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   安倍政権の領土拡張主義と対決しよう




 昨年十二月の衆議院選挙の結果、安倍右翼反動政権が誕生した。釣魚諸島(日本名・尖閣諸島)や独島(日本名・竹島)をめぐる領土問題において、安倍政権が民主党政権よりもさらに強硬な態度をとり、排外主義煽動を強化してくることは必至である。断固とした反撃を組織していくことを呼びかける。


 ●1章 安倍右翼反動政権の登場と領土問題

 安倍の領土問題をめぐる態度は、領土拡張主義と排外主義に貫かれたものであり、かつての日本帝国主義のアジア植民地支配と侵略戦争の事実の歪曲・正当化と結合したものである。釣魚諸島をめぐって安倍政権は、「領土問題は存在しない」という問答無用の態度をとり、野田政権による国有化を継承するだけではなく、総選挙公約として「尖閣諸島への公務員の常駐」など日本による実効支配の強化を掲げてきた。そして、中国との軍事的衝突に備えて、宮古・八重山諸島への自衛隊の配備を推進し、アメリカ政府に釣魚諸島が日米安保の適用対象地域であることの再確認を求めてきた。独島をめぐっても、島根県が制定した二月二十二日の「竹島の日」に政府主催式典を開催することを掲げるなど、独島のふたたびの略奪に向けた策動を強化しようとしてきた。そして、これらの領土問題を利用してオスプレイの沖縄・日本への配備の承認を迫り、集団的自衛権行使の合憲化や憲法改悪による国防軍の創設に向けて労働者人民の排外主義的組織化を推進しようとしている。独島をめぐっては、われわれの最新の見解を『戦旗』一四〇二号(二〇一二年十月五日)・一四〇三号(二〇一二年十月二十日)に掲載した。釣魚諸島をめぐっては、われわれの最初の見解を『戦旗』一三五九号(二〇一〇年十月二十日号)に掲載している。本論文では、釣魚諸島に焦点をあててあらためて見解を提起していきたい。

 ▼@ 領有権問題の顕在化と日中両国のタナ上げ合意

 釣魚諸島の領有権をめぐる対立が顕在化したのは、七〇年を前後する時期であった。アジア・太平洋戦争の戦後処理の過程で、釣魚諸島は沖縄とともにアメリカの施政権下に置かれた。六〇年代末に釣魚諸島周辺海域にぼう大な量の石油資源が埋蔵されていることが明らかになり、そのことが領有権をめぐる対立を一挙に顕在化させた。そして、七一年六月十七日に締結された沖縄返還協定において、日米両国政府が沖縄とともに釣魚諸島の施政権を日本に「返還」することで合意したことは、中国・台湾の激しい反発を生みだした。七一年十二月三十日に中華人民共和国政府は外交部声明を公表、日本政府も七二年三月八日に「尖閣諸島の領有権についての基本見解」を公表し、それぞれが釣魚諸島の領有権を主張するに至った。また、台湾も七一年六月十一日の声明で領有権を主張した。なお、米軍政下にあった七〇年九月十七日に当時の琉球政府も声明を公表しているが、内容的には日本政府の「基本見解」とほぼ同じであった。
 このようななかで、七二年の日中国交正常化と七八年の日中平和友好条約の締結にあたって、中国政府は釣魚諸島の領有権問題の棚上げを提案し、日本政府もまたこれに同意した。当時の中国副首相のケ小平は、七八年十月二十日に東京の日本記者クラブで記者会見を行い、「国交正常化のさい、双方はこれ(釣魚諸島問題)に触れないと約束した。今回、平和友好条約交渉のさいも同じくこの問題に触れないことで一致した」と明らかにした。そして、「こういう問題は一時タナ上げしても構わないと思う。十年タナ上げしても構わない。われわれの世代の人間は知恵がたりない。われわれのこの話し合いはまとまらないが、次の世代はわれわれよりもっと知恵があろう。その時はみんなが受け入れられるいい解決方法を見いだせるだろう」と述べた。以降の約四十年間に釣魚諸島とその周辺海域ではいくつかの事件が発生したが、日本政府の対応は抑制的なものであった。例えば二〇〇八年六月に台湾の遊漁船「聨合号」と海上保安庁の巡視船「こしき」が衝突し、「聨合号」が沈没した際には、日本政府はこれを海難事故として処理し、双方の船長を業務上過失往来危険罪の容疑で書類送検しただけで、台湾側に賠償金まで支払ったのである。

