍の上に米軍撤退以降の政変で、国際的食糧支援が滞ったことが原因だとしている。WFPは「支援がなければ、何百万人もの人々が移住するか餓死するかの選択を迫られる」と警告を発している。
 これが、米帝をはじめとする帝国主義が「対テロ」戦争としてアフガニスタンを侵略し占領してきた結果である。タリバンを批判する前に、このアフガニスタン戦争に参戦した諸国こそが、殺戮と破壊の結果としてのアフガニスタン人民の生活再建の支援をなさなくてはならない。
 バイデン政権は対中国シフト戦略への転換をあせり、アフガニスタン敗退―タリバンの政権奪取という事態によって、同盟諸国に不信と批判を生む結果となった。
 バイデン政権は、アフガニスタンでの敗退で批判されただけではない。インド太平洋をめぐる軍事同盟AUKUSも、新たな対立を生み出した。米帝はAUKUS形成に伴って、オーストラリア・モリソン政権に対して原子力潜水艦の技術供与を確認した。この結果、仏と豪の間での潜水艦の契約が破棄された。仏が米を批判し、大使を召還する事態になった。一〇月のG20首脳会合の場で、米仏首脳会談を行って関係修復しなければならないという事態になっている。
 米国防総省は一一月二九日、「グローバル・ポスチャー・レビュー(GPR=地球規模の米軍態勢の見直し)」の概要を発表した。対中国の観点からインド太平洋を「優先地域」として位置付け、グアムと同盟国オーストラリアの米軍基地を強化することが明らかにされた。しかし、全世界の米軍の大規模な再編は言及されなかった。
 バイデン政権は国防予算の伸びを抑える方針であり、自らの財政力で全面的な軍備増強はできない。一方で、米軍の中東地域への展開を減ずることはできず、EUとロシア、ベラルーシとの対立ゆえに欧州地域の米軍を削減する状況ではない。
 バイデン政権は、限られた選択肢の中で、同盟国に軍事力増強、財政負担を要求しつつ、対中シフトへの戦略転換に踏み出した。

◆1章―1節―3項 米中首脳会談

 一方で、昨年一〇月には米中通商協議が開始された。その上で、米中首脳は一一月一五日、オンラインで会談を行なった。三時間半にわたる会談であり、バイデンも習近平もそれぞれの主張を行い、米中の対立は鮮明になった。
 バイデンは、ウイグル、チベット、香港における中国の活動を批判し、中国の貿易・経済活動についても不公平だと批判した。台湾については「一つの中国」を認めつつも、一方的な現状変更や台湾海峡の平和と安定を損なう試みに強く反対する、と主張した。
 習は、中米が堅持すべき「三つの原則」を提示した。①相互尊重。互いの社会制度と発展の道筋、核心的利益を尊重すべき。②平和共存。衝突しない、対決しないが最低線③協力とウィンウィンの関係。中米の利害は深く交わっている。
 台湾問題に関しては、習は次のように原則的立場を主張した。台湾情勢が新たな緊張を迎えているのは、台湾当局が米国に頼って幾度も独立を謀ろうとし、米国側の一部の人々が台湾を使って中国を牽制しようとしたからだ。これは危険な火遊びだ。台湾は中国の一部である。われわれは辛抱強く誠意を尽くし、平和統一をする将来図を持っているが、台湾独立勢力が挑発を重ねて一線を越えれば、断固たる措置をとらなくてはならない。
 バイデンは会談冒頭で「競争が衝突に変わらないようにすることが、両国のリーダーであるわれわれの責任だ」と述べた。両国は対話継続については一致しているものの、双方の主張で対立は鮮明になり、簡単に解決するものでないことも明確になった。

◆1章―1節―4項 米政府資金枯渇と原油高・ドル高

 対中国で強気の外交姿勢を貫く米バイデン政権だが、就任時に強く確認した「結束」が実現できてはいない。バイデン政権は、コロナ禍にあって拡張的な財政政策をとっているが、昨年一〇月一八日に債務上限に達して政府機関閉鎖の可能性があった。昨年九月、イエレン財務長官がデフォルト(債務不履行)の可能性に言及すると、ニューヨーク株価は六〇〇ドル超の急落となった。九月三〇日時点で共和党との合意が成立し、一二月三日までの「つなぎ予算案」を可決した。一〇月デフォルトは回避されたが、財政危機は先延ばしされただけだ。
 この財政状況の中で、バイデン政権は最重要政策として位置づけていた総額一兆ドルのインフラ投資法を一一月一五日、米議会で成立させた。道路や橋、鉄道、電力、電気自動車などへの投資を行なうものだ。バイデン政権としては、経済再建に向けた積極財政に踏み込もうとしているが、それは国家財政の債務を拡大するものである。一一月二日のバージニア州知事選では民主党が敗北した。積極財政政策に対する批判も高まっているのだ。
 さらに、コロナ禍ゆえの物流の混乱、原油価格の高騰、そして労働力不足を要因として、米国経済はインフレ圧力が強まっている。この状況を捉えた上で、米連邦準備制度理事会(FRB)は一一月二~三日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和の段階的縮小(テーパリング)開始を決定した。FRBは、一九年まで利上げを重ねてきていたが、コロナ禍でゼロ金利政策に転換して対応した。FRBは、テーパリングを続けた上で、二二年六月には利上げを開始しようとしている。
 経済混乱の中でのインフレが始まりながら、実体経済そのものは鈍化している。FRBの金融引き締めと、バイデン政権の積極財政政策が同時進行する状況だ。

