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   安倍政権のペテンを暴き出し、

    労働運動の前進を勝ち取ろう

         



 安倍政権は、アベノミクスによる経済回復という幻想を振りまいてきた。しかし、状況は好転しないばかりか、貧困・格差は一層広がり、実質賃金は上がっていない。稼働年齢人口の減少によって有効求人倍率は好転しても、求人の多くは非正規雇用や労働法を守らない違法不法な働き方を強要する企業が多く労働者は過労死などに追い込まれている。こうした中、安倍政権は「働き方改革」と称して労働者人民の内部に差別と分断、より巧妙な搾取と収奪をもたらす「働かせ方」政策を強行しようとしている。この安倍政権のウソとペテンを暴き出し、実践的批判を行い、安倍政権を打倒することこそが労働者階級人民の任務である。今こそ、貧困・格差・差別を許さない行動を巻き起こそう。

 ●一章 安倍「働き方改革」で語られる「未来」

 安倍政権は、二〇一六年九月二十六日「働き方改革実現会議」なるものを安倍が自ら議長になり加藤勝信働き方改革担当大臣、塩崎恭久厚労大臣を副議長に発足させた。これは、同年六月二日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」に基づくものである。この会議において検討される主な項目は、「同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」「賃金引き上げと労働生産性の向上」「時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正」「雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題」「テレワーク、副業・兼業などの柔軟な働き方」「働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備(いわゆる百三十万円問題など)」「高齢者の就業促進」「病気の治療や子育て・介護と仕事の両立」「外国人材の受入れの問題」とされており、「経済成長底上げのための」「働き方改革」であるとしている。これらの項目の「改革」は少子高齢化が進み労働力人口が減ることが予測されている中にあって女性・高齢者・外国人を総動員し、経済を活性化させるための「改革」であり、決して労働者の命や家庭生活を保護するための改革ではない。
 人々がイメージしやすい言葉を使いながら、その意味や目的がイメージされているものと全く違うという詐欺的な手法は、話が具体的になればはっきりする。
 厚生労働省は、昨年八月「働き方の未来 2035 一人ひとりが輝くために」懇談会の報告書を発表した。「二〇三五年にはさらなる技術革新により、時間や空間や情報共有の制約はゼロになり、産業構造、就業構造の大転換はもちろんのこと、個々人の働き方の選択肢はバラエティに富んだ時代になる」とし、判断を必要としない定型的な業務はAI(人口知能)が行い、人間は人工知能の進化に合せて学びなおし、スキルアップが求められAIを超える労働が要求される。また、「二〇三五年の企業は、極端にいえば、ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊(かたまり)となり、多くの人は、プロジェクト期間内はその企業に所属するが、プロジェクトが終了するとともに、別の企業に所属するという形で、人が事業内容の変化に合わせて、柔軟に企業の内外を移動する形になっていく。その結果、企業組織の内と外との垣根は曖昧になり、企業組織が人を抱え込む「正社員」のようなスタイルは変化を迫られる。(中略)企業に所属する期間の長短や雇用保障の有無等によって『正社員』や『非正規社員』と区分することは意味を持たなくなる」という。しかし、現実には労働者は個々に分断され、集団的労使関係から「自由な個人が対等で契約をする個人事業主・請負を常態化」や「兼業の容認」が行われる。つまり、今の職場において多くの人、とりわけ非正規労働者や女性が行っている仕事はAIにとって代わり(「三菱総合研究所」の試算によれば二〇三〇年の時点で七百四十万人分の仕事がなくなり、AI関連等の五百万人分の仕事が増えたとしても二百四十万人分の減となる)雇用が減る。人にしかできない仕事(ハンドメイドサービスや高度な判断業務など)を人間が行う、そして自立した個人が多様な働き方ための契約を結ぶという近未来像が語られている。実際こうした能力を有する人間がどれだけいるのか? この未来では、自分の「能力」を切り売りできる労働者とできない労働者に分断され、果てしない差別と分断、競争が行われる。「能力のない人間は、生きている価値がない」と人殺しが行われたが、この「未来」では政府が率先して「能力のない」人間を切り捨てるのである。
 支配者たちの狙いは、労働者を一人ひとりバラバラにして、集団的労使関係を解体し、労働組合を否定することである。われわれが求める未来は、こんなものではない。他者を認め合い団結と連帯の下に労働組合を無数に作りだそう。そして、個人の意思と権利が尊重され、「人らしく生きる」「人らしく働く」社会を創造しよう。安倍政権を打倒し、労働者、被差別大衆が主人公の社会を創り出そう。