 ▼A 誰が対立を激化させたのか

 日本政府の方針が大きく転換したのは、二〇一〇年九月七日に発生した釣魚諸島周辺海域での中国漁船と海上保安庁の巡視船の衝突事件への対応をめぐってであった。民主党―菅政権(当時)は、海難事故として処理することができたにもかかわらず、中国漁船の船長を逮捕し、起訴しようとするきわめて強硬な態度をとった。そればかりか、「釣魚諸島をめぐって領有権問題は存在しない」と問答無用ともいうべき態度をとり、日中国交正常化の過程での釣魚諸島の領有権問題の棚上げという政府間合意の存在そのものを公然と否定する国会答弁書を閣議決定した。これに対して中国政府は激しく抗議し、日中関係は一挙に緊迫化していった。
 このような中で昨年四月十六日、石原都知事(当時)が中国との対立をさらに煽りたて、日本政府に対して釣魚諸島の実効支配の強化を迫るために、東京都による釣魚諸島の購入をぶちあげた。これに対抗する形で、当時の野田政権は胡錦濤中国国家主席からの警告を無視し、九月十一日に釣魚諸島の魚釣島・南小島・北小島の三島を二十億五千万円で地権者から購入し、国有化を強行した。これに対して中国政府は激しく抗議し、中国国内では中国への全面的な侵略戦争の突破口となった柳条湖事件が勃発した九月十八日を頂点に、全国百十都市以上で日本政府に抗議する巨大なデモが発生した。
 このような経過から明らかなように、釣魚諸島の領有権をめぐる日中両国の対立が一挙に激化したことの主要な責任は、明確に日本政府の側にある。国交正常化過程での棚上げ合意の存在を否定し、問答無用とばかりに実効支配の強化をはかろうとする日本政府の態度は、中国政府との一切の対話の道を絶ち切り、武力対立にまで行き着きかねないものである。野田首相(当時)は昨年七月二十六日の衆議院本会議で、「わが国の領土、領海で不法行為が発生した場合は、必要に応じて自衛隊を用いることを含め、政府全体で毅然と対応する」と言い放った。このような日本政府の動向に対して、中国が警戒心を高めることは当然である。
 他方において、二〇一一年の対中国貿易は日本の全貿易額の23%に達し、輸出においても輸入においても中国は日本の最大の貿易相手国となっている。また日本の多国籍資本による中国への直接投資もなお高い水準を維持している。中国との対立がさらに深まること、まして武力衝突にまで至ることは日本資本主義に深刻な打撃を与えるものとなる。事実、昨年九月の釣魚諸島国有化に抗議するデモが中国全土に拡大した過程では、日中貿易は一挙に落ち込み、いくつもの日系企業の工場が操業を停止し、中国からの撤退を検討する日系企業が続出した。安倍政権としては、日米同盟を基軸として中国への軍事的包囲と圧力を強化しつつ、当面は中国との経済関係の決定的な破綻を回避するという道をとらざるをえない。とりわけ、今年夏の参議院選挙に向けて安倍政権は「デフレ脱却・経済の再生」を最優先させていこうとしており、釣魚諸島への公務員の常駐などは、当面見送ろうとしている。
 しかし、釣魚諸島をめぐる現在の日中両国の緊張のもとで、いつ偶発的な軍事的衝突が発生し、日中両国の武力行使に至っても不思議ではない状況になりつつある。釣魚諸島周辺では、中国海軍のフリゲート艦や監視船、海上保安庁の巡視艇や海上自衛隊の護衛艦が展開し、日本が設定している防空識別圏への中国の偵察機の進入と自衛隊戦闘機の緊急発進という事態がくり返されている。一月三十日には、中国のフリゲート艦が日本の護衛艦に射撃管制用レーダー照射を行なったと日本政府が非難し、中国政府がこれを否定するという事態も発生した。偶発的な軍事的衝突の危険性、日中両国の戦争に至る危険性が高まってきているのだ。