◆1章―1節―5項 「民主主義と専制主義の対決」

 コーンウォール・サミットのD11の企図をさらに拡大するものとして、バイデン政権は昨年一二月九~一〇日、「民主主義サミット」なるオンライン会合を開催した。一一〇カ国・地域を招待した。中国、ロシアは排除し、台湾を招待した。中東からは、エジプト、トルコ、サウジアラビアは招待せず、イラクとイスラエルだけを招待した。米政府の恣意的な評価による「民主主義国」の寄せ集め会議だ。
 中国、ロシアを排除し、世界の分断と対立を激化させる枠組み作りである。
 そもそも、国家としての戦争責任と戦後補償を果たさない日本が「民主主義」なのか? パレスチナ人の土地を奪い占領を続けているイスラエルが「民主主義」なのか? 中東をはじめ全世界で侵略反革命戦争を繰り広げ、昨夏アフガニスタンで敗退し、アフガニスタン人民の生命、生活を危機に陥れている米国は「民主主義」を誇れるのか!
 バイデン政権の「民主主義と専制主義の対決」なる構図が、アジア太平洋においては対中国包囲の動きを加速させる一方で、欧州においては欧州連合(EU)対ベラルーシ、ロシアの対立の激化を生み出している。
 ベラルーシ・ルカシェンコ政権は独裁を強め、反政権派に対する合法・非合法の弾圧を強めてきた。EUはルカシェンコ政権に対する経済制裁を発動すると同時に、ルカシェンコをロシア・プーチン政権が支えてきたとして非難してきた。
 ルカシェンコ政権は、このEUの制裁に対して、中東シリア・イラクからの移民・難民にビザを発行してベラルーシに入国させた上で、隣接するポーランドへ出国させるという手法で、「報復」を始めた。
 一五年から一六年には地中海ルート、あるいはトルコからエーゲ海、ギリシャへと、シリア、イラクなどからの難民が欧州に流入した。独メルケル政権などが受け入れ表明するも、欧州各国でそれを批判する極右排外主義が強まった。
 ルカシェンコ政権は、トルコやイラクの旅行会社に「ビザ発給」を通知して移民、難民を受け入れた上で、EU諸国や英国に送り出すということを、報復的「外交政策」として行なっているのだ。ベラルーシからポーランド、EU各国という新たな移民・難民ルートが、政治対立の中で新たにつくり出された。
 EUは、米、英、カナダと共同して、ベラルーシに対して追加制裁で対抗した。
 反政府勢力への弾圧と、難民をも利用した報復というルカシェンコの非人道的な独裁に対して非難が集中している。しかし、問題の根源には、米帝をはじめとした帝国主義の中東、アフリカ諸国における侵略反革命戦争の殺戮と破壊、政治的混乱ということがある。中東植民地支配を軍事力で貫いてきた米帝、そして、この軍事外交に追随し、アフガニスタン戦争、イラク戦争に荷担し参戦してきた日帝も難民、移民の責任を負っている。この戦争責任問題を抜きにして、難民をめぐる対立を見ることはできない。
 一方で、ロシアとNATOとの間でウクライナをめぐる対立も激しくなっており、軍事的緊張が増している。