 ●二章 安倍「同一労働同一賃金」のまやかし

 二〇一六年二月二十三日安倍首相は、「一億総活躍国民会議」において「我が国の雇用慣行には十分留意しつつ、同時に躊躇なく法改正を進め」「どのような賃金差が正当でないと認められるかについては、政府としても、早期にガイドラインを制定していく」という指示をした。そして「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」は十二月十六日「中間報告」を発表した。
 この「中間報告」のポイントは、「@正規・非正規社員両方の賃金決定ルール・基準の明確化 A職務や能力等と賃金など待遇水準との関係性の明確化 B能力開発機会の均衡・均等による一人ひとりの生産性向上」である。
 「中間報告」においては、「同一企業内においてのみ、同一労働同一賃金」を考えるとしている。これは「日本では欧州のように産業別労働協約による企業横断的な職種別賃金相場が形成されていないためである」といっている。これは、世界的に常識となっている雇用形態にかかわらず、同じ仕事であれば同じ賃金という「同一労働同一賃金」を捻じ曲げるための方便である。
 実際「最賃制の在り方研究会」の答申においては「産業別最賃の廃止」が言及されており、日本の労働政策においては「企業横断的な職種別賃金相場」を作るということとは逆である。この結果、企業間競争により、賃金のダンピングが行われ「みなし残業代」「歩合制賃金」などが横行し、賃金を労働時間(拘束時間も含む)で割ると最低賃金以下になるという現実が生み出されている。
 われわれは真の「同一労働同一賃金」を要求すると同時に、賃金の全体的な底上げに向けた最低賃金の引き上げも要求していく。「誰でも、どこでも、いますぐ千円、千五百円を目指して」たたかい抜こう。そして、賃金のダンピング、不払い労働を許さない取り組みを強化しよう。
 全労働者の37・5%を占める千九百八十万人の非正規労働者の賃金額は、正規労働者の63・9%(二〇一五年賃金構造基本統計調査)である。「同一労働同一賃金」を政府としても課題にしなければならないほど労働者の格差がある。非正規化と低賃金構造によって国内消費が低迷し、デフレ経済から脱却できないということは、為政者にとっても危機的な事態なのである。われわれは、支配者が今まで通りに支配できなくなっている今こそ、反撃に向かうチャンスなのだ。真の「同一労働同一賃金」を目指してたたかいを組織しよう。
 ところで安倍政権は「同一労働同一賃金」に向けて関係法令の改正を行うとしているが、日本が未だに批准していないILO一一一号条約「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」については、何も触れていない。この条約は一九五八年六月二十五日に採択されたもので、「すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつことを確認」したフィラデルフィア宣言と、「差別待遇は、世界人権宣言により宣明された権利の侵害であること」に基づいて作られている。この「条約」の第一条において「差別待遇」を規定している。それは「人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身に基いて行われるすべての差別、除外又は優先で、雇用又は職業における機会又は待遇の均等を破り又は害する結果となるもの」としている。そして第二条において「この条約の適用を受ける加盟国は、雇用及び職業についての差別待遇を除去するために、国内の事情及び慣行に適した方法により雇用又は職業についての機会及び待遇の均等を促進することを目的とする国家の方針を明らかにし、かつ、これに従うことを約束する」としている。本当に「同一労働同一賃金」を実現するのであれば、ILO一一一号条約を批准すべきなのである。
 しかし、安倍政権は、この条約については触れようとしていない。それはなぜか。一九五一年に採択されたILO(国際労働機関)の「同一価値の労働について男女労働者に対する同一報酬に関する条約」(一〇〇号)については、一九六七年に日本政府は批准している。このILO一〇〇号条約は、同一労働のみならず、異なる労働であっても同一価値の労働であれば、男女労働者に同一報酬を支払うことを義務付けている。この「報酬」とは、基本の賃金の他、現金または現物により直接または間接に支払う全ての追加的給与をいう、と定義されており、福利厚生や企業年金なども含む賃金より広い概念だ。また、一〇〇号条約は、正規雇用のみならずパートタイマー、有期雇用、非常勤職員等、非正規雇用労働者を含む全ての労働者に適用されるとしている。したがって、依然として続く日本の男女賃金格差について、ILOから日本政府に対して数多くの文書が出されている。しかし、安倍政権は、この勧告文書を無視し続けている。
 厚労省が「デフレ下における賃金の伸び悩みとその要因B」の中で「過去十年間にパート・アルバイト等の非正規雇用労働者が三百九十八万人増加」したことに要因があり、「その59%が女性二百三十四万人で、またその62%が六十歳以上の定年後再雇用であった」(厚労省の二〇一五年度版『労働経済の分析』)と認めている。自ら女性非正規の賃金格差と、定年後再雇用の賃金切り下げが元凶であると認めているにも関わらず、この実態を変えようとしていないのである。一一一条条約を批准するなどということは毛頭考えていない。このことを取ってみても、安倍流「同一労働同一賃金」がまやかしであることがはっきりする。
 さらに、経済産業省の二〇一六年四月「新産業構造ビジョン(中間整理)」や、経済同友会の二〇一六年八月「新産業革命による労働市場のパラダイムシフトへの対応」では、安倍の成長戦略の要として、労働市場の柔軟性向上が課題であり、そのために「当面の対応案として」は「同一労働同一賃金に生産性向上・競争力強化の観点を付与」すべきと主張している。今、安倍の言う「非正規労働者の待遇改善」「同一労働同一賃金」は、ILO一〇〇号条約や一一一号条約とは似て非なる、全くのペテンなのだ。

