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   3・8国際女性デーを記念して

   
日本軍性奴隷制度問題の欺瞞的決着許すな

    安倍政権の進める「女性活躍推進」の破綻
         



 3・8国際女性デーは、クララ・ツェトキンによって提唱されてから百年以上の歴史を持っている。特にロシア革命の発端となった一九一七年ペトログラードでの女性街頭デモは記念すべきだ。この女性の革命的なたたかいに連帯し、世界各国で3・8女性デーはたたかい継がれてきた。
 女性同志による二つの文章を提起する。
 ひとつは、一昨年末の「『慰安婦問題』日韓合意」「少女像」をめぐる凄まじい差別排外主義攻撃を弾劾し、そして、世界=日本に加速的に蔓延する差別排外主義とのたたかいが女性の解放運動にとっても重大なたたかいであることを提起している。
 もうひとつは、安倍政権の「女性活躍推進」の破たんを実証的に批判するものだ。「産む性」である女性が「産む」ことを自由に選択できない、あきらめざるを得ない結果としての「少子化」。格差と貧困、労働環境の女性差別構造のなかで、どうして「女性活躍」などできようか。女性の怒りは広く堆積している。この怒りを共にし、解き放つたたかいをつくろう。

 
●論文1 「平和の少女像」設置に対する日本政府の対抗措置を弾劾する

 昨年末の十二月二十八日、韓国釜山の市民団体が日本総領事館前に「平和の少女像(以下、少女像)」を設置した。十二月二十八日は、一昨年末に安倍晋三首相が朴槿恵政権との間で日本軍性奴隷制度問題の欺瞞的「政府間合意」を発表したその日である。「合意」の内容は、日本政府が十億円を韓国の財団に渡し、財団が被害者に現金を支給するというもの。その条件として「ソウルの日本大使館前の少女像をなんとかしろ」ということや、「最終的不可逆的な決着とする」(=蒸し返さない)ことを韓国側に迫るという、全くもって許しがたいものであった。被害当事者の意思や韓国民衆の民意を無視した金銭決着に、韓国内では「朴槿恵は十億で国を売った」と怒りが爆発した。ましてや歴史修正主義の代表として被害者に敵対し続けてきた安倍晋三の条件付き「謝罪」など、とうてい受け入れられるものではなかった。韓国・日本、さらには世界各地において「日韓合意」弾劾! 怒りの抗議行動が取り組まれたことは記憶に新しい。その後の韓国の世論調査では、合意の破棄を求める人が59%で、維持を求める25・5%を大きく上回った。その一周年である十二月二十八日に釜山の市民・学生らが起ち上がり、新たな少女像設置を挙行したのであった。
 日本政府の対応は、その本性と「日韓合意」の本質を如実に示すひどいものであった。釜山の少女像設置は「極めて遺憾である」と抗議し、(ソウル日本大使館前の少女像も含め)すぐに撤去せよと求め、@長嶺駐韓大使・森本釜山総領事らの一時帰国(未だ継続中)、A釜山総領事館職員の釜山市関連行事への参加見合わせ、B日韓通貨スワップ協議の中断、C日韓ハイレベル経済協議の延期、など四項目の対抗措置をとると韓国側に伝えたのだ。日本のマスメディアは政府に追随した報道を垂れ流し、「日本は十億円を既に拠出している。まるで『振り込め詐欺』だ」などと韓国への非難へと民衆を巻き込もうとしている。朴政権の瓦解が今回の事態を生み出したかのような、そして韓国政府と韓国民衆に一方的に非があるような論調に終始した。ネット上の書き込み等に見る人々の反応は、目を覆いたくなるようなものばかりである。
 そもそも釜山の少女像建立を市民・学生が計画したのは、一昨年の「合意」直後であり、安倍の図った「合意」こそが日本と韓国民衆の関係悪化を決定的なものにした帰結なのだ。キャンペーンされている経緯とは全くもって真逆とも言える。そして日本政府・メディアが「十億円を支払ったのに」と主張する「合意」内容についても、まるで認識が異なっている。「日韓合意」後に韓国で設立された「和解・癒やし財団」に日本政府が昨年八月に十億円を送金したことを受け、韓国政府は圧倒的な反対世論、なにより被害当事者であるハルモニ達からの強い抗議があったにも関わらず、(生存する被害者四十六名中三十六名に対し)現金支給を強行した。安倍政権が十億円を「賠償ではない」と繰り返し述べたにもかかわらず、韓国政府と「和解・癒やし財団」は「賠償にあたるもの」だと被害者たちを欺いて、受け取りを迫ったのだ。「日韓合意の約束不履行」を言うならば、安倍首相が「(謝罪の手紙など)毛頭考えていない」と表明したことはどうなのだ! 日韓合意に公式文書の交換は行なわれておらず、日本政府が「謝罪も賠償もするとは言っていない」と居直るならば、韓国政府だって「少女像を撤去・移設する」とは明言していないのだ。お金と「少女像の撤去」にばかり固執し、恥ずべき対応を重ねているのは日本政府である。
 さらに日本政府は「少女像設置とそれを黙認している韓国政府」が、「ウィーン協約第二十二条二項――接受国は、(中略)公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する――に違反している」との主張を振りかざしている。少女像が「不気味だ」「不快だ」、日本の大使館を、日本の男を、日本国民を「侮辱している」存在だと騒ぐネトウヨどもに、政府がお墨付きを与えたのだ。右翼・排外主義者らがそのようにしか捉えられない少女像とは、そもそも二〇一一年に、当時で二十年千回も重ねられてきた水曜デモを記念した「平和の碑」として建てられたものだ。若い頃に家族や故郷と引き離され、無理やり「慰安所」に連れて行かれたハルモニたちのかつての姿、謝罪どころか敵対し続ける日本政府を前に固く握りしめられた膝の上の拳、無念のうちに亡くなったハルモニたちのために空けられた隣の椅子。多くの人々が少女像に寄り添って座り、帽子やマフラーを届けながら、ハルモニたちの痛みに思いを寄せ、「慰安婦問題」の真の解決を願ってきたのだ。その後少女像は韓国内にはもちろん、アメリカ・カナダ・オーストラリア・中国などに次々と建立され続け、今や五十体を超えると言われている。世界中の人々がハルモニと願いを共にしようとしている中で、日本だけが少女像=ハルモニたちを、拒み侮辱し続けているのだ。
 加害国としてあるまじき姿勢に、ハルモニたち、韓国民衆の怒りは頂点に達している。日本政府は「合意」をすぐさま破棄し、「私たちはお金ではなく、日本政府の謝罪を受けたい」と望むハルモニたちに真摯に向き合うべきである。日本軍隊「慰安婦」としてアジアの女性たちに筆舌に尽くしがたい苦痛を与え続けた歴史を認め、心から謝罪し教訓とし、二度と繰り返さないことを誓わない限り、「解決」などありえない。安倍政権にそれらを望めない以上は、ハルモニたちの怒りに応え安倍政権を打倒することこそが、われわれ日本人の責任である。安倍政権の居直りを許さず、そして新たな侵略戦争を決して許さず、共に全力でたたかおう!