▼1章―2節 コロナ禍の中での階級闘争

 ドイツでは昨年九月二六日の連邦議会選挙で社会民主党(SPD)と緑の党が躍進し、SPDが第一党となった。メルケルの所属するキリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)は議席を減らした。極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」と左翼党が議席を減らした。SPDが組合員の支持を取り戻したこと、また、七月の大洪水以降に気候変動対策を重視する世論と運動が高まった中で、緑の党は得票率を増やした。
 総選挙後の連立協議の結果、SPD、緑の党、自由民主党(FDP)の三党は一一月二四日、連立政権を樹立することを合意した。前メルケル政権の財務相オラフ・ショルツ(SPD)が首相となり、一二月に新政権が発足した。三党の合意内容に基づいて、最低賃金の一二ユーロ(約一五五〇円)への引き上げや年金制度の維持が確認されている。気候変動対策については、メルケル政権の方針を八年前倒しして三〇年までに石炭火力発電を廃止する。ドイツでは、すでにメルケル政権において脱原発は確認されている。三〇年までに電力の80%を再生可能エネルギーにするとしている。さらに、核兵器禁止条約へのオブザーバー参加も合意事項となっている。
 EUの盟主であるドイツ帝国主義社民SPDを軸にしたショルツ政権は、ブルジョア民主主義=ブルジョア独裁の政権である。しかし、新自由主義が行き着いた格差と貧困、そして、気候変動とコロナ禍で明らかになった生命と生活の格差の極端な拡大に対する労働者人民の怒りと政治的選択に対して、ブルジョア政権もその政策を修正せざるをえない事態なのだ。
 世界各国で、コロナ感染拡大への対処としてのロックダウン、そして、ワクチン接種の推奨から、特定業種においてはワクチン接種の義務化がなされている。コロナ禍への対処ではあるが、国家権力による社会的な統制としてなされており、世界各地で、反対運動が起こってきた。
 欧州各国は昨年秋以降のコロナ感染の急拡大に対応して、再び店舗の閉鎖や外出禁止措置など規制が強化された。フランスでは、ワクチン接種済み、あるいはPCR検査陰性証明等に基づく「衛生パス」の携帯・提示義務を政府が決定した。フランスではワクチン義務化に対する抗議行動が起こっている。オランダでも規制強化への抗議デモが各地で起こっている。ベルギーでは三万五〇〇〇人規模のデモが行なわれた。
 コロナ感染対策として、人々の社会的な行為を制限し、とくに結集することを制限する。一人ひとりが識別される。感染防止のための政策とはいえ、国家権力は階級支配と一体であり、コロナ対策と称して人民の政治活動を制限する企図が常に貫かれているのである。労働者階級人民はコロナ対策への不満だけで立ち上がっているのではない。その根底には、コロナ感染前から存在する格差の拡大、貧困の深まりが、コロナ禍でさらに強まったことに対する怒りがある。
 米国では、一昨年ブラック・ライブズ・マター運動が、黒人差別への抗議から始まり、米帝国主義の階級支配、差別分断支配そのものを揺るがす一大運動に発展した。コロナ感染拡大状況の制約を破り、排外主義の頂点にいたドナルド・トランプを引きずり下ろす大きな力となった。しかし、この運動は決して議会選挙に集約されてしまったのではない。現代帝国主義の階級矛盾を糾弾し続ける運動として発展し続けている。
 さらに米国では、コロナ禍にありながら、昨年一月から一〇月までに二五八件のストライキが闘われ、数十万人の労働者がストライキに参加しているとみられる。工場労働者、炭鉱労働者、看護師など医療従事者、タクシー運転手、バス運転手とさまざまな職種の労働者が賃上げ、安全衛生環境を要求して立ち上がっている。それだけではなく、昨年一月から八月までに約三〇〇〇万人の労働者が仕事を辞めた。これは、経済格差、労働環境に対する怒りが、コロナ禍での離職として現われており、「非公式のゼネスト」と呼ばれている。
 FRBは米国経済をインフレ局面に入ったと捉えているが、その大きな要因の一つが労働力不足である。コロナ禍において、資本の側からの解雇の一方で、労働者の側からの離職も進み、資本の都合どおりには生産拡大できない事態となっているのだ。
 韓国では昨年一〇月二〇日、民主労総が実施したゼネラルストライキに五万人の労働者が決起した。ヤンギョンス委員長に対する事前弾圧を打ち破っての闘いだ。民主労総は「五人未満の事業場での差別・非正規の撤廃」「すべての労働者の組合活動権獲得」「産業転換期の雇用国家責任制度の導入」を掲げてストライキを闘った。この日のソウルでの集会には二万七〇〇〇人が参加し、全国一四カ所で取り組まれた集会には計八万人が参加している。
 一一月一三日の全国労働者大会に対しては、ソウル市が許可しなかった。これに対し民主労総は「集会禁止を撤回せよ」を掲げて立ち上がった。一三日当日にはソウル市内の街頭に二万人が結集して労働者大会を闘い抜いている。
 フィリピン人民は、支配階級の利害を代表して残忍な支配を続けるドゥテルテ政権と対決して、民族民主主義革命を前進させようと闘っている。ドゥテルテは、軍隊、警察、民間準軍事組織を動員して、政権に反対する人々の殺害を繰り返してきた。本年五月の大統領選には、長女サラが副大統領に立候補し、ドゥテルテ自身も国会議員に立候補して、政権への関与、隠然とした支配を続けようとしている。革命勢力を先頭としたフィリピン人民は、抑圧、搾取と国家テロリズム、そして、その背後の日・米帝国主義に対して断固闘い抜いている。帝国主義のアジア支配を打ち破っていかなくてはならない。
 昨秋一〇月三一日から英国グラスゴーで開催されていた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)は日程を延長して一一月一三日まで論議が続けられた。「気候正義」の行動は全世界で二〇〇以上が計画され、グラスゴーでは五万人の大規模デモが取り組まれた。石炭火力発電を続ける日本の岸田の演説に対しては、環境NGOからの批判として「化石賞」が贈られた。
 COP26は「上昇を1・5度に抑える努力を追求する」という文言で「グラスゴー気候合意」をどうにかまとめた。現在にあっても「懐疑論」がある中で、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出によって地球温暖化が進んだという冷厳な事実は、はっきりと確認された。莫大な排出を続ける帝国主義諸国や中国、インドの妥協の末の結論であるとはいえ、「1・5度」という数値を合意文書に明記せざるをえなかったことは、気候変動に対する世界的な運動の結果であるだろう。
 しかし、石炭火力の廃止は合意されず、「段階的削減」という曖昧な妥協がなされている。仏帝マクロンは、脱石炭火力を「根拠」にして原発回帰を鮮明に打ち出している。資本の利害が貫かれる社会であるかぎり、化石燃料の廃止に積極的に進もうとすることはない。労働者人民の要求―闘いなくして、地球温暖化―気候変動を阻止することはできない。反資本主義闘争の重要な環として地球温暖化阻止をさらに闘っていかなくてはならない。

