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   タオルミナ・サミットとトランプ政権

       
新自由主義政策の矛盾と帝間対立

            

 

 帝国主義各国によるG7首脳会合(サミット)が五月二十六、二十七両日、イタリア南部シチリア島のタオルミナで開催された。昨年以降の英国のEU離脱、トランプの米大統領就任という新たな情勢の中での首脳会談であり、そこには、現代帝国主義の矛盾と対立がはっきりと表れている。
 戦乱と排外主義、格差の拡大と貧困化という現代的災厄がさらに拡大する中で、現代の帝国主義を見極め、反帝闘争の糧としていきたい。

  ●第1章 G7タオルミナ・サミット(イタリア会合)

 トランプが米大統領に就任してはじめてのG7首脳会合であり、これまで主張してきた自国第一主義、排外主義、保護主義で、他帝との協議が成り立つのか、首脳宣言がまとめられるのかが一つの焦点だった。議長国イタリア首相ジェンテローニは混乱を収拾しつつ、首脳宣言を発表したが、発表後には「従来以上の本物の首脳会談だった。ただ会うだけでなく、相違点を明確にした」と苦し紛れの発言をしている。

  ▼1章―1節 帝国主義の「対テロ」戦争としての一致

 イギリス・マンチェスターの爆発物による殺傷事件に対応して、二十六日の会合において、G7首脳は「テロおよび暴力的過激主義との戦いに関するG7タオルミナ声明」を採択した。英首相メイが「テロ対策」の議論を主導した。
 G7タオルミナ首脳宣言は、外交政策、世界経済、格差、ジェンダー間の平等、貿易、人の移動(移民・難民問題)、アフリカ、食糧安保・栄養、気候変動・エネルギー、イノベーション・技能・労働、保健という項目になっている。
 「外交政策」では、シリア、リビア、IS、北朝鮮、ウクライナ、海洋法(東中国海・南中国海)、サイバー攻撃を、G7の共通課題として確認している。北アフリカ・中東の独裁政権打倒闘争に乗じて軍事介入してきた帝国主義が、シリア、リビア、イラクを政治的軍事的に制圧しようという意志の確認である。とりわけ、ISに対してはその「最終的な撲滅」をめざすとし、ISを含め「テロ集団および暴力的過激主義を根絶する」ことを確認している。
 その上で、ロシアとイランの責任に言及し、「悲劇を食い止めるためにその影響力を最大限行使しなければならない」と主張している。
 ウクライナ問題では「クリミア半島の違法な併合に対するわれわれの非難を改めて表明し、不承認政策を確認し、ウクライナの独立、領土の一体性および主権を完全に支持する」と主張する。しかし、この項の末尾には「われわれの利益となる場合には、ロシアと関与していく用意がある」と付言されている。G7において、対ロシア政策が曖昧であることを露呈している。
 朝鮮民主主義人民共和国に対しては、核実験および弾道ミサイル発射に関して「国際法違反」と断じ、「重大な性質を有する新たな段階の脅威」とし、「全ての核および弾道ミサイル計画を、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で放棄しなければならない」としている。
 さらに、海洋法に関する国際法に基づく秩序維持として「東中国海および南中国海における状況に懸念」とした上で「すべての当事者に対し、係争のある地形の非軍事化を追求するよう要求する」とした。この項で中国を名指ししてはいないものの、これは明らかに中国に対する警告であった。
 首脳宣言の外交政策に関するかぎり、G7は一致して帝国主義の利害を政治的軍事的に共同して貫くことに合意したということである。

