共産主義者同盟(統一委員会)






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  ●1章 アベノミクスと労働者の貧困の拡大

  ◆1章―1節 全世界で拡大する貧困と新自由主義


 帝国主義・資本主義の危機の深まりはギリシアやスペインなどにみられるように金融危機にとどまらず国家財政危機として顕在化している。実体経済を破壊し労働条件の低下のみならず、労働者の苦闘によって実現されてきた福祉・医療・教育・住宅などの社会制度も破壊している。多国籍企業をはじめとする大資本は過剰資本を抱え込み、投機をとおした利益確保以外の道を選択することができなくなっている。全世界で貧困が拡大する一方、資本は貧しい人々の生活のために存在するのではなく、自らの利益を確保するためだけに存在することが、全世界の労働者・民衆の眼前で暴露され、労働者階級の真の敵が資本主義・帝国主義であることが、全世界の労働者民衆にとって明らかになりだしている。
 その結果、オキュパイ運動や米帝の裏庭と言われた中南米をはじめ全世界で労働者、民衆の反撃が開始され、様々な限界を持ちながらも現在とは異なる社会を目指すたたかいが開始されている。
 現代帝国主義にとって新自由主義は変更可能な政策ではなく、自らの本質そのものであり選択の余地のないものである。貧困を拡大し社会を荒廃させ、自らがよってたつ基盤そのものを崩壊させ自らの存立基盤を危うくさせたとしてもそれ以外に選択できない政策として存在している。現代の帝国主義は自らが作り出した社会すら維持できなくなっている。
 このような状況にもかかわらず現代帝国主義が相互の対立を抱えながら延命し続けているのは、軍事同盟などによって世界に張りめぐらされた巨大な暴力装置を保持しているからである。強搾取と強収奪、暴力支配の強化による貧困の拡大という帝国主義の醜悪な本質がますます鮮明になる中で、このような帝国主義を打倒するのは、真の敵は帝国主義であることを理解した国際的に団結した労働階級のたたかいだけである。

  ◆1章―2節 アベノミクスによる戦争国家化と貧困の拡大

 安倍政権もまた市場の確保をめぐる帝国主義間対立が激化する中で、大資本の強搾取と強収奪が不可避とする全世界の労働者・人民の反撃と抵抗を暴力的に鎮圧する体制の確立、全世界で戦争を遂行する戦争国家化を至上命題にしている。激化する危機の中で米帝、EU帝による市場獲得に向けた帝国主義間対立は激化し、それが不可避にもたらす労働者・人民の反撃を鎮圧する軍事体制の確立抜きに、この帝国主義間の市場争奪戦に参入することすらおぼつかないからである。そのために安倍政権は日米安保体制を強化し改憲によって集団的自衛権行使を実現し米軍と共に全世界で戦争を遂行する体制を構築し、帝国主義間対立の中で、自らの位置を確保しようとしている。
 安倍政権はこのような戦争国家化にむけた経済的基盤の確立としてアベノミクスを打ち出している。アベノミクスによる財政支出の拡大、金融緩和、成長戦略によって、円安が百円台まで進行し、株価が上昇し景気回復に向けて一定の成果があがっているかのごとき報道がおこなわれている。しかし利益を上げているのは自動車などの輸出産業だけである。労働者の七割を雇用する中小企業の利益は改善してもいない。安倍や麻生が資本家団体に賃金引き上げを要請しても、賃金が上がったのは大企業の一部正規雇用労働者だけであり、中小企業労働者の賃金はあがったわけではない。非正規雇用労働者の賃金など上がる気配もない。それどころか円安によるガソリン代や輸入穀物の価格上昇などによって賃金引上げのない物価上昇がはじまっている。
 現在、進行している円安も株高も投機的、一時的なものであり、五月二十三日に一挙に千百四十三円も暴落したようにアベノミクスの何らかの成功のためには安倍首相自らが認めるように成長戦略の実現が鍵となる。GDPの六割をしめる個人消費の活性化が大きな要素であり、賃金引き上げによる消費の拡大が要となる。成長戦略第二弾として設備投資年七十兆円、農産物輸出一兆円、農家の所得を今後十年で倍増などのアドバルーンを上げても、大多数をしめる中小企業労働者、非正規雇用労働者の賃金引き上げがなければ経済成長など実現しようがない。しかし大資本をはじめとする経営者団体は四百六十兆円という内部留保をため込みながら、世界経済の先行き不安などを口実に、賃金引き上げは利益確保が確実に判断できる一年後という主張を繰り返している。中小企業労働者や非正規雇用労働者の賃金引き上げの余地はない。労働者の賃金が上がらなければ成長戦略の実現などありえないことは明らかである。最近ではマスコミなどでも、そのような論調が増えている。安倍政権が経済成長のためになしうる現実的な政策は経営者団体に賃上げを要請することだけではなく、厚生労働大臣が決定できる最低賃金を二〇一〇年の雇用戦略対話における「できる限り早期に全国最低八百円、二〇二〇年までに全国平均一千円をめざす」という政労使合意の実行である。最低賃金が全国最低八百円になれば当然のことながら賃金引き上げの大きな圧力となる。
 経済成長が実現されなければ、賃金引き上げなき物価上昇、九百九十一兆円と言われる「国の借金」の増大、消費増税をはじめとする増税、医療・住宅・教育や社会保障切り捨てなどに結果し、労働者・民衆の生活は破壊され貧困が拡大していくことになる。仮に経済成長が実現してもそれは大資本の利益により多く取り込まれ、労働者にはわずかばかり配分されるだけである。いずれにしても貧困は拡大するだけである。
 安倍政権の真の狙いは、景気回復キャンペーンを梃子に、参議院での改憲派議員三分の二以上の確保、来年四月の消費税の8%への増税、TPP参加、原発再稼動を目論み一挙に改憲と戦争ができる国へと再編することである。アベノミクスの「経済成長優先」などは「戦争国家化」を覆い隠すものでしかない。