 ●2章 日帝の釣日本帝国主義の釣魚諸島の略奪を許さない

 釣魚諸島の領有権をめぐる日本と中国・台湾の対立は、日本帝国主義が日清戦争に乗じて釣魚諸島を略奪したばかりか、戦後においてもこの釣魚諸島の略奪を正当化し、現在に至るまで実効支配を継続してきたことに最大の根拠がある。

 ▼@ 日清戦争に乗じた釣魚諸島の略奪

 一八六八年に成立した明治政府は、日本を植民地化しようとした欧米の帝国主義列強に対して、日本を帝国主義列強の一角とすることによって対抗しようとした。国内的には、資本主義の急速な発展と近代的な軍備の増強、対外的にはアジア諸国への侵略と領土拡張政策を推進した。明治政府は、成立直後の一八七四年に台湾出兵・武力侵攻を強行し、一八七九年の琉球処分をもって琉球を強制的に併合した。朝鮮に対しては一八七五年の「江華島事件」を利用して武力で威嚇し、翌七六年には不平等条約である「日朝修好条規」の締結を強制した。そして、日本帝国主義は一八九四年の日清戦争、〇四年の日露戦争の勝利を経て一九一〇年に韓国を併合、中国・東アジアにおける全面的な侵略戦争へと向かっていったのである。
 この過程で明治政府は、清国との戦争に備えるという軍事目的から、一八八五年に初めて釣魚諸島に着目し、日本領とすることを検討した。しかし、欧米諸国に植民地化されつつあったとは言え、東アジアに君臨してきた大国である清国と決定的な対立に至ることを恐れ、明治政府は釣魚諸島の領有をいったん断念した。このような明治政府にとって、釣魚諸島を略奪するための絶好の機会がその九年後に訪れる。一八九四年に開始された日清戦争において日本が勝利し、翌九五年四月の下関講和条約において、中国から台湾・澎湖諸島・遼東半島を割譲させた。明治政府が釣魚諸島の領有と国標の建設を閣議決定したのは、日清戦争における日本の勝利が確定的になった後の一八九五年一月であった。まさに日清戦争の勝利に乗じて、奪いとったのである。日本政府の見解では、日清戦争と釣魚諸島の領有の閣議決定はたまたま時期が重なっただけであり、釣魚諸島は下関条約によって中国から割譲させた範囲には含まれていないのでサンフランシスコ講和条約によって日本が放棄した領土ではないと主張してきた。しかし、下関条約によって公然と略奪することと、何の条約や協定によることもなくひそかに略奪することと何の違いがあると言うのか。一八九五年の明治政府による釣魚諸島領有の閣議決定が、日本による韓国の強制併合から中国・アジアへの全面的な侵略戦争に至る大きな流れのなかにあったことは明らかなのだ。このような大きな流れから切り離し、釣魚諸島だけは違うのだなどという主張には、何の説得力もありはしない。中国がこのような釣魚諸島の略奪について、一九四五年に至る中国への侵略戦争と一体のものだとみなし、非難することは当然なのだ。われわれは、この日本帝国主義による釣魚諸島の略奪と現在に至る実効支配を絶対に許さない。
 日本政府がこのような釣魚諸島の略奪を正当化してきた論理こそ、いわゆる「無主地先占の法理」であった。ここで言う「無主地」とは、誰も住んでいない土地だけではなく、多くの人々が住んでいても警察・軍隊や行政機関による国家の実効的支配が及んでいない土地を含むものである。ヨーロッパ諸国によって植民地化される以前のアフリカやアジア・オセアニア・アメリカの多くの地域がそのような土地であった。「無主地先占の法理」とは、このような「無主地」については先に支配した国のものになるというものである。それは、十五世紀にはじまるヨーロッパの強国による植民地の獲得を正当化する論理として形成されたものであり、帝国主義の時代に国際法として確定されていったものである。この「無主地先占の法理」にもとづき、北アメリカでは入植したイギリス人によってアメリカ先住民の土地が略奪され、オーストラリアでは先住民アボリジニの土地が略奪されていった。同じような事態が世界各地でくり広げられたのだ。そこでは、侵略され支配される人々、被抑圧民族の権利などまったく考慮されてはいない。まさに「強盗の論理」そのものなのだ。日本は歴史的にも現在的にも、この「強盗の論理」を適用して釣魚諸島の略奪を正当化してきたのである。