  ▼1章―2節 帝国主義間対立と米帝の孤立

 「貿易」に関しては、論争のすえに、「保護主義と闘う」という言葉が明記はされた。
 三月のG20財務相・中央銀行総裁会議では、米国の反対で「反保護主義」の文言が入らず、五月に行われたG7財務相・中央銀行総裁会議でも、米と日欧の間で保護主義に関する論争は続いていた。G7首脳会合は「保護主義と闘う」としたわけだが、「自由で、公正で、互恵的な貿易および投資」「相互的な利益」などの文言でトランプの主張を反映させるという、妥協の「宣言」だったのだ。
 トランプは、G7首脳会合直前二十五日の欧州連合(EU)幹部との会合で「とてもひどい。ドイツが米国で売っている何百万台もの自動車を見てみろ」と主張し、ドイツが巨額の対米黒字国であることを批判した。G7経済討議の中で、トランプは「自由で公正な貿易」を主張したが、「相手国が30%の関税をかけるなら、われわれも30%の関税をかける」ということだと説明した。トランプの「論理」においては貿易制度が不公正だから、中国、日本、ドイツに対して米国が貿易赤字を抱えており、それによって米国の雇用が失われているのだということになる。中国製品や日本車、ドイツ車が米国で売れているのは、そのような制度の問題ではない。もし、そのような不公正な制度の問題であるならば、現在的には世界貿易機関(WTO)に訴えて解決すれば良いことだ。
 独首相メルケルは「われわれは米国に巨額の直接投資をしている。貿易黒字ということだけをみるべきではない」と反論した。米国こそが主導してきた新自由主義グローバリゼーションによって「貿易と投資の自由」が世界規模で進展している現在、相互に資本輸出が進んでおり、トヨタもベンツも米国で売る車のほとんどを米国で生産している。米国自動車産業が衰退し、〇八年恐慌で経営が破綻したのは、米国そのものの産業構造が変わってきたからにほかならない。情報技術や軍事技術に直結した航空宇宙産業に特化し、それ以外の実体経済は空洞化してきていた。そして、不動産投機が大きく崩壊してきたことに明らかなように、経済の金融投機化が大きく進んだからである。
 トランプは、八〇年代の貿易摩擦のような時代錯誤の認識で経済問題を主張し、議事を混乱させ、対立を深めた。
 「移民・難民」問題では、米トランプと欧州各国首脳との対立はより激しかった。
 議長国イタリアは、移民・難民の権利を重視し、首脳宣言とは別個の声明を準備していた。しかし、米トランプの難民受け入れ抑制の排外主義的主張によって、この声明はまとめられなかった。独首相メルケルや欧州委員長ユンケルは、この声明断念に対して、サミット後の会見で強い不満を述べた。
 首脳宣言においても、「すべての移民と難民の人権を確保」としながら、「国益および国家安全保障において、自国の国境を管理し政策を確定する主権国家としての権利を再確認」とする但し書きが付けられた。米帝の排外主義的主張によって、文章の意図する内容が不明になっている。
 「気候変動」問題では、米国は完全に孤立した。
 首脳宣言は「米国は気候変動およびパリ協定に関する自国の政策を見直すプロセスにあるため、これらの議題についてコンセンサスに参加する立場にない。米国のこのプロセスを理解し、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本および英国の元首および首脳ならびに欧州理事会および欧州委員会の議長は、伊勢志摩サミットにおいて表明されたとおり、パリ協定を迅速に実施するとの強固なコミットメントを再確認する」と記した。トランプ政権は「米国にとって不公平だ」という主張で地球温暖化対策を拒否し、G7全体では一致できないことを明記せざるを得なかったのだ。