  ◆1章―3節 最低賃金の影響を受ける労働者の増大

 貧困の拡大がとまらない。非正規雇用労働者が全労働者の35・2%(二〇一一年、岩手、福島、宮城の三県を除く)をしめ、九三年には年収二百万以下の低賃金労働者が七百三十五・九万人だったのが、二〇一〇年には一千四十五万人と約三百十万人も増えている。厚生労働省の「二〇一一年パートタイム労働者総合実態調査」でも、非正規雇用労働者の三割が「自らの収入で暮らす労働者」となっている。女性の非正規雇用労働者の36%が「自らの収入で暮らす労働者」であり、うち51%が単身生活者でもある。
 二〇〇九年度の「賃金センサス」「就業構造基本調査」などの調査からの推計では最低賃金以下で働く労働者は、二〇〇九年度においては全労働者の2・6%、百三十二万人もいる。都道府県別では大阪、北海道、熊本、沖縄、佐賀、鹿児島、青森の順に高い。非正規雇用労働者の賃金分布では九州、北海道、東北などでは最低賃金レベルの分布が最大数となっている。
 ローソン、セブンイレブン、ファミリーマートなどのコンビニの全国チェーンでは最低賃金が賃金の基準になっている。従来のビルメンテナンスや飲食業だけではなく、各種チェーン店を中心に様々な小売業で、非正規労働者を中心にして最低賃金を基準にした賃金が拡大している。
 最低賃金が賃金に影響を与えているケースも少なくない。郵政は日本で最大の約二十万人の非正規雇用労働者を雇用していると言われている。非正規労働者の時間給は平均で千四十円と言われているが、その計算式は(地域最賃+二十円)+加算給(基礎評価給+資格給・スキル評価)であり、最低賃金が大きな要素をしめている。
 大手の製造業や流通業で年功に応じたパート昇給制度が存在する場合、その最下層は多くの場合最低賃金と比較して設定されている。最低賃金があがればその影響は、最下層だけではなく、制度が適用されている非正規労働者全体に及ぶものとなる。
 正規雇用労働者も最低賃金の影響をうけている。トラックやタクシーなどでは最低賃金レベルで、それどころか長時間労働ゆえに最低賃金すら下回って働いている労働者も多くなっている。北海道などで最低賃金以下になっているタクシー労働者のケースがマスコミで報道されている。タクシー労働者の場合、最低賃金を下回っていなくても、賃金体系が最低賃金を基準にしている場合が大半である。年金を受給しながら、あるいは複合就労の一つとしてタクシー労働者となっているケースも増えている。その結果、長時間労働、サービス残業が横行し、労働者の過労死や脳・心疾患が多数生み出され、長時間労働・過労が原因の事故も増加している。
 トラック労働者でも二次、三次下請けの運転手の賃金レベルは、各地の最低賃金が基準になっているケースが大半である。
 地場(近距離・当日帰り)のトラック労働者の場合、賃金は時間ではなく、一日いくらという形で、大雑把に口頭で約束されることが多く、十二時間労働が労使の暗黙の了解となる。休憩時間は無く、荷待ちの時に適当に車の中で休憩というのが業界の常識である。その場合、一日の賃金は各地の最低賃金をベースに、仮に時給を一二年の全国加重平均七百四十九円とすると、それを基準に、(七百四十九円×八時間)+(七百四十九円×1・25×四時間)=九千七百三十七円を前提に、九千八百円とか、キリのいい一万円とかに設定される。しかし「実労働時間」という概念が労使ともども希薄なので、時間外労働や深夜労働が発生した場合、ほとんど計算されず、未払になる、あるいは最低賃金を下回るというケースが多々発生する。荷主も最低賃金を見越した運賃で発注し、使用者はサービス残業をさせないと会社の利益が出ないということも常態化している。
 長距離でも二次、三次の下請けになると賃金体系は、「基本給(最低賃金×百七十四時間)」+「固定残業、その他、残業賃金の計算基礎額に算入されないような食事や遠距離などの手当類(総計十五万円〜二十万円)」=三十五万円から四十万円前後とされる。週末の金曜日の夜か、土曜日にしか自宅に戻らず、残り五日はトラックで過ごすというような「改善基準告示」の拘束時間である月二百九十三時間をはるかに超える長時間労働でも残業賃金が未払にならないように設定されている。長距離の場合、地場(近距離)より総支給額は多いと思われるが、食費などの経費がかかるので実態は地場の場合とあまり変わらない。
 トラックやタクシーなどの労働者の場合、「世帯主労働者」「家計の主たる担い手」の中高年男性労働者が多いが、彼ら自身が自覚していないだけで、息子や娘のアルバイトよりも低い最低賃金で働いていることも珍しくない。
 それ以外でもIT業界などでの重層的下請け構造による長時間労働ゆえに、中小業者の労働者の多くが最低賃金を下回っているといわれている。
 被災地における除染労働者の賃金にも最低賃金が大きな影響を及ぼしている。昨秋から危険手当のピンハネがマスコミ報道され大きな社会問題となった。その後、除染労働者の賃金が危険手当一万円+日当六千円=一・六万円が相場的に形成されだしている。
 国土交通省が設定している「公共工事設計労務単価」では、除染労働者などの一日当たりの労務単価は、二〇一二年度は一万千七百円、二五年度は一万五千円となっている。ところが労働者には日当分として六千円しかわたらず、九千円近くが元請、一次、二次下請けによってピンハネされている。しかし国土交通省は「公共工事設計労務単価」は下請けの労働者の賃金を拘束するものでないとして、このピンハネを容認している。そして九千円近いピンハネを法的に根拠づけているのが、低すぎる最低賃金である。福島労働局はこの日当六千円について、そもそも一次下請けと二次下請けの契約は民間契約であり労働局は関与できないと開き直ったうえで、自らの管轄である賃金にかんしては福島の最低賃金の時給六百六十四円、日給換算では五千三百十二円を上回っているので問題がないとしている。
 国土交通省の戦前から継続する土木・建設における重層的下請け構造におけるピンハネ容認も大きな問題であるが、低すぎる最低賃金がそれを強固に補強しているという構造がある
 地域ユニオンや地域合同労組が労働相談などで数多く直面する、だいたい一日○○円などの口約束で働いている場合、時間外労働の未払賃金の計算は最低賃金が基準になる。
 このような状況の中で全国三十七都道府県の経営者協会が二〇一二年六月十九日に発表した「最低賃金近辺で働いている労働者の多くは家計補助的労働であり、世帯主の生活保護基準と比較するのは妥当ではない(最低賃金改定目安審議に関する要望書)」という認識は極めて一面的かつ危険な評価である。運輸産業という基幹産業ですら多くの労働者が最低賃金近辺で働き、長時間労働が蔓延し重大事故や過労死が発生しているというのが厳然たる事実である。
 最低賃金に直接影響を受けている労働者だけではなく、賃金体系のなかに最低賃金が組み込まれ間接的に影響を受けている労働者も含めて低賃金労働者の多くが最低賃金影響を受けている。このようななかで全労協や全労連などでは最低賃金闘争の取り組みを重視し、春闘等でも最低賃金の大幅引き上げが中心課題として打ち出されている。