 ▼A 釣魚諸島は「日本固有の領土」ではない

 近代国家の領土概念からすれば、明や清の時代において釣魚諸島がどの国の領土であったのかを明確に言うことは困難である。前近代の東アジアには、明や清などの中国の王朝を中心とした冊封体制(さくほうたいせい)と呼ばれる独特の支配秩序が存在した。冊封体制に組み込まれなかったのは、東アジア・南アジアでは日本とインドなど少数の国だけであった。この冊封体制に組み込まれた国は、形式的には中国の属国とされ、中国に朝貢使を派遣し、中国からは皇帝の代替わりのたびに冊封使が派遣された。当時、独立国家として存在した琉球王国もまた、冊封体制に組み込まれていた。
 この冊封体制のもとでは、明確に朝鮮領・琉球領などとされたところ以外は、すべて中国に帰属することになる。明・清の時代、釣魚諸島は琉球から中国に頻繁に派遣された朝貢使、中国から琉球に派遣された冊封使の航海にあたっての標識島として活用されてきた。しかし、当時の琉球王国は無人島である釣魚諸島を琉球領として明確にしようとはしなかった。冊封体制のもとでは、中国からすればこのような土地は中国に帰属することになる。しかし、それは近代国家の領土概念とは大きく異なるものであって、現代における領有権の根拠に直結するものではない。近代国家の領土概念からすれば、明・清の時代の釣魚諸島は、中国と琉球のどちらに帰属するのかあいまいな位置にあったと言える。
 しかし、はっきりとしていることは、室町幕府にせよ徳川幕府にせよ、日本は釣魚諸島とは何のかかわりもなく、釣魚諸島の帰属問題とはまったく無関係な位置にあったということである。日本政府は、その「基本見解」において釣魚諸島が琉球弧の一部であり、日本の「固有の領土」だと言う。しかし、釣魚諸島はユーラシア大陸の大陸棚の東の端に位置し、琉球弧とは深さ二千メートルの琉球海溝によって隔てられており、地理的には琉球弧の一部では決してない。そして、歴史的にも日本が「固有の領土」だと主張する根拠は存在しないのである。明治政府がこのような歴史的事実を無視し、釣魚諸島の領有を一方的に決定したこと、そして現在にあっても日本政府が「固有の領土」論をもってこの略奪を正当化していることは断じて許されないのだ。
 釣魚諸島をめぐる日本・中国・台湾の対立には、以上のような日本による略奪と実効支配の継続という歴史的根拠に加えて、資源と漁場をめぐる国家間の領有権争いという性格が新たにつけ加わってきた。一九六八年および一九七〇年に国連が実施した海洋調査において、東中国海の大陸棚にイラクの埋蔵量に匹敵する大量の石油が埋蔵されている可能性が報告された。釣魚諸島の領有は、その周辺の領海や排他的経済水域において、豊富な天然資源を優先的に開発することを可能とする。これをきっかけにして、釣魚諸島の領有権問題が一挙に顕在化していった。また、釣魚諸島周辺海域は、中国・台湾・沖縄の漁民が操業する豊かな漁場でもある。われわれは、日本帝国主義がこれらの資源や漁場を排他的に支配しようとすることに断固として反対する。


