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   ■帝国主義の官製バブルの危機
        ~トランプ政権の「貿易戦争」
                  
                  香川 空




 二月二日から六日、ニューヨーク株式市場での株価下落を引き金にして世界は同時株安に陥った。とくに五日のニューヨーク・ダウ工業株三〇種平均は一一七五ドル安の過去最大の暴落となった。二月七日下げ止まったかに見えたが、二月八日には再び一〇三二ドルも急落した。六日の東京株式市場は一時一六〇〇円超の下落となり、終値でも前日比一〇七一円の下落となった。
 直接には、二月二日に発表された米雇用統計で平均賃金が想定以上に高い伸びとなったことを受けて、インフレ率の上昇、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げのペースが速まると予想され、米長期金利が急上昇したことが、この株価急落の発端となった。米国の株価暴落は欧州、アジアに波及した。
 約一ヵ月後の三月九日、二月の米雇用統計が発表になったが、賃金上昇が予想を下回ったことで、二月とは逆に株価は一時的に上昇した。
 二月の暴落で、これまで上昇しすぎていた株価が調整されたのであろうか。
 〇八年のリーマン・ブラザーズ破綻を端緒とした世界金融恐慌に対して帝国主義をはじめとしたG20諸国の対応で金融機関の救済、現代資本主義の救済を行なったものの、その後の資本主義経済は各国中央銀行のゼロ金利政策、量的金融緩和と、各国政府の莫大な財政政策の継続によって維持されてきた。
 日本では、日銀―黒田の異次元緩和方針の下で、国債を大規模に買い入れて金融緩和を続けてきた。一方では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式購入や、日銀の上場投資信託(ETF)買い上げによって、莫大な公的資金が株式市場に投入され、株価をつり上げてきている。
 公的資金によって維持される相場が金融機関を軸とした現代資本主義を支えている。この官製バブルの危うい「好景気」は、きっかけがあれば一挙に瓦解するだろう。

 ●1章 米国金利が上昇する局面でのドル下落

 二月二日から六日の株価暴落の後、為替相場ではドル安が進んでいる。二月一六日には一ドル一〇五円台となった。
 〇八年以来の量的金融緩和に対して米・欧の中央銀行はそれぞれ出口を探ってきた。FRBは二〇一五年一二月以降利上げに踏み切り、イエレンの下で二年間徐々に政策金利を引き上げてきた。欧州銀行(ECB)も量的緩和の規模縮小を進めている。利上げに踏み込んだ米国の金利が日本、欧州よりも上昇している局面なのであり、本来ならばドルが買われてドル高に進むはずの状況である。
 現在の米国の長期金利は2・5%を超える水準となっている。二月二日の米雇用統計発表時点でブルジョアジーどもが予測したことは、賃金上昇を重要な要因としてインフレが進行し、FRBの利上げペースが速まる事態であり、継続した長期金利上昇がその不安をさらにかきたてた。景気の急激な反転を予想し、株が売られたのだ。
 これは、いかに金融資本・金融投機資本が地球規模で拡大しようとも、資本主義の根幹は賃労働と資本の関係なのであり、資本主義の危機もそこから始まるのだということを想起させるものである。
 現実には、FRBの利上げ政策の意図したとおりに米長期金利が上がっているというのではない。その根底的原因は、貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」の拡大である。とりわけ、トランプ政権は中間選挙をにらんだ拡張的財政政策をとっている。昨年末には一〇年間で一・五兆ドル(一六〇兆円)の大型減税法案を成立させた。さらに本年年頭の一般教書演説では一〇年間で一・五兆ドル規模のインフラ投資を行なうとしている。一九会計年度(一八年一〇月から一九年九月)の財政赤字は一兆ドル近くにふくらむ。このトランプの放漫な財政政策による国債の大量発行が、米国債市場での長期金利上昇を結果している。
 このような金利上昇になっているために、米国から資本が流出する事態が始まっている。各国通貨に対してドルが下落しているのだ。かつてレーガン時代の高金利=「強いドル」政策の時代とは、経済の基盤が異なっている。
 米財務長官ムニューシンは一月二三日から二六日の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「弱いドルは貿易などの面で米国の利益になる」と発言している。国内総生産(GDP)が最大であるはずの米国が、自国の貿易の利害のためにドル安を主張するという経済状況なのだ。
 二月の株価暴落以降も米長期金利は上昇し、2・9%になっている。