 ●三章 安倍政権の狙いが透けて見える「ガイドライン」

 「中間報告」の付属資料として「正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差が不合理でないのかを示したものである」という「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示された。この「ガイドライン案」なるものの中に安倍政権が行おうとしている「同一労働同一賃金」のまやかしが透けて見える。
 「基本給について労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合」「特殊なキャリアコースを選択した無期雇用フルタイム労働者は職業能力を取得したが、取得していないパートタイム労働者の間に差をつける」。さらに、「管理職候補に対してキャリアコースの一環としてパートタイムの労働者からアドバイスを受けながら同一の定型的な業務を行っている場合であってもパートタイム労働者よりも高額な基本給を支給している」。このいずれも「問題とならない例」としている。問題となる例としては、「現在の仕事と今までの業務経験についての関連性がない仕事をしている無期雇用フルタイム労働者に有期雇用労働者に比べて多額の基本給を支給されている場合」としている。
 この例で明らかなようにパートタイム労働者に対しては選択の権利すら与えられていない「特殊なキャリアコース」を持ち出して差をつけるのは当たり前、あまつさえ幹部候補生に仕事を教えているパートタイム労働者が候補生より低い賃金をもらうのは当たり前という考え方の中に、パートタイム労働者は同じ仕事をしても賃金が低いという現実を変えるつもりはないということがはっきりする。
 「問題となる例」についてみれば、現在の仕事とその会社で積み上げた経験に関係があるかないかというどうにでも解釈ができる例を挙げている問題もさることながら、リストラ対象者を今まで経験のない仕事に就ける、懲罰的業務を押し付けるなどの「追い出し部屋」の労働者に対して賃下げを行う根拠となる例となる可能性がある。
 このほか、「ガイドライン案」が例として挙げているものは、「成果主義賃金」が導入されている場合、無期雇用フルタイム労働者にはペナルティーが課されているがパートタイム(または有期雇用)労働者には課されていない場合は差をつけてもよい。「経験や能力に差があればそれに応じた待遇」というように現状を追認固定化させるものである。つまり、基本給や昇給、ボーナスについて経験・能力・成果などの違いに応じて差を設けることを認めているのである。
 また、「基本給や各種手当といった賃金に差がある場合において……『無期雇用フルタイム労働者と有期雇用労働者(パートタイム労働者)は将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる』という主観的・抽象的説明では足りず、賃金の決定基準・ルールのちがいについて職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならない」としている点は、この「ガイドライン案」の基本的な考え方である。しかし、「客観的・具体的な事態に照らして不合理なもの」について、立証責任は誰が負うのかということについて触れていない。現行の労働契約法では「待遇の格差が不合理」と裁判所に訴えた労働者にその立証責任がある。労働者が企業側の賃金決定ルールを詳細に知ることは不可能に近い。資本側に立証責任を負わせるべきである。
 こうした「ガイドライン案」に対してわれわれには「同じ仕事をしている人は同じ賃金」という当たり前の要求を掲げて職場からたたかうことが求められている。正規・非正規の壁を取り払い、派遣労働者などの間接雇用の労働者と団結したたかおう。
 今回の指針において「通勤手当は正規も非正規も同一に」、「基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給」する定期昇給を「有期雇用労働者、パートタイム労働者」にも「勤続年数に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない」、「交替制勤務など勤務形態に応じて支給される手当は同一に支給されなければならない」など、今まで職場の中にあった格差について言及している。このことは、支配者ですら「不当な格差」があると認めざるを得ないところまできていることを示している。「不当な格差」が職場の中にないか点検し改善を要求しよう。そして、この「中間報告」「ガイドライン案」のうそとまやかしを大衆的に暴露しながら真の「同一労働同一賃金」を勝ち取ろう。