 ●3章 日帝足下労働者人民の基本的な立場

 このような釣魚諸島の領有権をめぐる対立について、われわれの基礎的な立場は、民族や国境によって労働者人民が分断され、対立させられることに反対し、日本・沖縄・中国・台湾の労働者人民の国際的な連帯を促進していくことにある。それでは、現在の帝国主義の時代にあって、労働者人民の民族と国境をこえた連帯は、いかにして実現されるのか。日本のような帝国主義抑圧民族(内部)の労働者人民にとっては、自国帝国主義による侵略や略奪と実践的に闘うこと、そして他民族の抑圧を徹底して批判し、被抑圧民族の自己決定権を支持することが決定的に重要なのだ。

 ▼@ 日帝は釣魚諸島略奪を謝罪し、領有権を放棄せよ

 釣魚諸島をめぐっては第一に、日清戦争に乗じた日本帝国主義による釣魚諸島の略奪を徹底して批判し、領有権を放棄させるために闘うことにある。日本政府は、これまでアジア植民地支配と侵略戦争の歴史を歪曲・正当化し、日本軍性奴隷制度による被害女性たちや強制連行の犠牲者に対して国家としての真摯な謝罪と賠償を行なってはこなかった。そしていま、安倍政権は領土拡張主義にもとづいて釣魚諸島の実効支配を強化し、宮古・八重山諸島への自衛隊の配備など武力をもってでも釣魚諸島を防衛する態勢を強化していこうとしている。それは東中国海における戦争の危険を高めるもので、沖縄に対する差別軍事支配のいっそうの強化と結合したものである。さらに安倍政権は、かつてのアジア植民地支配と侵略戦争の歴史の歪曲と正当化のために、一九九三年の河野談話や一九九五年の村山談話を否定し、八月十五日の靖国神社公式参拝の強行までもくろんでいる。こんなことを絶対に許すことはできない。
 釣魚諸島や独島の領有権問題は、中国・台湾・朝鮮をはじめとした東アジアの人民の中において、日本がかつてのアジア植民地支配と侵略戦争の歴史を歪曲し正当化しようとすることの象徴という位置を持ち続けてきた。日本の労働者人民に問われていることは、かつてのアジア植民地支配と侵略戦争に人民の側から歴史的な決着をつけていくことにある。すなわち日本政府に対して略奪したすべての土地を放棄させていくこと、植民地支配と侵略戦争に国家としての謝罪と賠償を実行させていくこと、在日朝鮮人への差別と迫害を中止させ、その民族的諸権利を保障させていくことは、日本労働者人民の現在の重要な課題だ。日本政府に対して、釣魚諸島の略奪を謝罪し、領有権を放棄するように要求することは、この闘いの重要な一部である。それはまた、日本帝国主義による再びのアジア―全世界への侵略戦争を許さないための闘いでもある。われわれの国際主義は、プロレタリアートに国境はないというプロレタリアートの国際性に依拠することと反帝国主義という立場をしっかりと結合させたものでなければならないのだ。

 ▼A 沖縄への自衛隊大増派、日帝の戦争国家化阻止を

 第二には、沖縄への自衛隊の大増派―日本の戦争国家化に対して全力でたたかうことにある。安倍政権は、「日本の領土と主権を守れ」と中国への排外主義的反感を煽りたて、釣魚諸島問題を日本の戦争国家化に最大限利用しようとしている。そもそも日本国憲法は、国際紛争を解決する手段として武力による威嚇や武力の行使を禁止している。現在の在沖自衛隊の十倍の二万人規模の自衛隊を二〇二〇年までに沖縄本島や宮古・八重山諸島などに配備し、武力でもって釣魚諸島を防衛することが、憲法に違反することは明らかである。自衛隊大増派は、沖縄への差別軍事支配を一挙に強化し、米軍とならんで自衛隊が沖縄を支配するというまったく新しい局面をつくり出すことである。その下で、基地あるがゆえの沖縄の人民の苦しみが、さらにひどくなることは確実である。そのことはまた、中国との軍事的緊張を先鋭化させ、日中戦争の危険性をさらに高めていくことになる。
 安倍政権は、大増派を推進しつつ、釣魚諸島問題を日米軍事同盟の強化と日本の戦争国家化に最大限利用しようとしている。安倍政権は政権成立直後から、アメリカ政府に対して「尖閣諸島が日米安保の適用対象地域」であることの再確認を求め、日中両国が軍事的に衝突した場合に米軍が出動することの確約を要求してきた。米帝―オバマ政権は、日中両国の釣魚諸島の領有権をめぐる対立には「二国間の問題」として関与しない態度を維持しつつ、釣魚諸島が日米安保の適用対象地域であることを明言してきた。オバマ政権は、日中間の対立を東アジア重視の新たな軍事戦略の推進のために利用し、東アジアにおける米軍のプレゼンス・戦争態勢の強化に活用していこうとしているのだ。このもとで、日米両政府は米軍の「抑止力」の維持を理由とした普天間基地の辺野古移設、オスプレイの配備を正当化してきたのである。それはまた、「中国の脅威」を理由として沖縄をはじめとした反戦反基地運動をおしつぶしていくという狙いに貫かれたものでもある。