  ●2章 社会的役割を増大させる最低賃金闘争

 このようななかで最低賃金闘争が中小労働運動やユニオン運動の中で重要な課題として浮上しつつある。それは単に賃金水準の低下の阻止という労働運動の課題にとどまらず生活保護などのナショナルミニマム(国民最低生活保障)の問題や被災地支援・復興などの問題とも連関した社会的課題となっている。あらためて最低賃金闘争の意義を確認していきたい。

  ◆2章―1節 低賃金労働者の賃金闘争の武器としての最低賃金闘争

 第一に低賃金労働者の賃金闘争の武器、労組組織化の武器としての役割が急速に強まっていることである。
 前述してきたように最低賃金は非正規雇用労働者だけではなくトラック労働者などの基幹産業の労働者などにも様々な形で賃金体系に影響を与えており、低賃金労働者の多数がその影響を受けている。
 かつて最低賃金闘争はあまりに低すぎる金額水準の故に、その直接的影響を受ける労働者が少なく、最低賃金引き上げ闘争の担い手を見出すことができなかった。そして日本の労働組合運動は中卒初任給レベルといわれた最低賃金引き上げ闘争に積極的ではなかった。なぜなら大企業労組においては、最賃は年功序列賃金制の最低値かそれよりも低く、ベースアップを実現すれば必然的に賃金の最低値が上がっていくので、課題として位置づけられなかった。産業別賃金や全金などを中心に企業内最賃や企業内年齢別最賃などはそれなりの成果をあげていたが、企業、産別を超えて地域全体の低賃金労働者に波及する地域別最賃についての取り組みにそれが波及することはなかった。中小零細企業でも最低賃金があまりにも低すぎて、最低賃金は問題にならなかった。それゆえ、長年にわたって使用者が賃金切り下げの口実として使用し、「低賃金構造の重し」とも批判されてきた。
 しかし貧困の拡大と最低賃金の引き上げによって、直接的、間接的にその影響を受ける労働者が増大し、最近では最低賃金闘争の主体を獲得しだしている。それは増大する非正規労働者にとどまらず、正規雇用労働者にまで拡大している。
 非正規雇用労働者や中小企業労働者などの「下層労働者、低賃金労働者」を組織化の主力とする、ユニオンや地域合同労組が最低賃金闘争に取り組むことの意義は大きい。最低賃金闘争の取り組みは個別企業の事情に係らず賃金を上げることができるたたかいである。それは最低賃金引き上げ署名や行政交渉、各種行動をつうじて、最初から企業を超えた全国の労働者と団結したたたかいであり、たたかいの初期の段階から全国闘争である。また後述するがナショナルミニマム(国民最低生活保障)と深く連関する。それゆえに労働者階級が主力となって牽引すべき社会的闘争でもある。
 地域ユニオンや地域合同労組の組織化などにとって最低賃金闘争の取り組みは大きな意味がある。数多くの労働相談や争議をかかえながらも争議が終われば直ちに、あるいは数年もたたずに組合から離脱していくという「回転ドア」状態を克服していく条件を獲得していくことになるからである。なぜなら争議が終われば元の職場か新たな再就職先かは別にしても、たいていは一人であるいは少数派で職場に存在し、賃金闘争をはじめとする職場のたたかいを取組めず、それが労働組合組織への定着を困難にしてきたという問題がある。賃金闘争だけで「回転ドア」状態を全て克服できるわけではないが、労働組合にとって賃金闘争の組織化は最重要のたたかいであり、それは大衆的な組織化を目指すかぎり、思想や階級意識一般に代替できないものだからである。最低賃金闘争はこのような意味で低賃金労働者の組織化の大きな武器である。
 第二に最低賃金制度はナショナルミニマム(国民最低生活保障)の基軸的な制度であり、生活保護をはじめとする様々な社会政策に大きな影響を与え、最低賃金の引き上げはナショナルミニマムを引き上げていくことになる。
 ナショナルミニマムとは一般的には「国が憲法二五条に基づき全国民にたいし保障する『健康的で文化的な最低限度の生活の水準』である。所得や資産などの経済的指標だけでなく、これらと人間関係や社会活動への参加等の社会的な指標との関連を見ることが重要」(要旨・厚生労働省ナショナルミニマム研究会中間報告)である。
 国民最低生活保障にとって中間報告が指摘するように所得補償がすべてではないが、最低生活を送るにあたっては所得補償は大きな位置を占める。その所得補償の中心は、各種給付や国の扶助ではなく雇用保障とそれによる最低限の生活確保が可能な賃金水準の実現である。それは社会的強制力をもって決定されなければならず、その役割を果たしているのが最低賃金制度である。