  ●第2章 新自由主義グローバリゼーションとアメリカ帝国主義

  ▼2章―1節 トランポノミクスの実態


 二〇一六年の英国のEU離脱、米大統領選でのトランプの選出という事態は、現代帝国主義が進めてきた新自由主義グローバリゼーションが限界に突き当たっていることを鮮明にするものであった。トランプ自身の言動、あるいはその排外主義、保護主義が世界規模で波及している。
 トランプ政権は四月米中首脳会談の最中にシリアへのミサイル攻撃を強行し、軍事攻撃―人民殺戮も含めたあらゆる手段を経済交渉・政治交渉に利用する「ならず者」の姿をあらわにした。また、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、欧州諸国の費用分担引き上げばかりを主張した。
 トランポノミクスと呼ばれるトランプの経済政策とは何か。トランプは、大統領選挙中は「米国第一」の具体的方策として雇用増を重視することを強調し、「今後十年間で二千五百万人の雇用を生み出し、年4%成長にもどる」と主張してきた。しかし、トランプは米国内においてすら決して圧倒的多数の支持を勝ち得ている訳ではない。昨年十一月の大統領選の投票率は50%を下回り、かつ、実際の得票数はトランプはクリントンより少なかった。米国の選挙制度ゆえに大統領に就任できたのではある。その上で、この25%にも満たないトランプ支持に「根拠」があるとするなら、耳目を集めるような排外主義的言辞だけではなく、むしろ「雇用増」というところにあったはずである。
 この「雇用増」を掲げたトランプ政権が大統領就任後、具体的に進めようとしてきた政策は何だったか。移民・難民の制限、医療保険制度改革(オバマケア)の解体、大型減税、インフラ投資、そして貿易協定の見直しによる貿易赤字削減である。
 トランプは大統領就任直後の一月二十七日、中東・アフリカの七カ国からの入国を禁止する大統領令に署名した。しかし、全米で反対運動が起こり、ワシントン州の連邦地裁が大統領令を一時差し止めにした。トランプ政権が不服を申し立てるも、連邦控訴裁が政権の主張を斥けた。トランプは三月六日にも新入国禁止令に署名した。これに対してはハワイ州連邦地裁が執行停止の決定を下し、全米で執行が停止された。
 オバマケアは民主党オバマ政権と議会との妥協の産物であり、欧州諸国や日本と比較しても不十分な医療保険制度であるが、トランプはそれすら解体して医療における格差を再び拡大しようとしているのだ。
 大型減税というものも、具体的には法人税減税であり、現在の法人税率35%を15%に引き下げるというものである。それが国内企業の海外流出に歯止めをかけるのだというのである。日帝―安倍政権が国内投資を増やすためだとして法人税減税を強行してきたのと同じ論法であるが、まさに政権が立脚している階級の利害貫徹以外の何物でもない。しかし、税収の根拠がないまま、このような減税を行なえば、米国財政の赤字を一挙に増大させることになる。
 トランプはTPP離脱とともに、北米自由貿易協定(NAFTA)の離脱も選挙公約に掲げていた。大統領就任百日にあたる四月二十九日に、トランプはNAFTA離脱を発表するつもりだった。しかし、トランプ政権内では、保護主義政策に固執する主席戦略官バノン、国家通商会議議長ナバロら「強硬派」に対して、ウォール街出身で自由貿易重視の大統領上級顧問クシュナー、国家経済会議議長コーンなど「国際派」が、NAFTAをめぐって対立した。
 最終的にトランプは演説で、「NAFTAを再交渉し、米国にとって公正な協定を得られなければ離脱する」と表明した。
 トランプが強気で掲げた政策は、国内的にも国際的にも批判を浴び、政権内部にあっても論争・対立が続き、その政策は全く貫かれてはいない。確かにトランプは、雇用が奪われた米国の労働者からの支持をつかみとるために、思いつく限りの政策を並べ立ててきた。しかし、米国の雇用の減少は、移民労働者のせいではなく、中国、日本、ドイツのせいでもない。国内外において新自由主義政策を徹底的に進め、とりわけ実体経済よりも金融投機に重心を移した米帝国主義の産業構造の再編にこそ、最大の根拠があるのだ。貿易相手国に外交圧力をかけ、移民を制限し、あるいは企業と富裕層の減税をしたところで、米国の産業構造そのものが変わる訳ではない。トランプ政権の内紛も、根本的には、新自由主義グローバリゼーションの中軸たる米国経済の抱える階級矛盾についての断片的で時代錯誤ゆえの、現実から乖離した論争なのだ。

