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  ■世界情勢の新たな転換の特徴

 アメリカ発、世界恐慌の進展と21世紀初頭の世界編成の動向

 プロレタリア世界革命への道を切り拓こう

                                上杉信行





 ●一章 はじまった世界の危機的状況



 〇八年のアメリカ発の金融危機から始まった経済危機は、金融危機を越えて実体経済を直撃し、現在、世界恐慌の様相を示すに至っている。大幅な景気後退、巨大銀行(投資銀行、商業銀行)、ノンバンクの倒産など金融機関の破綻が相次ぎ、また多国籍企業化した全世界の自動車・電機・機械・鉄鋼など製造業の巨大独占資本は利益の縮小と大幅な赤字への転落に陥り、その他の産業部門でも資本の危機は深刻化している。大幅な景気後退、先進国の〇九年第一四半期経済成長率は、年換算で10%以上のマイナスとなるなど戦後かつてない状況が生み出されている。多国籍企業、独占資本は、過剰設備の廃棄、工場の閉鎖、集約を進め、労働者階級に対する首切り、賃金カットの大攻撃に打って出ている。八月現在、アメリカの失業率は10%に達しようとし、日本では5%以上に拡大している。EU諸国でもドイツ、フランスの基軸国のみでなく、スペインや中・東欧の周辺国の経済が崩壊し失業率は大幅に拡大している。進行する世界恐慌の下で企業の大リストラ、倒産が強行され、労働者階級は首切り、失業、非正規雇用の切り捨てによって、今、全世界では、何百万、何千万人が職を失い、街頭に投げ出されているのである。

 二十一世紀の初頭、〇八年から始まった世界恐慌は、いまだ幕が開いたばかりである。重要なことは、現在の世界恐慌は、過去の七四、七五恐慌の繰り返しでは決して無いということだ。七四、七五恐慌は、ともあれ、米帝、資本の中心国としての展開によってアメリカ・スタンダードの全世界への押しつけの貫徹、グローバル資本主義の循環、蓄積の世界体制の構築によって克服された。しかし現在の恐慌は、この確立されたグローバル資本主義の循環と蓄積の世界体制下における恐慌なのであって、帝国主義と資本にとってこの危機は深く、新たな延命の道を見いだすのは極めて困難である。

 中心国として戦後体制、戦後資本主義体制を編成してきた米帝国主義は、六〇年代の政治的、経済的危機(ベトナム敗戦と貿易競争での敗北)、その結果としての「ドル暴落―ドル危機」に直面し、石油資源の急騰を契機にして七四、七五世界恐慌を迎えた。しかし米帝、資本は、この時、固定相場の変動相場への移行と新自由主義政策の推進によって、具体的には対ソ連戦争政策、軍拡の促進と労働者階級の生活賃金の破壊による搾取の強化によって、生き延びた。そして、米帝、資本は九〇年代「ソ連崩壊」を絶好の条件として、梃にして、ME合理化のレベルを越えたIT革命(ソフトの開発)を成功させ、新興企業群(マイクロ・ソフト、インテルほか)を生み出し、独自の産業として確立していった。また金融力による世界の資本主義の編成を新たな国家戦略に確定し「世界の金融の自由化」に乗りだしたのであった。そして、ブッシュ(子)政権は、クリントン政権までの基盤の上に、資本(金融資本、多国籍企業)の利害を全面に押し出して、極端な一国覇権主義の世界政策を強め、「対テロ戦争」と「グローバリゼーションの促進」「新自由主義政策」を進めたのである。そしてグローバルな世界循環の経済システムを作り出したのであった。現在の世界恐慌は、明らかに、米帝、資本による、七四、七五恐慌を克服した、レーガン、クリントン、ブッシュ各政権が作り出した、この世界体制の破綻を意味している。米帝と資本にとって九〇年代から〇〇年代へと続けられてきた、世界再編成、新たなグローバル的貿易と蓄積の世界体制はここにきて一挙に問題が爆発し、破綻の様相を示しているのである。七四、七五恐慌時を上回る今回の事態は、中心国米帝の世界編成能力の危機を示すと共に、より以上には、過去の様な、危機克服の道を見い出し得ないという点において、米帝のみならず、全世界の帝国主義と多国籍資本、グローバル展開する現在の資本主義にリンクする(国内の労働者、農民、人民の犠牲を顧みず、資本主義に必死にしがみつく)中国などの国家権力の危機に直結する。直面する危機は明らかに、戦後最大のものであると言うことができるのだ。もちろん、しかし、二十一世紀の今回の世界恐慌が単なる景気循環によって克服されていくものでは決してないとしても、帝国主義、資本主義が自動的に崩壊するとか、ブロック化や帝間戦争によって危機が爆発するとかいうものでないことは明らかである。重要なことは帝国主義、資本主義の自動崩壊や帝国主義間戦争をうんぬんし、前提化することではなくして、共産主義者が全世界のプロレタリアート人民のたたかい、解放闘争の推進によって、初めて事態が打開できるものであることを鮮明にすることにある。労働者階級と被抑圧民族・人民が国際的に団結し実際の行動によって、帝国主義と多国籍資本に対決していくことにある。