 ●1章 差別排外主義の蔓延・跋扈を私たちは許さない!

 安倍政権下での日本国内においてはいうまでもなく、世界中で差別排外主義が蔓延している。アメリカでドナルド・トランプが大統領選に勝利した背景には、既に全土を覆う差別排外主義の蔓延があったのだが、当選直後にはトランプ支持者らによるマイノリティへのヘイトスピーチ・ヘイトクライムが全米各地で爆発的に発生した。黒人、ヒスパニック、イスラム教徒、ユダヤ系、アジア系、性的マイノリティ、女性達が、肉体的な被害にあったり、民族主義的な落書きの標的にされたりしている。特にイスラム教徒の女性たちはヒジャブを被って過ごすことから、ヘイトクライムのターゲットとされることが多い。大変な恐怖の中で日々暮らし、身を守るために信念を曲げてヒジャブに代わり帽子を被ることにした女性もいる。それまでもさんざんテロリスト呼ばわりされたり、人種差別的な罵声を浴びせられ続けてきた彼女らにとって、絶望的な日々であろう。マイノリティや女性に対する蔑視暴言を繰り返しながらも支持を集め当選したトランプ大統領のもと、移民・難民に対する排除政策が公然と打ち出され、世界中に波及しようとしている。
 われわれは決してヒラリー・クリントンを支持するものではないが、アメリカの多くの女性が「初の女性大統領」ではなく、ヘイト王トランプを望んだことは軽視できない。「(女性としての)自身がどう扱われるか」よりも、「マイノリティを憎悪・排除する」ことを重要視し選択したのだ。それが女性たちにどのような結果をもたらすかを考えてもなお、トランプを選んだのだ。
 安倍政権を支持し続ける日本においても同じことが言えるのではないだろうか。しかも、トランプは大統領就任前から不支持率が支持率を大きく上回る不人気ぶり、「認めない!」と訴える大規模なデモ行進が連日たたかわれているのに比べて、安倍政権の支持率は先に述べた「釜山少女像問題」の対応で67%(JNN―ジャパン ニュース ネットワーク)に上昇しているという恐ろしい状況だ。
 多くの日本「国民」が「少女像問題」を機に、またも韓国人を「非難」に名を借りた蔑む動きへと大きく流されようとしている。その責任は、韓国人・韓国政府にあるのでは決してない! また、極右夫妻が経営するアパホテルが、南京大虐殺や日本軍隊「慰安婦」強制連行の歴史を否定し歪曲する書籍(代表の元谷外志雄が執筆した「本当の日本の歴史『理論近現代史学U』」)を各客室に配置していたことに対して、中国の人々、続いて国内の良識ある人々から抗議が殺到している。アパグループは「撤去しない」と居直り、発覚後書籍は飛ぶように売れているという。「また言っている」のは日本の歴史修正主義者らの方なのに、中国・韓国・アジアの人々が「また騒いでいる」と攻撃し蔑むメディア。その繰り返しで、安倍政権が掲げる「戦後レジームからの脱却」は恐ろしい勢いで日本人に浸透しているのだ。アジアの人々と向き合い共に豊かに生きる道を閉ざし、自ら孤立と閉塞、そして侵略戦争への道を突き進む安倍政権をこれ以上維持させてはいけない。
 二〇一六年六月、不十分かつ様々な問題点はありながらも「ヘイトスピーチ対策法」がようやく成立・施行された。在特会をはじめとする差別排外主義者らは、東京・新大久保や大阪・鶴橋、川崎・桜本地区などの在日コリアン集住地区に対するヘイトデモを繰り返し行い、在日の人々が「本当に殺されるのではないか」と感じるほどの「憎悪」を撒き散らし脅迫してきた。川崎・桜本地区では、在日コリアンに対して「ゴキブリ」「朝鮮人を殺せ」などと叫ぶヘイトデモが十回以上も繰り返されてきた。敢然と起ち上がった川崎のオモニ達とオール川崎の市民が、国会を動かし、川崎市を動かし、ついにはヘイトデモを中止に追い込んだ。