 ▼B 激化する排外主義と対決せよ

 釣魚諸島問題をめぐって、日本国内の状況はきわめて深刻なものとなっている。すべてのマスコミが政府に同調し、何の批判的な検証もなしに「尖閣諸島は日本固有の領土だ」として、「領土と主権を守れ」と排外主義を煽りたててきた。そして、自民党・民主党・日本維新の会、さらには日本共産党、社民党まですべての議会内政党が、政府に同調してきた。そのもとで、圧倒的多数の日本の労働者人民が釣魚諸島は日本領であると信じこまされ、中国への反感と排外主義が深く浸透してきた。とりわけ、資本主義の危機と新自由主義政策のもとで、生存権すら奪われるような犠牲と苦悩を集中されてきた人々のなかから、やり場のない憤りと閉塞感のはけ口を中国への憎悪のなかに求め、排外主義にとらわれてくという事態が強まってきている。そして、日本維新の会や田母神を代表とする「頑張れ日本・全国行動委員会」などの極右勢力、在特会などの排外主義・差別者集団がここぞとばかりに勢力の拡大をはかろうとしている。
 このようななかで、釣魚諸島の領有権をめぐる排外主義煽動との闘いを回避すれば、反戦反基地運動をその基礎から掘り崩され、日本の戦争国家化へと労働者人民が総動員されていく危険性がますます高まっていく。確かに、日本国内において日本による釣魚諸島の略奪を批判し、領有権の放棄を要求する勢力は圧倒的な少数派である。しかし、日中間の対立が偶発的な軍事的衝突、日中間の戦争の勃発にまで行き着く危険性が高まるなかで、釣魚諸島問題を日本の戦争国家化に利用し、中国との対立を煽りたてるばかりの安倍政権への批判も不可避に広がっていくであろう。日中戦争に反対し、中国との対話による事態の平和的解決を求める声が強まっていく。また、中国との経済関係の破綻を恐れるブルジョアジーの一部が安倍政権から離反し、ブルジョアジー内の分裂が顕在化する可能性もある。
 われわれは、このようななかで反帝国際主義派として排外主義と対決していかねばならない。釣魚諸島をめぐる日中戦争に反対し、沖縄への自衛隊の大増派―日本の戦争国家化を阻止していくために奮闘しよう。