 ▼1 政治的危機の進行と労働者階級、被抑圧人民の解放運動の前進


 〇九年を取り巻く情勢は世界恐慌の深化のみではない。政治、軍事の世界では中心国米帝の第三世界、旧植民地従属国に対する侵略戦争、軍事的な制圧と占領、統治の政策が、不屈の人民の抵抗闘争によって破綻に追い込まれていることだ。二十一世紀的な意味で、すなわちグローバル化された現在の世界システム下において、米帝国主義の軍事的限界が明確になってきていることである。すなわち米帝はブッシュ政権のこの八年間、不安定性を持ちつつも、単独行動主義を強めてきた。ここで重要であったことは、単に外交的にそうであったのではない。米帝は中心国としての世界で最大の圧倒的な軍事力を実際に発動し、全世界を揺さぶって一国覇権を実現してきたことだ。米帝・ブッシュ政権が掲げた「対テロ戦争」こそ、第三世界の民族解放闘争を制圧し、米帝的世界秩序を構築する基軸的政策であったのである。

 九〇年代米帝は、中・東欧の「社会主義圏」崩壊を契機にしたユーゴ内戦に介入し、ミロシェビッチ政権を崩壊させることによって、ユーゴの他の諸国を基本的にEU圏に組み込むことに成功した。NATOの拡大、EU圏の拡大を軍事力の発動によって貫徹したのだった。ここで中心国としての役割を果たした。二十一世紀の入っての「対テロ戦争」を掲げたイラク、アフガンへの侵略戦争は、しかし、イスラム人民の不屈の抵抗運動によって成功せず、現在、侵略と占領の政策が破綻の危機に追い込まれている状況にある。またイスラエルのパレスチナへの侵略、解放運動への武力攻撃と制圧の策動もパレスチナ人民の抵抗闘争の前に成功していない。米帝は中心国としての役割を果たし得ていない。

 何より重要なことは米帝国主義の「対テロ戦争」の最前線、イラクにおいて、米軍の侵略と占領、支配の破綻が明らかとなり、米軍が撤退に追い込まれつつある点だ。アメリカにおいては、〇九年一月、「イラク戦争の継続」を掲げる共和党政権が崩壊し、「イラク撤退」を掲げる民主党のオバマ政権が誕生する事態となっている。

 もちろん、これのみではない。政治の流動化が全世界で進行している。

 日本では自民党政権が崩壊し、民主党を軸にした政権が誕生しようとしている。先進国、帝国主義国で構成するG8は、もはや、世界政治、経済を決定する力を決定的に弱めており、そのヘゲモニーはG20に移行しつつあるといって過言でない。また、南米、中米においては、キューバが米州機構(OSA)に復帰したことやベネズエラのチャベス政権が成立したことが示す様に、民衆の反貧困、反新自由主義の解放運動を背景にして、反米左派政権が相次ぎ誕生した。これら政権は「緩やかな連合(ボリバル構想)」による米州地域共同体建設―自立経済建設の動きを強めている。イスラム圏にあっては、いわゆるアラブ穏健派といわれる諸国が石油、天然ガスの急騰によって膨大なドル外貨を蓄積し(もちろんこれは帝国主義国や途上国の石油文明の拡大を前提とするものであって、世界秩序の波乱を招くものではない)、一層、グローバル化した世界資本主義の不可欠の構成部分にのし上がっていく一方、これとは異なった道を進む、イスラム体制の復権を掲げるイランなどの急進派は国家を樹立し(七九イラン革命成立)、拡大させようとしている。イラク人民、アフガン人民の武装抵抗運動は明らかに、この間の世界のグローバル的循環と蓄積の世界秩序に反抗、反乱する性格を持って展開されている。また、イスラム人民の抵抗運動とイスラム国家の体制に関して見るならば、イランでは独裁体制ゆえに不断に政治的自由を求める民衆と政権の対立が不可避に激化しており、本質的にこの対立は深まっていかざるを得ないだろう。