 ナショナルミニマムにとって最低賃金制度は基軸となる制度であり、生活保護基準も最低賃金に規定される。働いて得られる賃金の最低限を基礎に、それより低い基準で何らかの理由で働けない場合の最低生活保障としての生活保護の基準が決まるという関係にある。最低賃金が上がれば生活保護基準も上がり、最低賃金が下がれば生活保護基準も下がる、ということである。
 最後のセーフティーネットといわれる生活保護基準の向上にとって最低賃金の引き上げは決定的に重要である。厚生労働省の各種調査でも、現行の生活保護の水準では、貧困の連鎖から抜け出ることが困難であり、不十分なレベルであることが報告されている。現実的にも生活保護の受給対象者は様々な理由で働くことが困難、あるいは働けても低賃金の仕事にしかつけないなどの問題を抱える「社会的弱者」である。労働者のたたかいによって最低賃金を上げ、連動させて生活保護基準を引き上げることは、貧困の拡大とメンタル問題等々で働こうとしても働けない人々が中心の生活保護対象者に対する、労働運動の社会的責務と言っていい。
 しかし現実は全く逆転している。七〇年代以降、日本の労働運動は最低賃金闘争に積極的ではなかった。反して生活保護引き上げをめぐるたたかいは五〇年代から始まった朝日訴訟をはじめ生存権保障をめぐる必死のたたかいとして前進し、生活保護基準を引き上げてきた。
 その結果、八〇年代には生活保護基準が最低賃金水準を上回るという「逆転現象」が生み出された。それ以降、〇七年の最賃法改正によって「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」として、「最低賃金は生活保護の基準を下回らないものとする」とされたにもかかわらず、現在にいたるまでその状況は改善されていない。この改正最賃法により、改正五年前の〇二年の全国加重平均は六百六十三円、施行前年の〇七年には同・六百八十七円で、五年間で二十四円しか引き上げられなかったにもかかわらず、施行後の一二年は同・七百四十九円であり、同じ五年間でも五十二円の引き上げ額となった。一一年の東日本大震災を口実に一円しか引き上げられなかった福島、岩手、宮城をはじめ全国的にも引き上げが大幅に抑制されたにもかかわらずである。
 〇七年以降、最低賃金は貧困の拡大の中で労働者のたたかいの前進もあるが「生活保護基準とのかい離」が問題とされ、それを根拠として引き上げられてきた経過がある。その結果、「高すぎる生活保護基準が最低賃金を引き上げ、企業経営を圧迫する」という使用者団体や自民党などから批判が高まり、日本社会に根深い「生活保護・惰民育成論」を基盤にした、生活保護バッシングの一翼に「低すぎる最低賃金」が組み込まれるという痛苦の事態が発生している。
 労働運動の社会的責務といっていい最低賃金引き上げによる生活保護をはじめとするナショナルミニマム引き上げが実現されるどころか、生活保護基準の引き上げによって最低賃金が引き上げられるという労働運動の立ち遅れが生活保護切り下げの逆風を生み出していることを、労働運動の側は真剣に受け止め、最賃闘争を全力で推進していかなければならない。
 原則的で階級的な労働運動を標榜する労働者は、最賃闘争が低賃金労働者の低賃金の克服だけではなく、生活保護をはじめとするナショナルミニマムの引き上げにむけた社会的正義を実現するたたかいとして、正々堂々、全力をあげてたたかっていかなければならない。


  ●3章 最低賃金闘争の前進に向けた闘い

 様々な問題を孕むアベノミクスであるが、労働者の賃金引き上げがなければ景気回復、経済成長への出発点に立つことすら不可能である。政府関係者もそのことは自覚しマスコミなどで賃金引き上げの必要性について言及している。政府が労働者の賃金を引き上げようとするならば最低賃金引き上げがもっとも有効である。最低賃金は厚生労働大臣、地方労働局長が決定できるのであり、最低賃金闘争にとって「有利な情勢」となっている。
 もちろん麻生や安倍がいくら資本家に要請しても賃金があがらなかったように、現実には労働者のたたかいぬきには最低賃金引き上げはありえない。この「有利な情勢」を活かし切れるか否かは労働運動のたたかい次第である。以下の基本方針を掲げて最低賃金大幅引き上げに向けてたたかいぬこう。