 ヘイトスピーチは、対策法の対象からは除外されている沖縄の人々(辺野古や高江のたたかいに対する襲撃や、機動隊員らによる「土人」「シナ人」発言など)、被差別部落民(「全国部落調査」復刻版を出版、ネットに公開し続けている鳥取ループ示現舎事件など)、困窮を訴えた生活保護家庭の女子高校生がネットで袋叩きにあった事件や、福島の避難者などに対しても行なわれている。福島から避難した家族の子ども達が、名前に「菌」をつけて呼ばれる、「賠償金をもらっているんだろう」と金品を要求される、などの深刻ないじめを受けていることが相次いで発覚した。政府の対応や大人の差別意識が反映したものに他ならない。全ての人々が生きづらさを抱える中、他者を貶め攻撃するあらゆる差別行為が、かつてない勢いで社会に溢れようとしている。女性が男により全く理不尽に虐殺される事件、性暴力事件・ハラスメントも再び増加している。
 そして昨年七月、戦後史上最も悲惨なヘイトクライム事件が起きた。「津久井やまゆり園」で障害者十九名が殺害され、二十七名が負傷した「相模原事件」だ。加害者は、二十万人以上の障害者を虐殺したドイツ・ナチスの優生思想に傾倒し、「ヒトラーの思想が降りてきた」「重度障害者は生きていても仕方がないので、安楽死させた方が良い」などと語っている。弱者を切り捨て国家と経済を優先する安倍政権の意志を代行する執行者であることも主張している。彼の主張に真っ向から対決する姿勢を抜きに、情報を垂れ流したマスメディアもまた許し難い。この事件により、多くの障害者が「自分が殺されていたかもしれない」「自分の生命・尊厳も否定された」ことに怒り、悲しみ、恐怖し、深く傷つけられた。そして「死ね」「殺せ」と罵るヘイトスピーチの対象にされてきた全ての人々、彼らと共に生きようとする全ての人々にも、大きな衝撃を与えた。
 ここで訴えたいのは、優生思想やレイシズムとの対決抜きに、そしてあらゆる差別の根絶を抜きに、女性の解放・女性差別の撤廃はあり得ないということだ。障害者差別と女性差別は密接につながっており、女性差別は障害者差別を、障害者差別は女性差別を成り立たせる大きな要素になってきた。直接手を下して障害者の出生を阻む役割を担わされてきた女性たち、障害を持つ子どもを出産したことにより夫や夫の家、社会から責められてきた女性たち……出生と育児の全責任が女性だけに押し付けられてきた。しかし七〇年代以降、女性たちは果敢に論議し、羊水チェック反対などをたたかってきた地平がある。福島原発事故以降は、被曝者差別の底流にある障害者差別と対決していこう、と議論が重ねられてきた。
 戦前・戦中における、国力・戦力としての人口を増やす政策と一体となった優生政策が、今また復活しようとしている。「相模原事件」は突出した加害者彼一人によるものではなく、こうした社会的背景が引き起こしたものである。われわれは犠牲者の無念を決して忘れることなく、共に障害者差別・優生思想と対決していかなければならない。障害者と、障害者の母親を「不幸」にはしない社会を実現しなければならない。
 あらゆる差別によって女性が分断されたままでは、女性としてだけの解放など実現はしない。差別排外主義と真っ向から対決し、共にたたかおう!