 そして、二十一世紀の情勢を分析する上で欠かせない重要な要素として中国の資本主義的発展と国家的な存在感の高まりがある。中国は資本主義化路線を一層進めて、二〇一〇年にはGDPで日本(約五兆ドル)を抜いて世界の二位になるのは確実と言われている。これはこの間米帝・資本が進めたグローバル的資本主義体制に深く連結した結果である。中国は、明らかに、資本主義世界体制の不可欠の部分に成長してきたのである。米国債の最大の保有国となり、世界恐慌には四兆元の内需拡大策で対応し、経済成長を維持しようとしており、現在は一定成功している様に見える。輸出の大幅な低下による企業の倒産は拡大し、失業者も拡大している。国家財政の投入による内需拡大政策はインフレの危険を強めている。しかし、この間の成長は、労働者階級や農民、被抑圧民族の犠牲の上に強行されたことは明白だ。内部の階級対立、搾取と民族抑圧に対する人民の抵抗の激化は拡大の様相を呈している。国家官僚の支配強化、漢族による民族抑圧の深まり、侵略と支配と弾圧の正当化、資本主義の持ち込み政策の中で、一層、抑圧されるチベット族やウイグル族などの少数民族、被抑圧人民が民族自決権を掲げて、支配体制に対して反発し、反乱を強めている。また、進行する資本主義化の下に膨大に発生した労働者階級は、政治的自由の欠落のために、たんに、農民工のみならず、圧倒的部分が徹底した搾取の下に置かれており、労働者階級は抵抗運動に立ち上がっており、大規模な反乱は不可避となっている。

 世界恐慌を前にして帝国主義、資本家、資本主義を発展させることを基盤とする国家官僚たちは、膨大な国家財政(税金)を投入した内需の拡大政策や公的資金を投じた金融機関、独占企業の救済の政策にめり込んでいる。異様な低金利政策の導入や政府保証の乱発である。かれらが目指すところは、ただ、資本主義とそのシステムの防衛にある。重要なことは、現在の全世界の支配階級、支配集団が目指しているのは、決して、労働者階級の仕事を保証することになどあるのでは決してない。全世界で吹き荒れている解雇と賃金の低下に対して、これを前提にして微々たる「救済策」を打つにすぎない。実際、投入されている労働者対策の費用はその額において金融資本―独占資本の救済の費用に比べて極めて少ないのだ。労働者を搾取する資本の防衛のために、現在の支配階級、集団の政策があるのは明らかだ。グローバル化した世界資本主義に連結し、しがみついて体制を維持していこうとするのが帝国主義国の政権であり、アラブ穏健派の政権であり、中国などの国家官僚たちである。かれらは「対テロ戦争」「グローバル資本主義」「新自由主義」の政策で、本質的に結び付いており、共通の利害の下にある。こういう連中を打倒していくことによってしか、労働者階級は、事態を打開できない。もちろん未来を獲得できないのである。

 現代の共産主義者が明確にするべきものは、何よりも、労働者階級がたたかわない限り、帝国主義と資本は労働者階級への搾取の強化によって生き延びていくということだ。〇九年の世界情勢は確かに、「新自由主義の破綻」を明らかにしたということができるだろう。公的資金の投入、金融機関、独占企業の国有化(政府の最大の株主化)、内需の拡大、などの国独資政策が実行されている。労働者の救済対策などがアメリカを始め、EU、日本など各国で導入されている。しかし、ここを見て、ケインズ主義が評価されるとか社会民主主義が評価されるなどということはできない。グローバル化した資本主義下では一国主義的な政策はその効力を発揮することができないのは明らかだ。二十一世紀の世界では、保護主義的対立の激化や三〇年代型のブロック化は、現在の支配階級、体制の崩壊を意味する。実際、帝国主義や資本が生き延びていくには、直接的な資本間、国家間の凄まじい競争の激化、この競争を通して勝ち抜く以外にない。現在の資本の蓄積は、ここで、初めて可能となる。労働コストの引き下げの力の有無と国家の世界政策の確立の力の有無によって勝敗は決定する。敗北は資本の淘汰(企業の倒産)、国家の淘汰(国家の没落)に直結する。こういう弱肉強食の論理で事態が決定されていくのだ。この意味では新自由主義政策はグローバル資本主義とセットである(この中でも、特に労働者政策において)。労働者階級が国際的に団結し、帝国主義や資本に対抗するときにのみ、国家や資本に対して、政策の変更を強制させることができるのである。また労働者が団結し、たたかうことによって初めて、帝国主義、資本を乗り越えた社会を獲得することができるのである。労働者階級の国際的な団結の推進は二十一世紀の世界で、とくに重要な役割を果たすことは明らかだ。