  ◆3章―1節 最低賃金を時給千円以上とせよ

 全国加重平均で七百四十九円(一二年)という最低賃金はあまりに低すぎる。それは「賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて労働者の生活の安定、労働力の質的向上および事業の公正な競争に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」という「最低賃金法一条(目的)」を満たすものではない。
 時給七百四十九円では月百七十四時間働いても十三万三百二十六円にしかならない。厚生労働省が生活保護との比較で使っている可処分所得の算出のための税、社会保険を控除した一〇年度の可処分所得の比率である〇・八五九(後述するが負担率の低い沖縄の基準)をかけると約十一万千九百五十円となる。家賃、水光熱代などを差し引けば、食べるのにかつかつ、餓死しない程度の賃金にしかならない。病気などの不測の事態があればたちまち困窮する。このような賃金では単身世帯すら維持できず、万が一の時には家族などから何らかの支援があることを前提としなければならない。時給七百四十九円のどこに「生活の安定」があるのかということである。
 「ナショナルミニマム研究会中間報告」でも経済的保障だけではなく、「人間関係や社会活動への参加等の社会的な指標」の重要性が指摘されている。七百四十九円でどのようにして十分に休養し精神と肉体をリフレッシュし、人間関係を豊富にし、知識と教養を積み上げ、「労働力の質的向上」を図ることができるのか理解しがたい。
 大企業と中小零細企業との「公正な競争に資する」ことも全くできない。最低賃金に影響される低賃金労働者は中小零細企業に多く、そこで働く労働者は低賃金ゆえに「生活の安定」も「労働力の質的向上」も実現できず、結果として労働生産性が向上せず、競争力が弱体化する。また大企業が中小零細企業に対し、最低賃金レベルの賃金しか支払えないような水準にまで製品価格を抑え込んでくることはよくあることである。いつまでたっても中小零細企業の劣悪な賃金とそれがもたらす競争力の弱体化、それを見越した大企業による製品価格の切り下げ圧力という悪循環にはまり込み優秀な労働力を確保することができないというハンデを中小企業は構造的にもっている。「公正な競争に資する」ということとは全く異なる事態となっている。
 国際比較ということからも日本の最低賃金は低すぎる。周知のようにオランダ、ルクセンブルク、アイルランド、ベルギーなどは千円台、イギリス、フランスでも八百円台(二〇〇九年の円ドル換算で一ドル平均九十三円なので現時点では更にあがっている)である。またEU諸国では平均賃金の50%以下が「貧困」、60%以下が「低賃金」と定められ、当面、平均賃金の50%という最低賃金の目標が掲げられ、更に60%が目指されようとしている。EUでは最低賃金が貧困の拡大に対する重要な政策と位置付けられているが、日本では貧困の存在を政府が認めたのが最近であることなどからも最低賃金は貧困対策との関係では位置づけられていない。
 使用者側は最低賃金が高いと国際競争に敗北し、結果として雇用が失われ、労働条件が低下すると主張してきた。最近は中国をはじめとするアジア諸国の低賃金労働者との競争に敗北すると主張しているが、これはデタラメな論理である。米国もEU諸国も中国などの低賃金圧力に耐えながら、国内労働者に対しては日本より高い最低賃金を維持して国際競争に臨んでおり、日本だけがアジア諸国の「低賃金労働者」との競争を迫られているわけではないからである。
 低すぎる最低賃金は、単に労働者の生活が苦しいというレベルを超えて貧困の連鎖という問題を発生させる。低所得世帯の子供たちが教育や社会関係などで大きなハンデを持ち、親世代と同じ低賃金労働者になっていくことは多くの研究や出版物で明らかにされている。貧困の連鎖と格差の拡大への対処は、医療、教育、年金など様々な社会保障、福祉制度など体系的な政策体系で対処すべきであるが、働く労働者の最低賃金保障である最低賃金はそれらに大きな影響を与える基軸的な制度である。
 それゆえ最低賃金が低すぎて貧困と格差の拡大を推進、固定化していくものであってはならない。しかし現行の全国加重平均七百四十九円では、貧困と格差の拡大を阻止していくものとはなりえておらず、むしろそれらを拡大していくものとなっている。最低賃金の大幅引き上げによって最低でも最低賃金を時給千円以上とするたたかいを強力にすすめなければならない。
 最後に最低賃金の引き上げは当然のことながら各種の中小企業支援策と結合して行われなければその実現性は希薄になる。中小企業が多く参加する日本商工会議所などは最低賃金引き上げに毎年、反対している。本来からいえば最低賃金が上がり、低賃金に対する歯止めがかかることは、中小企業経営にとって良質な労働力を育成、確保していくうえで有利なことである。それにもかかわらず彼らが毎年、強固に反対するのは中小企業への各種助成制度が不備であることもその一因である。