 ●2章 忘れない! 米軍属による沖縄女性暴行殺人事件

 二〇一六年四月に沖縄県うるま市で発生した、元米海兵隊員・米軍属による女性暴行殺害事件からまもなく一年が経とうとしている。加害者の弁護人は「(反基地感情高まる)沖縄県内では、公平な裁判が期待できない」として、東京地裁での審理を求める請求をしたが、最高裁がこれを棄却。那覇地裁で裁判が行なわれることとなり、この三月ようやく公判前整理手続きに入る予定だ。被告は「強姦致死」を認める方針、「殺人」については否認しているという。
 一九七二年の「本土復帰」から二〇一六年までの四十四年間で、米軍関係者による犯罪は五千九百十件、凶悪事件は五百七十五件にのぼる。一九九五年に起きた米兵による少女暴行事件により、在沖米軍の撤収と日米地位協定抜本改定を求める、沖縄―「本土」を貫いたたたかいが燃え広がり、それは辺野古新基地建設阻止・高江オスプレイパッド建設阻止のたたかいへと脈々と受け継がれてきた。そうした中で、またも沖縄女性が犠牲となったのだ。
 六月那覇市で行なわれた怒りの県民大会には六万五千人が参加し、日米両政府に海兵隊の撤退要求を突きつけた。オール沖縄会議共同代表の一人である女性は「安倍晋三さん、本土にお住まいの皆さん、加害者はあなたたちです。しっかり沖縄に向き合ってください」と涙ながらに訴えた。また翁長知事は「被害女性に対して『守ってあげられなくてごめんなさい』という気持ち。一九九五年の県民大会で『二度と起こさない』と誓った事件を再び起こしたこと、知事として痛恨の極み」と語った。沖縄の叫びに対し、日米両政府は「再発防止」と「綱紀粛正」を口にしただけで、なんら責任をとっていない。政府は「県」内の犯罪抑止策として、青色パトロールカーを百台に、「県」警を百人増員することをPRしたが、なんら対策になどならないことは明らかだ。この増員された警察官が高江の弾圧にふり向けられているのだ。
 それどころか日米両政府は、沖縄に更なる犠牲を強いるべく辺野古の海に、高江の森に、沖縄の人々に、「粛々と」暴力をふるい続けてきた。家族や友人の多くが命を奪われる中で奇跡的に生き残り、米軍に支配される沖縄で、戦中・戦後の長きにわたり苦しみ続けてきたオジイやオバアたち。娘や孫・ひ孫のような沖縄の女性たちが、米兵の性暴力にさらされる事件を幾度も見聞きしながら、どのような気持ちで年を重ねてきたのだろうか。そんなオバアたちにも、警察権力は容赦なく襲いかかった。その過程で起きたのが、大阪府警の機動隊員による「土人」発言だ。
 「そんなことを言う若者がいるのか」と耳を疑った「土人」発言は、大阪府警の機動隊員らに日頃からある根深い差別意識が表出したものだった。大阪ではかつて一九〇三年に開かれた博覧会で、アイヌ・朝鮮人・台湾高砂族らと共に沖縄の女性二人が見せ物として「展示」される「人類館事件」が起きた。百年以上前の事件を知っているとも思えぬ若い機動隊員らにも、当時から綿々と続く沖縄人民への蔑み、差別意識が警察組織の内部でこそ受け継がれてきたのだ。それは沖縄を力づくで支配する対象、土地も命も差し出させる植民地として扱い続けてきた、日本政府の意識が反映したものに他ならない。
 私たちは「土人」発言を決して許さない。沖縄の女性を犠牲にすることを許さない。「加害者はあなたたちです」と突きつけられた沖縄の女性からの叫びを忘れない。共に、辺野古新基地建設阻止・高江オスプレイパッド建設阻止を全力でたたかおう! 戦争への道を突き進む安倍政権を打倒しよう!