 ●二章 21世紀初頭、世界情勢転換の諸特徴(七つの新たな事実)



 ▼1 グローバル資本主義の連関、蓄積構造の確立と崩壊、世界恐慌


 特徴の第一は、九〇年代から〇〇年代にかけて実現し、確立されていった、米帝、資本によるグローバリゼーションの推進、グローバル資本主義とでもいうべき資本主義の連関構造の、また蓄積構造という、独特の新たな世界資本主義のメカニズムが、今回、直接的に破綻し世界恐慌をもたらしたという点である。米帝、資本はソ連崩壊を決定的な契機にして、世界的な政治経済、軍事における中心国としての再度の確立を目指した。基本的には米金融業(金融資本)、情報通信産業、サービス産業、もちろん石油、軍事の伝統的産業、さらに一部自動車などの製造業の多国籍企業の利潤を確保するために、世界編成に乗り出した。九〇年代以降のクリントン、ブッシュの政権はともあれ、米国を唯一の超大国へと押し上げ、また世界資本主義の連関と発展のメカニズムを作り出したのであった。とくにブッシュ政権の八年間に世界システムは大きく確立していった。すなわち、経済面からの分析に焦点を当てれば、IT産業(情報・通信、ソフトなどの分野)を知的所有権の確保や世界標準の独占という手段を梃に確立し、多くの新興企業群を作り出すこと。さらに「金融の自由化」を全世界に強制することによって米国金融資本(狭い意味での投資銀行、商業銀行、保険などの金融グループ)の世界展開を実現し膨大な利益を確保すること。また国内では九〇年代ITブームを起こし、〇〇年にこれが崩壊するや低金利政策の下に住宅価格の上昇を前提化、構造化した信用拡大に誘導し、システム化させること、さらに金融工学の名の下に、あらゆるものを証券化し組み合わせ売買する、証券化商品を生み出し、これを金融取引の中心に押し上げ「無限の」信用拡大システムを作り上げること、そして世界的な金融の流れを米国・ウォール街を中心に作り出すこと、もちろん、石油産業や軍事産業、航空・宇宙産業、そこに農業(ここではバイオや薬品の産業も柱となる)などを入れて世界政策を展開することであった。そしてこれらの政策は基本的に貫徹されたのであった。この結果、とくにブッシュ政権が進めた極端な「グローバル化政策」、「新自由主義政策」は、一方では金融資本(金融経済にかかわる資本)の分野では、米帝の金融資本が膨大な利潤を獲得するシステムを生み出し、同時に、他方では実態経済に関わる分野では、製造業の資本(実態経済の中心)の間における、国際的な価格競争を一段と激化させる構造を生み出した。製造業では、利潤率は低下し、この間隙をぬって、グローバリゼーション、政策に連動した、低価格、低労働コストを競争の手段とする途上国諸国、すなわち、BRICs諸国などが、歴史的ともいえる、著しい資本主義的成長を遂げていく結果を生み出したのであった。ここに大きな特徴がある。

 また自動車や高級家電などの高額な耐久消費財や住宅関連資材は、米国民の金融ブーム、住宅ブームの下で大量に消費され、これを目指して日本、韓国、台湾、EUのドイツなど、全世界の多国籍企業が製品輸出を加速させていく構造が確立されたのであった。また、いわゆるマネーの流れから見れば日本やヨーロッパ、アジア、中東の全世界の企業や資産家、年金基金、貿易黒字を背景とした政府系資金などのあらゆる過剰化した資金が、アメリカに投資、投機され、アメリカの金融機関がこの資金を元手に、全世界でM&Aや先物取引などの金融業務によって利潤を挙げる金融システムが確立されたのである。この金融の技術基盤をなしたのがIT産業であった。

 しかしこのグローバルな資本主義の連関、拡大のメカニズムが根底から崩れている。今回の世界恐慌、また金融恐慌である。まず米国・総資本の三分の一を稼ぎ出していた米国金融業の投機的、ギャンブル的不安定性が一挙に顕在化したことだ。実態経済から切り離して異様な信用拡大を計ることそのものの矛盾が爆発したのだ。これは米帝、または米国資本にとって決定的な打撃となっていくことは間違いない。