  ▼2章―2節 軍需産業と軍事外交

 このトランプ政権の下で唯一活況をおびている産業がある。それが米軍需産業
 トランプ政権は国防費を五百四十億ドル(約六兆円)増やすとしている。そればかりではない。日本や欧州各国など同盟国に対して、軍事費分担増額を要求し続けている。韓国に対しては、むりやり配備した高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)の費用十億ドルを支払えと要求する発言をしている。
 中東での内戦、戦争が激化して世界情勢が緊迫化することによって、世界全体の軍事費が押し上げられる。このことが、米国の軍需産業の世界市場での絶好の機会だと捉えているのだ。
 米大統領トランプはイタリア・タオルミナでのサミットに合わせて、五月十九日から中東・欧州の同盟国を歴訪した。最初に訪問したサウジアラビアでは、国王サルマンと会談した。トランプは、米国からサウジアラビアへの一千億ドルの武器売却の契約に署名し、サウジアラビアから米国への投資拡大を合意した。
 この直前、イランでは「核合意」を進めてきた大統領ロハニが再選されていた。
 トランプは二十一日のイスラム諸国との首脳会議で「善の力が団結して」「悪を乗り越える」として「イスラム教テロ組織の危機との対決」を呼びかけた。ここには、イランなどシーア派主体の国の代表は招かれてはいない。
 イスラム諸国に「団結」を呼びかけたトランプは翌二十二日にはイスラエルを訪問し、首相ネタニヤフと「米国とイスラエルの壊れることのない絆」を確認した。さらに、ユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪問して、親イスラエルの立場を鮮明にした
 大統領就任直後にイスラム諸国からの入国禁止の大統領令を出したトランプが、同盟国には武器を売りつけ、「対テロ」戦争を呼びかける。オバマ政権が進めたイランとの対話路線を覆し、逆に、イランと対立するサウジアラビアへの武器輸出を取り決めた。そして、イスラエルとの同盟関係を強く確認する。
 中東諸国の人民が、このトランプを信用することはないだろう。憎しみと戦乱を拡大する行為をトランプ自身が行なっているのだ。

  ▼2章―3節 欧州の排外主義の台頭とその限界

 四月、五月に行われたフランス大統領選は、実質的に左派メランション、中道独立系マクロン、右派・共和党フィヨン、極右・国民戦線(FN)ルペンで争われた。四月二十三日の第一回投票でマクロンとルペンが一位、二位となった。五月七日の決選投票でマクロンが66%以上の得票で当選した。
 昨年の英国国民投票でのEU離脱の選択以降、欧州統合への批判は移民・難民問題での排外主義とからまって高まっていた。フランス大統領選挙においても、オランド与党・社会党の候補アモンは当初から支持率は低く、中道と右派、極右の選挙戦となっていた。決選投票では極右FNのルペンは忌避され、投資銀行出身の新自由主義者マクロンが選出されるという結果になった。
 しかし、欧州全体での極右勢力の台頭という大きな流れに対決したのが、フランス二大政党の社会党でも保守党でもなく、社会党政権の閣僚を辞任し独立した中道のブルジョアジーという結果である。
 フランスFNばかりでない。「ドイツのための選択肢(AfD)」、オランダ自由党、オーストラリア自由党、イタリア北部同盟、英国独立党、ポーランド新右派会議など、欧州各国で排外主義と欧州統合批判を掲げた極右勢力が、一定の支持を確保して政治勢力として台頭してきている。
 これら極右勢力は、そのEU批判そのものとは矛盾するが、欧州議会選挙に参加し、それぞれ一定の議席を確保している。ルペンのFNは一四年の欧州議会選挙でフランスに割り当てられた七十四議席のうち二十三議席を確保している。欧州議会においてはフランスの第一党なのだ。FNはオランダ自由党、イタリア北部同盟、オーストラリア自由党などと欧州議会内グループ「国家と自由の欧州」を形成し、EUから四年間で千八百万ユーロ(約二十一億円)の助成金を受け取る権利を有している。
 欧州の極右の動きは一五年、一六年、帝国主義のリビア、シリアなど北アフリカ・中東諸国への軍事介入が激化して大量の難民が発生した状況の中で、排外主義的に勢力を拡大してきた。しかし、それだけではない。一〇年以降の欧州金融危機、国家財政危機の中で、欧州委員会、欧州中央銀行が国際通貨基金(IMF)と一体になった政策を行使し、米帝と大きく変わることのない新自由主義政策の強化で危機を乗り切ってきたことだ。EUこそが格差を拡大し、失業、貧困という問題を増大させている事態の中で、独帝、仏帝に従って欧州統合を進めることへの拒絶意識が大きく生まれてきたのである。
 欧州統合への批判、欧州離脱の議論は、決して極右だけの政治主張ではない。イギリスのEU離脱への投票行動は、英国独立党の排外主義的宣伝だけで拡大したのではない。新自由主義政策、とりわけ金融自由化の世界的中心であるロンドン・シティの利害とは全く関係のない、逆に新自由主義政策によって生活を破壊された労働者人民の批判票が大きく影響した。それは、イギリス労働者階級の要求を捉えていた労働党左派ジェレミー・コービンなどが離脱反対に動かなかったことにも表れていた。
 今回のフランス大統領選挙において、既成政党社会党を凌駕してその存在を鮮明にした左派・左翼党のメランションは、左翼としての立場からEU離脱を主張して、マクロンやルペンと対抗しうる支持を集めた。
 欧州国家財政危機の中で登場してきたギリシャのシリザは、EU離脱という主張ではないが、むしろ、緊縮政策をはじめとしたEUの新自由主義的政策に対して一貫して反対してきた。イタリアで躍進している「五つ星運動」は、右翼ではなく、EU批判勢力である。
 EU離脱を規定の政策としているイギリスでは、首相メイが六月八日に総選挙を前倒し実施することを決定した。
 欧州全体では、「EU懐疑」の流れは強まっているものの、極右政党の支持率はイギリス、オランダ、ドイツではいずれも低下している。九月に総選挙が行われるドイツでは、年頭からの州議会選挙では一貫してメルケル与党キリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)が一位二位を占め、AfDは10%以下の得票率で低迷している。
 欧州をはじめとする資本主義各国において起こっている格差の拡大、失業、貧困ということの根幹にあるのは、EUという枠組みの中でも新自由主義政策が推進され、〇八年恐慌、一〇年以降の欧州国家財政危機によって、その政策の限界が鮮明になったということである。極右はこの問題を排外主義とEU否定という命題の中へ引きずり込もうとするのだが、根本的な変革はそこからは生まれないということを欧州の左翼、労働者階級人民は明らかにし始めているということだろう。

