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   現代版治安維持法=共謀罪制定を阻止しよう!

   
戦争国家化―憲法改悪に突き進む日帝―安倍打倒
            




 三月二十一日、安倍政権は共謀罪を新設するための「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(組織犯罪処罰法)改定案を閣議決定し、ただちに国会に上程した。組織犯罪処罰法(一九九九年制定)とは、組織的な犯罪の処罰を重罰化する法律である。例えば組織犯罪処罰法が適用されれば、通常は三年以下の懲役または五十万円以下の罰金である威力業務妨害罪は五年以下の懲役または五十万円以下の罰金、通常は三月以上五年以下の懲役である逮捕・監禁罪は三月以上七年以下の懲役となる。ここで言う団体にはいわゆる暴力団だけではなく革命政党はもとより、労働組合や市民団体なども含まれる。組織犯罪処罰法はそもそも治安弾圧立法として制定されたものであった。安倍政権は、この組織犯罪処罰法のなかに共謀罪を新設し、治安弾圧体制を飛躍的に強化しようとしているのだ。秘密保護法制定、安保関連法(戦争法)制定に引きつづく戦争準備の重大な攻撃である。安倍政権は二〇一五年の戦争法反対闘争、沖縄反基地闘争、反原発闘争の全人民的高揚におそれをなし、それを反革命的に総括して、参戦強行と天皇代替り攻撃の前に共謀罪成立を何としても強行しようとしているのだ。
 共謀罪制定阻止を全人民的政治闘争の課題へとおしあげ、何としても廃案に追い込んでいかねばならない。なお、安倍政権は「これまでの(三度廃案になった)共謀罪とは違う」として「テロ等準備罪」という名称を用いている。また、この法案では「共謀」という用語はすべて「計画」に置き換えられている。しかし、上程された法案はこれまでの共謀罪と本質的な違いはない。したがって本論文では共謀罪という表現を用いている。

  ●1章 これまでの経過

 日本の刑法の原則は、罪刑法定主義(犯罪はそれを犯罪行為と規定し、罰則を定めた法規が存在する場合にのみ犯罪として処罰されること)にもとづき、既遂(すでにおこなわれた)実行行為を処罰の対象とすることである。これはまた、近代刑法の一般原則でもある。後者の既遂処罰の原則はさまざまな犯罪に予備罪・未遂罪などが設定されることによって、かなりの程度まで侵害されてきているが、それらはあくまで例外的なものであった。
 共謀罪とは、この刑法の原則を覆し、いまだ実行されていない行為の共謀・準備をも広く犯罪として処罰することを可能にするものである。まず、これまでの経過を簡単に振り返っておこう。二〇〇〇年十一月十五日に、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(国際組織犯罪防止条約=パレルモ条約)が国連総会で採択された。この条約は、マフィア撲滅を推進したイタリアの判事ジョヴァンニ・ファルコーネが一九九二年にマフィアに爆殺されたことを契機として、イタリア政府が提唱したものであった。その経過からも明らかなように、この条約はマフィアなどの国際的な犯罪の取り締まりを主要な目的とするものであった。しかし、自民党政権はパレルモ条約を意図的にテロ対策のための条約だと読み替え、すでに日本政府としての署名(二〇〇〇年十二月)と国会承認(二〇〇三年五月)が終了しているにもかかわらず、同条約の批准のためには国内法(共謀罪)の制定が必要だとして条約の批准手続きをとってこなかった。すなわち、共謀罪の新設という治安弾圧の強化のために、パレルモ条約を無理やりに利用しようとしてきたのである。
 こうして自民党政権は、小泉政権時代に〇三年、〇四年、〇五年と三度にわたって共謀罪を国会に上程した。しかし、日本弁護士連合会が一貫して反対し、広範な反対運動が取り組まれ、三度とも廃案となった。とりわけ三度目の上程時には、自民党は民主党の修正案を丸呑みするという態度をとり、成立寸前まで行ったが労働者人民のたたかいによっておし返すことができた。
 安倍政権は、このような経緯を教訓として、いま不退転の決意で共謀罪を成立させようとしている。安倍政権は「テロを防止して二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックを開催するためにはパレルモ条約の批准が不可欠」であり、そのためには共謀罪の制定が必要だと「テロ対策」を前面におしだしてきた。そして、共謀罪を「テロ等準備罪」と言い換え、あたかもこの法案が「テロリズム集団」だけを対象としているかのように偽り、何としても共謀罪を成立させようとしているのだ。安倍政権によるこのごまかしについては、第三章であらためて批判する。