 ●2章 トランプ政権の保護主義関税発動

 米大統領トランプは三月一日、安全保障を理由として鉄鋼とアルミニウムに高率の関税をかける方針を発表した。トランプは「貿易戦争はいいことだ。簡単に勝てる」とツイッターで主張した。
 欧州連合(EU)や中国が即座に反発し「報復措置」を示唆する発言も出る中で、トランプは八日、この関税を正式に決定し、新たな関税を命じる文書に署名した。安全保障上の理由で輸入制限を可能にする「通商拡大法二三二条」を適用した。米国の鉄鋼業が衰退すれば空母や戦闘機が造れなくなるからというのがその具体的理由だ。トランプ政権はこの決定に基づき、三月二三日から鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を実施するとした。
 トランプは本年一一月の中間選挙に向けて鉄鋼業労働者の支持を取り付けることが重要と捉え、分かりやすい保護主義政策を実行するという手段に出たのであろう。この関税決定の署名をした三月八日は、一方では韓国の鄭義溶(チョンウィヨン)国家安保室長と会談し、米朝首脳会談をその場で決定した日でもあった。政権の支持拡大のためには何でもやるトランプの企図が鮮明になっていた。
 三月二二日、トランプは中国に対して「知的財産権侵害」を理由として「通商法三〇一条」に基づく関税などの一方的制裁措置についての大統領令に署名した。米通商代表部は大統領令に基づき、一五日以内に対象品目のリストを作成する。家電製品など約一三〇〇品目が対象となると報じられている。中国外務省は即日反応した。中国が米国の航空機、大豆、自動車、綿花の重要な市場である現状を指摘し、トランプ政権が制裁関税を発動すれば、報復措置を執る意思を鮮明にした。
 米帝は八〇年代に通商法三〇一条を適用して日本、インドを対象国とし、対象品目の特定を行っている。ただし、この段階で交渉が合意し、実際の制裁関税発動にまでは至らなかった。九五年の世界貿易機関(WTO)発足以降同条項は発動されておらず、WTOは一方的制裁措置を認めていない。今回の制裁関税措置が実際に発動されれば、米トランプ政権がWTOルール違反とされる可能性は高い。そして、米財務省が最も恐れていることは、世界最大の米国債保有国である中国が米国債売りに突き進む事態だ。
 この三月二二日、FRBは政策金利を0・25%引き上げることを決定した。新議長パウエルが記者会見し、前議長イエレンの「緩やかな利上げ」を継続していくことを明らかにした。
 そして翌二三日、トランプ政権は、鉄鋼・アルミニウム製品に対する新たな高率関税適用に踏み込んだ。ただし、トランプ政権は北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を条件にしてカナダ、メキシコは除外し、オーストラリア、EU、韓国とは除外協議を開始するとしている。カナダ、オーストラリアなど主要な鉄鋼輸出国は除外対象になっているが日本は除外されていない。日本は中国の次の標的になっているのだ。
 トランプ政権が「貿易戦争」にのめりこむ事態の中で、三月二二日のニューヨーク株式市場は七二四ドル下落し、二月八日以来の急落となった。為替相場も一ドル一〇四円までドル安が進んだ。

 ●3章 米国の孤立と現代資本主義

 この鉄鋼・アルミニウム関税実施を目前にした三月一九日二〇日、二〇カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された。事前の報道では仮想通貨の普及と規制が中心テーマとされていたが、当日の討議では米トランプ政権の保護主義に対する批判が噴出した。「保護主義が貿易を支配してはならない」(独財務相シュルツ)。「あらゆる保護主義に反対する」(仏経済・財務相ルメール)。カナダに次いで米国への鉄鋼製品輸出が多いブラジルも強く反対した。
 米国批判が集中するのに対して米財務長官ムニューシンは、「米国の企業と労働者のために競争条件を公平にする」と主張して、米国の一方的な関税政策を正当だと主張した。
 日本の財務相麻生は森友文書改竄問題で欠席しており、日銀総裁黒田が直接の米国批判を避けつつ「保護主義は世界に影響を与えるので動向を注視していきたい」なる言葉で体裁を保った。
 今回の共同声明では、米国との対立を解決する新たな内容はなく、昨年七月ドイツ・ハンブルグのG20首脳会議で確認された「あらゆる不公正な貿易慣行を含む保護主義と闘い続ける」という文言をそのまま再確認した。
 米帝―トランプは、他帝や中国などG20諸国の反対を押し切って、一方的関税措置を実施していけば、それに対する報復関税など米国製品の締め出しが始まり、貿易赤字縮小どころか、米国の貿易規模そのものを縮小させることになるだろう。
 トランプが本年一一月の中間選挙を強く意識した政策が、保護主義と分断、そして米帝の孤立への道になっている。しかし、これは米国だけの問題ではない。GDP規模においては世界最大の経済大国、基軸通貨国であり続ける米帝が、孤立と貿易縮小へと突き進むことは、現代資本主義総体の危機に直結することになるだろう。



 

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