 サブプライムローンの焦げ付きの発生によってこれを組み込んだ証券化商品の価格が暴落し、大手の銀行が債務不履行の瀬戸際まで追い詰められた。また債務を保証した信用保証会社が破産の縁に立たされた。そもそも投資銀行が開発した証券化商品は、あらゆるものを証券化の対象とてこれを組み合わせて商品として売り出すものであって、価値、価格は信用のみである。実態のリスクがことごとく不透明化される。それ故、格付け会社が大きな役割を持つ。しかしこの会社自体何等、公的機関を代表するものではない。実際には投資銀行と格付け会社が人的に癒着して、詐欺まがいの商品を大量に売り出していたのである。ここがアメリカ金融資本の動力であったのだ。実態経済から分離した信用拡大が永遠に続くことなど有り得ない。莫大な利益を誇った四大投資銀行は没落し、リーマンは破綻に追い込まれ、また他は買収されるか商業銀行に衣替えした。また恐慌という観点からすれば、自動車産業のビック・スリーの二社、GMとクライスラーが倒産したことである。連邦破産法十一条の適用である。ここで大量の解雇、賃金の切り下げが強行され、関連の部品メーカー、ディーラーなどが破産に追いやられた。何十万の人間が職を失うことになった。そもそも自動車産業は、米国経済にとって、現在は確かに、主軸の産業では無いとしても、生き残った数少ない製造業であり、多くの労働者を抱える点において、社会的衝撃は極めて大きいものがある。それ故、オバマ政権はなりふりかまわず、「国有化」の救済に走ったのである。しかし再建GMやクライスラーに企業的展望がある訳では一切ない。資本間競争の条件は何等変化していないのである。激しい合理化の嵐が吹き荒れるのは間違いない。アメリカの自動車販売は最高一千六百万台(〇七年実績)を記録しているが、もはや〇九年はその半分にすら達する見込みがないといわれている。政府の補助金でかろうじて需要が作られている現状である。バブルの恩恵とグローバル資本主義の蓄積の下での恩恵によって、「収入」を拡大させ、「収入」の拡大を前提にした借金(ローン)による消費、こういう米国の生活スタイルは完全に破綻せざるを得ない。作り上げた自動車文明、消費文明が根底から行きづまっているのだ。この消費に依存する世界経済のシステムも大きな行きづまりに直面しているのは当然なのである。

 また多くの労働者が首切り、解雇され、生活の危機に落とし込められている。日本のサラ金以上の高金利によって、サブプライムの低所得者は収奪され、揚げ句の果てに家を追い出されている。アフリカ系アメリカ人やヒスパニックなどの低所得者は一層過酷な生活に追い込められている。一方では、公的資金で救済された金融機関の経営陣が一億円以上のボーナスを平気で受け取るなど、高額所得者が優遇され、他方では、一般労働者、被抑圧人民の生活が踏みにじられて顧みられることのない社会、不平等が前提化された社会、支配のシステムがアメリカなのである。まさに貧困の大国である。大統領オバマも結局は、「市場経済が重要で効率的」などといいなし、アメリカの支配の根幹には一切手を触れないでいる。オバア政権の下で新自由主義が労働者に対して無慈悲に貫徹されているのだ。しかしこの支配が何時まで続くものではないだろう。実際は、人民の抵抗によって根幹は揺らいでいる。

 米帝、資本は世界恐慌に直面しても、この間の「グローバル化政策」、グローバル資本主義の循環と蓄積を目指す政策を変えるものではない。金融力による全世界の支配、あるいは製造業、サービス業における知的所有権や世界標準の確保をもってする「アンフェア」な競争、米帝、資本の生き残りをかけて「優位性」を前面に押し出して、利潤の確保につき進む以外にない。米国の総資本の意志を体現するオバマは、それ故に、少しばかりの手直しはしても、米帝が作り出した世界から手を引くことはない。



 ▼2 「対テロ戦争」の軍事的限界の露呈と民族解放闘争の前進


 その第二の特徴は米帝、ブッシュ政権による「対テロ戦争」が完全に行きづまり、イラクからの撤退に追い込められつつあることだ。二十一世紀の民族解放闘争に対して軍事的限界を露にしてきたという点である。中心国米帝の軍事面からの限界が歴史的に鮮明になってきたことだ。

 米帝が、イラク、アフガンで侵略戦争がイスラム抵抗勢力によって泥沼化し、膨大な戦費と多数の戦死者を出すことによって決定的に行きづまっているということだけに止まらず、明らかに中・南米の反米左派政権の誕生に対して過去のような謀略や暗殺によって介入することが出来ない事態が起こっている点である。