 ●四章 長時間労働を許さない

 電通労働者やワタミ労働者の過労自殺は、「命より大切な仕事はない」という痛苦な遺族の叫びと共に労働現場の実態を次々と明らかにした。
 二〇一四年十一月一日「過労死等防止対策促進法」が施行された。この法律は「近年、我が国において過労死等が多発し大きな社会問題となっていること及び過労死等が、本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失であることに鑑み、過労死等に関する調査研究等について定めることにより、過労死等の防止のための対策を推進し、もって過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とすること」とされている。毎年十一月を「過労死等防止月間」と定め啓発活動を行い、毎年国会に対して「施策の状況に関する報告をしなければならない」としている。
 また、二〇一五年七月二十四日には「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定されている。大綱では、「将来的に過労死等をゼロとすることを目指し」、二〇二〇年までに「週労働時間六十時間以上の雇用者の割合を5%以下」「年次有給休暇取得率を70%以上」、二〇一七年までに「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上」とする目標を掲げている。しかし、「啓発と研究」をおもな役割とするこの法律では過労死を防ぐことができなかったのである。
 過労死防止と言いながら、安倍政権は、二〇一五年四月規制緩和の一環として「労働基準法改正案」を閣議決定し、「高度プロフェッショナル制度」を行おうとしている。これがいわゆる労働時間の規制が一切適用されず、残業代も支払われない「残業代ゼロ法案」である。新しい制度の対象は、金融商品の開発や市場分析、研究開発などの業務をする年収千七十五万円以上の働き手を対象としている。アイデアがわいた時に集中して働いたり、夜中に海外と電話したりするような働き手を想定しており、時間でなく成果で評価するという。しかし、一度導入されてしまえば、年収の規制などどんどん下げられる。しかも「成果で評価」と言いながら、その評価とは何か? 成果に基づく賃金保障はあるのか? ということに関して言えば、あいまいであり「定額働かせ放題法案」とも言われている。また、みなし労働時間制により働かせ放題になる「裁量労働制」の適用範囲の拡大も目論まれている。安倍政権は過労死が問題となってもこれらの法案の取り下げを行っていない。こうした安倍政権の労働政策が過労自殺を生み出しているのである。
 今、過労死防止の対策として、「長時間勤務の規制」、「勤務時間インターバル規制(仕事を終えてから次に働きだす間に一定時間の休息時間をとらせる)」などをより充実することが言われている。しかし、安倍政権の基本的な考え方「時間ではなく成果で評価する」は少しも変わっていない。現実にはダラダラ働くのではなく、メリハリをつけて働くことや、時間内に終わらせるようにすることが奨励され労働密度が濃くなっている。一人当たりの仕事の量は減らさない、人員は増やさないという対応の中で、仕事を持ち帰る・職場以外の場所で働く・早朝出勤して働くなどのアンダーグランドの労働が増えているのである。仕事の量と質に見合う正社員の増員を要求しよう。「時間内に仕事を終わらせられないのは、自分に能力がない」からではない。職場に仕事を終わらすことができない原因がある。これを変えていくことを職場の仲間と取り組むという当たり前の職場活動を活発化しよう。連帯と団結が過労自殺を防ぐ一つの道である。