  ●第3章 アジア太平洋地域における新自由主義
                  グローバリゼーションをめぐるせめぎあい

  ▼3章―1節 トランプ政権のアジア太平洋戦略


 英国のEU離脱、米トランプ政権の登場という現代世界の新たな状況は、アジア太平洋地域の情勢にどのような変化をもたらしているのか。
 トランプ政権は、米国の貿易赤字をすべて「不公平な貿易慣行」のせいだとして、十二カ国で合意していた環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱した。そして、カナダ、メキシコとの間ではNAFTAの再交渉を行なうとしている。
 トランプは、四月六―七日の米中首脳会談、四月十八日の日米経済対話(麻生―ペンス会談)を前にして、三月三十一日、貿易赤字の削減に向けた二つの大統領令に署名した。主要な貿易赤字の相手国に対して不正な貿易慣行を調べ、貿易赤字の要因を調査するというものであり、明確に中国と日本を対象として貿易問題での強硬姿勢を鮮明にするものだ。直接交渉への先手であった。
 トランプは四月六日、習近平との首脳会談を行なうフロリダへ向かう専用機内で国家安全保障会議(NSC)を開催し、そこでシリアへの攻撃命令を出した。首脳会談の夕食会に合わせるようにミサイル攻撃を強行し、政権幹部が同盟国に攻撃を報告し、トランプ自身は夕食会の終盤で習近平にシリア軍事攻撃を伝えた。
 トランプ政権は、シリア―アサド政権が化学兵器を使用したと断定してミサイル攻撃を強行した。トランプは「化学兵器の拡散と使用を防ぐことは、米国の安全にとって絶対に不可欠な利益」と主張した。しかし、アサド政権が化学兵器を使用したという証拠は何ら示されてはいない。かつ、このような突然のミサイル攻撃を「自衛権の行使」と強弁することが許されるものではない。
 トランプ政権は、軍事攻撃―シリア人民殺戮を、習近平に対する恫喝、取引として利用したのだ。朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)への戦争重圧を急激に高めつつ、シリアへの軍事攻撃を見せつけることが、中国―習近平政権に対する最大の重圧になると考えたのだ。トランプ政権は、米日韓による軍事的圧力と同時に、中国に共和国に対する政治的経済的圧力をかけさせることで、共和国を屈服させようとしている。対話や交渉ではない。暴力と狡猾な手段で、相手を屈服させることを「外交」だと捉えているのだ。
 トランプ政権は、朝鮮戦争重圧とからめながら、中国に対して貿易不均衡是正を強く要求した。しかし、米帝資本にとっても、中国市場や中国からの投資を断ち切れる訳ではない。米中間では、貿易不均衡是正の「百日計画」策定、米中投資協定交渉の推進を合意した。