▼1章―3節 東アジア情勢
◆1章―3節―1項 日帝の利害ゆえの「軍事的緊張」

 米バイデン政権の対中国包囲はインド太平洋戦略として進められており、QUAD、AUKUSに顕著なように東アジアが政治軍事的に焦点化してきた。米政府、米軍、米国議会が台湾問題を執拗に強調し、今にも中国が台湾に軍事侵攻するかのような論議を作りだしてきた。台湾―蔡英文政権も、米帝など支援を強める諸国との関係を強化することで、習近平政権を牽制してきた。英帝、仏帝、独帝など欧州各国もアジア太平洋に艦船を展開しており、日帝は、米・豪をはじめ、欧州諸国の軍隊との合同演習も進めてきた。
 朝鮮半島においては、昨年五月の米韓首脳会談において、南北板門店宣言、米朝シンガポール宣言に基づいて朝鮮民主主義人民共和国との対話を進めることが確認された。韓国―文在寅政権が進めようとしてきた南北対話から、さらに米朝対話という道筋が確認された。これに対して、共和国側は対決も準備するが対話も準備する、という方針を明らかにしている。南北間では昨年一〇月、南北通信連絡線が再開されている。一二月二日の韓国と中国の高官会議では、韓国が提案した終戦宣言方針を中国が支持している。
 日帝の、共和国、中国への敵対的外交姿勢、韓国に対しても排外主義的対応をもって、東アジアの政治的対立、軍事的緊張を高めてきたが、東アジア情勢全体は冷静に和平をさぐる方向に進んできたのだ。文在寅政権はブルジョア政権ではあるが、韓国民衆の「ろうそく革命」の中から生み出されてきた政権ゆえに、このような南北の自主的平和統一の努力が続けられているのだ。

◆1章―3節―2項 ミャンマー、クーデターと武装抵抗

 ミャンマー国軍は昨年二月一日、クーデターによって国民民主連盟(NLD)から政権を奪取した。ミャンマー人民は全土で抗議行動を展開して抵抗したが、国軍は弾圧、虐殺をくり返してきた。NLDは、ミャンマー政府に抵抗を続けてきた少数民族の組織とも連携しつつ、武装闘争を続けてきている。日本をはじめ、外国に在留するミャンマー人民は本国の抵抗闘争と結合しつつ、国軍の武力弾圧への抗議を続けている。
 われわれは、日帝資本がミャンマーに対して経済開発、企業進出の利害からのみ関わり、国軍に対して結びつきを強めようとする動きを絶対に許してはならない。昨年一一月、日本財団会長の笹川陽平はミャンマーを訪問し、ミンアウンフラインなど軍事政権代表と会談している。「米国人解放」の働きかけだとしているが、軍事政権を「政権」として認めるような帝国主義の言動そのものを許してはならない。抵抗するミャンマー人民と連帯して闘おう。