 ●五章 労働者の闘う団結を創造しよう

 今安倍政権は「同一労働同一賃金」をと叫び、「過労死をなくす」「非正規をなくす」と言っている。この言葉の意味やごまかしについては今まで明らかにしてきたとおりである。ではなぜ今安倍政権はこのような言辞を弄しているのだろうか。
 長期の不況が続きデフレからの脱却もできていない。株価の底上げは、労働者人民から集めた年金を投入して行っているが、世界経済が不安定な中いつまた「リーマンショック」のような事態が引き起こされるかわからない。資源もない、食料も輸入に頼る日本にあって、労働力という資源をいかに活用するのかに必死なのである。人間を資源としてしか考えない政府・資本家たちにとって「人権を尊重する」「労働者の権利を守る」「人らしく生きさせる」などということは桎梏でしかない。だから彼らは甘言を弄して労働者・市民を騙そうとする。
 また、同時に他国の資源を収奪する侵略によってしか活路を見いだせなくなっているのも事実である。それは、かつてのようにあからさまな侵略戦争だけではない。他国の経済と自然を破壊する原発や武器の輸出などが行なわれようとしている。自由主義経済の妨げになる紛争や混乱は、武力介入によって平定する。世界の憲兵のアメリカと一緒に、時にはアメリカになり代わって武装した兵士を他国に送り込む。これが「積極的平和主義」の中身だ。このために、憲法の解釈を変えて戦争法を成立させ、今自衛隊を南スーダンに送り込んでいる。しかし、安倍政権は、解釈を変えるだけでは飽き足らない。本格的な軍隊を「わが軍」として持ちたい安倍政権は、憲法を変えようとしている。憲法を変えるためには労働者・市民を安倍の下に従わせなければならないのである。
 「積極的平和主義」を掲げて軍隊を送りだす安倍は、かつての「大東亜共栄圏」を掲げて侵略戦争を行った政権と何ら変わらない。そして、ここに労働者人民を引きずり込もうとしている。ヒトラーは、疲弊したドイツ経済の立て直しを標榜しながらドイツの人民を戦争に駆り立てた。日本では、貧困にあえぐ農民・労働者を「満州は日本の生命線」「ABCD包囲網を断て」と煽り立て、アジア人民への差別排外主義をまき散らし侵略戦争に動員した。また再び、われわれは貧困からの出口を他国への侵略に見出そうとするのか。絶対に否である。先進的労働者に今問われていることは、戦争への道に労働者・市民を引きずり込むのか否かの安倍との組織戦である。
 安倍政権の繰り出す様々な政策。この政策のターゲットはぎりぎりところで必死に働いている労働者たちである。ある町工場の経営者は「仕事がない中で、いけないことだとわかっていても武器の部品や原発の部品を作らざるを得ない」と語っていた。町工場の労働者は「自分の作っているものが何になるのかなど考える余裕がない」「憲法とか戦争とか明日の飯のたねにならない話に付き合っている暇はない」とビラの受け取りさえ拒否する。こうした人たちが実は安倍政権を支えているのである。安倍が経済回復と語っても実感が持てない人たちさえ安倍を支持しているのである。「とりあえず今の政権に任しておくしかない」という消極的な支持や「お任せ民主主義」ともいえるような状況が今を創り出している。反戦平和のたたかいと労働者が人間らしく生き働くことは、同時一体的なものである。平和でなければ安心して働けないのはもちろんであるが、安心して働けることが実感できなければ平和を守る必然性も生まれない。「希望は、戦争」という言葉を労働者の口から出させてはいけないのである。