 イスラム共同体の破壊、資本主義の導入による極貧生活への落とし込め、またグローバリゼーションの象徴である「自由貿易協定」の押しつけによる、農業、工業の破壊、人民の極貧生活へのたたき込み、こういった米帝国主義、資本(全世界の帝国主義、多国籍企業)のこの二十年間の大攻勢に対して、イスラム人民や中・南米の人民は抵抗運動を強め、政府の樹立、国家の樹立に邁進しているのである。こういった第三世界の民族、民衆の解放運動はグローバル資本主義が拡大する世界で、明らかに、別の社会を求めて運動を強めていると見なければならない。この様なイスラム人民の武装抵抗運動の先端で米帝の軍事力が限界を見せていることは二十一世紀の世界史にとって極めて大きな意味があるのだ。米帝にとって、六〇年、七〇年代のベトナム侵略戦争の敗北と同様の、いやそれ以上の衝撃があるということだ。米帝、資本は、確かに、この間資本主義のグローバルな発展の新たな局面を作り出し、そこで資本主義的に利潤を確保する体系を確保してきた。しかし、それはたんに、経済力で作り出したと見ることはできない。つまり米帝・資本は軍事力を重大な梃、条件にして、その中で、経済システムを展開させ利潤を獲得していきたということだ。軍事力の保持と発動、第三世界への侵略、戦争と、対他帝国主義、対中国国家官僚集団やロシアの支配階級との対抗、制動を確保して、中心国として世界政策を展開してきたのだ。世界制覇の軍事的限界を明らかにしたイラクに対する侵略戦争と占領政策の失敗は、過去のベトナム侵略戦争の敗北による「ドル危機」を想起させる。ベトナム革命は中心国である米帝の位置をグラグラにした。六〇年代・七〇年代の当時は「中・ソ社会主義圏」に結び付くベトナム人民の民族解放闘争の勝利であったために、その衝撃は確かに極めて大きいものがあった。確かに、現在のイラク人民の反占領の抵抗運動は主に、イスラム急進派の勢力によって担われている。しかし、中・南米の民衆運動の力と合わせて見るとき、米帝・資本にとってこれら第三世界の民族解放運動、人民の抵抗運動は、決してベトナム敗戦に比較して軽いということは出来ないだろう。なぜならば、まず他の帝国主義や中国、ロシアなどの国家に対して、その制動力は著しく低下する。また米帝・資本が、グローバル化した資本主義体制下において、金融資本(金融業)による世界からの略奪・搾取を第一義の政策にするならば、米帝が危機的状況に追い込まれるのは必然である。金融業は製造業のような長期的、安定的な資本展開を一般的には措定しない。不安定で短期の展開、また不安定性を梃にすることによって利潤を稼ぐ業界なのである。軍事的な世界政策、また直接的には、軍事的危機の不断の顕在化が大きな収益の基盤となる。このため、米国、金融資本にとって、自国の軍事力の衰えは、利鞘を稼ぐ構造の喪失、製造業から搾取する体制の動揺に直結する。

 米軍の撤退はイラクの占領政策の失敗を意味し、中東、アラブのイスラム抵抗運動のみならず、中・南米の反米左派政権の生み出す民族解放運動、民主主義運動、さらにフィリピンを始めとする貧農による武装解放運動などに対する軍事的制動の弱体化にも連動していくのは不可避である。この意味ではイラク撤退は、米帝にとって、ベトナム撤退以上の意味を持つ。それ故、米国の総資本の利益を代表するオバマ政権は決して「対テロ戦争」を清算することはできない。実際「アフガン戦争」を軍事力を軸にして立て直し、あくまでも戦力を拡大して、戦争政策を押し進めることを表明している。米帝による第三世界への侵略戦争の発動は中心国としての存立の基盤を形成しているのである。全世界への軍事力による展開はドル基軸通貨体制を防衛することとも同義なのである。

 重要なことは、今、敗退する米軍を見据えて、全世界の労働者階級と被抑圧人民が反戦闘争をたたかうことだ。米軍のアフガンからの撤退、日本「本土」・沖縄・韓国などアジア米軍基地の撤去、パレスチナへの侵略を進めるイスラエルへの軍事支援打ち切り、フィリピンへの軍事顧問団の派遣やキューバはじめ中・南米諸国への一切の干渉反対などの米帝の軍事外交を停止させるために、共同してたたかうことである。反帝国主義を共通の課題にして統一してたたかうことである。