 
■論文2 日帝足下の女性を取り巻く状況、貧困・格差拡大、少子・高齢化

 安倍政権は「成長戦略」の経済政策の柱として、「女性の活用」「女性が輝く社会」の実現を打ち出し、二〇一五年秋には「女性活躍推進法」を成立させた。しかし、今年に入っても女性を取り巻く状況や展望のなさなど、変化どころか明るい兆しすら見えてきていない。
 今の女性たちの、とりわけ若い世代の女性たちの状況を、結婚や出産なども含めながら概観し、貧困・格差の拡大の実態や大きな社会問題とされている少子・高齢化の原因を詳しく見ていきたいと思う。

 ●1章 少子化は未婚化・晩婚化の原因

 少子・高齢化が社会問題として取りざたされるようになって久しい。安倍政権もこの問題については「成長戦略」の重要な柱として政策を打ち出しているが、二〇一五年の合計特殊出生率は1・45で、前年比で若干の増加があったものの(一四年は1・42)、回復の兆しとも取れない程度である。「そんなにすぐには効果があるものか」との声もありそうだが、安倍自身が二〇二〇年までに合計特殊出生率を1・8までに引き上げるとしており、期限となる二〇二〇年まであと三年しかないのだ。
 このお寒い状況を受け、一六年十二月閣議決定された一七年度予算案での子育て支援の具体策として、@待機児童の解消・保育人材確保、A女性・若者の活躍推進、B総合的子育て支援の推進、の三つを挙げている。これらの案が全く功を奏さないとはいわない。例えば、子供の出産の過程で会社を辞めた人に対し、どのような状況ならば仕事を継続していたと考えるかというアンケート(内閣府男女共同参画局による一三年「ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査」)では、仕事を辞めた女性の55%もが「認可保育園・認証保育園等に子どもを預けられれば(仕事が続けられた)」と答えている。@の政策などによって、働きながら子を産み育てる環境が整備されれば、出産に踏み切れるカップルも増えるかもしれない。
 しかし、日本における少子化の大きな要因は未婚化・晩婚化であるといわれている。日本は婚外出産の率が一貫して低いので、やはり少子化は結婚していない人が増えていることと、結婚していても子どもをあまり作らなくなっていることによって進んでいるといえる。詳細は第二章で書くが、これには日本における女性の労働の現状、「働き方」など経済的要因が大きく影響している。端的にいえば、いまだ根強い性別役割分業に基づく女性の労働を補助労働とみなす結果の男女間での賃金格差、不安定雇用化という女性の労働条件の悪さがあり、さらに「女性の社会進出」で求められる「働き方」が男性と同等、つまり仕事に関する三つの無制限性、職務内容・勤務地・労働時間の無限定性を受け入れることだとされるという現状が、結婚を考えられない、結婚できない社会を生み出しているのである。かつ、現代日本企業における総合職には、電通事件に見られるように、殺されるような過酷な労働を強いる実態があるのだ。
 そうであるならば、女性の労働条件の改善、ひいては男性も含めた労働者の「働き方」の転換がなければ、未婚化・晩婚化はとまらず、少子化にも歯止めはかからない。安倍政権の掲げる少子化対策がまったく不十分だということは伸び悩む合計特殊出生率の数字が表している。