 ●六章 敵よりも一歩前に進むたたかいを

 労働者の現状は先にみたように、非正規労働者が増え、正規労働者は過労死ぎりぎりのところで働いているというものだ。今自分の置かれている現状に満足している労働者は少ない。彼らの怒りを引き出し組織することが今問われている。「保育園落ちた。日本死ね」というたった一人の女性労働者の「つぶやき」が広がり、労働者が子供を育てながら働ける環境を作ることが大きな政治課題となった。このように労働者は今を変える力を持っている。だからこそ「貧困・格差・差別」を許さない、戦争への道を阻止する行動を作りだし、人々の中にある怒りや現状を変えていきたいという思いを組織していこう。
 安倍政権の狙いは労働組合がたたかいの中軸になり変革していく構造の建設を阻止することである。だから、正規労働者があたかも非正規労働者に敵対しているかのように描きだそうとしている。竹中平蔵は「第一次安倍政権の時『同一労働同一賃金』を実現しようとしたが、正規労働者が既得権を守ろうとしたからできなかった」とうそぶいている。また、今まで行われていた「政労使」の会談を行わず、連合に対して「労働法制審議会に組合代表はいらない」などの恫喝をかけている。そのうえで、「連合」の屈服を迫っている。
 安倍首相は、一六年十一月十六日に開かれた「働き方改革実現会議」の中で榊原経団連会長に対して「今年も賃上げを」と要請したと報道されている。まさに「賃金を上げるのは安倍政権である」というようにキャンペーンを張っている。しかし、現実に行われることは、労働者の要求とは真逆のことである。安倍がウソとペテンの政策を行う前に、労働組合はそのことを暴露するとともに、「敵よりも一歩前に進むたたかい」「あきらめないたたかい」に決起していこう。具体的には以下のたたかいを行い安倍政権に実践的批判を突きつけていくことである。
 第一に、安倍政権の「同一労働同一賃金」のまやかしを暴露し、真の「同一労働同一賃金」を実現させるたたかいである。今、労働契約法二〇条を基に正規と非正規の差別待遇を問う裁判闘争が繰り広げられている。労働契約法二〇条では不合理な労働条件の格差を禁止している。郵政の職場では、正規職員には支払われているのに支払われていない「外勤手当」「年末年始勤務手当」「夜間特別勤務手当」などを巡って争っている。また、東京東部労組のメトロコマース支部も不当な賃金格差に対して裁判闘争をたたかっている。両裁判ともに今年度中には判決が予想されている。また、退職後の再雇用労働者に対して今までと同じ仕事をさせておきながら賃金を切り下げることに対してたたかわれた長澤運輸の裁判では、第一審において明確に「差別待遇」であるとの判決が出されたが、控訴審では、地裁の判決を翻した判決が下され、今最高裁へ上告している。裁判闘争勝利に向けてたたかおう。さらに、こうした正規と非正規の労働条件の格差は様々な職場に存在する。職場での点検行動を進め現場交渉をたたかい抜こう。