◆1章―3節―3項 中国―習近平政権の戦略

 中国共産党は昨年一一月、第一九期中央委員会第六回全体会議(六中全会)を開催し、「党の一〇〇年奮闘の重大な成果と歴史的経験に関する決議」を採択した。毛沢東と鄧小平の「歴史決議」に次ぐ第三の「歴史決議」と報道された。六中全会閉幕時のコミュニケも、「毛沢東同志」と「鄧小平同志」と並べて「習近平同志を代表とする党人」が「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」をつくり出した、と賛美した。
 中国共産党は、党創立一〇〇年の二〇二一年に「小康社会」を完成させると位置付けてきた。そして、三五年までに「社会主義現代化強国」を基本的に実現し、建国一〇〇年の四九年には「世界一流の現代化強国」を建設するとしている。
 「歴史決議」という言葉が強調されているが、農村から都市を包囲する革命戦略の確定(毛沢東)や文化大革命に決着をつけて改革開放路線に転換(鄧小平)と並ぶような、共産党としての路線の歴史的転換を提示したものではない。中国共産党への権力の集中、そして党の統制の下での市場経済化、資本主義化という矛盾に満ちた現代中国の現状について、その矛盾から課題をえぐり出すのではなく、まるで「成果」のごとく自己肯定するものにほかならない。
 習近平自身は、「二期一〇年」という最高指導部の世代交代の慣例を破り、本年の党大会で総書記として三期目をめざし、異例の長期政権を実現しようとしている。
 習指導部は「三五年までに社会主義現代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに社会主義現代化強国を築く」とした上で、「全党・全軍・全人民は習近平同志を核心とする党中央のもとで団結しなければならない」と確認しているのだ。
 習政権は、社会主義現代化の政策を進めるための外交政策として、「一帯一路」構想とアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立を進めてきた。この構想の下に中央アジア、東南アジア、南アジア諸国のインフラ整備のために巨額の開発融資を行なってきた。ただし、経済規模の小さい諸国が中国への債務返済が困難になり、債務と引き換えに港湾などのインフラの権益を中国に渡す事態が生じており、「債務の罠」と批判されている。
 一方では、米バイデン政権が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への復帰に消極的であることを見すえながら、習政権はTPPへの加盟申請を行なった。ASEAN、日本を含めたアジア太平洋の経済圏への積極的関与の意思を明らかにしている。ただし、これに対しては、台湾もTPP加盟を申請している。
 習政権は、「国内」的には、ウイグル、香港での弾圧を強めてきたことは事実だ。二〇年六月には香港国家安全維持法制定を強行し、昨二一年には香港選挙制度の改悪をもって「愛国者による統治」を執行するとしている。この全面的な弾圧によって、香港の労働者、学生の民主化運動はことごとく破壊された。ウイグルは、地域全体が収容所にされているというべき状況であり、ウイグル人民の民族性を剥奪する弾圧が強まっている。
 社会主義―共産主義をめざすのであれば、ウイグルの未来はウイグル人民が決定し、台湾の未来は台湾人民が決定する、そういう自己決定権が正しく保障された社会主義こそがまず実現されなければならないだろう。「中華民族」の革命という論理が何を抑圧しているのか、ということが決定的に問われなければならない。
 現代中国において、この矛盾を強いられているのは、ウイグル人民、チベット人民をはじめとする諸民族であり、また、農民工をはじめとする下層の労働者、農民だ。統制と弾圧で「社会主義」が実現されるわけでは決してない。この矛盾を打ち破って未来を切り拓くのは、労働者階級人民、被抑圧民族の解放闘争である。

●第2章 国内情勢
▼2章―1節 コロナ禍で鮮明になった自公政権の腐敗と失政
◆2章―1節―1項 菅強権政治の崩壊

 菅政権は、コロナ対策で失政を続け、昨夏のコロナ感染拡大の只中で東京オリンピック・パラリンピックを強行して厳しく批判された。菅政権下の衆参補選、地方選挙では敗退が続いた。日本学術会議の任命拒否に顕著な強権政治をとったが、失政への批判を押し潰せるものではなかった。労働者人民の反対、批判によって、菅はその強権が貫けなくなった。入管法改悪を断念し、「黒い雨」裁判の上告を断念した。重要土地規制法案反対運動、オリパラ反対運動も、菅政権の強権発動と対決として闘い抜かれた。
 追い詰められた菅は九月総裁選を辞退した。安倍政権の腐敗をそのまま継承した菅政権は、その強権政治ゆえに自壊した。本当は、菅ではなく、自民党そのものが限界に達していたのだ。そのまま総選挙に突入すれば、自民党の大敗北に至る状況での自民党総裁選で、「選挙の顔」は岸田にすげ替えられた。

◆2章―1節―2項 日本経済の衰退とアベノミクス

 異次元の金融緩和、財政出動、成長戦略を三本柱とするアベノミクスは、安倍、菅政権を通して続けられてきた。岸田文雄は、当初は新自由主義政策を批判する言説をばらまきながら、安倍の支持を受けて自民党総裁になるや、当面はアベノミクスを継続すると言い出した。
 しかし、このアベノミクスなる日帝ブルジョアジー延命の政策の下で、景気回復が起こせぬまま、国債を買い入れて国の借金を増やし、株価を引き上げることが、日銀の業務のようになっている。成長戦略どころではない。この異次元金融緩和と財政出動を続けてきた結果、日本資本主義は急激に衰えてきている。
 日本の労働者の賃金は、アベノミクスの下で急激に悪化してきた。二〇二〇年の日本の平均賃金は、経済協力開発機構(OECD)三五カ国の中で二二位、三万八五一四ドル(四二四万円)。一位の米国は約七六三万円。問題は、三〇年間の賃金の伸び方だ。一九九〇年と比較して、米国は47・7%増、英国は44・2%増、ドイツは33・7%増、フランスは31・0%増であるのに、日本は4・4%増でしかない。具体的な金額だと、同期間に米国の平均賃金が約二四七万円増えているのに、日本は一八万円しか増えていないのだ。
 この期間に、日本の労働法制の改悪が進み、労働者の非正規化が急激に進んできた。とりわけ、アベノミクスの下で、資本の延命のための経済政策が進められる一方で、格差の拡大、貧困の深刻化に対する政策はないがしろにされてきた。金融緩和と拡張的財政政策が、日本の製造業の技術革新さえ弱めてしまったのだ。