 ●2章 原因としての「女性が輝けない社会」

 少子化・未婚化は国際比較の観点からみても、女性の社会進出(雇用率や所得の上昇)によって引き起こされているという仮説が一般的である。しかし、社会進出が進んでも出生率低下を克服している国もある。顕著な例はスウェーデンとアメリカである。
 スウェーデンは女性の雇用条件をみると圧倒的に公的なセクターに雇用されている。所得を得ている女性の約五割にのぼる。これによって女性が結婚・出産後もそれなりに高い賃金で長く仕事を続けることが出来ている。逆にアメリカでは民間雇用が圧倒的だが、民間主導による柔軟な働き方の導入により、スムーズな転職、スキル転換の機会が多く、女性が出産を機に一度仕事を辞めてもある程度条件の良い仕事に復帰でき、賃労働と子育ての両立もしやすい(※1)。全世界的な経済の不調による男性の雇用の不安定化の際には、このような女性の側の雇用の安定化や長期的な労働力参加が可能な労働市場の確立は「共働きによって生計を維持すること」を選択する大きな要因になる。
 では、日本はどうだろうか。日本も欧米諸国と同様に経済の不調によりいまや男性、若年層の雇用も不安定化し、賃金も伸び悩んでいる。しかし、女性が共働きしても、その働き方の大多数はパートであり、賃金も低く抑えられているために満足のいく生活を維持できない。また、前述したように、出産した女性にとっては仕事と家庭を両立していけること自体も依然として厳しい現状だ。このために、多くの若者が結婚自体を控える選択をしているのだ。
 図1で見られるように、正規の職員・従業員が雇用者全体(役員を除く)に占める割合を男女別に見ると,女性は一九八五年に67・9%であったが,二〇一四年には43・3%にまで減少している。男性についても、一九八五年は92・6%であったが、二〇一四年には78・2%に減少している。代わりに、男女ともパート・アルバイト等の非正規雇用者の割合は上昇し、特に女性のその割合は二〇一四年には56・7%、過半数を占めるに至っている。女性労働者は六〇年代からパート労働という形態が定着させられてきたが、一九九九年の労働者派遣法の改悪による派遣対象業務の大幅な拡大によって、派遣・契約・嘱託といった雇用形態も急増した。景気悪化の下で、女性の正規職労働者はリストラの標的となり、その穴埋めとして導入されたのが非正規の女性労働者だった。
 一九八五年に制定された男女雇用機会均等法は、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者の母性が尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることを理念として掲げ、策定されたはずの法律である。しかし、この均等法の制定も女性の非正規化に歯止めをかけることはなかった。それは、日本企業において基幹労働力として採用される者は職務内容・勤務地・労働時間の「無限定性」を受け入れることを要請されるからである。仮に、企業が募集・採用・配置においては男女の差別なく行っているとしても、総合職の採用に転勤要件を設けるなどすることで、結果的には総合職は男性が、一般職は女性がという性別分業が成り立ってしまうことを均等法は禁止していない。また、そもそも転勤あり、残業あり、職務内容にも限定がないため負担が大きい、といった働き方を何とかこなすには、私生活をサポートする存在がなければこなせるものではない。そのサポート役を女性が担わされてきたのである。逆に女性たちはそのようなサポートを望めない。それによって女性は基幹労働力から排除され続けてきたのだ。これまでの日本政府の両立支援政策も「出産・育児期には配慮せよ」というものでしかなく、均等法を含め、政府は一貫して従来通りの男性的働き方のなかに女性を組み入れようとしてきたために、女性は働くことをいろいろな面で諦めるよりなかったのだ。
 では、現在の安倍政権下での女性の労働政策はどうだろうか。
 女性活躍推進法は、国や地方公共団体、労働者が三百一人(一年以上継続して雇用している非正規社員を含む)以上の大企業には、@自社の女性の活躍状況(女性採用の割合や役員の割合)を把握し、課題分析を行うこと、A行動計画の策定、届出、社内通知、公表を行うこと、B自社の女性の活躍に関する情報を公表することが義務付けられる(労働者が三百人以下の中小企業には、努力義務のみ)。しかし罰則規定はないため、実効性は保証されない。前述したように、これまでの日本の労働現場における「社会進出」は「男性並みの労働」を受け入れられることのみを指していた。それは推進法によっても是正されたわけではない。先にあげた内閣府男女共同参画局による「ワーク・ライフ・バランスに関する意識調査」(図2)でも、第一子出産によって仕事を辞めた女性の理由の一位は「認可保育園・認証保育園等に子どもを預けられれば」、以下、「短時間労働など、職場に育児との両立支援制度があれば」、「職場に仕事と家庭の両立に対する理解があれば」、「休暇が取りやすい職場だったら」が続いている。制度的、そして社内の雰囲気的に、仕事と家庭(育児)の両立に関する理解・対応が成されておらず、それが原因で辞めざるを得なかったことになる。理解といえば、少々数値は落ちるものの(それでも二割近くは居る)「職場で妊婦や育児に関する嫌がらせが無ければ」という、深刻なマタニティハラスメントを理由とする回答もあり、政府が政策によって旗を振れども、「働き方」自体の見直しや改革に手がつけられないままで、「現場は踊らず」の状況である。
 他のアンケート結果でも、この現状は如実に表れている(しゅふJOB総研『女性活躍推進法』『働く女性の二〇一六年』アンケート)。推進法制定直前の一六年三月に行われたアンケートでは「女性活躍推進法によって女性がより活躍できる社会になることに、あなたはどれくらい期待していますか?」の問いには63%が「期待していない」と答え、「どのような変化が起きると思いますか?」の問いにも54%の女性が「法律が出来ただけで何も変わらない」と答えた。事実、施行後の一六年十二月に行われたアンケートでは「女性の活躍推進が掲げられるようになって『女性が働きやすくなった』実感はありますか?」という問いには「実感がない」と答えた女性が78・3%にのぼっている。活躍推進法制定前の前年に比べても6・9%も増えているのだ。同じく二〇一七年がどのような年になるかについても、「特に変わらない」との趣旨の回答が多数あった。
 「成長戦略」の柱として、「女性の輝く社会」の実現を掲げ肝いりで出されたはずの女性活躍推進法だが、労働者に求められる働き方の改善が手つかずのままの今の段階では男女雇用機会均等法と同様、女性の労働現場の現状の改善には結びつかず、ひいては女性の労働への意欲を削ぎ、将来への展望の薄さを強める結果としかなっていないのだ。