 第二に労働賃金の底上げを勝ち取っていくことも大切なたたかいである。「千五百円を目指し、どこでも誰でも今すぐ千円」という最賃制のキャンペーンは、最低賃金の二十五円の引き上げを実現させる原動力となった。われわれは引き続き要求実現に向けてたたかうとともに、改定後も最低賃金以下で働くことを強制する企業を一掃するために職場地域での活動を進めよう。また、最低賃金以下で働かせる奴隷労働制度である「外国人技能実習制度」を廃止させ、外国人労働者として受け入れ、権利の拡大を実現しよう。さらに、産業横断的な賃金制度を確立させ「労働ダンピング」を許さないたたかいや「公契約条例」を勝ち取ろう。
 第三に、介護労働者の職場では、安倍政権の「介護離職ゼロ」というアドバルーンとは裏腹に行われようとしている介護保険制度の改悪に対して、介護労働者を組織する労働組合を中軸に介護する家族、被保険者、事業者、NPOなどの団体が一緒になり「介護福祉総がかり行動」が行われている。二〇一五年度からの介護保険制度の改悪により介護報酬は実質4・48%ともいわれる金額が削減され、介護施設は二〇一六年一月〜九月に七十七件が倒産した。倒産件数は資本力の弱い中小に集中している。これ以上介護報酬が引き下げられたら事業所はやっていけないし、介護労働者の労働条件はさらに悪化する。安倍政権は、一月から始まる通常国会で介護保険の自己負担割合の増加や要支援サービスの一部で介護保険が使えないなどの更なる法制度の改悪を行おうとしている。こうした動きの中で、介護にかかわるすべての人々が団結して自治体交渉や厚生労働省交渉を行った。そして、この運動の中軸を介護労働者が担ったことの意義は大きい。差別・排外主義を許さず、障害者や介護される当事者・家族も巻き込み、共に現場の変革に向けて労働組合も立ち上がったのである。われわれはこうしたたたかいを更に推し進め職場地域からのたたかいによって安倍政権の目論みを粉砕していこう。
 第四に、安倍政権は「長時間労働を規制する」と言いながら、無制限、働かせ放題の「残業代ゼロ法案」(「高度プロフェッショナル制度」)や実労働時間ではなくみなし労働時間で賃金が支払われる「裁量労働制」の業務の拡大を行おうとしている。今は編集者やデザイナーなどの専門業務に限られている「裁量労働制」を、さらに「法人を相手にする一部の営業職」にも適用することが狙われている。具体的には、金融やITといった業種で、単に既製品を販売するのではなく、顧客のニーズを個別に聞いて商品を開発・販売するような、いわゆる「提案型営業」の職種が想定されている。この改悪が進められれば、様々な仕事に「裁量労働制」が広がる可能性がある。「残業代ゼロ」法と合わせて廃案に追い込もう。そして実効性のあるものへと「過労死防止法」を改正させていくたたかいを行おう。また、労働組合の重要な役割としてただ働きを一掃する「違法・不法な働かせ方」をやめさせるたたかいを職場生産点からたたかおう。
 労働条件を改善するのは労働組合に結集する労働者のたたかいである。ストライキも含む職場からの団結したたたかいを無数に起こそう。そして、個別企業やナショナルセンターの枠にとどまらず、全労働者階級のたたかいとして「貧困・格差・差別」を許さないたたかいで安倍政権のまやかしを吹き飛ばし、安倍政権を打倒しよう。



 

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