 ▼C アジア人民と連帯し反帝国際共同闘争の推進を

 第三に、以上のような東アジアにおける緊張の高まりのなかで、アジア人民への連帯と反帝国際共同闘争を全力で推進していくことである。東アジア諸国・地域の人民は、日本における安倍右翼反動政権の登場を強い警戒感をもって注視してきた。それは、安倍政権が、日本の戦争国家化を推進し、再び東アジアにおける軍事的脅威として登場しようとしているからである。植民地支配と侵略戦争の歴史の歪曲・正当化を許さず、日本の戦争国家化に反対すること、これは日本の労働者人民の課題であることにとどまらず、東アジアにおける労働者人民の連帯と反帝国際共同闘争の重要な課題なのだ。
 東アジアにおいては圧倒的に孤立しているのは、日本政府だ。排外主義にとらわれてきた日本の労働者人民は、東アジアの人民からする日本政府への批判に正面から向きあうことをもって自らの歴史認識を変革し、排外主義との闘いに立ちあがっていかなければならない。
 領土問題をめぐる日本国内での排外主義煽動と対決していくにあたって、アジア人民への連帯と反帝国際共同闘争に依拠し、まさに国際的な共同の闘いをもって排外主義を打ち破っていくことが決定的に重要になる。アジア共同行動(AWC)は三月初めに台湾において、台湾・韓国・日本・フィリピン・インドネシア・アメリカからの代表参加によって、CCB(キャンペーン調整委員会)を開催した。そこでは東アジアにおける戦争の危機が高まるなかで、帝国主義による新自由主義政策と戦争策動に反対すること、とりわけ東アジアからの米軍総撤収を要求し、安倍政権による植民地支配と侵略戦争の歴史の歪曲・正当化を許さず、日本の戦争国家化に反対することなどが決議された。そして、日本による釣魚諸島と独島の略奪を弾劾し、日本政府に対して領有権の放棄を要求することが東アジア・太平洋地域の人民の共通の意志として確認されたのだ。アジア人民への連帯と国際共同闘争を力として、安倍政権による排外主義煽動と全面的に対決していこう。

 ▼D これ以上事態を悪化させないために

 以上、釣魚諸島の領有権をめぐる日本の労働者人民の基本的態度を提起してきた。釣魚諸島の領有権をめぐる中国・台湾と日本の対立は、日本が釣魚諸島の略奪を謝罪し、領有権を放棄することによってしか根本的に解決することはできない。しかし、このことを安倍政権に迫り、排外主義的ナショナリズムの煽動に反撃しようとする勢力は、残念ながら圧倒的な少数派である。そのもとで、これ以上事態を悪化させないために、領有権をめぐる対立が存在するもとでも可能な当面の方策として、以下のことが実行されていくべきだと考える。
 その第一は、日本政府が「釣魚諸島をめぐって(中国との間で)領土問題は存在しない」という表明を撤回し、日中国交正常化過程での釣魚諸島の領有権問題を棚上げにするという両政府間の合意に立ち戻ることにある。日中間の対立がここまで激しくなった原因は、日本政府が釣魚諸島の国有化を強行したばかりか、「釣魚諸島をめぐって領土問題は存在しない」という問答無用というべき態度をとり、両政府間での領有権問題の棚上げという合意の存在そのものを否定したことにある。安倍政権がこの問答無用という態度を撤回しないかぎり、日中両政府間でのいかなる対話も成立しようがない。
 第二には、釣魚諸島の領有権をめぐっていかなる軍事的威嚇、軍事力発動をも行なわないことを日中両国政府が公式に表明することにある。そして、一切の軍事的挑発を中止し、釣魚諸島周辺から自国の軍隊をすべて撤退させることである。野田前首相は昨年八月の衆議院本会議で、釣魚諸島の実効支配を維持するために自衛隊を活用すると公言した。また防衛省は現在、二〇二〇年までに沖縄に配備する自衛隊を在沖米軍に匹敵する約二万人まで増強し、宮古・八重山諸島にまで配備しようとしている。そのことは、釣魚諸島をめぐる戦争の危機を高めるばかりか、在沖米軍とともに自衛隊が沖縄を支配するというまったく新しい状況をつくりだすものとなる。このような自衛隊の大増派計画は、ただちに中止されねばならない。
 第三には、日中両国政府が釣魚諸島周辺海域での資源・漁場の排他的占有を行なわないことを表明することにある。とりわけ、釣魚諸島周辺海域は中国・台湾・沖縄の漁民たちの共通の漁場となってきた。釣魚諸島周辺海域を漁場とする漁民たちにとって、共通する要求は自由で安全な操業の保障にある。日中両国政府は、これらの漁民たちの自由で安全な操業を保障しなければならない。ここにおいて、釣魚諸島を実効支配する日本政府の責任は重大である。日本政府がまず資源や漁場の排他的占有の意思がないことを表明しなければならない。そして、停止している新たな日中漁業協定の締結に向けた交渉が再開されていかねばならない。