  ●2章 共謀罪の危険性

 国会に上程された共謀罪法案は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」が団体と
して重大な犯罪(長期四年以上の懲役・禁固が科せられる犯罪)の実行を計画し、計画したうちの誰かが資金または物品の手配、関係場所の下見など、犯罪を実行するための準備行為を行った場合に、計画に合意した全員を処罰することができるとしている。処罰の対象となるものは、「テロ」の実行に関連する百十の犯罪、薬物に関する二十九の犯罪を含む二百七十七の犯罪が示されている。また罰則としては、死刑や十年を超える懲役や禁固を科せられる犯罪を計画し、準備行為を行った場合は五年以下の懲役か禁固、四年以上十年以下の懲役・禁固が科せられる犯罪を計画し、準備行為を行った場合には、二年以下の懲役・禁固を科すとしている。なお、上程された法案では、これまでの「共謀」という用語はすべて「計画」という用語に置き換えられている。
 共謀罪法案は、実行行為以前に処罰できる対象犯罪を当初案の六百七十六から二百七十七にしぼって上程された。それでも法案は実行行為に至る以前の共謀・準備を広く犯罪として処罰するもので、既遂の実行行為を処罰の対象にするという近代刑法の原則を覆す憲法違反の法案である。現憲法は、第十九条で思想・内心の自由、第二十条で信教の自由、第二十一条で集会・結社・表現の自由と通信の秘密、第二十三条で学問の自由を定めている。戦前、治安維持法のもとで「国体の変革」や「私有財産制の否定」が犯罪とされ、実行行為に至らない段階からこれらの自由が激しく侵害され、侵略戦争へと民衆が動員された。前記の憲法の条文は、その反省にもとづくものである。すなわち、処罰の対象となるのは実行行為であって、心のなかで考えることやそれを訴えること、そのために団体を結成することなどは自由であって、処罰の対象にはならないということである。
 共謀罪の危険性の第一は、思想や内心の自由を否定するものであって、国家権力による思想・言論統制や共産主義運動への弾圧にとどまらず、反戦運動・反基地運動、労働運動、市民運動など民衆の運動の弾圧の手段となることにある。いまだ実行されていない計画とは、それぞれの思想や考え方をあらわすものであって、本来処罰の対象にすることはできない。しかし、共謀罪はそのようないまだ実行されていない計画に合意し、準備を行うことを犯罪として処罰するものである。
 共謀罪が制定されるならば、どのような弾圧が可能になるのか。国家権力は、これまでから高江や辺野古での基地建設阻止行動に対して、威力業務妨害だとして弾圧を行ってきた。沖縄平和運動センター議長の山城博治さんが五カ月にわたって不当逮捕・勾留された容疑のひとつも威力業務妨害であった。共謀罪が制定されるならば、基地ゲート前で抗議行動を行い、基地建設のためのトラックの通行を阻止しようと合意し、ゲート前への結集を呼びかけることが威力業務妨害の「計画とその準備」だとして処罰することが可能になる。また、原発再稼働を阻止するために、原発のゲート前での座り込みを計画し、その準備を行うことが威力業務妨害の「計画とその準備」だとして処罰することが可能になる。
 また、労働運動の弾圧に利用される危険性も高い。日本労働弁護団は三月二十二日、「正当な労働運動を破壊する『共謀罪』創設に反対する声明」を公表し、次のように表明した。
 「とりわけ、当弁護団が危惧するのは、この法案が成立した場合に使用者や政府がこれを悪用し、労働組合のあらゆる活動が捜査や弾圧の対象になりうることである。例えば、労働組合が不当解雇撤回などを求める企業門前での抗議行動を計画してチラシを作成することや労働組合がストライキを計画して組合員への連絡文書を作成すること、労働組合が『ブラック企業』の製造する商品の不買運動を計画して記者会見の資料を作成すること、労働組合が団体交渉で要求を貫き何らかの妥結ができるまで交渉に応じるよう使用者に要求し続けることを組合内部の会議で確認すること、政府の労働法制改悪反対の行動を企画することなど、これらはいずれも正当な労働組合の活動にかかわる行為である。
 しかし、これらの正当な組合活動についても、共謀罪が創設されれば、『組織的な威力業務妨害』『組織的な信用毀損・業務妨害』『組織的な強要・組織的な逮捕監禁』『組織的な恐喝』などの『共謀』および『準備行為』をしたものとでっち上げられて捜査され、組合員が逮捕されたり組合事務所が捜索・差押えされたりする危険がある。過去にも、捜査機関により労働組合員が犯罪をでっち上げられて逮捕されるという刑事弾圧事件は枚挙にいとまが無く、歴史的に見れば労働運動の弾圧に共謀罪が利用される可能性はきわめて高い」と。