  ▼3章―2節 日帝の対米、対中戦略の組み直し

 この米中会談をにらみながら、日帝―安倍政権は、米、中、アジア諸国との外交関係の組み直しに着手している。
 四月十八日には、副総理兼財務相の麻生と米副大統領ペンスの日米経済対話が、首相官邸で行われた。日米経済対話は、本年二月の日米首脳会談において、日本側からの提案で設定された。
 安倍政権は、強行採決までして批准を目指したTPPが、トランプ政権の発足と同時の離脱によって、大きな挫折を強いられた。トランプ政権はTPPのような多国間の枠組みではなく、中国、日本などとの個別二国間交渉で、最大限自国に有利に進めることを方針としている。安倍政権は、この日米経済対話をTPP復活の手がかりを探る場にしようと考え、一方で米トランプ政権側は二国間協定に踏み込む場にしていこうと狙っている。
 結局のところ、麻生はTPPの枠組みの重要性を主張したが、ペンスは「TPPは米国にとって過去のものだ」と一蹴した上でFTAも選択肢と主張して、論議はかみ合わなかった。
 現段階では、安倍政権は、あくまでもTPPにしがみついている。
 ニュージーランドは、米国を除く十一カ国での「TPP11」の発効をめざしている。五月二十一日には、ベトナム・ハノイでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の貿易相会合に合わせて、この十一カ国の会議が行なわれた。しかし、十一カ国での発効をめざすのか、あくまでも米国を含んだ十二カ国のTPPをめざすのかの決着はついていない。TPP担当相石原伸晃は「十一カ国が結束を維持していることは確認できた」などと述べているが、これは会議が継続できているということに過ぎない。
 このAPEC会合においては、米通商代表部のライトハイザー代表が二国間協定を推進することを主張した。
 翌二十二日には、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の合意をめざすASEAN+6(日・中・韓・印・豪・ニュージーランド)の閣僚会合も行われた。中国、インドはRCEPの早期妥結をめざしており、米国が保護主義に進む中で、中国とASEAN諸国が主導してRCEP合意の動きが加速する可能性は大きい。
 アジア太平洋地域をめぐる多国間の経済連携の動きは、中国がアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の進展とからめてアジアとヨーロッパを繋ぐ一帯一路構想を具体化させたことにおいて、さらにこの地域の主導権が米帝から中国へと大きく移行しているといえるだろう。
 五月十四日、十五日、「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」の初の国際会議が北京で開催された。会議には東南アジア、南アジア、中央アジア、中東、ヨーロッパ諸国から百三十カ国以上の代表約千五百人が参加した。国家主席習近平は開会の演説で、参加国に対して今後三年間に六百億元(約一兆円)の援助を提供することを明らかにした。また、中国はインフラ建設のために三千八百億元(約六兆二千億円)の融資を行なうとしている。
 日本は、中国がAIIBを提案した段階から、日本が主導するアジア開発銀行(ADB)に対抗する動きと捉えて、米国とともにAIIBに参加してこなかった。しかし、トランプ政権の離脱によってTPPは破綻し、中国を含んだRCEPが浮上するアジア情勢の中で、日米同盟とは相対的に別個の枠組みとしての「一帯一路」の会議に、安倍政権は自民党幹事長・二階俊博を送り込んだ。
 二階は十六日、習近平と会談し、安倍の親書を手渡した。安倍は日中首脳のシャトル外交を呼びかけている。二階は北京で行った記者会見でAIIBに関して「参加をどれだけ早い段階で決断するかということになってくる」と政治判断を語った。