  ◆3章―2節 全国一律の最低賃金制度の実現を

 現在、最低賃金制度は、各都道府県をAからDまでのランクに区分し、中央審議会ではランクごとに引き上げに向けた目安額が提示される。このランク制のもとでは、都市と地方との最低賃金額の差は毎年、広がるばかりである。一二年では最低の六百五十二円の高知、島根と、最高の八百五十円の東京では百九十八円も差があり、月百七十四時間働くとして月収にすれば三万四千四百五十二円もの差がある。
 ナショナルミニマムからいっても最低賃金に地域格差があっていいはずはない。沖縄で働こうが北海道で働こうが、東京で働こうが最低賃金は同じ、というのが基本的な考え方であるべきである。なぜなら、かく現代社会では労働が人間にとって重要な生命活動・社会活動であり、単に生活の糧をえるだけではなく、その人を社会と結合させていく重要な活動であることが普遍的に確認されているからである。
 日本政府や資本家団体が、生活保護をはじめとする各種保護からの受給者の引きはがしのために、就労支援、自立支援を強調してきた経過もある。そのような政府や資本家団体にとって単なる経済活動だけではなく社会参加の要としての労働の対価が、最低の水準で都市と地方によって差がつくことなどモラルハザードの際たるものである。その論拠となっているのは都市と地方では生活費が異なるということだが、それを理由に経済活動の側面であっても差をつけることは最低賃金の性格上好ましくないが、それ以上に社会参加の側面にまで差をつけることにはならないと考える。
 同じ時間の「社会参加の価値」が沖縄と東京で異なるということであり、誤解を恐れず単純にいえば選挙制度における「一票の格差」のようなものである。
 資本主義社会では個々人の「労働の価値」に差をみとめることは前提であるが、現代社会において労働が経済活動と社会参加の要と位置付けるならば、その最低限の単価は全国共通でなければならないと考える。
 現行の最賃制度の区分けの根拠については地方と都市の生活費や経済水準の違いなどが理由とされ、それを反映するものとして二十の経済指標にもとづくランク制が採用され、二〇一一年の中央審議会の全員協議会でも概ね妥当と解され維持が確認されている。このランク制度の基準が適切か否かは疑問である。使われている指標は使用者の支払い能力を推定するためにはある程度の意味があるが、賃金水準、出荷額、標準生計費など、「地方と都市」の現状の格差を固定化するようなものばかりである。それを指標として使えば、格差が拡大する都市と地方の現状を追認するだけであり、現にそうなっている。
 しかも地方と都市の生活費の違いということは強調されても、地方が構造的に抱える医療、教育、車をもたなければ生活できないというような交通網の不十分性などの重要な社会的インフラ、多様な文化へのアクセスの困難などは考慮されておらず金額換算もされていない。これらは労働者が通常の生活を送るうえで必要なものであり、自らの労働力の価値を高めるためには必要不可欠のことである。
 現行のランク制を根拠づけている指標を使えば都市と地方の差は拡大するばかりである。その格差と連動し最低が六百五十二円という絶対的な水準の低さは、地方経済を疲弊させることをも結果する。地方と都市の格差を拡大するランク制を廃止し全国一律最低賃金制度へと早急に移行すべきである。
 国際的にみても全国一律最低賃金制度が常識となっている。日本で全国一律最低賃金制を採用しない理由はなく、むしろ現行制度は東京一極集中に示される地方と都市の格差を拡大するという意味では、改善されるべき制度となっている。
 全国一律最低賃金制度の実現の必要性は東日本大震災を経て、更に鮮明になっていると考える。
 東日本大震災前から東北三県は最低賃金が低い地域であった。岩手はDランクで六百五十三円、福島は六百六十四円、宮城だけがCランクで六百八十五円であるが、いずれも全国加重平均七百四十九円よりはるかに低い金額である。
 一一年においては宮城では生活保護とのかい離が、厚生労働省の計算でも八円あったが、震災を口実に一円しかあがらなかった。被災地では多くの労働者が職を失い、たまに仕事があっても低賃金、非正規というようなケースが多数となり、震災以降、賃金引き下げ圧力が強まっている。それには前述した除染労働者の問題でも指摘したように被災各県の最低賃金の低さが大きく影響している。
 大幅な最低賃金引き上げによる賃金の底上げがなければ生活の再建のために多額の資金がいる被災労働者は極めて困難な状況に陥る。家が壊され、工場、港、農地が使えず、という状態の中で、あっても低賃金と非正規雇用しか仕事がない状態であれば、好むと好まざるとにかかわらず、被災地での生活再建を断念せざるをえない事態も生み出されてくる。
 一一年に宮城全労協が宮城労働局に提出した異議申出書では、「『口を開けば特区』といっているが、最低賃金を大幅に引き上げる『最賃特区』をなぜ、主張しないのか」という批判を述べている。被災地の最低賃金を大幅に引き上げるためには現行のランク制度では不可能であることを痛烈に批判したものである。
 これに対し、「被災地で期間を限って最低賃金の規制を緩めることも、政府は検討してはどうか。寄付金をもとに被災者を高齢者の買い物代行や清掃などに雇う動きがある。最低賃金の規制を柔軟にすれば、仕事に就く機会が広がる」(「雇用政策の手本を被災地で」日経新聞社説、二〇一二年二月二十一日)という、怒りをおさえることができないような主張がおこなわれている。最低賃金以下の特例賃金のようなものを導入しようと目論んでいることは一目瞭然である。
 これを許せば最低賃金以下の賃金が燎原の火のように被災地に広がっていく。五十兆円といわれる復興需要でうるおっているのは仙台市などごく一部である。そして除染労働に典型なようにその多くが大資本の利権となっている。労働者の「恩恵」は最低賃金レベルである。
 気仙沼、石巻、三陸など被災沿岸部で生産手段を奪われた農民、漁民、低賃金労働者、高齢被介護者、障害者、生活保護世帯、そして福島の原発被災者などは「復興格差」にも直面している。これらの人々の生活を再建し、大資本の利権を少しでも自らの賃金として取り戻すためには最低賃金の大幅引き上げが必要である。それによって生活の展望を少しでも切り開き、勇気づける必要がある。
 東北三県では昨年、岩手県議会や福島県議会、福島市議会、郡山市議会で被災者の生活再建の見地から最低賃金引き上げの決議がおこなわれている。河北新報をはじめマスコミなどでも最低賃金引き上げを求める主張をおこなっている。
 全国一律最低賃金制度にすることが、一番、良い方法である。東日本大震災の復興にむけた「社会的絆の強化」というなら、全国一律最低賃金制度導入は、社会的意味においても賃金を底上げするという意味でも大きな役割を果たすと考える。
 以上、述べてきたように最低賃金制度を全国一律制度とすることは最低生活保障などとの整合性を強化し、体系的な貧困対策、格差対策に有効と考える。労働運動の前進という見地から見ても、全国一律最低賃金制度のもとでの低賃金労働者の全国的な賃金引き上げ闘争の構築が可能となり大きな意義を持つ。