◆2章―1節―3項 コロナ禍で露呈した格差と貧困

 コロナ禍の急激な経済縮小が、これまで拡大してきた格差をより一層厳しいものにした。ぎりぎりのところで生活を維持してきた下層労働者が失職しても、失業保険も給付されず、住居まで失う事態となった。昨年五月時点での「実質的失業者」は一三〇万人という推計もある。
 安倍晋三は「雇用が増えている」と強弁し続けたが、正規雇用が非正規雇用に置き換えられてきた中での数値である。根本的には、非正規雇用の拡大によって、賃金が抑制され、雇用保障も失業給付も不十分な労働者が増え続けてきたのだ。安倍政権以降に破壊されてきた雇用状況の中で、コロナ・パンデミックが襲いかかったのだ。
 非正規労働者の中でも、女性労働者にコロナ禍の貧困の矛盾が集中している。コロナ禍で自殺者が増加しているが、女性の自殺者が際立って増えている。コロナ禍の経済矛盾は、非正規の下層労働者に、とりわけ女性労働者に集中しているのだ。
 さらに現在に至っては、ウーバーイーツのように「個人事業主」を配達員として組織する形態の下でのギグワーカーが、より厳しい労働条件におかれている。
 非正規化が進むことによって、労働組合の組織率も下がってきた。連合は自分たちの「雇用確保」を口実に、賃上げを怠ってきた。政権に擦り寄る形の労使協調が続けられてきた。このような労働運動のあり方が、「不況」で「賃金は上がらないもの」というあきらめを生み出してきた。日本の労働運動の後退状況が、格差を拡大する資本の攻撃を許している。
 コロナ禍の今こそ、階級的労働運動の再建が強く問われている。最低賃金闘争をはじめ、非正規労働者、下層労働者の賃上げを実現し、労働者階級としての権利を奪還する闘いを進めていかなくてはならない。

▼2章―2節 岸田政権批判
◆2章―2節―1項 急激に右傾化した岸田


 岸田は、「新しい資本主義」を掲げて新自由主義を批判し、自著では改憲に消極的な姿勢を示して「ハト派」=「宏池会」のイメージを振り撒いて自民党総裁に就任した。しかし、総裁選過程では安倍、麻生、甘利、さらには対抗馬の高市の支持を取り付けた。
 安倍晋三の側は、原発政策、改憲攻撃を継承する者でなければ、自民党総裁として認めない立場だった。加えて、自らの疑獄事件隠蔽のためには、この追及をなすであろう河野ではなく、岸田か高市が総裁になることが必要だった。
 岸田は、安倍の支持を取り付けて自民党総裁―総理大臣となった上での所信表明演説では、改憲を位置づけた。かつ、総裁選決選投票で高市の票上乗せで勝利した岸田は、高市を自民党の政調会長に据え、自民党の路線にその極右的内容が貫かれることを認めたのである。

◆2章―2節―2項 日帝の軍事戦略

 岸田政権は、安倍・菅政権が主導してきた日米軍事同盟を基軸とした「インド太平洋」戦略をそのまま引き継いでいる。
米―バイデン政権が対中国包囲を軸にインド太平洋への軍備強化を位置付け直したことを奇貨として、日帝―岸田政権は中国、共和国への敵視を強めて、軍備強化を図っている。そもそも「インド太平洋」戦略は安倍晋三が主張した概念である。バイデンが対中国シフトでこの戦略を採用したのではあるが、日帝からみれば、米軍の戦力再編が西太平洋に向かうように牽引してきたというべきだろう。
 昨秋の陸上自衛隊総演習は、菅政権の下で決定されたものだが、岸田政権に移行しても継続された。九月一五日から一一月まで強行された陸自大演習は、全国から陸上自衛官一〇万人を動員して、戦争を想定して兵員、兵站を実際に移動させる訓練だった。大規模な演習でありながら、富士総合火力訓練のような派手さがないため、ブルジョア・マスコミではほとんど報道されなかった。しかし、現実に琉球弧、九州地方を前線にした戦争を想定し、必要な人員と物資を輸送する、そのために民間の鉄道、車輌、船舶を総動員する訓練がなされたのだ。
 現在の戦争法と日米ガイドラインの下では、米軍が戦闘、自衛隊が後方支援と決まっているわけではない。日本にとっての「武力攻撃事態」あるいは「存立危機事態」と政府が認定すれば、自衛隊が戦闘を主導することになる。麻生や安倍は、台湾海峡での武力衝突が起これば「存立危機事態」として対処する意向を主張している。けっして「米国の戦争に日本が巻き込まれて」ではなく、日本が主導的に対中国で軍事行動を準備しようとしているのだ。
 岸田政権は「敵基地攻撃能力」の保持を主張している。防衛費に関しては「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」としている。さらに、防衛計画の大綱の見直しを進め、中期防衛力整備計画も策定し直そうとしている。「敵基地攻撃能力」保有ということ自体が憲法と矛盾しており、完全な実質改憲への踏み出しである。この矛盾を反動的に乗り越えるために、自公政権は、維新、国民民主をも巻き込んで明文改憲の攻撃を進めようとしている。