 ▼3 新たな循環、蓄積構造の下でのBRICsの台頭


 第三の特徴はグローバル資本主義の循環構造の下でBRICsなどの発展途上国が急激に経済成長し、資本主義国としての力を付けてきていることである。とくに中国が資本主義国家として独自の発展を遂げて世界を決定付ける基軸国的位置を確立しつつあることだ。これらの諸国が二十一世紀の帝国主義世界体制、世界資本主義の一角に担い手として登場したことであり、世界情勢の分析に占める位置は、極めて大きくなっている。もはや、これら諸国の分析、世界的な連関構造の把握を抜いては、トータルな現代世界の分析は出来ない。とくにこの中でも、もちろん、過去においてNIESやASEANなどの途上国諸国が資本主義化して経済成長を遂げたのは確かである。ASEANなどの資本主義化は、多国籍企業の搾取、金融資本の収奪の激化のために極めて大きな労働者人民の犠牲を伴っていた。しかもその発展は常に先進帝国主義国の資本に都合の良い部分的な偏った部門での工業化でしか無かった。しかしこの間のBRICsの台頭に示されるものは、「貿易と投資の自由」「金融の自由」を徹底的に進めたグローバル資本主義の進展下における「資本主義化」であったがために、一定の社会的基盤を有する国では、コスト競争力を根拠にして急激な経済成長が可能となったということである。実際中国では、この二十年間九〇年代には11%、〇〇年代には〇八年までに17%の成長を遂げたのである。インドでも〇〇年代急激な成長を記録している。もちろんここでは帝国主義国の資本の搾取、金融資本の収奪が無かったわけではない。労働者階級は極めて無権利の低賃金を強制されていた。しかしここでは急速に資本蓄積が実現されたのである。中国は中級品、低級品を生産する「世界の工場」として、インドはアメリカのIT産業、金融業のアウト・ソーシングの場として、成長を遂げた。中国が膨大な貿易黒字を計上し、アメリカ国債の最大の保有国となったのはその表れである。もちろん経済的な発展によって中国に中心国が移動するとか米帝と中国国家権力の世界共同支配が出現するとかというものではない。中国自身、その経済力において、先端技術を伴う多国籍企業、独占資本を構築しているわけではないし、韓国のサムスンの様な世界企業を今後、形成できるとは限らない。世界恐慌下にあっても、中国は7から8%の経済成長を維持している。しかしともあれ、中国とインドを合わせて、二十数億人(世界の人口の半数)が、グローバル資本主義の下に抱摂される時代状況が生まれているのだ。ロシアに関してはその経済成長は、資源バブルに乗ったものであることが現在明らかになっている。資本主義的成長の基盤は弱い。



 ▼4 EU諸国、ユーロ経済圏の後退と危機の進行


 第四の特徴は、EU諸国、ユーロ経済圏において、今回の世界恐慌が直接的に大きな打撃となっており、米国、日本などの先進帝国主義国と同様の事態に追い込まれていることだ。それはこの間のEU―ユーロの政治経済圏の形成というものが確かに、一つのブロックの形成の意味を持つものであったとしても、あくまでグローバル化した世界資本主義の循環―蓄積の中でのエリア形成の意味しか持っていなかったことだ。つまり現代の帝国主義にとって金融資本の展開、世界循環と多国籍資本の世界的な相互参入の実態が体制存立の条件を成しているということがあらためて、明確になったことだ。アメリカへの最大の投資元がEU圏の過剰化した資金であったこと、また証券化商品の最大の購入先がEUの銀行であった。それ故、今回の金融危機が直接的に、EUの金融機関の危機に直結した。また米国の大幅な景気後退は、EU内の多国籍企業に大きな打撃を与えた。

 グローバル資本主義下においては、EU―ユーロ政治経済ブロックというものがユーロ圏の相対的独自の循環構造を持っているわけではない。ドルに代わるユーロ、EUへ中心国の移動などという方向は、現実的には進行しないのは明らかだ。現代帝国主義、現代資本主義にあっては、過剰資本の形成―利潤率の低下、また生産力の拡大と飽和化の圧力が凄まじい。アウタルキー(自給自足)型の経済圏は金融資本や独占資本の利害を貫こうとする限りにおいては成立しない。

 以下は労働者人民の抵抗運動であり、われわれ共産主義者はプロレタリア世界革命の完遂のために、二十一世紀の過渡期世界の実相を明確化してたたかうことが任務である。紙面の都合で簡単に触れる。