 労働組合には憲法二十八条で労働三権(団結権・団体交渉権・争議権)が保障され、労働組合の正当な争議行為に対して、労組法第一条二項は刑事免責・民事免責を定めている。しかし、これまでも全逓労働者の正当な労働運動に対する4・28弾圧に明らかなように、国家権力はこの労働三権や免責条項を踏みにじり、労働運動への不当な介入・弾圧を行ってきた。共謀罪が制定されるならば、国家権力はすでに実行された争議行為だけではなく、いまだ実行されていない争議行為の計画・準備までも捜査と弾圧の対象にすることができるようになる。それが労働運動に甚大な影響を与えることは必至である。
 これまでも国家権力は、民衆のたたかいを弾圧するために犯罪をでっち上げ、また捜査の対象となった実行行為とは無関係な者まで逮捕・弾圧してきた。共謀罪の制定は、このような国家権力による犯罪のでっち上げを容易にし、冤罪の温床となる。既遂の実行行為を処罰の対象にする刑法の原則との関係で、国家権力は犯罪をでっち上げるにあたっても、その容疑者が実行行為に関与していたことを何らかの形で論証することが必要であったが、共謀罪では実行行為に関与していたかどうかは問題にならない。それ以前の計画に合意していたかどうかだけが問題になる。それでは何をもって合意が成立したと言えるのか。
 金田勝年法相は、犯罪を合意(共謀)する手段は限定されないとして、対面での会議だけではなく、電話での会話やメール・LINEでも合意が成立するとしている(二月二十三日、衆議院予算委員会分科会)。さらに最高裁判例では、メーリングリストやLINEなどのグループメールの場合、積極的に異議申し立てをしなければ合意が成立したとされる場合がある。こうして共謀罪が制定されれば、国家権力がありもしない犯罪の計画を捏造し、それに合意していたとして突然逮捕・弾圧されることもありえるのだ。
 共謀罪の危険性の第二は、国家権力による日常的な人民への監視・情報収集が飛躍的に強化されることにある。いまだ実行されていない犯罪の計画を把握することはきわめて難しい。それを把握しようとすれば、狙いをつけた団体や個人への尾行・張り込み、電話の傍受、会議の盗聴、メールの監視、GPSによる位置情報の把握、スパイの送り込みなど、合法・非合法の監視・情報収集が不可欠となる。そして、国家権力はこの監視・情報収集の対象をほぼ無制限に拡大することができる。すなわち、権力が何らかの犯罪を計画している可能性があると疑うすべての団体や個人が監視・情報収集の対象となる。まさに一億総監視社会の到来である。また、裁判所が発行する捜査令状による強制捜査も、犯罪の実行行為とは無関係に、何らかの犯罪を計画している疑いがあるということだけで可能となるであろう。
 これらの国家権力の監視・情報収集活動の多くは、憲法で保障されている通信の秘密や個人のプライバシーを著しく侵害するものである。しかし、国家権力による電話の傍受については、「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」が一九九九年に制定され、一定の条件のもとで裁判所の令状があれば通信傍受は合法とされた。メールについては、プロバイダーが権力からの照会に応じ、捜査令状がなくとも任意でメールを権力に提供していたことが明らかになっている。このように現在の階級闘争の力関係を反映して、通信の秘密や個人のプライバシーの侵害が進行してきた。共謀罪が制定されれば、その捜査のために必要だとして、さらに徹底して通信の秘密や個人のプライバシーが侵害されていくであろう。
 共謀罪の危険性の第三は、革命運動、反政府闘争、そして労働組合や市民団体などのたたかいを委縮させ、社会的に孤立させ、その団結を破壊することにある。共謀罪が制定されるならば、辺野古新基地建設を阻止するためにキャンプ・シュワブゲート前に結集しようと呼びかけることや原発再稼働を阻止するために原発ゲート前に結集しようと呼びかけることまでが、組織的な威力業務妨害の「計画(共謀)とその準備」として弾圧の対象となる可能性がある。権力にすれば、起訴して有罪に持ち込むことができるかどうかは決定的な問題ではない。何人かを逮捕し、強制捜査を行うことによってたたかいを委縮させ、社会的に孤立させることが大きな目的なのだ。
 さらに共謀罪の重大な問題は、実行行為に参加していなくとも、組織的な合意の場(会議・メーリングリスト・LINEなど)に参加していただけでも、「計画」(共謀)に参加していたとして弾圧されることである。そして、誰がその「計画」(共謀)に参加していたのかは国家権力がまず認定する。こうして、革命政党や労働組合、市民団体などの構成員であるというだけで、逮捕・弾圧される危険性が生まれる。その結果、その団体の趣旨や運動方針に賛成していても、その団体の構成員になることを躊躇(ちゅうちょ)するという事態が引きおこされる。また、共謀罪法案では、実行行為に至る以前の自首や通報を奨励し、刑の減免を行うとしている。それはスパイの育成と結びつき、それぞれの団体のなかに不信感や疑心暗鬼を生みだす。共謀罪法案は、形式上は個人を処罰の対象とするもので、団体に対する罰則は存在しない。しかし、実質上は「集団」を対象とする弾圧法である。共謀罪による弾圧は、明確に労働者人民のたたかう団結組織の破壊を狙うものなのだ。