◆2章―2節―3項 経済安全保障

 米帝が世界規模での経済・政治・軍事をめぐる主導権の護持として戦略を立てているのに対して、日帝支配階級、とくに極右部分では軍事部門のみを軸にした議論が中心になってきた。しかし、コロナ禍のグローバル・サプライ・チェーンの破綻などの事態に直面した日帝ブルジョアジーは「経済安全保障」を主張している。
 昨年四月に経済同友会が提起した「強靭な経済安全保障の確立に向けて」なる文書は、この日帝ブルジョアジーの意思を表明している。「自由貿易主義的グローバリゼーションの終焉」という主張がなされている。資本輸出の拡大によって地球全体に帝国主義資本の再生産構造を拡大するだけでは、資本の利潤を確保し続けることができないという主張だ。コロナ禍の国境閉鎖が突然起こった中で、災害や戦乱という危機的状況でも資本の拡大再生産をいかに維持するのかという危機感から発している。
 政治的には米中対立という状況を見据えつつ、日帝資本の立場としては、米欧との協力の下に米中の決定的対立(戦乱)を回避することを主張している。しかしながら、「国の存立基盤」は「自由で開かれたインド太平洋」の実現だというのである。
 リスクに対処するための情報収集能力の強化、サプライ・チェーンの強靭化、サイバーセキュリティの強化を重視する。さらには、防衛技術の研究開発をタブー視するなということを学術界に対して主張する。軍事に転用可能性の高い技術=機微技術の育成と管理を主張し、「秘密特許制度」にまで言及している。まさに、日帝資本の利害と国家戦略を一致させることを企図したものである。
 岸田政権は、日帝資本の意を受けて、経済安全保障を位置づけ、小林鷹之を経済安全保障担当大臣に任命した。岸田自身は甘利とともに、自民党の「新国際秩序創造戦略本部」でその準備を進めてきていた。同本部は二〇年六月四日に立ち上げられており、本部長岸田と座長甘利が、経済安全保障を自民党の政策として重視してきた。二〇年一二月と二一年五月に提言を公表。資源・エネルギーの確保、海洋開発、食糧安全保障、サプライ・チェーンの多元化・強靭化、土地取引など一六分野に及んでいる。提言を受け、各省庁は本年の通常国会に「経済安全保障一括推進法案」を提出すべく準備を進めている。岸田が首相になって後は、同本部は「経済安全保障対策本部」に名称変更し、高市が本部長に就任した。

●第3章 「グローバリゼーションの終焉」と共産主義運動の課題
▼3章―1節 現代資本主義の危機
◆3章―1節―1項 軍事同盟の強化


 すでに二年におよぶコロナ禍の中で、現代資本主義が直面している危機の第一は、「民主主義の敵」を鮮明にした軍事同盟の強化でしか延命できないという事態だ。
 世界規模のコロナ禍という危機に対する対策ゆえに、各国政府は莫大な財政支出をもって対応してきた。しかし、〇八年恐慌以来の財政出動、金融緩和が続けられてきた中で、さらに極端な負担となっている。医療も経済も危機に直面していながら、各国は対立し続けている。〇八年恐慌を現代資本主義世界全体の危機として意思一致し、G20を形成して全世界の財を動員して世界的危機に対処する、という論議で全世界をまとめ上げたような力はない。米中対立という構図で現代世界が捉えられているとおり、現代帝国主義は、共通の敵に向かって軍事同盟の一致をはかるという手法でしか、国際政治を動かすことができなくなっている。
 米バイデン政権の政治手法は、かつての冷戦の構図で世界を捉え、「民主主義と専制主義の対立」なるイデオロギーで同盟国を動員していく、あるいは、新たな軍事同盟関係を構築していくことでしかない。
 敵対関係を際立たせる形での同盟関係強化、各国の軍事費増強は進むが、アフガニスタン敗退の事態を全世界が見てしまった後では、米軍主導の戦争に積極的に参戦をすることに展望などない。