 ●3章 増加する非正規雇用労働者と若者世代の苦難

 いまや、若年の男性さえも非正規雇用が増加しつつある。さらに現在は、非正規労働者は低い賃金で正社員並みの働きが要求される場合が少なくない。スーパーマーケットはパート労働の典型的な職場だと考えられているが、レジ打ちといった定型的作業のみならず、商品陳列や仕入れといった、ある程度の判断力が要求される非定型業務をパートに任せることが増えている。学生アルバイトでさえ、シフト作りやクレーム処理といった責任の重い業務まで担わされる場合が多い。パート・アルバイトはいまや安い賃金や低待遇にもかかわらず、職場や業務への一定の(あるいは過重な)責任さえ担わされているのだ。
 例えば、そんな中で非正規同士の男女がパートナーを見つけ、結婚に踏み切ったとして、非正規同士のカップルでは共働きをやめることはできないし、子どもを望んだとしても、そのハードルは高すぎるといえる。
 非正規の女性にとって妊娠・出産の際の長期休暇の取得は、ほとんど仕事を辞める選択に直結するし、それ以前の体調の変化や検診などでの欠勤や半休でさえ、そうそう取れるものではない。企業内におけるマタニティハラスメントは深刻で、育児休業を利用したあとに職場に復帰した割合は、正社員で43・1%、派遣・パートなどの非正規社員ではわずか4%にすぎない。男性の側が正規職でなければ、その家計は女性の賃金がなければ成り立たない程度のものであり、女性の妊娠・出産→休業=家計の崩壊をも意味してしまう。これから一人に平均三千万円ともいわれる育児・教育費でさらにお金が必要であるのに、それ以前に生活が成り立たなくなってしまうのだ。
 子どもを望んでも恵まれない場合も顕著だ。最近政府は少子化対策の目玉の一つとして不妊治療の助成金を出すようになったが、それでも多額の費用がかかり、また助成金は後払いのため手持ちがなければ受けることはできない。経済的負担と同時に、体のサイクルに合わせて通院をしなければならない時間的制約や肉体的・精神的な負担も著しいため、正規職の共働き家庭においても子どもを諦めるカップルが少なからずいるが、男性が、あるいは両方が非正規職であるなら尚更この負担に耐えることは困難だ。
 両方が非正規雇用で生計を立てているカップルを特異な例として考えないでほしい。確かに今はまだ、男性非正規といえば退職した後の高齢男性による再雇用などの比率が多い。しかし、二〇一五年現在で最も子どもを産んでいる年代は三十代(厚生労働省の人口動態調査における人口動態統計より)で、それは先に触れたように、経済的に安定するまで結婚や妊娠・出産を控えようとした結果として未婚化・晩婚化が進むのと並行して高齢出産状況も進んできたのだが、あるアルバイト情報誌の調査では、この三十代でさえ「正社員で働いた経験がない」割合が35・3%にのぼるという結果がある。世代別の正規職と非正規職の比率からみてとれるのは、近年進んでいるのは若年層の雇用、特に正規雇用が削られ、少しずつ非正規が増え、若年の正規雇用の穴埋めには高齢層の非正規があてがわれているという状況なのだ(二〇一六年総務省統計局の労働力調査による)。若年層の「正社員で働いた経験がない」割合はこれからも上がり続ける可能性は高い。そうなったら、非正規同士のカップルによる結婚や妊娠・出産ももっと一般的になるだろうし、そのカップルたちは今まで当たり前に営まれてきた多くのことを諦めざるを得ないのである。