 ●4章 中国のデモへの評価と中国共産党批判

 最後に、昨年九月の日本政府による釣魚諸島の国有化に抗議して発生した中国での巨大なデモの評価、また中国共産党に対する批判について提起しておきたい。
 昨年九月に発生した中国の百十都市以上のデモについて、中国共産党に指示された官製デモとのみ見ることはできない。そこに、中国の労働者人民の巨大な自然発生性が流入したことは明らかである。われわれがまず明確にしておかねばならないことは、中国の労働者人民が日本の釣魚諸島国有化に抗議し、日本による釣魚諸島の略奪の謝罪と領有権の放棄を要求することには歴史的な正当性があるということである。そしてまた、いくつかの都市では、デモの参加者の一部が「格差反対」という要求や毛沢東の肖像画を掲げて参加するなど、この巨大なデモにはケ小平以来の「改革・開放路線」=資本主義化のもとでの中国における格差の拡大、搾取と無権利状態など社会矛盾の深刻化を反映したさまざまな自然発生性が流入したことも明らかであった。また一部の日系企業では、賃上げなどの経済要求と日本による釣魚諸島の略奪・国有化に抗議するという政治要求を結合させ、労働者がストライキに立ちあがった。
 他方で昨年九月の中国のデモでは、排外主義的な民族主義や大国意識がさまざまな形であらわれた。日本に対する武力攻撃や核兵器の使用を要求するスローガンまで登場した。中国人民の歴史的に正当な要求をこのような排外主義的な民族主義や大国意識と結合させてきた主要な責任は、中国共産党にある。中国共産党は、急速な資本主義化にもとづく社会矛盾の激化と中国共産党からの労働者人民の離反に対して、民族主義や愛国主義をもって中国の労働者人民を統合しようとしてきた。かつての抗日民族解放闘争の過程では、民族主義や愛国主義は中国を植民地化しようとした帝国主義との闘いに広範な人民を結束させていく武器たりえた。しかし、現在の中国は急速な資本主義的発展をとげ、GNPの規模ではすでに日本を凌駕する世界第二位の経済大国である。また空母の保有など急速に軍備を増強し、南中国海での南沙諸島・西沙諸島の領有権をめぐってフィリピン・ベトナムなど周辺諸国とのさまざまな対立を生みだしてきた。そこには、中国の覇権主義・領土拡張主義の強まりを見てとることができる。現在の中国のような経済大国における民族主義や愛国主義は、容易にその内部から排外主義や大国意識を生みだしていく。この間の事態は、プロレタリア国際主義を放棄し、民族主義・愛国主義に解体してきた中国共産党の誤りが、あらためて明確になる事態でもあった。
 われわれが日本政府に対して、釣魚諸島の略奪の謝罪と領有権の放棄を要求するのは、このような現在の中国共産党や中国の支配層を支持するからではない。それはまず、かつての日本帝国主義のアジア植民地支配と侵略戦争に歴史的な決着をつけ、再びアジア・全世界において侵略戦争を発動することを許さないためである。そのことはまた、中国と日本の労働者人民の国際主義的な連帯のためであり、アジアにおける反帝国主義を基礎とした階級闘争の新たな結合のためにである。急速な資本主義的発展のもとで、中国社会ではますます社会矛盾が深まり、日系企業におけるストライキの続発など、中国労働者階級の「新しい目覚め」ともいうべき事態が進行している。その中から、必ずや中国社会主義の再生をめざす新たな階級闘争とその主体が形成されていくであろう。昨年九月の中国の巨大なデモには、深まる社会矛盾への労働者人民の怒りが流入し、かつての植民地支配と侵略戦争の歴史を歪曲・正当化する日本政府への怒りが広く内包されている。このような中国の労働者人民との連帯のためには、日本の闘う労働者人民が反帝国主義の立場に立ちきり、釣魚諸島の略奪の謝罪と領有権の放棄を揺らぐことなく要求していくことが不可欠なのだ。



 

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