  ◆3章―3節 生活保護改悪反対と最賃闘争を結合せよ

 二〇〇七年の最賃法改正では九条三項に「生活保護にかかる施策との整合性」が導入された。「これは、最低賃金は生活保護を下回らない水準となるよう配慮するという趣旨であると解される」と厚生労働省はしている。
 しかし厚生労働省が画策してきたのはその生活保護基準をできるだけ低く見積もり、最低賃金の引き上げを抑制することであった。
 第一に、労働時間を実際の労働時間よりも多く見積もって最低賃金額を引き下げようとしている。
 最低賃金額の時給計算をおこなうにあたって、生活保護の支給額を除する労働時間を法定労働時間百七十三・八時間として計算している。しかし一般労働者の平均的な所定内実労働時間は百五十時間(毎月勤労統計調査)である。この所定内実労働時間を採用すべきであり、法定労働時間を採用することにより、最低賃金額が低く設定されることになる。
 第二に、生活保護との比較の際、最低賃金で得られる月収から税金と社会保険料を控除して、それを各地の生活保護基準と比較するが、その際、全国でもっとも低い県の一つである沖縄の最賃額と公課負担率を適用し、〇・八五九という係数を適用している。しかし最低賃金の高い他の県では当然、公租公課の負担率はあがり、最低賃金額における可処分所得は多くの県で実際よりも多く計算されることになる。
 第三に、生活保護では各都道府県を複数の級地に分け、生活扶助費を決めている。しかし、中央賃金審議会の「目安」が採用したのは、都道府県ごとに人口加重平均をとる方法である。
 この方法では、生活費の高い県庁所在地などの生活保護費よりも低い算定がされる。このため、生活保護基準を最賃が上回っているとされている県においても、県庁所在地などでは最低賃金のほうが低くなる。
 生活保護については都道府県ごとの人口加重平均ではなく、県庁所在地などの最も高い級地の生活保護基準を採用すべきであり、人口加重平均を採用することによって生活保護基準を低く算定すべきではない。
 第四に、生活保護費の中の住宅扶助について「目安」は、定められた基準額ではなく、生活保護を受給している人が実際に支払った家賃の平均である「実績値」を採用している。
 生活保護の運用においては様々な形で特別に配慮された公営住宅への入居も含めて基準額以下の安い物件に住むことを指導される。住宅扶助の「実績値」採用によって、不当に生活保護基準を低く算定すべきではないということである。
 第五に生活保護法は、稼働世帯に対して、就労に伴う経費の増加を、非稼働世帯の生活保護に上乗せする「勤労控除」という方法で実質的な均衡を図っている。もし、この額を補填しなければ、働きに出ることによって実質的な生活水準が低下してしまうからである。「目安」ではこの勤労控除が全く考慮されておらず、結果的に生活保護基準を低く算定している。
 厚生労働省はこのように生活保護と最低賃金のかい離額を少なく見せるために生活保護を低く見積もり、最低賃金を高く見せるための様々なペテンを繰り出している。しかし最低賃金のランク制度よりも生活保護の見直し基準の方が、引き上げ額が多くなる基準を使っているので、毎年、かい離が発生することになる。
 このようななかで安倍政権が打ち出してきたのが、生活保護費の切り下げによる社会福祉制度の切り下げ、最低賃金抑制の攻撃である。
 厚生労働省は消費者物価指数の日常生活費相当分が過去三年で約5%下がったことを根拠に、生活費分の保護費を三年で六百七十億円切り下げる決定した。また低所得世帯(下位10%)の消費水準を、生活保護世帯と比較すると生活保護世帯の方が、相対的に消費水準が高いことを引き下げの口実としている。しかし生活保護の補促率が二割から三割と言われる中で、その下位10%の中に多くの受給していない生活保護受給対象者が存在し、それらの人々が消費水準を引き下げていることについては無視されている。生活保護を受給する権利がある人々を水際作戦や「惰眠育成論」によって生活保護から排除している現状を開き直る許しがたい主張である。様々な理由で生活保護から排除されている人たちを利用して生活保護基準を切り下げているのである。「弱者いじめ」の際たるものである。
 生活保護切り下げはそれにとどまらない。切り下げによって生活保護を基準にしている就学援助や住民税の非課税限度額、保育料、医療・介護保険料など同基準に連動する多くの制度で利用できなくなる人が出るとみられている。
 攻撃はそれだけではない。安倍政権は五月十七日に「生活保護法の一部改正案」を閣議決定し、国会に提出している。悪名高い「水際作戦」を合法化すべく、これまで口頭で認められていた申請を厚生労働省が定める事項を記載した申請書でおこなうことを義務付けようとしている。これによって書類不備などを口実に多くの人が窓口で門前払いされる事態になる。今まででも書類不備を口実に多くの人々が窓口で追い返されてきた。そのような違法な「水際作戦」が合法化されるということである。
 要保護者の「扶養義務者」にたいしても扶養が不可能か否かを判断するために、行政が銀行、信託会社、雇い主にたいして報告をもとめることができるとしている。「扶養義務者」のプライバシーに対する不当な侵害であるとともに、これまで以上に家族、肉親と軋轢を生むことを危惧して受給を断念する、という萎縮効果が発生する。
 安倍政権は生活保護を切り下げるのみならず、補促率が二割から三割しかないのに、さらに生活保護から受給対象者を排除しようとしているのである。弱者切り捨ての際たるものである。安倍政権による生活保護制度改悪にたいして断固として反撃していかなければならない。
 生活保護の切り下げを許してきた主体的一因として低すぎる最低賃金の問題がある。労働者、労働運動を担う一人一人は自らのたたかいの不十分性が低すぎる最低賃金という状況を作り出し、それを利用して政府・資本が「高すぎる生活保護」というキャンペーンを執拗に繰り返し、安倍政権で一挙に生活保護制度改悪が進められようとしている事態を痛苦に捉える必要がある。最低賃金引き上げと生活保護改悪反対のたたかいを結合し、大々的な反撃を実現していかなければならない。生活保護戦線で生存をかけて改悪阻止にむけてたたかう人々と固く連帯し、社会的な反撃を実現しなければならない。