◆3章―1節―2項 「経済安全保障」という思想

 危機の第二は、新自由主義グローバリゼーションの矛盾が極端な形で露呈したがゆえに、なりふり構わず自国帝国主義の防衛を主張し始めたことだ。
 コロナ禍という世界規模の危機は、新自由主義グローバリゼーションの進展が産み出した格差を、極端なまでに拡大した。検査の不平等、治療の不平等、ワクチンの不平等。人々の生死を分かつような深刻な格差だ。コロナ禍の経済への波及は経済全分野の危機として進んだのではなく、観光業、飲食業、旅客輸送など直接影響を受ける分野に偏って深刻な落ち込みをもたらした。日本をはじめ各国政府は、これまでの経済対策と同様に金融緩和政策、拡張的財政政策をもって、景気浮揚を図ることに執心している。
 しかし、ブルジョアジーが本当に恐れているのは、一時的な経済の落ち込みではない。コロナ感染拡大そのものと、各国・地域ごとの社会的統制が、グローバリゼーションとして進展した資本の再生産構造と合致しなくなる事態こそが、重大な危機になるということである。
 「経済安全保障」という考え方は、コロナ禍で新自由主義グローバリゼーションに対応した生産体系に、新たな対策を講じて克服しようとするものである。ブルジョアジーどもの有事対応なのだ。
 安倍政権が戦争法制定過程で盛んにわめいてきたような「武力攻撃事態」や「存立危機事態」だけが「有事」なのではない。コロナ感染拡大に対する厳格な国境封鎖という「有事」に直面して、国境を越えた生産体系をいかに維持するのかが、新たな難問となっているのだ。
 新自由主義政策の下でアウトソーシング、グローバル・アウトソーシングは、国内産業において労働者を搾取するにとどまらず、国外の企業を傘下におき、国際的規模で搾取を拡大する。現代の金融資本は躊躇なく国境を越えている。しかし、コロナ感染拡大に対する規制、統制は、各国ごとに政治的になされるのであり、改めて国境が鮮明に現われた。「経済安全保障」ということが、資本の側からも政府の側からも浮上し、主張され始めたのだ。
 経済同友会の主張に明らかなように、生き残ろうとするブルジョアジーにとって「経済安全保障」とは、保護主義の正当化であり、科学技術の排他的独占、生産体系の国内化、域内化である。さらに言えば、軍事同盟と結び付いた同盟諸国内化という事態を産み出すものだ。

▼3章―2節 階級闘争の困難な状況を打ち破る闘い

 コロナ禍の中で、多くの人々が命を失い、生活を破壊されて、現代資本主義の限界、そしてその凶暴性がはっきりと現われてきた。
 新自由主義グローバリゼーションの拡大、つまり、独占資本の再生産を世界規模で拡大し続け、同時に軍事力を拡大強化することで世界支配を強めても、それだけでは現代資本主義の展望も延命もないことが明らかになった。コロナのような感染症によって、人間の社会的活動が寸断されれば、グローバル・サプライ・チェーンなどひとたまりもなく途切れてしまうということだ。独占資本の支配、帝国主義の強権的な政治軍事的支配も、その基礎、その動力は労働力である、人間の社会的活動なのである。この基礎が、つまり、労働者人民が命を繋ぎ、生活することができない状況では、資本の再生産などありえない、ということが鮮明になっている。
 軍事同盟強化に進み、経済安全保障を主張する現代資本主義が進む先にあるものは、分断と対立の激化である。排外主義を強めながら、国内を統合し、戦争準備が国家の利害だという主張が突出していくだろう。
 コロナ禍ゆえの行動制限、移動制限、国境の封鎖という状況は、労働者階級人民に対しても、階級闘争、革命運動に大きな困難を強いるものである。しかし、国内においても、国際関係においても、この困難を打ち破る闘いは続けられてきた。沖縄をはじめとする反基地闘争、反戦闘争は、帝国主義諸国の戦争準備と真っ向から対決する闘いである。階級的労働運動こそ、限界に達した帝国主義資本の新自由主義グローバリゼーションを根底から覆す質をもった闘いである。反原発闘争、気候変動に対する闘いが大きく広がってきたことも、現代資本主義の矛盾を本質的に批判し覆そうとする行動である。被抑圧人民・被差別大衆を軸にした反差別闘争こそが、侵略反革命戦争とともに激化する分断・差別を突き崩す闘いである。
 現代帝国主義が新自由主義グローバリゼーションの限界という大きな壁に突き当たっている事態を見すえ、今こそ階級闘争を前進させていかなくてはならない。帝国主義が新たな保護主義と排外主義に突き進む時代、戦争を叫び出した時代だからこそ、革命的祖国敗北主義を実践する反帝闘争を、共産主義運動を、再生させていかなくてはならない。困難な時代をともに闘い抜いていこうではないか。







   

 


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