 ▼5 帝国主義、資本の侵略と支配に抵抗するイスラム運動の拡大


 第五の特徴は、イスラム圏のイスラム主義を掲げた抵抗運動が、歴史的趨勢的に拡大し帝国主義、資本と対立する構造が形成されてきたことだ。もちろんイスラム急進派は国家権力を取った場合、多くの場合政治的自由を禁止しており、プロレタリア革命派に対する弾圧で臨むことが多い。また独裁体制は内部的な階級、階層、部族、民族、宗教など諸集団対立を激化させる。また明確な経済建設の路線がないことは明らかである。



 ▼6 中南米における反米左派政権の歴史的拡大


 第六の特徴は、中南米で反米左派政権が歴史的趨勢的に形成され、明確な反グローバリゼーション、反新自由主義の地域ブロックを形成し始めいていることだ。とりわけグローバル資本主義の一つの軸を成す「自由貿易協定」による米帝、資本による農業の破壊と自国産業の破壊に反対した経済建設を目指していることだ。またベネズエラやボリビアでは米帝、多国籍資本による「石油、鉱山」の植民地的収奪に対して「国有化」を手段として国内経済の建設、民衆の生活の向上が進められている。中南米においては過去、米帝、多国籍資本が軍事政権と結び付き、極端な新自由主義政策が採られ、多くの民衆は徹底した搾取の下に置かれその零落は凄まじいものであった。現在でもグローバリズムに結び付いて利権に預かろうとする一部の富める階層が存在し、圧倒的な貧困層との階級対立を激化させている。米国と自由貿易協定を結んだメキシコは、「南米南部共同市場」の建設の方向に流れている。またキューバはベネズエラのチャベス大統領の米州ボリバル代替構想に参加し復権を果たしている。ここでは、民主主義運動による政権の交替などの特徴をもっている。

 またフィリピン、ネパール、インドなどにおいて貧農を基盤とする民族解放―土地革命を掲げる運動も粘りづよくたたかわれている。



 ▼7 帝国主義国における抵抗運動の拡大


 第七の特徴は帝国主義国、発展した資本主義国で、新自由主義政策によって生存の危機に立たされる、労働者階級の多くの部分、とりわけ非正規化され、しずめにされて、徹底した搾取の下に追い込められた労働者が反乱を開始したと言う事だ。また被抑圧人民の反撃が趨勢的に拡大していることである。いうまでもなくグローバル化した現代の資本主義の下にあっては、資本間競争は激化し、資本は「労働コスト」の切り下げを最大の武器にして利潤獲得をはかり延命を策す。労働者の非正規化はこの中の基軸の攻撃だ。労働者の抵抗がない限り非正規労働者の割合は二割、三割のレベルを越えて五割や七割、それ以上に拡大していく事もあり得るのだ。実際日本では三人に一人が、韓国では二人に一人が非正規化されるという徹底した搾取の体系が確立されてきた。

 また労働形態だけでなく失業、生活破壊の進行は、支配階級による戦争政策(「対テロ戦争」)への労働者の動員の基盤を成熟させる。現在の米帝によるイラク、アフガンの侵略戦争の担い手である兵士は、圧倒的部分が生活危機を伴う労働者なのである。また他国への侵略を正当化する排外主義的国民統合が進められる。米軍五千人以上がイラクで戦死した。労働者がぼろ雑巾のように使い捨てられている。日本でも大量の失業が、戦争待望―排外主義への流れを助長させるのは必死である。政府、資本家は一切、失業や生活破壊の責任を取らない。労働者に対する犠牲の押し付けだけなのである。

 全世界でイラク反戦闘争が起こり、米軍のイラク撤退の大きな要因となった。また移民労働者の大規模な暴動(フランス)、デモ(アメリカ)、また労働運動でもヨーロッパ、アメリカ、韓国、そして日本でも確実な運動が形成されている。また全世界の労働者の連帯活動も進んでいる。国際的な反戦闘争、労働運動を構築することによってたたかいの前進が可能であることを情勢は示している。

 現代の共産主義者は、「対テロ戦争」、「グローバリゼーション」、「新自由主義」を掲げて、全世界の労働者階級、被抑圧民族、人民からの搾取と収奪によって生き延び、肥え太っていこうとする帝国主義と多国籍企業に対して、あくまで、抵抗運動を貫き労働者階級と人民の全世界的な規模における団結、連帯を進め、この攻撃を打ち破っていくのでなければならない。

 

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