  ●3章 共謀罪の正当化を許さない

 安倍政権は、共謀罪を制定しなければパレルモ条約は批准できず、テロを抑止して東京オリンピック・パラリンピックを開催することはできないと主張してきた。そして、処罰の対象になるのは「テロリズム集団などの組織的犯罪集団」だけであって、正当な活動を行う労働組合や市民団体などが対象になることはないと言う。そして、共謀罪が成立する要件は、犯罪を計画するだけではなく、その計画に合意した誰かが資金または物品の手配、関係場所の下見など、犯罪を実行するための準備行為を行うことであり、犯罪を「計画」(共謀)するだけで処罰されることはないとしている。これらはいずれも、「テロ等準備罪」が三度廃案になった共謀罪とは異なるものであるかのように労働者人民の眼をあざむき、ごまかすためのものである。「テロ等準備罪」と名称を変えても共謀罪の本質は変わらない。共謀罪を廃案に追い込むために、このような安倍政権の主張を徹底して批判しておく必要がある。
 第一には、共謀罪の対象を「組織的犯罪集団に限定」したことを理由にして、治安弾圧法としての危険性を回避できるかのように主張していることである。
 共謀罪法案は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団の団体の活動として」「計画した者」が、その「計画」の「準備行為」をした場合に適用されるとしている。そもそも「テロリズム集団」も「組織的犯罪集団」も条文において具体的に定義されておらず、恣意的にいくらでも拡張しうる情緒的な用語である。破壊活動防止法や成田治安法では、その対象者を「暴力主義的破壊活動者」なる用語をもって表していたが、これとて警察、検察の意図次第でいかようにも拡大解釈された。アフガニスタン戦争、イラク戦争、シリア内戦の過程で、政府見解の中に「テロリズム」「テロリスト」なる言葉が定義されずに多用されてきた。その上で、日帝の侵略反革命戦争参戦を「対テロ」戦争として正当化してきたという経緯がある。
 そこで形成してきた心象に働きかけるように「テロ」という言葉を条文の中に組み込んだのだ。そこには、反政府闘争、反帝闘争に立ち上がる者、共産主義者をこそ弾圧の対象とするという支配階級の意志が貫かれている。安倍政権は、自らの目指す戦争、改憲に明確に歯向かう者に対して、この共謀罪をもって対処し、たたかいに立ち上がる前の段階で根絶やしにしようというのだ。
 その上で、戦前治安維持法の変遷を見れば明らかなように、「テロリズム集団その他の組織犯罪集団」の対象を無制限に拡大することも当然狙っている。安倍政権は「正当な活動を行っている労働組合や市民団体は組織的犯罪集団には含まれず、一般に市民が処罰の対象になることはない」という。しかし、二月十六日の政府見解では「もともと正当な活動を行っていた団体でも、目的が犯罪を実行することに一変したと認められる場合は、組織的犯罪集団に当たり得る」としており、労働組合や市民団体などであっても「組織的犯罪集団」と認定されることがあり得ることを明らかにしている。
 例えば、沖縄平和運動センターが、基地ゲート前の抗議行動を反復して継続的に行った場合、これを「威力業務妨害」と勝手に認定した警備当局が、この「計画」を立てた団体を「組織的犯罪集団」と認定する危険性がある。
 わざわざ拡大解釈が可能な用語で処罰対象の集団規定を行い、恣意的な発動をもって反政府闘争、反体制運動の鎮圧を支配階級の企図のままに行おうというのだ。
 その第二は、パレルモ条約は「テロ対策」のための国際条約ではなく、共謀罪を制定しなければ同条約を批准できないというのはまったくのウソだということである。同条約が主要にマフィアなどによる国際的犯罪を対象とするものであることはすでに述べた。同条約の条文の中に「テロ対策」という用語はまったく存在しておらず、国連広報センターが掲載する十四の「テロ対策」のための国際条約に同条約は入っていない。さらに「報道ステーション」が同条約を所管する「国連薬物犯罪事務局」に問い合わせたところ、「対象となる組織犯罪集団とは金銭的・物質的利益を目的とした集団」であり、「テロリスト集団は原則としてパレルモ条約の対象外である」とのことであった(二月放映)。安倍政権の説明は、この出発点においてすでに破たんしている。