  ●第4章 現代資本主義が抱える矛盾とその展開

 現代資本主義は、八〇年代以降進めてきた新自由主義政策の限界を露呈している。
 まずもって、この新自由主義グローバリゼーションの破綻という事態をはっきり見据えておかなくてはならないだろう。

  ▼4章―1節 新自由主義グローバリゼーションの限界

 新自由主義グローバリゼーションの破綻の第一の特徴は、その経済政策が社会生活そのものを維持し得ない限界にまで達し、それは当然にも労働運動、社会変革運動を生み出し、また、一方ではその社会的危機に乗じた排外主義極右の反動を生み出すまでに至っているということである。
 欧州における共同市場と通貨ユーロの創出は、欧州という地域的規模において、米帝、日帝などの経済政策とは異なった独自の資本主義として経済政策、社会政策を進めようとした。当初、EUは、それを「社会的資本主義」と自称していた。
 しかし、米帝が新自由主義政策を地球規模で拡大していく中で、金融資本、金融投機資本の国境を越えた動きはますます拡大していった。ソ連邦・東欧圏が崩壊し、中国の社会主義市場経済の全面的拡大という一九九〇年代以降の市場拡大の中で、金融資本が「BRICs」を位置づけたように、その投資・投機の範囲を一挙に拡大させてきた。
 欧州統合においても、地域共通通貨ユーロの通用する領域を西欧から東欧、北アフリカにまで拡大していった。欧州を軸にした地域統合ではあれ、独帝、仏帝、英帝、伊帝にとっては、国境を越えて貿易と資本輸出を進めるものであった。国際的な資本の競争の中で、欧州においても新自由主義政策が進展していった。
 そのことは、〇八年金融恐慌が米国から欧州へと一挙に波及するなかで、現代資本主義として同じ経済政策をとり、それを各国に強制していく実態が鮮明になった。そして、〇八年金融恐慌に続いて起こった一〇年以降の欧州金融危機、国家財政危機において、EUの経済政策そのものが、労働者人民の利害に対立する新自由主義政策であるということが、誰の目にも明らかになった。
 新自由主義政策の国境を越えた拡大、進展によって資本移動の規制が取り払われ、金融投機資本の世界規模での収益拡大が可能になってきた。一方で、労働者人民にとってはその権利が次々と剥奪され、格差の拡大と貧困化を極端に進めるものだった。しかも、貿易や投資、為替などの変動のリスクから収益をあげる金融投機資本の危うい経営は、恐慌に際してはその危機を世界規模で一挙に波及させ、金融システム破綻の連鎖を結果する。このことによる資本主義総体の崩壊を恐れる支配者階級は、国家や国際組織を通じた金融資本、金融投機資本の救済を行う一方で、金融恐慌の矛盾を労働者人民に押し付けてきたのだ。
 一〇年以降、IMFや欧州中央銀行(ECB)、欧州委員会が強行してきた政策は、ギリシャ、スペインなど財政破綻に直面した諸国に対する緊縮財政の強制、民営化の推進など、さらなる新自由主義政策のEU規模での強行であった。それは、福祉、教育、失業対策、年金など民生の削減に直結する政策であった。
 この新自由主義グローバリゼーションの本質に対する実践的批判がさまざまな形で噴出してきた。
 南欧諸国での既成左翼を乗り越える左翼運動、左翼政権、あるいは市民運動の出現と成長である。ギリシャのシリザ、イタリアの「五つ星運動」、スペインのポデモスである。イギリスの労働党左派コービンが支持されたことも、この流れと無縁ではない。労働者階級人民は、現代資本主義の危機の中で深まる格差の拡大、貧困化、民生の破壊という事態の真相が何かということに気づき、政治的な行動へと進み始めたのだ。