 ●4章 最後に

 社会福祉や福利厚生の負担を政府や企業が負わずに済ませるために、出来うる限り家族にその負担を担わせ、増加し続ける高齢世代を支えさせるために、日本政府・財界は少子・高齢化が深刻なこの国の課題であると喧伝してきた。しかし、実際に今の多くの女性が子どもを産めないのは、まさにそのような国や企業が本来担うべき負担のしわ寄せを女性に強いてきたからに他ならない。政府・財界がいう「少子・高齢化問題」と私たち女性が抱える「産みたくても産めない」という「少子・高齢化問題」は別物であり、だからこそ、その解決として出される政策はどこまでも的外れで、女性の怒りを買うだけの代物であることも多い。
 労働においても、使い捨てや雇用の調整弁として、不安定で低賃金のパート・アルバイトに甘んじるか、あくまでもこれまでの男性正規社員と同じ働き方を受け入れるかという二者択一によって、女性は基幹労働力から排除され続けてきた。本文では触れなかったが、性別役割分業を維持する企業の体質や政策によって、男性の意識にもこの性別役割分業の意識が色濃く残っている。今、賃金が伸び悩む男性にとっても、パートナーとなる女性に稼いでほしいという希望は増えてきているが、しかし一方でその労働は家事・育児・介護といった家庭内での労働をこなした上でのことが前提であることはまだまだ多い。労働環境の不均等によって、「長期的に、共に家計を支えていく」という発想が持てないでいるのだ。そのため、女性の稼ぎは男性の稼ぎの補助だという意識は根強く、その分夫婦間での家事分担も進まない。たとえ男女がおなじ時間働いていても男性より女性の方がより多く家事をこなしているし、育児や介護といった時間と労力を多分に割くしかない場合、(男性と同等程度働いてきたにもかかわらず)女性の方が仕事を辞めることが当たり前のようにされている。企業や政府に限らず、このような男性の側の意識、社会全体の意識の変革が必要だろう。
 労働に関してさまざまなものを諦めさせられてきた女性は、不安定な非正規雇用と賃金格差のもとでの労働に甘んじるしかなく、それによる経済的要因によって多くの若い女性が結婚や出産をも諦めさせられている。言うまでもなく「活躍」の仕方は人それぞれ、幸福も人それぞれだ。誰しもが長期にわたってバリバリ働くことを望むわけでもないだろうし、結婚して子どもを産むことだけが女性の幸福の形ではないだろう。また全く別の幸せのあり方もあるだろう。しかし、今の日本では、そのどの道もが塞がれてしまっているような状況に感じる。「展望のなさ」が蔓延していて、女性が今の社会を「生きづらい」と感じるのは当然である。現在の日本は「女性が輝く」「活躍する」社会とは眩暈がするほどに程遠い。

※1 しかしこの状況を生み出すために、アメリカでは安価な生活サービスを提供する、主に移民労働者からなる大量の低賃金労働者を生み出し、その格差と貧困の固定化という大きな問題を抱えている


 

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