 安倍政権が共謀罪を制定しなければ同条約を批准できないとしている根拠は、この条約の第五条において、締結国に重大な犯罪の計画に合意することを処罰できるようにするか(共謀罪の制定)、組織的犯罪集団への参加を犯罪として処罰できるようにするか(参加罪の制定)、少なくともいずれかの措置を求めていることにある。しかし、それは同条約の批准のための絶対的な条件ではない。同条約の締結国は百八十七あるが、同条約の批准にあたって新たに共謀罪を制定したのは二カ国だけである。国際条約については、その一部の条項を留保したままで批准することも可能である。他方で同条約は、「締約国は、この条約の義務の履行を確保するために、自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置(立法上及び行政上の措置を含む)をとる」(同三十四条 条約の実施)としている。ここでは、自国の国内法の基本原則に従った措置をとることを求められているのであって、既遂の実行行為を処罰の対象にするという日本の刑法の基本原則に反するような共謀罪の制定が義務づけられているわけではない。そして、条約の批准はそれぞれの締結国が批准手続きをとれば成立するものである。したがって、すでに日本国として署名し、国会承認も終わっている同条約の批准は、そのことの是非は別にして共謀罪を制定しなくとも可能なのだ。
 第三には、共謀罪が成立する要件として、重大な犯罪を計画するだけではなく、その犯罪を実行するための準備行為を行うことを付け加えても、共謀罪が国家権力による治安弾圧の強化に利用されることへの歯止めにはならないことである。共謀罪法案において準備行為としてあげているのは、その計画に合意した誰かが資金または物品の手配、関係場所の下見を行うことである。しかし、銀行のATMからお金を引きだすという行為が計画された犯罪の準備のためのものなのか、日常の生活費などそれとは無関係な必要性にもとづくものなのか、どうして区別できるというのか。犯罪とは何の関係もない行為が、犯罪の準備行為だとこじつけられ、共謀罪による弾圧の引き金になることは十分にありうることなのだ。
 共謀罪は、すでに実行された行為を処罰の対象にするという近代刑法の原則を覆し、日本国憲法に規定された思想・内心の自由、言論・表現・結社の自由と通信の秘密、信教の自由などへの国家権力による侵害を大きく可能にするものである。共謀罪が制定されるならば、国家権力はすでに実行された行為だけではなく、いまだ実行されていない行為についても犯罪として捜査し、処罰することができるという強大な権限を獲得する。まさに日本の治安弾圧法制のまったく新しい段階が始まる。これまでも国家権力は、狙いをつけた団体・個人に対して無理やりに「犯罪」をでっち上げて弾圧してきた。このような国家権力にとって、共謀罪は喉から手が出るほど切望してきたものである。
 戦争の準備と治安弾圧の強化は、メダルの裏表の関係にある。治安弾圧の強化なしに、労働者人民を強制的に戦争へと動員することはできない。かつてのアジア太平洋諸国への侵略戦争に向かう過程は、治安維持法の制定とその改悪など治安弾圧が徹底して強化されていった過程であった。共謀罪制定阻止を全人民的政治闘争の課題へとおしあげ、何としても共謀罪の制定を阻止しなければならない。
 今年の一月・二月段階での各種の世論調査では、おしなべて共謀罪賛成が反対を上回っていた。しかし、三月十一日・十二日に実施された共同通信の全国電話世論調査では、共謀罪賛成が33・0%、共謀罪反対が45・5%と逆転した。共謀罪への危険感が少しずつ浸透してきているのだ。しかし、いまだ多くの労働者人民が安倍政権による巧妙なごまかし、印象操作に影響され、共謀罪は「テロリズム集団」を対象としたもので、自分たちとは無関係だと思いこまされている。このような現状を変革していかねばならない。たたかいはまさにこれからである。共謀罪制定を阻止するために何万、何十万、何百万の労働者人民によって国会を包囲し、共謀罪を廃案に追い込んでいこう。


 

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