  ▼4章―2節 戦争と排外主義

 第二の特徴は、新自由主義の国境を越えた展開は、単なる経済政策に留まるものではないということだ。現代帝国主義は、BRICSなど新興国をも越えて、全世界をその搾取と収奪の下に置くために一挙に資本主義化を進めてきた。そのことの妨げになるものに対しては、内戦をしかけ、軍事介入をして、暴力的に破壊してきた。
 アフガニスタン、イラク、リビア、そしてシリア、ウクライナで引き起こされてきた戦争は、まさに、帝国主義の新自由主義政策の地球規模での拡大の中でなされてきたことである。米帝をはじめとする帝国主義は、北アフリカ・中東から始まった「独裁政権打倒闘争」をも政治的に大きく捻じ曲げた。米帝、仏帝、英帝は、「人権と民主主義」を掲げ、「独裁政権を打倒する」という美名の下に、帝国主義に抗う国家に対して「反政府勢力」を組織し、軍事援助を行ない、直接に軍事介入して、侵略反革命戦争を行なってきた。
 その結果、帝国主義が獲得したものは資源、市場であり、資本輸出を全面的に拡大する条件の確保であった。資本主義的生産関係が地球規模で拡大され、労働者人民の搾取・収奪が徹底されていく。
 資本主義は繁栄と平和をもたらすものでは決してない。資本主義のグローバルな拡大によって、戦乱が拡大し、搾取と収奪の社会が作り出される。戦争と貧困が新たな地域に拡大していく。
 北アフリカ、中東諸国において、米帝など帝国主義各国は「反政府勢力」に軍事援助を行い、無謀な内戦を引き起こし、軍事介入―殺戮を続けてきた。この結果、イラク、シリア、リビアなどの諸国において、アル・カイーダに共鳴し、参加しするイスラム武装勢力が生まれてきた。その中から「カリフ制」をかかげた「IS」も生まれてきた。
 一四年、一五年のシリアをはじめとする膨大な難民の発生は、帝国主義が引き起こした内戦、戦乱の結果である。この事態が帝国主義が生み出した矛盾であることを押し隠したところで、難民排除、そして移民排除の国境防衛だけの排外主義が急激に高められてきた。
 内戦と軍事介入―侵略反革命戦争、そして、移民・難民問題に対する排外主義の激化、われわれが直面する現代の災厄が、新自由主義グローバリゼーションの破綻と現代帝国主義のさらなる暴力の発動によって引き起こされていることをはっきりと捉えなくてはならない。

  ▼4章―3節 サミットの不一致が意味するもの

 米帝トランプはタオルミナ・サミット直後の六月一日、「パリ協定からの離脱」を発表した。首脳会合での孤立を改めて自ら確認した。トランプは、地球温暖化がさらに著しく進み自ら所有するビルが竜巻で吹き飛ばされるときまで、その非科学的見地に固執し続けることだろう。
 しかし、六月一日のトランプの発表は、個人的な過ちとして終るものではない。アメリカ帝国主義の歴史的な位置を大きく変える事態の始まりとなるだろう。
 戦後世界体制は、超大国―米帝の一極的な支配を基盤としたブレトン・ウッズ体制から、七一年金―ドル兌換停止、七三年変動相場制への移行、七四―七五年恐慌を画期として、米・欧・日帝国主義のサミットによる世界支配へと変わった。財務省・中央銀行総裁会議(G5―G7)の合意によってドルを基軸通貨とし続ける擬制的な国際通貨体制へと転換しつつも、統一通貨、統一市場を維持し、資本主義体制を護持してきたのである。新自由主義グローバリゼーションということも、このような体制を基盤として、さらにその後に進んだ資本移動の自由によって成立していることなのである。
 しかし、一六年―一七年の世界情勢は、その世界経済の基盤そのものが限界に突き当たっていることを示している。資本主義の歴史の中で中心国の位置を占めてきた英帝、米帝がそのことを露呈したのである。
 そして、この事態の中心にいるトランプは、サミットでの孤立を自ら選択した。米帝は、その力を大きく減退させたとはいえ、擬制的にではあれ基軸通貨国であり、帝国主義の軍事同盟の中軸であり続けてきた。サミットでの不一致、米帝の孤立という選択は、現代資本主義世界を編成する能力を自ら否定し、その解体と混乱への道に突き進むものである。
 現代帝国主義の限界と混乱を見据え、今こそ労働者階級人民こそが国境を越えて団結し、帝国主義打倒に立ち上がるときである。


 

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