  ◆3章―4節 最低賃金闘争を全国的運動へ発展させよう

 貧困の拡大にともなって最低賃金闘争が重要な位置を占め始めているにもかかわらず労働運動における最低賃金闘争における取り組みは未だ不十分である。大多数をしめる下層労働者の組織化を掲げる原則的で階級的な労働運動は、全力を挙げて最低賃金闘争を取り組む必要がある。
 具体的な取り組みとしては各都道府県で開催される地方最低賃金審議会への傍聴の取り組み、意見書、異議申出書の提出、審議会における意見表明など、最低賃金法で定められた手続きを利用し、審議会と決定権者である地方労働局長に、我々の主張を理解させていかなければならない。原則公開と定められているにもかかわらず実質的な金額審議のおこなわれる審議会は非公開とされている。多くの労働者に賃金に重大な影響を与える最低賃金が、密室で審議されていることを批判し、公開された論議による金額決定を実現していかなければならない。
 最賃引き上げ署名、最賃割れ企業への抗議、街頭宣伝などの大衆的な活動を強めなければならない。そして何よりも労働組合内部で最低賃金闘争の取り組みの意義について学習し、最低賃金闘争の取り組みが労働者全体の賃金の底上げになること、それにとどまらず生活保護をはじめとする社会福祉制度改悪の歯止め、貧困とのたたかいの社会的武器になっていくことを訴えてたたかいぬかなければならない。
 最低賃金引き上げはナショナルセンターを超えた全労働者的取り組み、社会的取り組みとして前進させなければ、その実現はない。そのような共闘の枠組み、連携構築に向けた努力もまた準備されなければならない。
 本年も六月末に中央審議会において最賃審議の諮問が開始されると思われる。それと時期をあわせて地方審議会の諮問もおこなわれる。
 本年は二〇一〇年に合意された「できる限り早期に全国最低八百円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均千円を目指すこと」という雇用戦略対話の、三年といわれた「できる限り早期に」の最終年である。時給千円以上、全国一律最低賃金制度を断固として要求し、最低でも政労使合意である「全国最低八百円」の実現を要求したたかい抜く必要がある。

  ◆3章―5節 最低賃金闘争における先進的労働者の任務

 第一に、先進的労働者は最賃闘争引き上げのたたかいの最先頭に立ってたたかう必要がある。
  最賃闘争の意義と役割は、多くの労働者には十分に理解されていない。とりわけ最低賃金レベルより高い賃金で働く労働者にはあまり理解されていない。先進的労働者は最賃闘争の意義と役割を多くの労働者に、あらゆる手段で伝えていく必要がある。
 最低賃金闘争による賃金引き上げのたたかいは、レーニンが経済闘争の積極的意義とする「この闘争(経済闘争)によって働く人々の大衆は、第一に、資本主義的搾取の方法をつぎつぎとみわけ、検討する……第二に、この闘争で労働者は自分の力をためし、団結することを学び、団結の必要と意義とを理解する……第三に、この闘争は、労働者の政治的意識を発達させる」(ロシア社会民主党綱領草案・一八九五年)ということを、もっともよく実現していくたたかいでもある。それは最低賃金闘争が前進し、ナショナルミニマムの基軸としての有効性を発揮すればするほど、その性格を全面的に発揮するようになる。
 第二に、先進的活動家は最賃闘争を「戦争国家化」阻止のたたかいと固く結合してたたかう必要がある。
 アベノミクスが労働者の賃金引き上げなしに「成果」を上げることができない状況を踏まえ、安倍政権に最低賃金引き上げを迫っていくことは重要なたたかいである。しかしそれは安倍政権にとっては戦争国家化への労働者民衆の政治的組織化と一体のものである。先進的活動家が最賃闘争と結合して、「戦争国家化」にむけた策動の暴露とそれへのたたかいをよびかけなければ、わずかばかりの最低賃金の引き上げと引き換えに労働者・民衆の戦争動員の強化へと結果する。労働者階級は大きな敗北を喫することになる。
 第三に、先進的活動家は最賃闘争をいかなる社会を建設するのかをめぐる労働者階級への宣伝の契機としていかなければならない。
最賃闘争がナショナルミニマムの基軸である「最低生活」を保障する賃金である以上、それはいかなる社会を建設していくのかという事柄と深く結合するということである。それは実現すべき社会とそれにむけて労働者階級を階級形成していくためのたたかいを組織していく最大限・最小限綱領の確立の問題とも深くかかわる問題でもある。
 先進的労働者はこのような役割を果たしながら、13最賃闘争の先頭に立ってたたかおう。


 

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